夏にうたう
こころもよう
- 夏休み帰郷し子らは自転車で田圃の中を走り回るか
- 初夏の風体も心も攫ってと呟く心は息切れている
- 七夕は寂しき祭り願い事絶えない我は欲の塊
- 立ち昇る蚊遣りの煙千々乱れ紫紺の闇に浮かぶ唇
- 動き出す物が無くなる空虚さに満たされ果てた夏の追憶
- 飛魚の刃の輝き海離れ空飛ぶさまが脳裏に群れる
- 欅の木鳴らした緑の風なら眠りこけたる子の夢にも吹け
- 焦るなと晩夏の風に諌められ汗拭く指からしんと鎮まる
- 雨だれに湿った気持ち物憂さが夏の空にも抜けきらずにいる
- 何時以来眺める学び舎こんな色していたのかな紫陽花の花
- 夢さえも汗まみれにする真夏夜のほてりにも似る欲の業火よ
- 夏空は郷愁のいろ悔やんでた時さえ愛おし 戻したくて ぎゅっと
- 一度でも出会えることの幸いよ消せぬ残り香七夕の夜
- 鬼灯は舌に破れてほろ苦く夢の終わりの味に似ている
- 人知れずつむじを巻いた夏の風頭に寂しく湧くものに似て
- 短冊のかなわぬ願い眠らせた夢闇に沈ませ七夕の夜
あること
- 窓の外目に収まらぬ夏の陽よ部屋の暗さに背中押される
- 若葉風髪すき吹いた心地よさ遠き君へも幸せ届け
- 夏の夕風は何しに部屋に来て寂しき思い弄ばんとす
- 夏の夜に一人目覚めて日記書く記憶を手繰り数日分の
- 蝉時雨静まり青き耳の奥少年の心蠢くを聞く
- 初夏の風部屋訪ね来る日曜日僕の瞳よ閉じたままあれ
- うもれては疲れを癒す布団から焦げた夏の香まだ匂い立つ
- 初夏の風しょんぼりの僕 吹きすぎた 取るに足らない心 消せない
ふうけい
- 夏休み終わるひぐらし蝉時雨時惜しむこと知る夕べなり
- 水ナスや冷えた紫ガラス皿藍の空からいただく供物
- いつの間に葉桜となり満開の花の時間は忘れられてく
- 仰向けの蝉の体の静けさや彼の地の澄んだ声の漂う
- 梅雨入りやローズマリーの香さえ刺激を失くし淀む曇天に
- 花倒し眠りについた向日葵や静かに散り逝く教え受けたし
- ところてん酢醤油をかけかき込めば汗引く夏の尽き行くを知る
- 初夏告げる風鈴一つなりにけり氷菓を食べにみんなでかける
- 托鉢の僧の手の鈴涼風か耳瑞々しく潤いわたる
- 幾度も寝返り打てど眠られぬ蒸るる夜長く夢暑苦し
- 年老いた去り行く夏の空咳を写し取ったかさるすべりの花
- その道を右に曲がったところには紫陽花がある色まだ薄い
- 青蔦は風の踏み台 透明な 足駆け上がる勢いのある
- 窓も割れ笑い声なき廃校に生徒待ちわび揺れる向日葵
- 若き日の夏の渇きは癒せずに汗まみれになり追った蒼天
- 萌えいずる銀杏若葉は赤子の手風のそよぎに戯れ飽きぬ
- ヒラヒラと葉を干す仕草のひまわりも顔色冴えぬ冷害の夏