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  MARS  
  ATTACK!  

「マーズアタック!」の画像です
1996年作品 。アメリカ映画。配給ワーナー・ブラザース。105分。監督・製作ティム・バートン。製作ラリー・フランコ。脚本ジョナサン・ジェムズ。音楽ダニー・エルフマン。編集クリス・レベンソン。撮影監督ピーター・サスチスキー。美術監督ウィン・トーマス。衣装デザイン=コリーン・アトウッド。ジェームズ・デイル大統領/アート・ランド=ジャック・ニコルソン、マーシャ・デイル=グレン・クロース、バーバラ・ランド=アネット・ベニング、ドナルド・ケスラー教授=ビアース・ブロスナン、ギャんブラー=ダニー・デビート、大統領報道官ジェリー・ロス=マーティン・ショート、ナタリー・ウェスト=サラ・ジェシカ・パーカー、ジェイソン・ストーン=マイケル・J・フォックス、デッカー将軍=ロッド・スタイガー 、トム・ジョーンズ=トム・ジョーンズ、タフィー・デイル=ナタリー・ポートマン、火星美女=リサ・マリー、リッチー・ノリス=ルーカス・ハーズ、リッチーの祖母=シルビア・シドニー

 ティム・バートンは、ついにやってしまった。B級SF映画を、ハリウッドのオールキャストと最新のSFXで完成させた。もうやりたい放題の展開。しかし、いつものようにバートン色でしっかりまとめられている。

 パチパチパチと、手を叩きたいところだが、少し悲しい気もする。屈折した暗さが微塵もなくなっているからだ。「シザーハンズ」「バッドマン」などを染めていた、独特なほの暗さがない。どこまでも明るく残酷なばかばかしさ。バートンの今後が気になる作品でもある。

 人形アニメのような動きをする火星人は、ジャック・ニコルソンに負けないあくの強さを見せる。邪悪だが、憎めないヒップなキャラクター。しかし、さらに圧倒的なキャラクターはリサ・マリー演じる火星美女だ。くねくね歩きをはじめ、最高に飛んでいる。登場時間はとても短いが、忘れ難い存在感がある。

 「インデペンデンスディ」への強烈な批判になっているが、別に意識したわけではないだろう。バートンは、もっと自由に楽しんでいる。スリム・ホイットマンの歌声で火星人が全滅するのも「未知との遭遇」への皮肉ではなく、「アタック・オブ・キラー・トマト」(ジョン・デ・ベロ監督)へのオマージュだ。


「秘密と嘘」の画像です

 SECRETS 
 and 
 LIES 

1996年作品 。イギリス映画。142分。監督・脚本マイク・リー。撮影ディック・ポープ。美術アリスン・チッティ。衣装マリア・ブライス。音楽アンドリュー・ディクスン。編集ジョン・グリゴリー。製作サイモン・チャニング・ウィリアムズ。シンシア・パーリー=ブレンダ・ブレッシン、モーリス=ティモシー・スポール、モニカ=フィリス・ローガン、ロクサンヌ=クレア・ラシュブルック、ホーテンス=マリアンヌ・ジャン・バチスト、ジェーン=エリザベス・ベリントン

 前作「ネイキッド」(93年)は、登場人物が皆焦り、いらつき、焦燥感に襲われていた。なかなか魅力的な人物造形ではあったが、誇張と作為がやや鼻についた。「秘密と嘘」はシニカルではあるが、構成がより熟成し、人物の描き方も柔らかくなっている。あえて具体的な脚本を書かず、俳優の生の驚きを引き出す技法は巧みだ。

  養女が母親の死をきっかけに、実の母親を探すというストーリーを基本にしながら、登場するさまざまな人たちの傷に満ちた生きざまと屈折した人間関係が、さりげなく、しかし的確に描かれる。さらに、写真家モーリスが撮影する多くの人々の表情としぐさからも、多彩な人生を感じ取ることができる。数秒間の凝縮されたショットの連続は、見事というほかない。

 一人ひとりが絶品の演技をみせているが、シンシア・パーリー役ブレンダ・ブレッシンの熱演は、群を抜いていた。実の子供と初めて会ったコーヒーショップでの9分間は、名場面として記憶されていくだろう。

 何もかもが丸く収まるハッピーエンドーは許せるとしても、シンシアが庭で2人の娘を前にしていう言葉「人生って、いいわね」は、何とかならなかったものか。せめて「風が気持ちいいわ」くらいにしてほしかった。


トレインスポッティングの画像です

 Trainspotting 

1996年作品 。イギリス/チャンメル・フォー・フィルムズ提供。93分。配給アスミック=パルコ。製作アンドリュー・マクドナルド。監督ダニー・ボイル。原作アーヴィン・ウェルシュ。脚本ジョン・ホッジ。撮影ブライアン・トゥファノ。編集マサヒロ・ヒラクボ。衣装レイチェル・フレミング。マーク・レントン=ユアン・マクレガー、スパッド=ユエン・ブレンナー、シック・ボーイ=ジョニー・リー・ミラー、トミー=ケヴィン・マクキッド、ベグビー=ロバート・カーライル、ダイアン=ケリー・マクドナルド、スワニー=ピーター・ミシュラン

 スコットランドの若きジャンキーたちのメチャクチャな生活ぶりを、確かな技術に裏打ちされた自在な映像と繊細な選曲で描いた傑作。端正さと破壊性、巧みさと切実さが、これほど見事に溶け合った作品は、ざらにはない。イギリス映画の90年代を代表する一本になるだろう。

 観終った後のえも言われぬ快感は、実際に観てもらわなければ伝えようがない。スピーディなのにデリケートなカット割りの心地よさ、リアルとシュールの優れたバランス感覚。音楽のじゃれ合いの新鮮さ。切れた登場人物の生々しい魅力。どれをとっても、長々と評価することが可能だ。しかし、本当に素晴しいのは、それらが全体として新しい青春映画になっていることだ。


 クロッシング・ガードの画像です

 The 
 Crossing 
 Guard 

1995年作品 。111分。製作・監督・脚本ショーン・ペン。プロデューサー=デヴィッド・S・ハンバーガー。撮影監督ヴィルモス・ジグモンド。美術監督マイケル・ハラー。編集ジェイ・キャシデイ。音楽監督ジャック・ニッチエ。フレディ・ゲイル=ジャック・ニコルソン、ジョン・ブース=デヴィッド・モース、メアリー=アンジェリカ・ヒューストン、ジョジョ=ロビン・ライト、ロジャー=ロビー・ロバートソン、ジェフリー=石橋凌

 交通事故で娘を失った父親が出所した犯人を殺そうとする。加害者は「許しはこわないが、本当に殺したいのか」と父親に聞く。過酷な設定だ。しかも、極めて日常的な設定だ。交通事故で子供を失った親は世界で毎年何千人、何万人もいるのだから。ショーン・ペンは、私たちに問いをつきつける。いや、ともに考えようとしている。

 娘の死後立ち直れずに、加害者殺害に生きる意味をつなぎ自堕落な生活を送る父親。出所後も罪の意識から逃れられない青年。アクション映画さながらの、はらはらさせる展開の後、ふたりは娘の墓の前で静かに和解し互いの痛みを分かち合う。甘い。ただ、墓地の清明な空気とロサンゼルスの夜明けの風景が、辛うじて甘い結末を和らげている。

 ジャック・ニコルソンでなければ、ここまでの手応えは生まれなかっただろう。アンジェリカ・ヒューストンとのやり取りも映画にリアルさを加えている。久々に渋いニコルソンを味わった。


 エビータの画像です

 EVITA 

1996年度作品 。135分。監督アラン・パーカー。脚本アラン・パーカー、オリバー・ストーン。製作ロバート・スティグウッド、アラン・パーカー、アンドリュー・G・ヴァイナ。撮影ダリウス・コンジ。編集ゲリー・ハンブリング。音楽アンドリュー・ロイド・ウェバー。作詞ティム・ライス。衣装ペニー・ローズ。振付ビンセント・パターソン。エバ・ペロン=マドンナ、チェ=アントニオ・バンデラス、ホアン・ペロン=ジョナサン・プライス、アグステン・マガルディ=ジミー・ネイル、ホアナ=ヴィクトリア・サス、ブラザー・ホアン=ジュリアン・リットマン、ブランカ=オルガ・メレディス、エリーサ=ローラ・パラス

 アルゼンチンの「聖母」として今も崇められているというエバ・ペロンの33年の短い生涯を描いたミュージカルの映画化。これほどまでにスタッフに恵まれた力強いミュージカル映画に出会えるとは思わなかった。荘厳な冒頭のシーンから、アラン・パーカー監督の執念が伝わってきた。

 まず驚いたのはアルゼンチンの労働者を代表しながら、ペロンを見つめ続けるチェ役のアントニオ・バンデラスだ。歌がうまいのは知っていたが、この表現力は並みの訓練では発揮できない。マドンナは柔軟な歌唱力に加え、的確な表現力を身に着けた。ようやく俳優としての代表作に巡り会ったと言えるだろう。

 さまざまなアイデアを巧みに取り入れながらしっかりとした構成で仕上げた傑作。しかし、アルゼンチン民衆の描き方がやや手薄になったのは残念だ。そのため集会やデモのシーンが、過酷な生活の反映というよりもペロンの生涯を盛り上げるためのようにみえてしまう。この辺はなかなか難しい。


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