読書録

シリアル番号 1156

書名

アメリカは日本経済の復活を知っている

著者

浜田宏一

出版社

講談社

ジャンル

経済学

発行日

2013/1/8第1刷
2013/1/29第5刷

購入日

2013/08/15

評価



アベノミックスは貨幣の供給量をましてその価値を下げ、デフレと円高を止めるというものだ。リフレーション政策というやつだ。グリーンスパンがこの手法で米経済をひっぱった。しかし、これはサブ プライム問題やリーマンショックを発生させ頓挫した。10年まえにクルーグマンがマンデル・フレミング・モデルをベースに日本が流動性トラップから抜け出す処方箋として主張していた手法でもある。

浜田の金融緩和策を10年前に実施していたら日本産業の空洞化もなく、時間的余裕もあり、うまくいっただろう。しかし過去10年間、浜田の指摘のとおり、 日 銀の貨幣の供給量はちょぼちょぼでデフレは継続し、特に2008年の米国のリーマンショック以降は昂進する円高により、産業は競争力を失 って日 本を脱出してしまった。税収は減り、 国の負債は積み上がって1,000兆円をこえてGDP比が終戦時なみの窮状である。デフレのため、金利が低かったので苦痛もなく、国の借金は積みあがった のだ。浜田の時期遅れの提言でも貨幣供給量を増やせばデフレも一時的にとまり、輸出産業は一時的に助かる。しかし世界市場は日本からの物の過剰供給で価格 がさらに下が り、輸出 産業に跳ね返るだろう。そして空洞化してしまった産業はもどってこない。したがって製造業の法人税収は増えない。収入を増やさずに消費税を上げれば、物は 売れな くなるので製造業はますます鈍する。そしてデフレが解消され、金利が上昇すれば、金利負担だけで財政は破たんする。一方資源輸入は減らないので国の経常収 支が赤字化し、国の借金が積みあがり、デフォルトに陥ることは必定。一方、金余りに より不動産価格バブルが発生 するだろう。そうすると通貨発行を絞らざるを得ず、デフレに後戻りということになる。

安倍首相は浜田説を実行する人間として元財務官の黒田東彦(はるひこ)を日銀総裁に任命した。黒田は現在の日銀は残存満期 3年未満の国債買い入れで市中138兆円のマネーを供給していたが、これを今後2年間に270兆円まで増やすと宣言。平均残存満期を7年にするという。困 るのは地方銀行や信用金庫で、償還期限の長い国債で運用せざるをえず、海外のヘッジファンドの餌食になって破綻するところも出るだろうと小幡績は指摘す る。喜んだのはヘッジファンドなどの海外投機筋で、今後、日本は彼らの狩猟場となるはず。

リチャード・カッツは日銀の金融政策だけではインフレにはならない。インフレは財政出動を数年間、継続しなければ達成できない。金利上昇はインフレより低 いのでハイパーインフレになどならないし、国債の暴落もおきないという。財政出動はしかしbridge to nowhereになりやすい。ヨーロッパでおこなった失敗の政策、すなわち財政再建のための緊縮財政と増税への誘惑は財務省(麻生を含め)で大きいので浜 田方式は財務省によって頓挫するだとうと予測。安倍が本当にしなければならないのは規制緩和、電力自由化、産業構造の変革のための終身雇用と非正規雇用と いう詐欺的労働システムの廃止と同一労働同一賃金の徹底、産業構造革新で発生する失業者のセイフティーネットの構築、農業・建設業・医療ロビーなど反改革 勢力の政治への影響力阻害であると指摘している。

浜田宏一はどのような見通しをもっているのか知りたくて本著を買い求めた。わかったことは、変動為替制下ではデフレには金融政策が有効だといっているだけ で、インフレ退治にのみ興味をもつ日銀がいるから心配はないとただのブラックジョーク。かのグリーンスパンですらサブプライムを発生させたというのに。

浜田氏は日銀や財務相は云うに及ばず、評論家やマスコミまで為替は財務省が相場を張って動かすものだという変動為替制になるまでの経済政策で固まって しまって、発行紙幣量で為替をコントロールするという認識をもたないのは「バカの壁」を作る日本の大学にあると指摘する。特に法学部がいけない。法学部はど うしても(ある目的の)ためにする論理を作るようになっている。ようするに自分の主張を正当化するために考えるように仕向けられる。だが経済学はちがう。 いくら日銀官僚が「インフレ目標はデフレには効かない」という論理を展開してもそのようにはならないところが自然科学的なのだ。たしかに浜田氏の予言は安 倍首相によって証明されたかのように見える。

しかし、と池尾和人慶応大教授はいう。「金融緩和で世の中に出回るお金の量が増えるのは、金利に低下余地のあるときだけ。いまのようなゼロ金利のもとではそうはならない」これはクルーグマンが指摘した「流動性トラップ」といわれるもの。そして続けて「」もしそれでも物価の上昇に成功すれば、日銀が銀行から買った多量の長期国債に含み損が生じて通貨円の信任を失うハメになる」と。

学生時代に館先生に「この門より入る者は一切の望みも怯儒(おそれ)も捨てよ」(ダンテ『神曲』) と言われた。 館先生は、ダンテの言葉を、「自分の意見が正しいと思うなら、相手が権力者だろうと学界の権威だろうと恐れず主張する覚悟を持て」という意味で引用された のだろう。政府や日本銀行と論争することもある現在の私にとって、あらためて勇気を与えてくれる言葉であるといっている。

原発に規制委員会について「規制当局の捕囚」という言葉があることを知った。

http://windofweef.web.fc2.com/library/preinform/3/33/331_hamada_06.html

で読める。ちなみに浜田氏の奥様はキャロリン・ボーダン


Rev. September 1, 2013


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