読書録

シリアル番号 867

書名

日本はなぜ敗れるのか 敗因21ケ条

著者

山本七平

出版社

角川グループパブリッシング

ジャンル

歴史

発行日

2004/3/10初版
2007/2/15第19版

購入日

2007/7/24

評価

書店の店頭で見て衝動買い。

1975年4月から「野生時代」という角川書店の雑誌に連載されたものを初めて単行本にしたようだ。

奥田碩会長が「ぜひ読むようにと」トヨタ幹部に奨めた本とある。

日本が敗者になる理由は

●非常識な前提を常識として行動する
●生命として人間を重視しない
●芸を絶対化して合理性を怠る

などなど表紙の裏に書き連ねてある。

第二次大戦の敗戦の原因分析をした本に「失敗の本質」というのがあるが、この本はより心理的、文化的側面に触れて、深いところをえぐって解析してくれる。

台湾製糖でブタノール生産設備工場を建設していた小松真一氏が軍の要請でフィリピンに渡ってたのはいいが原料が無いため なにもできない。食料確保に協力しながら密林を逃げ回ったあげく、米軍捕虜となり、そこでひそかに記した「虜人日記」を紹介しつつそこにまとめられた敗因21ケ条を紹介しながら、山本少尉 本人の体験をまじえながら日本の敗因を分析してゆくという本である。

この本を読むと戦後の日本は政治家、役人、マスコミが全く戦前の政治家、軍人、マスコミの行動と全く変わっていないことを一つ一つ思い知らされる。

たとえばむつ号の放射線漏れが発覚してのち専門家でない政治家と役人が居丈高に指示を出すさまを上げている。

当時日本を指導していた軍部が本当はどうしたいという意図もなしに、相手に触発されてヒステリカルに反応して日華事変に突入したため、戦争に勝つ方法論は 持っていなかった。ただ出たとこ勝負だったのだ。結果として輸送船がなくなるまで兵員を ヒステリー的にバシー海峡を越えておくりつづけ、大部分を溺死させてしまうのである。折角戦地についても兵器と食料の補給がないので無為に餓死してゆく。 この行為は機械的な拡大再生産的繰り返しであり、自らの意図を再確認し、新しい方法論を探求し、それに基づく組織を新に作りなおそうとはしない。むしろそ ういう弱気は許されず、そういうことを言うものは敗北主義者ということになる。

日露戦争の旅順の無駄な突撃の繰り返し、60年安保が機械的な拡大再生産的繰り返しがその例である。

小松真一氏の精兵主義の軍隊に精兵がいなかったという指摘を取り上げている。強烈な表現の軍国主義があれば強大な軍事力があることになってしまう。員数あわせは陸軍の宿阿(しゅくあ)であった。地震学者石橋克彦委員の耐震指針検討分科会での「原発の耐震設計基準をM7.3にすべき」という主張を却下して原発は安全だといいつのる原子力委員会もこの系譜に属する。中越沖地震でほころびがでてしまった。今後も員数あわせをするのか注目したい。

旧軍は暴力で悪名高いが捕虜になっても暴力が支配した。特に将校の区画が激しかったようである。与えられれた階級に安住していたため、自制・自治の伝統がなく、暴力団的文化が支配するようになる。これは米軍が暴力団を排除し、選挙でリーダーを選ぶように 指導するまで続いた。日本人将校のなかから自浄作用は生まれてこなかった。

兵卒のクラスは伝統文化をもっていたため兵隊の収容所のほうが居心地がよかったという。特に職人は職人的秩序を生み出しえたという。戦後は各人の自己規定 を探り、言葉によってそれを再把握して進展する社会へ継承させようとはしなかった。ここに日本が落ち込んでゆく暗い予兆がみえるという。

丸谷才一氏が朝日の連載コラムで紹介していたが、日本海軍の「爆沈」事 故が世界有数であったのは私的制裁の「ひどさに対する道連れ自殺」によるところが大であった。近年の自衛艦の自殺者増加も旧軍の悪弊が今なお自衛隊ないで 是正されないままであるためという指摘もこの類で。自衛隊にかかわらず日本の学校を含むどの組織にも 陰惨な弱いものいじめは残っている。


トップ ページヘ