読書録

シリアル番号 994

書名

経済史の理論

著者

J・R・ヒックス

出版社

講談社

ジャンル

経済学

発行日

1995/12/10第1刷
1998/2/20第5刷

購入日

2008/12/15

評価

原題:A Theory of Economic History by John Richard Hicks

講談社学術文庫

鎌倉図書館蔵

著者はノーベル経済学賞受賞。 ヒックスの最も広く知られた業績は、ジョン・ケインズの『一般理論』を体系化したIS=LM理論であろう。これは、利子率の関数である投資 I と国民所得の関数である貯蓄 S の均衡によって描かれるIS曲線と、貨幣の需要量 L と貨幣の供給量 M の均衡によって描かれるLM曲線から、その交点として利子率と国民所得の値を導出できることを示した理論である。

管理者が全ての決定を下すことはない。中央で下されるのはほんの一部でその他の決定はヒエラルキーの下位者にゆだねられる。管理者が同時にどこでも居られず、同時に何でも知ってはいないだけでなく、人々はその決定を下せる権限をもつことに大きな価値を見出しているからである。分権化が混乱を引き起こさないためには規則が必要となる。王の中央からの指令は共同体の非常事態にのみ有効で、軍組織を平時の租税徴収システムに変換する過程で下位者が実質的な力を獲得する封建制が自然発生する。強力な支配者はここで官僚制というものを発明する。

官僚制が成功するためには、3つの要素が大切になる。すなわち@スパイ制度ないし監査制度A独立性を持たさせないための輪番制を意味する昇進制度B世襲的なカーストに陥らないための新人登用制度である。

経済の発展は異なる産物を持つ地中海→安全な航海→情報センターとしての都市国家→貨幣・法・信用・税→商業国家の生成→植民地→農業の商業化→労働市場→産業革命と順次変化した。

結論として保護主義は高コスト産業を生き残らせ、国民経済にとって足かせとなると指摘。

以上がヒックスが指摘したことだ。さてヒックスの目で日本の官僚制を見るとAは上手くやっているように見える。しかしBは世襲ではないがキャリア、ノンキャリアという天井のある身分階層が存在し、下位官僚のパーフォーマンスを引き出せず、上位官僚はたたき上げではないから無知に陥り易いという弊害を内在している。その典型的な例は社保庁で厚生省出身のキャリア、ノンキャリア、地方採用と三階層あり、その間に交流は一切ないという。また@に関しては終戦時、公文書が多量に破棄されたし、最近では若い官僚が、都合の悪い文書は破ってゴミ箱に捨てているという。情報秘匿を罰する規則が貧弱だからではないか?官僚も政治家も自分の不始末の証拠物件を残したくないからそのような規則は作らない。日本はイギリスと同じ議員内閣制だから与党議員=官僚複合体の監視は野党しかできないことになる。国民が野党に政権を与えれば与党の議員は都合の悪い文書を破棄してきた常習犯だから新与党もそうするだろうと新立法を要求するだろう。こうして初めて情報隠滅が是正されることになるのではないか?国民は自民党に長く権力を与えすぎたし、能力もない、やりたいこともない二世議員に投票している。 こうして二世政治家だらけになるため、官僚に政策立案と実施を完全に頼るようになる。ゆきつくさきは官僚内閣制という事態。ところが肝心の官僚が非世襲カーストに陥っているため、無能化している。日本政府はこうして機能停止状態に陥っている。

Rev. December 28, 2008


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