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 AUSTIN POWERS 

「オースティン・パワーズ」の画像です

1997年作品。アメリカ映画。95分。配給=松竹富士。監督=ジェイ・ローチ(Jay Roach)。製作=スザンヌ・トッド。脚本=マイク・マイヤーズ(Mike Myers)。撮影監督=ピーター・デミング。編集=デブラ・ネイル・フィッシャー。音楽=ジョージ・S・クリントン。オースティン・パワーズ/ドクター・イーブル=マイク・マイヤーズ、バネッサ・ケンジントン=エリザベス・ハーレー(Elizabeth Hurley)、バジル・エクスポジション=マイケル・ヨーク、ミセス・ケンジントン=ミミ・ロジャース、ナンバー・ツー=ロバート・ワグナー、バート・バカラック=バート・バカラック

 笑いました。おかしすぎる。「バカも休み休みyeah!」というコピーがGOOD!!。「スリーパー」を撮っていたころのウディ・アレンが「007/カジノロワイヤル」のパロディを作ったら、こんな感じか。いや、ここまでのアイデアとパワーは出せなかっただろう。出だしから60年代を凝縮したテンションの高いシーンで早くもクギ付け状態。IQが低い作品なんて批評があるけれど、お金をかけながら下品なギャグを連発していくポリシーこそ、この作品を粋でお洒落にしている。60年代への回帰ではなく、60年代と90年代をともに相対化する視点を持った、なかなか骨のあるコメディだ。

 マイク・マイヤーズは、ノリにノッテいる。オースティン・パワーズとドクター・イーブルの一人二役は、他のアクの強い登場人物の存在をかすませる独壇場。60年代的な美女たちの中で、バネッサ・ケンジントン役のエリザベス・ハーレーが、90年代の女性の魅力を発散している。安っぽいアイデアばかり詰め込んでいるように見えて、映像はなかなかシャープ。撮影監督は、なんと「ロスト・ハイウェイ」「スクリーム」のピーター・デミングだった。


「ボンベイ」の画像です

 BOMBAY 

 1995年作品。インド映画。141分。配給=アジア映画社、オフィスサンマルサン。監督・脚本=マニラトナム(Mani Ratnam)。製作= S・シュリーラーム。撮影=ラージーヴ・メーナン。編集=スレーシュ・アルス。美術=トーッター・タラニ。衣装=マーリニ・シュリーラーム。音楽=A・R・ラフマーン。セーカル=アラヴィンドスワーミ、シャイラー・バーヌ=マニーシャー・コイララ(Manisha Koirala)、ナラヤナン=ナーザル、バジール=キッティ、カビール=ハルシャー、カマル=フリダイ

 監督の自宅に爆弾が投げ込まれ、各地で上映禁止になるほどの衝撃を与えた傑作。宗教の違いによる対立の不毛さを告発した社会派映画だが、「サラーム・ボンベイ」(ミラ・ナイール監督)のようなヨーロッパ映画のスタイルを取らず、インド娯楽映画の文法に沿いながら、しかもその明るさが後半の悲惨さをより鮮烈にしている。あまりに単純な恋愛劇と脳天気なミュージカルシーンを馬鹿にして笑っていた隣りの席の高校生たちも、後半の実際に起こったアヨディア事件に端を発した暴動、虐殺の迫力に、言葉を失っていた。この落差は確かに希有な体験だ。

 イスラムとヒンズーの対立に引き裂かれそうになった男女がボンベイに移って生活を始める。孫が出来たことで、両家の諍いも治まりつつあった時、街を焼きつくす暴動が発生する。二人の純真な恋愛から、一気に社会問題に迫る骨太な展開。水と火の象徴的映像。マニラトナム監督は多大な影響を受けた師として黒澤明を挙げている。ここにもまた、黒澤の映画文法が息づいていた。そして、重要な役割を担う「ヒジュラ(両性具有者)」の登場に注目したい。どの集団にも属さない彼等に託した監督の思いは、インドだけでなく世界に通底する視座といえるだろう。


 CARNE TREMULA 

「ライブ・フレッシュ」の画像です

1997年作品。フランス・スペイン合作映画。101分。監督ペドロ・アルモドバル。原作ルース・レンデル「引き攣る肉」。脚本ペドロ・アルモドバル、ライ・ロリガ、ホルヘ・ゲリカエチェバリア。製作アグスティン・アルモドバル。 撮影アルフォンソ・ベアト。編集ホセ・サルセド。音楽アルベルト・イグレシアス。美術アンチョン・ゴメス。衣装ホセ・マリア・デ・コシオ。ビクトル=リベルト・ラバル、エレナ=フランチェスカ・ネリ、ダビド=ハビエル・バルデム、クララ=アンヘラ・モリーナ、サンチョ=ホセ・サンチョ、売春宿の女主人=ピラル・バルデム、母イザヘル=ペネロペ・クルス、バスの運転手=アレックス・アングロ

 「私の秘密の花」で、過去のアルモドバルらしさと決別した監督の新作。確かにキッチュな色彩にあふれ、パワー全開で人生を笑い飛ばしていた威勢の良さは薄れたが、そのかわり歴史的な視点が加わり、人間を見つめるまなざしも細やかになっている。そしてサスペンスを交えた情熱的な恋愛劇が官能的なシーンとともに描かれる。5人の男女への目配りがうまい。ビクトル役のリベルト・ラバルははつらつとして将来有望。車椅子のダビド役ハビエル・バルデムの演技への情熱も忘れがたい。ビクトルとセックスに溺れていくクララの死を覚悟したやるせなさが胸に染みる。そして感情をあまり表に出さないエレナは、終盤にかけてエロティックに輝き始める。

 全体に宗教的な贖罪と救済のテーマが潜んでいるように思うが、嫌味な感じはしない。鮮やかな色使いは健在だし、教会の権威と闘い続けた無神論者ルイス・ブニュエル監督へのオマージュがちりばめられているのもうれしい。アルモドバルは単純に変わったのではない。殻を破る試行錯誤を意識的に行っているのだ。アルモドバルは小さく「円熟」などしない。きっと、一回り大きくなってド派手なドタバタ・コメディに帰ってきてくれるだろう。邦題の「ライブ・フレッシュ」は、「ずっと踊りつづける」という意味の原題「カルネ・トレムラ」のままで良かったのではないか。


「スプリガン」の画像です

 SPRIGGAN 

1998年作品。日本映画。配給=東宝。 総監修=大友克洋。原作=たかしげ宙、皆川亮二(小学館 少年サンデーコミックス)。構成=大友克洋。脚本=川崎博嗣、伊藤康隆。 監督=川崎博嗣。 プロデューサー=配島邦明。音楽=桝井省志。主題歌=サージ。作画監督=江口寿志。設定=末武康充。演出=須藤典彦。美術監督=小関睦夫。色彩設定=秋山久美。撮影監督=白井久男。 CGI監督=斉藤亜規子。音響監督=鶴岡陽太。編集=瀬山武司。御神苗優=森久保祥太郎、 マクドガル=相ヶ瀬龍史、メイゼル博士=城山 堅、ジャン・ジャックモンド=子安武人、マーガレット=玉川紗己子、ファットマン=高野拳磁、リトルボーイ=鈴木勝美、 山本=有本欽隆

 超古代文明の技術をめぐるスケールの大きな人気コミック「スプリガン」をアニメ化した。長篇漫画の場合は、脚本をどうまとめるかが、大きなポイントとなるが、この作品は中途半端な対応ですっきりしない。そのため、肝心のアクションシーンが迫ってこない。大友克洋の総監修・構成なので、ある程度の水準を期待して観にいった人たちは少なからず失望したはずだ。すべてが上滑りのままに終った。

 8万5千枚のセル画を使い、最新のCG技術を駆使しているにもかかわらず、その効果が伝わってこない。せっかく大友が手掛けたユニークな「ノアの方舟」のデザインも生かされていない。新しい技術は映画的な感動に結びつかなければ、単なる実険にすぎない。この作品は技術的な検証のための試作品の域を出ていないといえる。「AKIRA」に似て非なるアニメを見続けながら、あらためて10年前に製作された「AKIRA」の水準の高さを再確認した。


 LETHAL WEAPON 4 

「リーサル・ウェポン4」の画像です

1998年作品。アメリカ映画。127分。配給ワーナー・ブラザーズ。 監督・脚本リチャード・ドナー(Richard Donner)。脚本チャニング・ギブソン。音楽マイケル・ケイメン、エリック・クラプトン、デイビッド・サンボーン。撮影アンジェイ・バートコウィアク、A.S.C.。美術J・マイケル・リーバ。編集フランク・J・ユーリオステ、A.C.E.、ダラス・プエット。マーチン・リッグス=メル・ギブソン、ロジャー・マータフ=ダニー・グローバー、レオ・ゲッツ=ジョー・ペシ、ローナ・コール=レネ・ルッソ、リー・バターズ=クリス・ロック、クー=ジェット・リー(Jet Li)、マーフィー警部=スティーブ・ケイハン、ベニー=キム・チャン、ホン=エディ・コー

 「リーサル・ウェポン3」から、6年。マーチン・リッグス(メル・ギブソン)、ロジャー・マータフ(ダニー・グローバー)のコンビが帰ってきた。ド派手なアクションシーンと軽妙な会話のブレンドは健在。そんな中に、中国からの密入国者に対していたわりをみせるマータフ、マータフの羽振りの良さに汚職を疑うリングス、老いを感じ始める二人の不安、出産まぎわに結婚を迫るルッソと、新しい要素も巧みに盛り込んでいる。そして明るいハッピーエンド。手馴れた演出で、安心して楽しむことができた。

 しかし、この映画の収穫はチャイニーズ・マフィア役ジェット・リーの登場と言えるだろう。悪役ながら、メチャメチャかっこいい。物静かで柔和な表情から、一転凄まじい速さのカンフー・アクションをみせる。技の切れは驚くほどだ。優雅さとどう猛さを合わせ持った本物の武術を体得しているアクション俳優として、今後忘れられない存在になることは間違いない。


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