読書録
シリアル番号 |
1093 |
書名
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逆立ち日本論
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著者
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養老孟司、内田樹(たつる)
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出版社
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新潮社
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ジャンル
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文化論
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発行日
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2007/5/25発行
2007/6/10第2刷
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購入日
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2011/12/8
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評価
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2011/12/8
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鎌倉図書館蔵、新潮選書
養老孟司ものはこれが5冊目(11、565、625、753)。内田樹ものはこれが2冊目(1061)。両者の対談だから面白くないはずはないと踏んで借りた。しか
しここでは養老孟司氏が聞き役で、内田樹氏がほとんど話している。ところが少ししか話さない養老のいうことのほうが評者にはわかりやすかった。
小泉時代だから少し古いが、新鮮な視点を学んだ。たとえば:
養老は世間との折り合いが悪いから世間についてかんがえざるを得ず、結果、社会問題について考えたことを書くことになるという。日本人が集団になると世間
を作り
出す。学会、業界がその例。世間の問題点は世間が下した判断の帰結に責任をとる人がだれもいないことだという。評者も社会との折り合いは悪いのでよくわか
る。
これもすでにどこかで読んで知っていたことだが、ここでも養老が意識は後知恵にすぎないという。脳みそが生理的に動いてから結果として意識が発生する。
日本の鎖国は物流の鎖国ではなく、中央政府が情報の統制をしようとした。当時の情報処理能力からして鎖国しても困らなかったといえる。
小泉が自民党をぶっ潰すといったのは本気。神奈川に地盤を持つ小泉や石原は地方にばかり税金をばらまく自民党政権に恨みを持っていた。だからこの二人は神
奈川県の支持により政治活動している。小泉が靖国に参拝したのは中国に嫌味をいうためでなく、横須賀基地の地元だから深層心理では反米だからという見方は
新鮮だった。
養老は典型的な西洋型でオールド・リベラリスト。全共闘は主観と客観を逆転させていた。
勝手な電話がかかってきて迷惑だという話からはじまったのに役人が作った個人情報保護法は個人の住所とか電話番号を秘匿するもので折角の文明の利器を使い
にくくしている。非常に日本的でおかしい。(米国では本名をつかってネットでつながるための仕掛けが普及しているというの
に)日本では個人が情報鎖国している。おかしいですね。それで職探しも不自由して貧乏している。人間はネットワークでつながらねばならないのに中央政府は
法律でそれを遮断しようとしてい
る。
仏教は「嘘も方便」を許容する。芥川の「藪の中」は三人三様の言いようを描いて終わっている。少なくとも3人のうち2人は嘘をいっているわけだ。これを映
画化した羅
生門は西洋の人を驚かせた。なぜなら西洋の伝統では真犯人は必ずいるわけで、正解をあたえないで物語を終えることは考えられない。英語でRashomon
は
真相が不明のことを意味するようになった。
荻生徂徠は「天道と人道を
区別」と言った。自然法則である天道と社会法則である人道は全く違う。天道は普遍。
世間は人道の代表。これは必ずしも天道とは一致しない。
フランスのユダヤ人哲学者エメニュエル・レヴィナスとフランスの社会人類学者のユダヤ人論をしつこく紹介。
内田樹の研究室掲載の「従者の復讐」がひねりがきいて面白い。