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 X エックス 

1996年作品。98分。配給:東映。監督:りんたろう。原作:CLAMP。脚本:渡辺麻実、大川七瀬、りんたろう。キャラクターデザイン・作画監督:結城信輝。美術監督:平田秀一。音楽:清水靖晃。テーマ音楽監督:YOSHIKI。主題歌:X JAPAN

 りんたろう監督が「幻魔大戦」(83年)でのフラストレーションを解消するために、CLAMPの原作を借りて描いたサイキック・バトル。原作の登場人物を巧みに配してはいるものの、基本は都市の破壊だろう。息もつかせぬ展開は見事。よほど都市の破壊にこだわっていたのだろう。本当に容赦なく破壊していく。

 「X」の華麗な登場人物たちが、スプラッターのように破壊される殺戮シーンも、魅力的だ。監督が、宝塚バイオレンスと名付けたのもうなずける。その華麗さが、希望のない悲劇的な結末を一層際立たせる。映像の密度、アニメ的な実験性、美意識の徹底という点でも「攻殻機動隊」を上回る出来といえる。

 ただし、作品の底に流れる「強い者だけが時代を変えることが出来る」という思想には共感できない。時代の雰囲気がその方向に流れているとはいえ、世紀末の行く末を他人に委ねることはしたくない。


 

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 ACRI 

1996年作品。108分。配給:東宝。監督・原案:石井竜也。原作:岩井俊二。脚本:末谷真澄。撮影:長谷川元吉。音楽:有賀啓雄。羽岡宏平=江口洋介、海原密=浅野忠信、藤沢亜久里=吉野公佳、飯田佳介=山下徹大、ジェシー=沖嶌美樹、佐古田洋三=藤竜也

 注目の話題作だが、人類が進化の過程で一度海に戻り人魚はその時枝分かれした種だとする「ホモ・アクアレリウス」のアイデアが生かせず、リアリティの乏しいギクシャクした映画になってしまった。オーストラリアの海の美しさも、物語がしっかりして初めて活きてくる。脚本の練り込み不足は否めない。

 特に、ストーリーの柱となる海原密が人魚に変身していくという展開は、論理的に無理がある。よほどの理由づけと高度なCGがあればリアリティを持つのだが、両方とも及第点はやれない。人間と人魚の両者に引き裂かれる密の苦悩を描くのなら、人魚ではなく「半魚人」的な設定が必要だ。

 「人間には見てはならないものがある」というメッセージも、それだけでは古くさい神秘主義に近い。人間の好奇心が結果として多くの生物の生態系や先住民族の文化を破壊した事実を説明した上で、禁欲ではなく繊細な選択、謙虚さを提示すべきだろう。

亜久里役の吉野公佳、密役の浅井忠信とも、魅力を引きだし切れていない。そんな中でジェシー役の沖嶌美樹の演技が光っていた。学会を追われ、妻を海で亡くした佐古田教授役の藤竜也も、なかなかしぶい存在。『恋人たちの食卓』(アン・リー監督)の父親役ラン・シャンを連想させた。


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司祭-PRIEST

1994年作品。109分。製作:BBCフィルムズ。配給:セテラ。監督アントニア・バード。脚本ジミー・マクガヴァーン。製作ジョージ・フェイバー、ジュセフィーヌ・ワード。製作総指揮マーク・シヴァス。撮影フレッド・タンメス。音楽アンディ・ロバーツ。美術レイモンド・ラングホーン。編集スーザン・スパイヴィー。グレッグ・ピルキントン=ライナス・ローチ、マシュー=トム・ウィルキンソン、マリア=キャシー・タイソン、グラハム=ロバート・カーライル、エレイトン=ジェイムス・エリス、アンズワース夫人=レスリー・シャープ、アンズワース氏=ロバート・ピュー、リサ・アンズワース=クリスティーン・トレマルコ、チャーリー=ポール・バーバー、司教=リオ・ファニング

 同性愛者の司祭というタブーに挑戦しただけでなく、生活の中からにじみ出てくるユーモアや多彩な人物を配しつつ、教会の権威主義、近親相姦・児童虐待というシリアスなテーマを巧みに折り込んだ傑作。観終わったあと、確かな手応えが残る。

 突然解雇されたエレイトン神父が、十字架を抱えて豪奢な司教の家に突進するという出だしからして、なかなかに挑発的。アイルランド語で語られる神父の「一生をムダにした」という言葉が重い。

 その後にやってきたのが、主人公のグレッグ司祭。貧しい人々の中に入り差別や搾取などの社会問題を説教に取り上げるマシュー司祭に対して、個人の罪を社会のせいにする姿勢を批判する。いかにも保守主義、形式主義なグレッグ。その真面目な彼が、僧衣を脱ぎ皮ジャンを着るシーンから映画は俄然緊張の度を増していく。

 グレッグ役のライナス・ローチは、まさに適役。端正な顔だちが苦悶の表情を引き立たせる。そして、父親に強姦される娘リサ役のクリスティーン・トレマルコ。せつない感情を眼にためた演技が見事だ。その他の出演者も、それぞれに歪みを抱えた人物を好演している。

 孤立したグレッグとリサの抱擁というラストシーンは、最も傷ついた者が最も優しくなれるといったハッピーエンドではない。教会に対する挑戦状だ。カトリックの抑圧的な環境で育ったジミー・マクガヴァーンのよく練られた脚本と、差別的な環境で映画を撮らなければならないアントニア・バード監督の思いが、この作品を切実なものにしている。

 アントニア・バード監督の作品は、95年製作の『マッド・ラブ』の方が早く劇場公開されている。精神障害を持つ少女と彼女に恋をした少年の束の間の逃避行を描いた、あきれるほど単純な映画だった。ただし、青春の揺れ動く感情をしばし思い出させてくれた。ラストで自殺を思いとどまるシーンは『リビング・エンド』(グレック・アラキ監督)とともに、90年代の地平だろう。


 

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アンダーグラウンド

1995年作品。171分。フランス・ドイツ・ハンガリー合作映画。配給:エース・ピクチャーズ。監督エミール・クストリッツァ。製作カール・ポームガートナー。製作総指揮ピエール・スペングラー。原案デュシャン・コヴァチェヴィチ、エミール・クストリッツァ。音楽ゴラン・ブレゴヴィチ。撮影ブランカ・ツェペラチ。衣装ネボイシャ・リバノヴィチ。美術ミリェン・クリャコヴィチ・クレカ。マルコ:ミキ・マノイロヴィチ、ペタル・ポパラ"クロ":ラザル・リストフスキー、ナタリア:ミリャナ・ヤコヴィチ、イヴァン:スラヴコ・スティマチ、フランツ:エルンスト・ストッツナー、ヨヴァン:スルジャン・トドロヴィチ、ヴェラ:ミリャナ・カラノヴィチ、エレナ:ミレナ・パブロヴィチ

 1941-44年戦争、1961年冷戦、1991年内戦。旧ユーゴスラビアの50年の歴史を、ブラック・ユーモアいっぱいのストーリーで描いた大作。あらゆる正義や価値を笑いとばすパワーは衝撃的だ。現在の深刻な内戦状況を思うとき、このハチャメチゃな喜劇の悲劇性がひときわ痛々しい。

 エミール・クストリッツァ監督は、多民族国家だったユーゴスラビアの中でもムスリム人とセルビア人の混血。複雑な民族関係に敏感であり、あらゆる歴史の美化を批判し人間のずるさと弱さを暴き出しながらも、人間への限りない愛を隠さない。

 監督の奇抜な映像的アイデアのほか、さまざまな古典的な映画のシーンが引用され、タペストリーのように楽しい。全編、バロック的で猥雑なシーンの連続だが、それらを多彩な要素を取り込んだロマ民族の音楽が包み込んでいる。その明るくて悲しい響きは容易に耳を離れない。

 繰り返される民族的な悲劇を、アイロニカルな視点で描いた作品として思い出されるのは「ブリキの太鼓」(フォルカー・シュレンドルフ監督)だろう。これは、1927年から45年間のポーランドの歴史を、成長することを拒否した少年オスカルの目を通して描いた傑作。ノイズに満ちた音楽を響かせて「ブリキの太鼓」は最後まで辛辣だった。しかし「アンダーグラウンド」は最後に死者をよみがえらせて「ホテル・ニューハンプシャー」(トニー・リチヤードソン監督)のラストシーンのような幸福な場面を用意し、そして「ひょっこりひょうたん島」のようにさまようコミューンへと向かった。分離が、けっして解決にはならないことを知っていながら。


GONIN2

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1996年作品。108分。配給:松竹。監督・脚本:石井隆。製作:奥山和由。撮影:佐々木原保志。美術:山崎輝。音楽:安川午朗。編集:奥原好幸。外山正道=緒方拳、外山陽子=多岐川裕美、サユリ=大竹しのぶ、ちひろ=喜多島舞、早紀=夏川結衣、志保=西山由海、蘭=余貴美子、直子=片岡礼子

 前作の「GONIN」は、石井監督作品としては中途半端な出来だったが、「GONIN2」は完全にふっきれた石井ワールドを築き、色気のある映像美も冴えている。予算をつぎ込んだ大作ではないが、映画的なアイデアがぎっしりとつまった作品に仕上がった。

今回の主人公は、サユリ(大竹しのぶ)、ちひろ(喜多島舞)、早紀(夏川結衣)、志保(西山由海)、蘭(余貴美子)の女性5人。「ヌードの夜」で最も名美らしい名美を演じた余貴美子が、貫祿の演技をみせる。大竹しのぶも「死んでもいい」で石井ワールドの一員になった。もっとも愛しいキャラクター。名作「夜がまた来る」で墜ちていく名美を熱演した夏川結衣は、ますます石井世界にはまっていく。そして喜多島舞の成長ぶりに目を見張った。

 猫目石をめぐって、2つのストーリーが次第に絡み合っていく。暴力団に妻を奪われた緒方拳の復讐は、これまでの石井映画の延長にあるが、切れた5人の女性がたまたま居合せた宝石店で強盗から宝石を奪って逃走するという展開は新しい地平だ。ディスコで踊ったあとに5人が床に寝そべって話しをするシーンは『Go fish』(ローズ・トローシュ監督)を連想させる。ラストに向けて、やや現実離れしていくものの、厨房での銃撃戦など新しいアクション映画として十分楽しめた。


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