山村美紗 やまむら・みさ(1934—1996)


 

本名=山村美紗(やまむら・みさ)
昭和9年8月25日(昭和6年説もある)—平成8年9月5日 
享年62(65)歳(香華院麗月美徳大姉)
京都府京都市東山区泉涌寺山内町36 泉涌寺塔頭雲龍院(真言宗)



小説家。朝鮮(現・大韓民国)生。京都府立大学卒。中学校の国語教師、結婚を経て子育てをしながら推理小説の執筆活動を続け、昭和49年『マラッカの海に消えた』で注目された。作品の多くはテレビドラマ化され、58年『消えた相続人』で日本文藝大賞受賞。ほかに『花の棺』などがある。






  

 私ぐらいの年齢になると、普通の生活をしている人には、そろそろ、どんな老後が待っているか、見当がつくものである。
 いくつになったら、年金が貰えるとか、退職金と恩給が、いくら入るから大丈夫とか、息子にみてもらえから、菊作りをしたいという風に、計画がたっている。
 しかし、私たちのように、物かきには、老後の見当がつかない。
 予想するしかないが、考えられる老後の形が二つある。
 一つは、世間の定年にあたる五十五歳とか、六十歳で、小説の仕事をやめ、それまでにできた貯蓄と印税で、心豊かに過ごすというものである。
 今は、朝から夜中まで、原稿書きや、それに附随する仕事が忙しく、同窓会に出ることも、買物に行くことも、すべて駄目で、まったく余裕のない生活をしている。
 食事も、何を食べたか覚えがなく友人が病気だとか、親戚の人が亡くなっても、駆けつけることができず、不義理を重ねている。
 二十年も会ってない友達から電話があっても、時計とにらめっこで、あと何分で、航空便の時間が切れると考えながらでは、楽しいことはない。
 だから、せめて、年がいったら、バラを作ったり、絵を描いたり、友達と喋ったりという生活がしてみたいと思っている。
 が、一方では、死ぬまで、現役で書き続け、死んだあと、ふとんをあげてみたら、連載が、二回分書いてあるのが見つかったというのにも、あこがれている。
 どちらを選べといわれても、迷うだろうし、望んでも、思うようにはならないだろう。
 ただ、共通していえることは、退屈して老後を過ごしたくないということと、孤独には、なりたくないということである。  
 推理小説とちがって、老後だけは、あまりどんでんがえしとか意外性のないようにねがいたいとおもっている。

(推理できない私の老後)



 

 平成8年9月5日午後2時30分頃、長女で女優の紅葉さんと滞在していた帝国ホテルで執筆中に倒れ、医師の手当を受けたが間に合わず、午後4時15分、心不全のため「ミステリーの女王」の名をほしいままにしていた山村美紗は急逝した。喘息の持病で悩んでいたのではあったが、絶頂期でのその死は誰にとっても思いがけないものであった。午後11時頃、ストレッチャーでホテルを出発した遺体は京都の自宅へと帰っていった。葬儀・告別式は9日、小雨の降る中、京都東山の泉涌寺塔頭雲龍院で挙行され、胡蝶蘭やひまわりなどの花で飾られた華やかな祭壇、棺には携帯電話と愛用のアクセサリー、化粧品、そして「天国でも小説が書けるように」との配慮でペンと原稿用紙が納められたという。



 

 山村美紗が推理作家・西村京太郎に送ったファンレターが縁となって、家族ぐるみの交際にまで発展していったのだが、旅館を営んでいた古い建物を共同購入し、本館を山村家、別館を西村家として住み、鍵付きの扉で繋がった廊下を行き来していたという公私ともに認める仲の山村美紗と西村京太郎。美紗の死後、どちらかが先に死んだ場合、未完の作品を完成させるという約束を守り、西村は美紗の遺作『在原業平殺人事件』と『龍野武者行列殺人事件』を完成させている。
 葬儀の行われた雲龍院裏の薄暗い階段をのぼった先にある小さな墓地。彼が涙し、幾たびも佇んだであろう「美」とのみ大きく彫られた赤御影の墓石、紅椿の花びらが墓の上に、前に、バラバラと散り乱れ、墓誌に「推理作家山村美紗ここに眠る」とある。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

編集後記


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