読書録
シリアル番号 |
1090 |
書名
|
テクノロジーとイノベーションー
進化/生成の理論 |
著者
|
W・ブライアン・アーサー |
出版社
|
みすず書房
|
ジャンル
|
技術
|
発行日
|
2011/9/22発行
|
購入日
|
2011/10/30
|
評価
|
優
|
原
題:The Nature of Technology by W. Brian Arthur 2009
朝日の10月28日の書評に山形浩生がべたほめ。曰く
サンタフェ研の教授である著者は技術が経済に貢献するという従来の見方を、本書は逆転させる。技術は生物のように、自律的に進化発展するのだ。経済はその
結果でしかない!
人間は、技術という生物の淘汰進化の環境だ。「有益な技術」を人が選ぶのではない。人間という環境に適応した技術が勝手に生き延びる!
この口上に魅せられて即、買いにでかける。日本は技術音痴の文系に乗っ取られて技術が自律的に進化する人間環境にないものだから、進化はより適
した国で進化し続けることになる。日本が何事も囲い込んで保護しようとすることこそ技
術が自律的に進化する環境になることを阻害していると思う。
技
術の本質は新規な組み合わせとサブルーチン化だとブライアンアーサーはいう。そ
して組み合わせはほぼ無限にある。こ
れを達成できるのは人間の脳しなないのだ。新
しい自然現象の発見など100年に1回しかない。そ
もそも化学工学会もふくめ、学会などというものはサイロ社会だ。だ
から新しい組み合わせを禁じ、博
物館の役目しか果たさない。
閉鎖空間である日
本の学会から新
規な組み合わせが生ずるはずがない。
日本の企業は西欧の技術を導入して積極投資で成功したけれど、グローバル市場の発達で人件費比重の大きい組み立て産業が空洞化し、現在部品産業が空洞化し
つつあり、これから設備産業を日本がどれだけ守れるかという局面になる。しかしすべての技術者が企業に囲い込まれ、他社の技術者や学会との人事移動は細い
ままでは新しい組み合わせ技術が日本の培地では進化できないのではないか。
と感想を書いたのだが、かっての上司の小松さんから
丁
度、今ブライアン・アーサーの「テクノロジーとイノベーションー進化/生成の理論」を読んでいるところです。ブライアン・アーサーとポラックによるコン
ピュータ実験の話がありました。
「進
化の歴史を細かく吟味するうちに、進化がほとんどなかった長い空白の期間があることがわかったのだ。その時期を経て進化の手がかりが突如出現し、あっとい
う間に、さらなるテクノロジーが誕生した。およそ、3万2000回プログラムを実行した結果、実用性のある加算器回路が完成し、それから間をおかず、2
ビット、3ビット、4ビットの加算器が出来上がった。」
ま
た、「ポラックと私は、このように”砂山”がなだれ落ちて崩壊する現象はベキ法則
に
よることを看破した。」という、気になるところも見つけました。
というメールをもらった。「長
い空白の期間がある」と
いう言葉が記憶にないので書棚から探し出して読み直してみた。
現在の計算機の原型が8ビット加算器である。8
ビット加算器には16個の入力ピン(2つの数字を加算するピンが8組み)と9個の出力ピン(8本が結果、1本が繰り上がり用)がある。これから可能な回路
の組み合わせは101777,554通りある。これは宇宙の素粒子の数より大きい。このうちの1個だけが正しく作動する回路であ
る。計算実験で25万回くりかえしたところで、この1個の組み合わせを見つける可能性はゼロに近い。これが長い空白期間の意味だ。そこで論理機能のニーズ
のリストを作ってこれを満足するシンプルな回路をえらぶようにプログラムする。するとたまたまニーズを満たすシ
ンプルな回路が見つかる。これをカプセル化してこのカプセルを無作為に組み合わせるようにプログラムしたところ、た
ちどころに複雑な8
ビット加算器が出現した。技
術の本質はこのシンプルで新規な組み合わせをサブルーチン化(モジュール化)して更に上位レベルで組み合わせにあることになる。
社会規範はナッシュ均衡ではなく相関均衡(correlated equilibria)を実現する仕組み。
道徳性なき法は無用である(Leges sine moribusvanae)・・・ホラティウス第三歌。
文化進化と生物進化の類似点はハクスレー、ポパー、ジェームスにさかのぼる。文化を非遺伝的伝達の一種とする考えはリチャード・ドーキンスが「利己的な遺伝子」で表現型の上で伝達されうるとした。
資本主義社会は強欲な自己利益によってのみ成り立つというよく言われる考えは知的人間がそれを信じることがかってあったとは考えられないほど驚くべき間違いである。
例えば原子力なしに人類は現在の高度文明を維持できるか?⇒砂漠に降りそそぐ太陽エネルギーは高度文明を維持するというニーズを満たして余りある。だから
これを貯蔵と輸送可能な物質に変換すればよい⇒集光発電して水電解し、発生する水素と空気中の窒素を結合させてアン
モニアにする⇒発電してからの電解では効率が悪いので、化学反応で直接水素製造する。という風に新
しい技術要素をサブルーチン化して組み合わせてゆけば技術の進化は加速するということになる。こう考えて私は日夜無い知恵を巡らせて目的に合致するシステ
ムがあるか評価し続けているのだ。
November
26, 2011
Rev. April 10, 2012