BUTTERFLY KISS |
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1995年作品。イギリス映画。85分。監督マイケル・ウィンターボトム(Michael Winterbottom)。脚本フランク・コトレル・ボイス。製作ジュリー・ベインズ。撮影シェイマス・マクガーヴェイ。編集トレヴァー・ウェイト。音楽ジョン・ハール。ユーニス=アマンダ・プラマー、ミリアム=サスキア・リーヴス。ミリアムの母=フリーダ・ドウイ、ウェンディ=カティ・ジェイミソン、エラ=ポーラ・ティルブルック、ジュディス=ケイティ・マーフィー、トニー=ファイン・タイム・フォンテイン、ロバート=リッキー・トムリンソン
先に公開された「GO NOW」(1996年)は難病と闘う過酷な恋愛を笑いで包んでいたが、監督第1作の「バタフライ・キス」は、宗教的なまでにストレートな魂の救済が描かれている。心を病んでいるユーニス(アマンダ・プラマー)と聴覚障害を持つミリアム(サスキア・リーヴス)の関係は、同性愛というよりも修道女の絆に近い。神の罪を受けるために人を殺しつづけるユーニスの姿は、アメリカ映画のサイコではなくヨーロッパ映画の熱烈な求道者を連想させる。マイケル・ウィンターボトム監督は、影響を受けた映画監督としてファスピンダー、ヘルツォーク、ベンダース、ベルイマンを上げていたが、とても納得できた。
アマンダ・プラマーの熱演は否定しようがない。しかしながら、狂気と呼ぶには殺人の動機が明確すぎる。ラストに殺される事を望むまで、すべてがあまりにも理解しやすい。もっと割り切れない部分が残ると、長く気になる映画に仕上がったと思う。またボデイピアスはファッション並みでインパクトに乏しい。ジャラジャラしているだけで、自らを傷つけ、痛め付けているようにみえない。不十分ではあるが「東京フィスト」(塚本晋也監督)のピアッシングの方が、まだ怒りや叫びに通じていた。選曲も映像と相乗効果を上げているようには感じなかった。これは趣味の違いかも知れない。
"a life less ordinary" |
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1997年作品。アメリカ映画。103分。 配給=20世紀フォックス。監督ダニー・ボイル(Danny Boyle)。製作アンドリュー・マクドナルド。脚本ジョン・ホッジ。撮影ブライアン・タファノ。編集マサヒコ・ヒラクボ。ロバート=ユアン・マクレガー(Ewan Mcgregor)、セリーン=キャメロン・ディアス(Cameron Diaz)、オライリー=ホリー・ハンター(Holly Hunter)、ジャンソン=デルロイ・リンドー、ナヴィル=イアン・ホルム、メイヒュー=イアン・マクニース、エリオット=スタンリー・トゥッチ
「トレインスポッティング」の苦いユーモアとはひと味違った、軽めのスパイス。しかしハリウッドのベタベタ・コメディを超えた、とっぴなドタバタ恋愛喜劇は、やはりパワーが違う。ユアン・マクレガーは「ブラス!」に続き、気の弱い好青年を演じている。「トレインスポッティング」よりも、キャラクターとしてはハマリ役だ。わがままでキュートな娘セリーン役のキャメロン・ディアスがとても魅力的。女優としてのひとつの節目となるだろう。それにしても、ダニー・ボイル監督がこんなに女性を綺麗に撮れるとは知らなかった。
ラストに向かって展開が荒くなり、無理にまとめたような印象を受ける。二人を恋に陥らせることを命令された天使というアイデアも、十分に生かされているとは言えない。しかしでこぼこ天使コンビがボロボロになりながら奮闘する姿は、それなりにコメディを盛り上げている。「傷だらけの天使」役ホリー・ハンターのタフさは、「蜘蛛女」(ピーター・メダック監督)のレナ・オリンを彷佛とさせた。天使なのに結構怖い。
L.A.confidential |
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1997年作品。アメリカ映画。148分。配給=日本ヘラルド映画。監督カーティス・ハンソン(Curtis Hanson)。 制作アーノン・ミルチャン、カーティス・ハンソン、マイケル・ネイサンソン。 脚本ブライアン・ヘルゲランド&カーティス・ハンソン。 原作ジェイムズ・エルロイ。 製作総指揮ダン・コルスラッド、デビッド・L.ウォルパー。 撮影ダンテ・スピノッティ、A.I.C.。 美術ジニーン・オプウォール。 編集ピーター・ホーネス、A.C.E.。 共同製作ブライアン・ヘルゲランド。 衣裳ルース・マイアーズ。 音楽ジェリー・ゴールドスミス。 ジャック・ビンセンズ=ケビン・スペイシー、 バド・ホワイト=ラッセル・クロウ、 エド・エクスリー=ガイ・ピアース、 ダドリー・スミス=ジェイムズ・クロムウェル、 リン・ブラッケン=キム・ベイシンガー、 シド・ハジェンズ=ダニー・デビート、 ピアス・パチェット=デビッド・ストラターン、 D.A.ハリス・ロウ=ロン・リフキン、 “名誉のバッジ” 主演ブレット・チェイス=マット・マッコイ、 ミッキー・コーエン=ポール・ギルホイル、 ジョニー・ストンパナート=パウロ・セイガンティ
ロサンゼルスの巨悪を追い詰めていく血なまぐさいストーリー。なつかしいフイルム・ノワールの味ながら、暗くならない配慮が随所にみられた。その点は好みが分かれるだろう。サスペンスとしての構成は良くできている。しかし、終わってみれば、落ち着くところに落ち着いたという一抹のもの足りなさも残った。ただ、ラストに向かい「ロロ・トマシ」という切ない響きを生かした展開にはうなった。
ケビン・スペイシー、ラッセル・クロウ、ダニー・デビートら個性派俳優が競演し、それぞれの屈折したキャラクターを浮き上がらせていく。貫禄のある美しさでキム・ベイシンガーが娼婦役でアカデミー賞最優秀助演女優賞を獲得したが、映画の核となる難しいエド・エクスリー役を見事にこなしたガイ・ピアースの演技こそ高く評価されるべきだろう。「プリシラ」(ステファン・エリオット監督)との振幅を、おおいに楽しんだ。配役の妙も大きな魅力。
中国の鳥人 |
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1998年作品。日本映画。118分。配給=シネマ・ドゥ・シネマ、ゼディックインターナショナル。監督=三池祟史(Takashi Miike)。原作=椎名誠。脚本=NAKA雅MURA。音楽=遠藤浩二。撮影監督=山本英夫。美術=増本知尋。編集=島村泰司。和田=本木雅弘、氏家=石橋蓮司、沈=マコ・イワマツ、燕=王麗黎
中国雲南省の美しい自然を背景に、文明論的な深みを持ったスケールの大きな叙事詩が誕生した。三池監督の繊細さと骨太さを兼ね備えた演出が冴える。底に流れるユーモアのセンスも捨てがたい。ヒスイの輸入を目指す商社マンとそれを見張るヤクザ。本木雅弘と石橋蓮司が絶妙のコンビを組み珍道中さながらのドタバタぶりをみせる。案内役の沈を演じたマコ・イワマツのうまさも忘れてはならない。
古代壁画の「泳ぐ人」で「イングリッシュ・ペイシェント」(アンソニー・ミンゲラ監督)が歴史に陰影を与えたように、この作品では「飛ぶ人」の「鳥人伝説」が作品に厚みを与えている。そして開発と地域文化の破壊をめぐる鋭い問いが突き付けられる。資本の力を押しとどめる事はできないが、破壊の混乱を少なくする事はできる、それがとりあえずの苦しい解答と受け取った。極めてリアルなテーマだ。だから、空を飛ぶ人たちの幻想的なCGによって、この物語をファンタジーにしてほしくなかった。
冷たい血 |
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1997年作品。日本映画。109分。配給ビターズ・エンド。監督・脚本・編集・音楽=青山真治(Shinji Aoyama)。撮影監督=石井勲。美術=清水剛。音楽=山田勲生。記録・編集=佐藤公美。嵯峨荘介=石橋凌、島野光造=鈴木一真、遠藤喜美子=遠山景織子、嵯峨理恵=永島暎子、市川幸雄=諏訪太朗
"Of cource all life is a process of breaking down,but...."。スコット・フィツジェラルドの言葉を巻頭に打ち出した青山真治監督の新作。犯人に撃たれ片肺になった刑事は、心に空洞を抱えることになる。そして奪われた銃による連続殺人が起こり、事件を追ううちに心中を目撃する。「愛を証明するには二つ方法がある。ひとつは殺すこと、もうひとつは一生生活を共にすることだ」というラスト間際の言葉まで、全体に固さが目立つ。抽象的な観念にとらわれているようで、うっとうしさを感じた。防毒マスクをつけジープに乗った武装集団の存在も、日本の戒厳的な状況を暗喩するにはストレートすぎる。
ただ、音の処理はなかなか丁寧で作品の統一感を醸し出している。島野の奇抜なデザインの部屋など、清水剛の美術も気合いが入っていた。最後の心中を見つめる視線の距離感も悪くない。さまざまな要素を盛り込み、日本の状況に多面的に迫ろうという監督の意欲的な姿勢は買うが、急ぎすぎて消化不良なまま撮り終えた感がある。
ルイズ |
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1997年作品。日本映画。98分。製作・監督・脚本=藤原智子。撮影=宮内一徳、海老根務。編集=吉田栄子、加納宗子。音楽=原正美。解説=武藤礼子。録音=福島音響
1923年9月16日に軍部に虐殺された大杉栄と伊藤野枝の四女・伊藤ルイさんの生き様を、家族や周囲の人たちの証言をもとに描き出していくドキュメンタリー。ルイさんは、松下竜一氏の「ルイズ父に貰いし名は」の出版を機に、草の根市民運動に力を入れ、全国的なネットワークをつくった。札幌でも講演している。藤原監督はルイさんの死後から撮影を始め、本人には一度も会っていない。しかし、巧みな構成によってルイさんの凛とした生き方が、くっきりと像をむすぶ。見事だ。キネマ旬報1997年文化映画部門ベストテン第1位に輝いた。
癌の宣告を受けたルイさんが手術も延命措置もせずに1996年6月28日亡くなったあと、7月13日に開かれた送る会の場面から、映画は始まる。そして幼友達、姉妹、家族、市民運動の関係者、看護婦が、次々にルイさんの思い出を語る。その間に、大杉栄と伊藤野枝の活動などを自然な形で紹介し、ルイさんの少女時代の過酷さが裏付ける。実撮のフイルムはないが、ルイさんの声、写真が、実に効果的に使われている。観終わっても、ルイさんの張りのある声が耳にこだましている。そして、もうこの世にはいないという悲しみが、長く私を浸した。
DEEP IMPACT |
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1998年作品。アメリカ映画。121分。配給UIP映画。監督ミミ・レダー(Mimi Leder)。脚本マイケル・トルマン、ブルース・ジョエル・ルービン。音楽ジェームズ・ホーナー。撮影ディートリッヒ・ローマン。編集デビッド・ローゼンブルーム。タナー=ロバート・デュバル、ジェニー=ティア・レオーニ、リオ=イライジャ・ウッド、サラ=リリー・ソビエスキー、ベック=モーガン・フリーマン
休日に劇場に行ったが満員で入れず、平日の夜に再度挑戦した。スピルバーグ製作総指揮の作品だけにずいぶんと人気を集めていた。地球に巨大彗星が衝突するというSFとしては古典中の古典的なテーマ。破局を前にした一大人間ドラマが観る者の心を深く打つはずだった。しかし、Deep Impactというよりは、Cheap Impact。まず地球の危機を前にした国際プロジェクトとしては、周到さがなさすぎる。本当の危機に直面した人間の苦悩や愛が丁寧に描かれていない。
アメリカ大統領周辺の動き、第一発見者とその恋人の家族関係、ニュースレポーター・ジェニーと離婚した両親との関係、そして彗星を破壊しに向かった宇宙飛行士たちのドラマ。とても2時間でまとめることは無理なストーリーだ。監督は「観客がそれぞれの人生を考えるきっかけになれば」と話しているが、そのためにはリアルな描写が不可欠だろう。説得力に欠ける展開が目立ちすぎる。中でも自分の子供を助けようとしない親の奇妙な行動には首をかしげるばかりだ。だから小彗星衝突による場面が胸に迫ってこない。収穫は「AKIRA」(大友克洋監督)を思い起こさせる破壊の美しさだけだった。
RED・HUNT |
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1997年作品。韓国映画。74分。制作=韓国ハニ映像。演出・撮影=チョソンボン。企画・構成=リュウィフン。日本語版企画=国際シンポジウム「東アジアの冷戦と国家テロリズム」日本事務局。日本語版制作=ビデオプレス
1948年、右翼青年団の横暴や朝鮮南半分での単独選挙に反対する済州島民の抵抗がきっかけ となって大弾圧があった。数万人の島民が虐殺されながら、「共産暴動」と歪曲され、半世紀の間、犠牲者の遺族や体験者は重い沈黙を強いられた。この作品は、生き残った島民の証言を中心に事件の真相に迫ったもの。韓国の人権運動団体サランパン代表の徐俊植(ソ・ジュンシク)氏が、97年11月に「レッド・ハント」上映を直接のきっかけとして逮捕されたことで、日本でも注目を集めた。冷静に歴史を見つめようとする目配りが感じられる抑制のきいた質の高い記録映画だ。
朝鮮戦争、南北分断。冷戦構造の中で、消し去られようとしていた正視し難い悲劇が肉声で語られる。当事者の証言は、強い力を持つ。沈黙を余儀なくされた辛い過去が、その声に表情に、深くにじむ。アメリカの冷酷な政策に怒りを覚えながら、日本による植民地支配こそが原因であることを、あらためてかみしめないわけにはいかなかった。事件が起きて、ことしはちょうど50年目である。
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