グローバル・ヒーティングの黙示録

第二章 非再生エネルギー発 電の衰退

 

第二章 非再生エネルギー発電の衰退

炭化水素燃料を使う火力発電、ウラン、トリウムを使う原子力発電はワンスルーで利用するかぎり、資源がピークアウトする非再生エネルギー発電です。増 殖は可能ですがいまだ実用に耐える技術は開発できたとはいえません。また放射性廃棄物が溜まりその処分場を確保することが先生国家以外に困難であるという 社会的有限性を持っています。

 

火力発電のエネルギー転換効率、伝送効率の向上

電力セクターにおける炭化水素燃料の消費を減ずるにはまずエネルギーの転換効率を向上させることです。日本が得意とする分野です。図-2.1のように発電 サイクルのヒートソースの温度を上げれば、発電の理論効率(カルノー効率)はあがります。

図-2.1 発電のカルノー効率

もし3,000度のガスタービンを造ることができれば、理論効率は83%になります。ただ1,000度を越えると1℃上げるときの効率向上率は鈍化しま す。我々が今もっている耐熱合金ではニッケル合金の結晶の配列を工夫し、遮熱セラミック・コーティングを施し、新しいタービンブレード冷却方式を採用して ようやく1,500oC、59%の効率を達成しております。この技術を採用して川崎火力発電所は2007年に運転開始しました。

しかしGEは単結晶ブレードで一歩先をいっていました。日本もようやく単結晶ブレード製作に成功し1,600-1700oC、 62%へのグレードアップを目指しております。これは研究中の固体酸化物燃料電池(SOFC)の効率にせまるもので、今後も大型火力発電はコンバインド・ サイクルが主力となるでしょう。低負荷での効率低下防止のため、コンプレッサーは可変静翼、衝撃波制御の前進翼形遷音速翼列を採用しております。

国家予算をふんだんに使ったNEDOのセラミックス・ガスタービンは小型を除いて成功しませんでした。

蒸気サイクルも従来はフェライト系の材料の制限で最高温度は600oC、圧力25MPa、最熱温度610oC、 熱効率42%(HHV)が最高でした。高温部をNi基/Fe-Ni基材料を使って、2段再熱として700/720/720oCに し、熱効率46-48%(HHV)にようという開発がおこなわれております。このシステムはコンバインド・サイクルのガスタービン側の圧縮比を下げること ができ、設計の自由度が増します。

燃料電池は熱機関ではないためカルノー効率に束縛されないため高い効率を達成できるのではないかと盛んに研究されましたが、いまだ45-50%を越えるこ とができません。LNGガスタービン・コンバインドサイクルの59%にとても及びません。フール・セルと呼ばれる由縁であります。

電力は伝送路で4%程度の損失があります。超伝導送電線がこのロスを減らすひとつの解決法です。消費地に近い場所での分散発電ももうひとつの解決法でしょ う。ソーラーセル、燃料電池などが有効となります。送電線は銅を使います。発展途上国の成長に伴い、資源としての銅価格が上昇しているのが気になります。

 

天然ガス・ガスタービンサイクル発電

炭化水素燃料を燃したとき発生する二酸化炭素は1ペタ・ジュール当たり石油は21キロトン、天然ガスは14キロトン、石炭は24キロトンです。単位エネル ギー当たりの二酸化炭素発生量をみますと石炭は石油の114%ですが天然ガスは66%です。

炭化水素燃料

二酸化炭素排出量(キロトン/ペタ・ジュール)

相対排出量(%)

石油

21

100
天然ガス 14 66
石炭 24 114

表-2.1 二酸化炭素排出量

このように高価な天然ガスへの転換は二酸化炭素の排出量を減らすことができます。このLNGなどの炭化水素燃料への転換は1967-68年にその後のモデ ルとなる日本初の液化天然ガス (LNG)輸入基地の基本設計にグリーンウッド氏が関わって以来着実に普及し、目下世界中で静かに進行中であります。シベリアに膨大な天然ガス資 源を有するロシアがしばらくはキャスチングボードを握るではないでしょうか?

図-2.2 根岸にある日本初のLNG輸入基地

さてLNG価格に占める天然ガスコストは非常に小さく、ほとんどはプラントの償却費であります。日本が輸入しているLNGのほとんどは電力会社のテイク・ オア・ペイ条項を持つ長期LNG購入契約を担保にした日本の銀行を中心とする銀行団のプロジェクトファイナンスで建設資金が賄われております。そういう意 味で償却費が中心の原発とおなじく、国境をソフトに拡大した国産エネルギーとみなせます。

天然ガスはガスタービンと蒸気タービンを組み合わせるコンバイン ド・サイクルやガス・エンジンに最適の燃料ですから、今後も多数建設されて低効率の蒸気 タービンシステムに とって代わるでしょう。 コンバインド・サイクルは比較的建設費が安いですから自然現象で出力が変動する再生可能エネルギーのバックアップのために低負荷で運転されます。このため 低負荷特性のすぐれた可変静翼などが使われるでしょう。ガス・エンジンは効率も高く、分散発電につかわれます。

オフショアの大陸棚のガスをフローティング液化プラントで液化することも可能となりつつあります。同じ技術を使って消費地でもフローティング受け入れ基地 が技術的に可能となります。沖合いのサブマージドブイにターレットで連結するSRV(LNG shuttle and Regas Vessel)やタンカー横付けできるFSRU(Floating Storage and Regas Unit)などの洋上施設から、再ガス化した天然ガスを海底配管で陸に送ることができ、海岸線が長い日本がこれを使わない手はありません。特に洋上風力と 組み合わせて安定した電力として供給することに有効です。

<コンバインド・サイクルの効率>

熱力学の教えるところでは熱サイクルの加熱源(ヒートソース)の温度を高める程、また廃熱を捨てる(ヒートシンク)温度を下げる程、熱効率は上がります。 ヒートシンクには一般に30℃の海水を使うため、その温度は自由に選べません。蒸気サイクル発電の場合は、ヒートソースを高温にすると水蒸気圧も上がり、 500℃―600℃以上の高温・高圧に耐えるボイラー用金属材料がないという事態になり、効率向上は壁にぶつかります。

一方、ガスタービンはクリープ強度の高い高温耐熱材料を熔融してセラミックス製の鋳型にそそいで徐冷し、単結晶のタービンブレードを作ります。そしてブ レード内部を中空にして空冷し、その空気をブレード表面上に薄膜を形成するように流出させ、またブレード表面に低熱伝導度セラミックスコーティングをする ことにより、ヒートソース温度(タービン入口温度)を1,500℃に上げています。今後も1,700℃にあげるべく開発が進められています。いずれも航空 機用ジェットエンジンで開発された技術の転用の流れの中にあります。タービン入口温度を上げるには空燃比を下げて対応します。

このガスタービン廃熱を30℃の海水をヒートシンクに使うボイラー・タービンサイクルの熱源として再利用すると、タービン入口温度1,500℃のとき、熱 効率59%となります。また1,700℃のとき、熱効率62%の総合効率を達成できます。

タービン入口温度1,500℃のときのカルノー効率は83%ですからカルノー効率/実効率比は0.71となります。タービン入口温度1,700℃のときの カルノー効率は85%でですからカルノー効率/実効率比は0.73となります。熱機関としてはこれ以上得られないと思われる値です。

タービン入口温度1,500℃の時、ガスタービン排気温度が廃熱ボイラーの温度500℃―600℃になるガスタービンの膨張比は22です。1,700℃で の膨張比は30となります。1,500℃クラスは東京電力富津火力と川崎火力で稼動中です。1,700℃クラスは開発中。メーカーはGE、ジーメンス、三 菱重工です。

図-2.3 廃ガス循環式コンバインド

<コンバインドサイクル発電の脱硝法>

コンバインドサイクルの効率向上のため、燃焼温度を上げるますと空気中の窒素が酸化してNOXが生成します。NOX生成防止には予混合・マルチノズル・蒸 気冷却燃焼器に加え、排ガスを冷却してガスタービン空気吸入ラインに循環して酸素濃度を下げる方式を採用します。

タービン排気を空気吸入口にリサイクルする循環量を増して排気ガス中の窒素濃度をさげ、排気を二酸化炭素と水蒸気だけにすれば二酸化炭素回収・隔離が可能 となり、温暖化防止が可能となります。

<チェン・サイクル>

チェン・サイクルはガスタービン排熱 で蒸発した水蒸気を燃焼室の後にインジェクションすることによってタービン入口温度をさげることができるため、過剰空気率を減らすことができ、空気圧縮動 力を減らし、正味出力を増やすことができます。圧縮機と膨張器の比率がかわるため汎用のガスタービンにはつかえません。燃焼温度が下がりますので、NOX は減ります。

<HATサイクル>

1980年代にチェン・サイク ルの特許がでました。タービン廃熱で気化した水蒸気を燃焼器後にインジェクションするものでした。三菱ガス化学が1981年に出願したものはチェン・サイ クルに再生器を追加したものです。再生器前で空気加湿します。これは、1983年にIGTCに発表。米国でHumid Air Turbine (HAT)と命名されました。欧州ではEv(Evaporative) GTとも呼びます。米国のEPRI、DOEでFSされコンバインドサイクルより3-4%高効率です。

<AHATサイクル>

Advanced Humid Air Turbineと呼びます。日立、電中研、住友精密の共同研究です。HATサイクル に排ガスから水を回収し、空気圧縮機入り口に水を噴霧して加湿します。

<超臨界圧炭酸ガスタービン

二酸化炭素を作動流体に使うブレイトンサイクル・ガスタービンを80-200気圧、35-600°Cで使い、圧縮を二酸 化炭素の臨界点近傍で行うと圧縮動力が小さくてすみ、ランキン・サイクルに近くなります。


天然ガス・ガスエンジン発電

高圧縮比、空燃比2以上のリーンバーン、パイロット燃料副室インジェクション点火と過給機の組み合わせ により効率 50%に達している4ストロークエンジンの出力は1基11MWです。メーカーはドイツのMann、Wartsila、MHIなどです。分散発電に最適。

吸気バルブの閉じるタイミングをカム形状だけで下死点の付近で早め(早閉じ)に閉じるミラーサ イクルと2段ターボチャジャーを組み合わせれば50%の高効率を出せると期待されます。


石炭ガス化発電と二酸化炭素回収・隔離(IGCC-CSS)

二酸化炭素回収・貯留をする火力発電は二酸化炭素を放出しない発電法の一つです。二酸化炭素回収法と回収した二酸化炭素 をどこに隔離するかによって様様な 組み合わせが考えられます。

<二酸化炭素回収法>

第一章で説明したように大別して4通りあります。すなわち

@燃焼後回収(ポスト・コンバッション回収):排ガスからのアミン水溶液吸収での回収

A燃焼前回収(プレ・コンバッション回収):ガス化プレコンバッション回収コンバインドサイクル発電

B純酸素燃焼後回収法(IGCC):酸素燃焼後回収コンバインドサイクル発電

Cケミカル・ルーピング・コンバッション

です。

@燃焼後回収(ポスト・コンバッション回収)

一番手っ取り早い方法(ポスト・コンバッション回収)で空気で燃焼した後、二酸化炭素をアミン溶液などで化学吸収する方法です。溶液の再生に多量の熱を必 要とします。仏重電アルストロムはパイロットプラントを建設して2015年商用運転を目指しております。独ジーメンスは独電力大手エーオンと共同で吸収液 で二酸化炭素を分離する方式を開発して2013年には実用プラント建設予定です。

しかし最も安価な方法は2006年の二酸化炭素回収貯留特別報告書の第6章海洋貯留(ローレンス・リバモア国立研究所のケン・カルデイラら執筆)に提案さ れている廃ガス中の二酸化炭素を海水に溶かし込み、石灰石と反応させて重炭酸カルシウム水溶液にして海中に放流隔離する方法でしょう。アミンなども使わず 直接回収する方法です。コンバインドサイクルの熱効率は59%でガス化用酸素プラントの所内消費が2.9%ですから発電端効率は56.9%が期待できま す。

図-2.4 ポストコンバッション回収・重炭酸カルシウムとして海水に放流する石炭ガス化コンバインドサイクル発

中央電力研究所と東京大学エネルギー工学連携研究センターの幸田栄一特任准教授が研究している溶融炭酸塩型燃料電池 は天然ガスを水蒸気改質しただけの一酸化炭素を含む水素ガスを燃せます。これをガスタービンを組み合わせたハイブリッドシステムは100%負荷で効率 65.5%25%負荷で58.4%の熱効率を達成できるとしております。これから再生可能エネルギーを増やし、原発も使い続けるというのであれば負荷追従 をする火力発電の低負荷熱効率向上は至上命令だからです。

この排ガスは二酸化炭素と水だけですから海洋隔離が容易に適用できます。 またガスタービンコンバインドサイクルの弱点である低負荷の効率がよいので、ソーラーセル電源のバックアップに最適でしょう。 ただ燃料電池は寿命が短く、大型化はむずかしいので高価になりますので実用化されるのかは疑問です。

溶融炭酸塩型燃料電池を固体酸化物型燃料電池に替えればより高い効率を期待できます。

図-2.5 ポストコンバッション回収・重炭酸カルシウムとして海水に放流する溶融炭酸塩型燃料電池-ガスタービンハイブリッド発電

2009年11月5日、モータージャーナリストの安藤眞氏から「炭焼きと固体酸化物型燃 料電池のコラボレーションというアイデアを温めている。炭焼きの排出ガスには多量の水素やメタン、一酸化炭素が含まれている。これを固体酸化物型燃料電池 の燃料にしたい。炭焼きには熱源が必要である一方、固体酸化物型燃料電池の作動温度は800〜1,000℃と非常に高温になる。この廃熱が、炭焼きの熱源 に利用できないか」と聞かれました。

一旦はバイオマス発電はエネルギーの主流にはなれないと回答しましたが、木材の乾溜を石炭の乾溜に置き換えれば溶融炭酸塩型燃料電池または固体酸化物型燃 料電池との組み合わせが実現できることに気がつきました。少なくとも石炭資源の枯渇まで使えると考えなおしました。これは鉄鋼業が必要とするコークス製造 に使えるのではないかと愚考しております。

図-2.6 ポストコンバッション回収・地中隔離する石炭乾溜、固体酸化物型燃料電池-ガスタービンハイブリッド発電

A燃焼前回収(プレ・コンバッション回収)

プレ・コンバッション回収はガス化後プレコンバッション回収コンバインドサイクル発電とでも呼びましょう。Jパワーが2016年から瀬戸内海で二酸化炭素 を隔離するための15万キロワットの石炭ガス化発電の実証機を運転予定とのことです。その方法は石炭のガス化発電において二酸化炭素をプレコンバッション 分離しようというものです。石炭を酸素でガス化したガスに水蒸気を加えて触媒で水生ガス反応(シフト反応)させて水素と二酸化炭素だけの混合ガスにし、吸 収剤または吸着剤、膜分離で二酸化炭素を除去するという複雑な工程を採用しています。ただこの方法でも再生過程でエネルギーが必要です。こうして精製され た水素燃料を使うガスタービンコンバインドサイクルという構想です。建設費は数百億と高価になっています。

図-2.7 プレコンバッション回収・重炭酸カルシウムとして海水に放流する石炭ガス化コンバインドサイクル発電

部分酸化反応は

CH2 + O2 = CO + H2O

シフト反応は

CO+H2O = CO2 + H2

燃焼反応は

H2+ 1/2O2 = H2O

です。 炭素の燃焼熱は94.2kcal/mol、水素の燃焼熱は68.3kcal/molですからガス化工程の廃熱を回収しない場合の転換率は72.5%です が、回収すればほぼ炭素の持つエネルギーを高効率で電力に変換できます。

同じ原理は天然ガス改質プレコンバッション分離コンバインドサイクル発電に適用可能です。

-2.8 プレコンバッション回収・重炭酸カルシウムとして海水に放流する自己燃焼型改質後天然ガスコンバインドサイクル発電

天然ガスの水蒸気改質反応は

CH4 + H2O = CO + 3H2

シフト反応は石炭と燃焼反応は同じで、総合的なエネルギー転換率は転換過程で発生 する熱をどのくらい回収できるかによって決まります。

-2.9 プレコンバッション回収・重炭酸カルシウムとして海水に放流する

ガスタービン燃焼室ビルトイン改質天然ガスコンバインドサイクル発電

B純酸素燃焼後回収法(IGCC)

酸素プラントで酸素を製造し、この酸素で炭化水素燃料を燃焼して窒素フリーの二酸化炭素を生成させる(IGCC)方法があります。二酸化炭素回収法として はもっともスマートな方法と思われます。

酸素燃焼はBTGより高効率のガスタービンコンバインドサイクルにも適用可能です。酸素で石炭をガス化したガスを酸素で燃焼させ るか、天然ガスを酸素燃焼させます。こうするとタービン排ガスを二酸化炭素と水にしてしまうことができます。冷却だけで水は分離します。タービン入り口を 1,500oC以上にしないように二酸化炭素をリサイクルします。

C + 1/2O2 = CO

CO+1/2O2 = CO2

炭素の燃焼熱は94.2kcal/mol、COの燃焼熱は67.6kcal/molですからガス化工程の廃熱を回収しない場合の転換率は71.9%でガス 化プレコンバッション分離と同レベルです。ガス化工程の廃熱を回収すればほぼ炭素の持つエネルギーを高効率で電力に変換できます。

-2.10 酸素燃焼後回収・重炭酸カルシウムとして海水に放流する天然ガスコンバインドサイクル発電

本法のデメリットは純粋酸素量はガス化プレ・コンバッション分離の2倍 必要となることです。メリットは二酸化炭素分離でのロスがないことです。どちらが有利かは詳細な比較設計をしてみなければならないでしょう。

<石炭ガス化発電・隔離(IGCC+CSS)>

石炭を燃料とする火力発電所は従来は粉炭をボイラーで燃焼させ、蒸気タービンを駆動して発電していました。効率は42%程度でした。石炭中に多量に含まれ る硫黄分はボイラーで酸化されてSOXとなり、煙とともに煙突から排出され、大気汚染を引き起こしました。このSOXは今ではボイラーと煙突の間に設置さ れる排煙脱硫装置で吸収分離されています。吸収液は石灰石(炭酸カルシウム)のスラリーで酸化硫黄と反応して石膏になります。石膏は建材などとして有効利 用するか、埋め立てに利用されています。

二酸化炭素が地球温暖化の原因ではないかという仮説が国際的に喧伝されてから、二酸化炭素の回収・隔離が必要になるかもしれないと考案されたのが石炭ガス 化発電(IGCC: Integrated gassification combined cycle)であす。

IGCCでは粉炭を酸素または酸素富化空気で部分燃焼させると、水素、メタン、一酸化炭素、炭酸ガス、酸化硫黄、窒素ガス、水蒸気の混合ガスが発生しま す。灰は熔融スラグとなります。二酸化炭素と酸化硫黄をMDEAなどのアミン吸収液で吸収分離し、酸化硫黄は石膏にします。こうしてサルファーフリーの水 素と一酸化炭素混合ガスをコンバインドサイクル発電の燃料とするのです。ガス化で効率は若干下がりますが、タービン入り口温度1,500℃で48%- 50%が期待できます。米国、ドイツ、オランダ、スペイン、中国など各国で研究開発中です。日本では三菱重工が小名浜で実証機を運転中。

二酸化炭素の回収・隔離目的とするときは一酸化炭素を水蒸気と反応させて水素と二酸化炭素に転換してから二酸化炭素を吸収分離して水素主体の燃料にする。 いわゆるプレコンバッション回収・隔離となります。

図-2.11 IGCC

ガス化炉は燃料ガス圧縮機をなくすために必要燃料圧で運転されます。その形式はルルギの固定床から始まり、ウインクラーの流動床を経て現在は Koppers-Totzekの流れにある上向き噴流床のようです。水冷壁を持って耐火材を使いません 。 小型は酸素吹きですが大型は空気で問題ありません。

世界を見渡すと、仏重電アルストロムはこの空気分離装置をつかう酸素燃焼法のパイロットプラントを建設し、2017年商用運転を目指しております。

2006年、東ドイツのシュバルツ・ポムプ発電所で世界初の酸素燃焼ボイラーを使う褐炭火力発電所のパイロットプラント実験が2008年から「行われる予 定と発表されました。二酸化炭素は圧縮・液化され地殻に注入されることになっています。発電は行わず、当面は熱供給だけです。同じ金額を再生可能エネル ギーに投下したほうが二酸化炭素削減に貢献できたとする人々も居ます。

日本での商用機1号は近々中国電力三隅2号400MWとなる見込みでしたが、上関原発ABWR1号機1.3GWの建設後(着工2012年、完工2018 年)に変更させられ ました。

2010年4月21日 酸素を使うIGCC+CCS実証事業が福島県いわき市小名浜で開始されました。低品位炭の高効率熱分解技術を用い、二酸化炭素を燃焼後回収し、隔離する CCS技術の国際共同研究とか。実施機関はJパワー/三菱重工。パイロットプラント規模は360t/日、回収CO2量は10t -CO2/日。事業総額は約129億円です。

Cケミカル・ルーピング・コンバッション

酸化金属と還元金属をリサイクルする方法でまだアイディアの段階です。

<二酸化炭素隔離法>

@地中隔離火力発電

地中隔離は産油国では廃油田に注入できるメリットがあります。日本政府は200億円をかけ2009年に中国のハルピン石炭火力発電所から回収する二酸化炭 素をパイプラインで大慶油田に運び注入するプロジェクトに協力することになりました。EORも目論見の一つとしております。

日本では地下の帯水層に注入する方式です。新潟県長岡市で帯水層注入実験をしております。日本列島はプレートの沈み込み帯にあり、強いストレスを受けてお り、活断層がいたるところにありますので安全に地中隔離できる適地が少ないという問題があります。

これに比べより安定した地盤を持つ米国、フランス、ドイツなどの大陸国は有利なため盛んに研究されております。石灰岩質で多穴質の岩盤は二酸化炭素が安定 化して噴出しにくいようです。2008年にフランスのトタール社、ドイツのエーオンとかRWEが地下の岩盤に注入すると発表しました。

2016年のサイエンスによるとアイスランドの地熱発電で発生する二酸化炭素や硫化水素を水と共に玄武岩質岩盤にCCS のために400-800mの地下に注入したのちボーリング調査したところ、2年以内に石になったと発表。放射性炭素で確認された。これは玄武岩中のケイ酸 塩鉱物が炭酸塩と二酸化ケイ素に変わったためである。この地殻にはケイ酸塩鉱物がある ため、二酸化炭素は地殻に固定され、地球はいずれ寒冷化するとされている。たまたまアイスランドには玄武岩がおおいが花崗岩でも安山岩でもケ イ酸塩鉱物を含む。これまで泥岩などで蓋をされた帯水層に貯留されるべきとされていたがその必要はないことが分かった。注入コストは30$/tonであっ た。分離費まで含めれば60-130$/tとなる。

日本の苫小牧沖のCCS実証実験のコストは7,300yen/t(6割は分離回収費)で深さは1000−3000m。

A海洋隔離火力発電

海域地中隔離、深海直接注入海洋隔離法、石灰石中和海洋隔離法など各種ありますが それぞれ問題があります。石灰石中和海洋隔離石炭火力発電がよいのではないかとおもうものです。

石灰石鉱山の開発と多量の石灰隻輸送という問題ももたらします。石灰石中にある不純物による海洋汚染という問題が予想されますが、海の生理に適った方法 で、海にミネラルを供給して海産物の増産対策になるというメリットもあります。

研究する価値はおおいにあるとおもうのですが、電力会社や日本政府はなぜか石灰石による二酸化炭素の隔離を研究対象にしていません。

2006年の二酸化炭素回収貯留特別報告書のChapter 8 Cost and economic potentialによれば以上の分離法・隔離法を採用すれば二酸化炭素の80-90%を大気に出さずにすみ、燃料消費量は10-40%増加し、発電単価 は20-90%増加するとされております。

 

燃料電池発電

1837年に英国のW・グローブ卿によって発見された燃料電池は1965年に宇宙船ジェミニ5号で初めて燃料電池が登載されるまで100年以上実用化され ませんでした。燃料電池は主として水素で稼動します。天然ガス、LPG、灯油、メタノール燃料の場合は併設する改質反応器で直前に水素に転換して燃料にし ています。メタノール、アンモニア、ヒドラジン、グルコース等を電池に直接供給して水素への転換と電池を一体にした方式もあります。しかし燃料電池は水素 が酸化して水になる過程で電流を生じるという原理は同じです。

天然ガス、LPG、灯油を水蒸気とともにニッケル系触媒を充填した管式反応器を通して加熱しますと水素と一酸化炭素になります。これを水蒸気改質反応とい います。吸熱反応ですので外から熱を与える必要があるのです。メタンを例にしますと、

CH4 + H2O = CO + 3H2


石油の場合は

CXHY+(X/2)O2=XCO+(Y/2)H2

石炭のような固体の場合は管式反応 器を使えませんので酸素で部分酸化して一酸化炭素にします。この場合は外から熱を与える必要がありませんのでオートサーマル反応とも呼ばれます。

2C + O2 = 2CO

一酸化炭素はシフト反応で水蒸気と触媒存在下で比較的低温で反応して水素と二酸化炭素になります。

CO+H2O = CO2+H2

こうしてできた二酸化炭素を除去す れば水素が得られます。二酸化炭素は水素と混合ガスのまま燃料電池に送れますが白金触媒を使うタイプは被毒を生ずるため、選択的酸化などで一酸化炭素を完 全につぶさねばなりません。

この変換過程で二酸化炭素が発生し、20%程度のエネルギーの損失が発生しますので水素転換効率を含めると燃料電池の総合効率は一段と低くなるわけです。 いまだ天然ガスコンバインドサイクルの効率59%を達成した燃料電池はありません。

グルコース燃料なんて理論的には可能でもバイオ燃料ですから成功しても小型向けでしょう。

燃料 タイプ 運転温度(oC) バッテリー効率(%) 水素転換効率含む総合効率 (%) 特徴

水素

固体高分子型(PEFC;Polymer Electrolyte Fuel Cell)

50-100 40-47 32-38

陽子交換膜型燃料電池とも呼ばれる。自動車向け、希少金属の白金を使うためコスト高、CO被毒、70-90oC。スルフォン酸系固 体高分子膜型の耐久性に問題あり

リン酸型(PAFC; Phosphoric Acid Fuel Cell)

150-220

<40 <32

希少金属の白金を使うためコスト高、CO被毒、200oC。 定置型

溶融炭酸塩型(MCFC; Molten Carbonate Fuel Cell)

600-700

<45 <36

Ni触媒、定置型、高温、CO被毒の問題なし、600-700oC。

固体酸化物型(SOFC; Solid Oxide Fuel Cell)

650-1000

56-63 45-50

ペロブスカイト構造のセラミック膜(PCC Proton conducting ceramics)を使う。900-1,000oC。定置型、内部改質型で触媒不要、水素、COを直接酸化 できる

メタノール ダイレクト・メタノール燃料電池(DMFC;Direct Methanol Fuel Cell)

50-120

25-40 25-40 メタノールは常温で常圧の液体のため自動車に適している。固体高分子膜を使う。炭化水素燃料から製造 したメタノールを分解して水素を取り出して使うため、well to wheel効率は低い。 合成メタノールが普及すれば実用化の可能性を秘めている
アンモニア ダイレクト・アンモニア燃料電池(DAFC;Direct Ammonia Fuel Cell)

900

60 48 LPGと同じく加圧下で液体のためボンベを積めば良い。水素から製造したアンモニアを触媒で分解して 取り出した水素を使う方式とSOFCの燃料にする方式がある。 アンモニア合成でのエネルギーロスがあり合成過程で二酸化炭素も発生するが燃焼では全く二酸化炭素を出さないメリットがある。劇物ではあるがアンモニアを 点火栓エンジン・ハイブリッド車の燃料とすれば燃料電池や二次電池車より安価な自動車を開発できる。
加水ヒドラジン(N2H4 ダイレクト・ヒドラジン燃料電池(DHFC;Direct Hydrazine Fuel Cell)

常温

30 30 ロケット燃料の加水ヒドラジン(N2H4)は常温・常 圧で水溶液であるため、自動車燃料としては水素やアンモニアより優れている。白金触媒が不要というメリットがあるが、 炭化水素燃料から製造したアンモニアを酸化させてヒドラジンをつくるため、エネルギー転換効率はアンモニアよりも更に低い。 レシプロエンジン燃料にすれば面白いかもしれないが強い毒性があり一般利用は無理か?
グルコース ダイレクト・グルコース燃料電池(DGFC;Direct Glucose Fuel Cell)

常温

- - グルコースヒドロゲナーゼとかグルコース酸化銀触媒を使う。グルコースは農業によって製造するので地 球環境上まったく意味がない。

表-2.2 燃料電池の分類

燃料電池の電極は直径がナノレベルのトンネルのような細孔を作ってそのなかをイオンを流すという大変なことをするわけで すから時間経過とともに目づまりして使い物にならなくなります。このため寿命が短く結局コスト高になります。

学者や企業は燃料電池開発を政府に売り込んで膨大な予算を浪費していますが、いまだにものになっていません。そしていまだ内燃機関で到達できる効率を大幅 に上回ることはありません。エンジンなんてアルミインゴットを工作機械で削るだけでできるので安いのです。

<固体高分子型燃料電池・リン酸型燃料電池>

そもそも日本で始めて国際水素エネルギー学会を創設されたのは横浜国大の教授だった太田時男先生です。水素エネルギー研究の動きを知った著者は天然ガスの 液化技術をよく知っていましたからそんなことにはならないとたかをくくっておりました。実際 私は一旦は忘れられていたのです。

そのうちに米国のジェレミー・リフキンが時流にのって「水 素エコノミー エネルギー・ウェブの時代」なる本を書きあおりました。更に悪いことに石油利権にからむブッシュ政権が水素エネルギーの開発の資金 提供すると発表してから日本もおかしくなってきました。 炭化水素燃料から水素をつくるようではダメと専門家ならすぐに分かるのですが素人は分かりません。それをよいことにして、産業界もその人気にあやかろう、 日本中の学者も研究費がでるのだからいいではないかということでますます社会は傾いてゆきます。

米国エネルギー省は自動車用の燃料電池のピーク効率60%、価格45$/kW(5円/W)、40%の発電効率定置型固体高分子型の価格750$/kW (82円/W)目指して開発中ですが、かなり時間をかけても成功したというニュースは伝わりません。政治的な国家研究の類いで技術的に無理だと思います。

経済産業省資源エネルギー庁は米国に負けじと2002年から水素・燃料電池実証プロジェクトをスタートしました。数百億 円の研究費を補助し、民間企業も見境なく自腹をきって研究に参加しました。水素ガスの配給網や家庭用の都市ガスや灯油から水素を取り出し、発電し、給油す るというパッケージの実証です。

しかし40%台の効率ではディーゼル・エンジンと競合しますのでコストと寿命がよほどすぐれないかぎり採用されないで しょう。

著者は千代田に奉職していた1998年4月の石油学会(JPI)のエネルギー環境部会で 炭化水素燃料を燃料とする 固体高分子型燃料電池・リン酸型燃料電池の実用化は高価な白金触媒を必要とするので無理ではないかと予言しました。その前にもNEDOの資金で電力中央研 究所他と水素エネルギーとリン酸型燃料電池の研究組合から撤退するのを決めたのは著者でした。

しかし通産省の潤沢な研究費をつかって各社は研究を続行し、松下ホームアプライアンス社は都市ガスを燃料にする家庭用燃料電池を商品化しています。1kW 出力での発電効率は100%出力時都市ガスベースで38%です。固体高分子型の電池効率は44%、都市ガスから水素への変換効率86%と推測されます。固 体高分子型は電極に白金を使っているため 、2007年には機器価格は481万円(4,810円/W)でした。2,000ヶ所を越える設置がありますが、資源エネルギー庁が350万円を補助したた めです。2008年にはこれを220万円に下げましたのでどうなるでしょうか?松下は2015年までにこれを50万円(500円/W)まで下げたいとして いますが、仮に下げたところで資本費がソーラーセルの現在の製造単価と同じでは天然ガス代金だけ足が出る計算になります。

NTT、東邦ガス、住友精密工業は数百時間にわたり3kWの出力で発電効率56%を出したと2009年4月発表しておりますが実用レベルは数万時間ですか らまだ研究途中といえるでしょう。

当初の目論見がはずれ高効率と低価格化を達成できなかった研究者は廃熱を回収して温水をつくるコジェネレーションとし、廃熱回収部分まで効率計算に含めて おります。自動車 搭載の燃料電池の場合はお湯を作っても暖房にしかつかえず、あまり意味がありません。熱力学の定義からして価値の低い廃熱を計算に入れるのは何も知らない 素人をだます行為でしょう。もしこれがゆるされるならガスエンジン・コジェネレーションでもガスタービン・コジェネレーションでも同じ効率が達成できま す。フュエルセルで足湯を楽しむなどはもうジョークの世界です。

フュエルセルがフールセルと揶揄される由縁であります。それだけではありません、電力とお湯の需要パターンは同じではありませんから、分散発電した場合、 発電を優先するでしょうから、副産したお湯は貯湯しても結局使われずに無駄になることが多いのです。このようにコジェネレーションは机上の空論が多いので す。

吉田邦夫という政府委員をしている東大教授も「クリーンエネルギー社会のおはなし」で第7章水素エネルギーという独立の章まで設けるようになりました。し かし著者は水素に関しては電力中央研究所の顧問浜岡照秀氏の「誤解だらけのエネルギー問題」で開陳している見方に組する ものです。ただ浜岡照秀氏が原発のリスクに関しては沈黙し、海洋隔離に関しては言及がないことには失望しております。

<溶融炭酸塩型燃料電池・固体酸化物型燃料電池>

比較的低温で稼動するため自動車用に期待された、固体高分子型やリン酸型は忘れさられつつありますが、高温で稼動する溶融炭酸塩型や固体酸化物型にはまだ 可能性が残っているようです。

日本ガイシ株式会社は2009年6月11に独自構造の固体酸化物型燃料電池(SOFC)を開発し、出力700W、作動温度800度の定置型スタックで燃料 利用率93%で63%の発電効率(LHV)、燃料利用率60%で45%の発電効率を達成したと発表しました。

セルの支持体である燃料極の全面に電解質(ジルコニア)の薄膜(厚さ5マイクロメートル)を形成して抵抗を下げるとともに、セルの両面に空気極を形成して 大きな発電面積を確保することで高出力を実現しております。セルの内部に燃料ガスを供給する空間を形成し、燃料ガスがセル全体に均一に行き渡るように高精 度で最適化しています。

平板円筒型のセルとしては世界で最も薄い1.5mmの厚さを実現、セルの内部に燃料ガスの流路を内蔵しているため、一般的な平板型のセルでは必要な燃料ガ スと空気を遮へいするための部品が不要となり、小型化と低コスト化を可能にしております。

SOFCはCOを含む燃料ガスを使えますので、ガス精製費が安く済むというメリットがあります。

SOFCは実用化に最も近い性能を誇りますが、コストダウンは多量生産体制を構築しなければなりません。一方大型化の技術体系にあるコンバインド・サイク ルはすでにガスタービン入り口温度1,500oCで59%を達成し、近々の開発目標である1,700oCで は63%が期待されておりますので、SOFCの手ごわい競合技術ということになります。電力会社は当然コンバインド・サイクルを採用するでしょうから、 SOFCは小型分散発電向きとなるでしょう。

2011年、米国メリーランド大学エネルギー研究センター長のEric Wachsman教授が開発したガソリン燃料の固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、大学のプレス発表によると、エネルギー密度が約2ワット/平方cmと 大きく、作動温度が650℃以下と低い、画期的なものである。(E.D. Wachsman, K.T. Lee; Science)同教授が参加して設立したベンチャー企業のRedox Power Systems LLCによって天然ガス燃料・定置用燃料電池として先ず商品化されることが2013年8月メリーランド大学とRedox社から発表された。Redox燃料 電池の価格は少量生産で $1500/kW、大量生産で $800/kWと言っているので、Bloomエネルギー社の現行製品の価格$8,000/kWの1/10。これはRedox電池の電解質の電気伝導度が在 来の10〜100倍であること、またその作動温度が在来の800℃以上に対して550℃と低いためにセル以外を含めて材料選択などが楽になることが挙げら れている。

2012年JX日鉱日石エネルギーは2011年暮れ固体酸化物型燃料電池を家庭向けに売り出しました。東芝も家庭用に市 販しましたがコストダウンできないでいます。

2012年11月オーストラリア国立研究所のCSIROが天然ガスを燃料とする平均出力1kW(1.5kW- 0.5kW)のSOFC燃料電池を開発しました。発電効率は最大出力で60%。BlueGenという商品名で全世界に市販され価格は30,000$/kW とFinancial Reviewが報じています。セル単価は2,400yen/Wとなります。

2014年ソフトバンクはBloom Energyの固体酸化物(SOFC)200kW、都市ガス燃料、効率50%、発電単価20yen/kWhを設置。

「そうりゅう」に代表される灯油と液体酸素を燃料とするスターリングサイクルエンジンを採用する非大気依存推進システム(AIP)潜水艦に固体酸化物型 (SOFC; Solid Oxide Fuel Cell)電池コンバインドサイクルを採用することが考えられます。



原発新設政策への疑問

現在世界における二次エネルギーである電力の総発電量16.32兆kWhのうち、16.2%(一次エネルギー比6.3%)がウラン235を核分裂させて熱 を取り出すウラン炉を使う原発で賄われております。

1986年のチェルノブイリ事故以来、斜陽産業とよばれた原発も、中国やインドにおけるエネルギー消費は増えているため、この16.2%という原発のシェ アを維持する目的だけでも、今後150基程度の原発を建設しなければならないとされています。世界の既存原発の総数は435基、2030年までに344基 の建設が必要という推計があります。これをフランスでは原発ルネッサンスといっています。

フランスは電力は国営会社一社の独占のため、国家の核兵器開発とも一体となり、原発コストのかなりの部分を兵器予算とともに一括処理できる構造となってい て原発の発電単価を抑えることが可能でした。結果として原発 を作りすぎて依存率が80%と高くなりました。このため出力調整運転と電力輸出をせざるをえません。PWR炉を選 んだため、出力調整が容易です し、休日などのは運転停止もするそうです。ただ原発だけになると出力調節の自由度が失われ、依存率をこれ以上高くできませんし、自然エネルギー導入の参入 障壁ともなっております。

日本は米国と戦争をして負け、原爆で多くの人が犠牲になりました。1953年12月8日、アイゼンハワー大統領が平和利用にかぎって核の利用をみとめると いう「アトムス・フォー・ピース」という方針を国連総会で公表しました。当時野党の中曽根康弘がこれを受け原子力予算を国会に提出し、可決されました。原 爆は無理としてそのようなパワーがほしいと思った国民の気持ちに支持されたためでしょう。原子爆弾は天然のウランに0.7%しか含まれないウラン235を 濃縮したものか人工的に製造したプルトニウム239を火薬で一瞬にして臨界量に合体させることにより、 中性子による連鎖反応が生じさせて爆発する兵器です、多量に放射される中性子により大勢の生命が一瞬にしてわれますが、残留放射能は微量で、戦後、広島に も長崎にも人々は住み続けることができました。

その後、1979年スリーマイル島のPWR炉の炉心溶融事故が発生しました。1986年のチェルノブイリ型黒鉛減速チャンネル型炉の暴走による蒸気爆発事 故で半径300km以内の住民は移住を余儀なくされ ました。原子炉事故は原爆のような多量の中性子を放射するような核爆発は生じないため、事故時の死者は多くはありません。しかしチェルノブイリ事故が明ら かにしてくれたように、原子炉の中に蓄積しているトンのオーダーに達する放射性物質の数%が放出されただけで105~7キューリー の放射能が撒き散らされ、1平方キロ当たり15キューリ以上の汚染地帯には長期間住めなくなったのです。事故でこれが拡散すると広大な面積が居住不可とな る恐ろしいものであることが認識されたので した。こう認識した米国では原発の建設がストップしました。 ヨーロッパ、特にドイツでは原発を段階的に廃棄することに決めました。しかし日本では一旦開発路線が定まると方針の転換はなく、1996年まで継続し、電 力需要の伸びが止まった時、ようやく新規建設が停止したのです。こうして原発依存率が35%となりました。日本で使われたロジックはチェルノブイリ型とは 別の方式という理由ですがこれも短絡的理由です。結果として休日の最低需要の場合に原発出力が需要を上回る事態になりました。電力会社は原発を一定に稼動 させるために揚水発電を増設しました。このコンビネーションで出力一定運転を確保しております。

世界の工場たる地位も中国に譲り、製造拠点の海外展開と、省エネ努力もあって電力需要増もなくなり、負荷調整のできない原発建設の理由がみつかりませんで した。このため、原発の稼働率が技術的な問題や地震により60%代に低下しても電力不足にはなっておりません。にもかかわらずなぜか日本では2005年閣 議決定の原子力大綱で電力の30-40%以上を原発でまかなうとしております。

さてウラン235の資源量はR/P=85年程度(最近100になった)しかありません、ウラン中に99.3%含有されていますが、核分裂しないウ ラン238をプルトニウム239に変換して約60倍にしようというのが高速増殖炉です。1995年に高速増殖炉もんじゅの事故があり、1998年フラ ンスの高速増殖炉スーパーフェニックス計画が中止され、全ての先進民主主義国が増殖計画を放棄したというのに、日本では高速増殖炉と燃料再処理の開発計画 は継続されております。米国では燃料の再処理はせず、ワンスルーで廃棄処分にする方針です。そして最終処分場が見つからないという理由で軽水炉で生成する プルトニウムやマイナー・アクチニドを高速炉で焼却して減量することを模索しています。高速中性子照射で雑多な放射性廃棄物をプルトニウムに変換できるこ とに着目し、再生処理工程を簡略化できるという理由で増殖目的ではありません同じ高速炉でも日本とは全く逆で増殖を目的とせず、焼却を目的としているとこ ろが正反対です。

2008年発表の「長期エネルギー需給見通し」で原発と火力新設に4.7兆円使うとしております。2008年のサミット前にまとめた自民党の案では 2020年までに9基の原発を運転開始するとしています。 2010年に民主党政権になってもまだ14基建設するとの方針は変えていません。

東大の原子力工学科では水蒸気圧を臨界圧以上に上げて熱効率を向上させる軽水炉の研究をしております。これはグローバルビューに欠けた単視眼的な発想とし か思えません。

他の国はどうでしょうか?

ブッシュ政権は原発建設に補助金を出すとして数件のプロジェクトが進行中です。オバマ政権は原発建設への債務保証は維持 しましたが、コンステレーション・エナジー社はカルバート・クリフス原発の新設を建設費高を理由に断念しております。中国、インドは気候変動防止の観点か ら原発の比率を高めようとしております。

一方、ドイツ、スエーデン、ベルギー、イタリア、スペイン、オーストリア、ポーランド、スロバキア、ブルガリアは原発を減らして自然エネルギー拡大の方針 を打ち出しました。ドイツではチェルノブイリ原発事故で汚染の洗礼を受けてから放射能汚染リスクを考え、また原発は高コストという評価もあり、10年以上 に及ぶ議論の末、原子力エネルギー利用を廃止することを決めた改正原子力法を2002年4月に施行しました。この法律により新規の原子力発電所建設・操業 の許可が禁止され、既存の原子炉についてはドイツ全国の総発電規制値を達成した後(許可後最長32年)に操業許可が消滅することが定められました。ドイツ 政府は気候変動防止は自然エネルギーで達成可能としてそのシェアをすでに10%以上に高め、今後も更に増やす計画です。

ケルン在住の望月浩二氏によれば、ドイツでは 発電、送電、配電の会計分離を義務付け、8大電力の配電シェアが40%のところに完全小売競争を導入して消費者は好みの電源を自由に選ぶことができます。 多少の価格差であれば再生可能エネルギーを選ぶ消費者が多いとのことです。にもかかわらずGDPの成長率は日本より好調です。

ただヨーロッパ諸国の脱原発方針も二酸化炭素削減可能な代替エネルギーが確保されないとして再度見直されそうです。2009年9月にはメルケル首相が総選 挙に勝利し、既存原発10基の原発の稼動期間延長をすることにしました。ただ「核廃棄物の最終処分場がないのに原発の操業期間を延長することは、国民のた めにリスクを予防し、国民をリスクから保護することを国の役割と定めるドイツ憲法に違反する」として裁判所で審理 中です。

スエーデンは1980年に国民投票で現有の10基の原発の寿命がきたら更新せず2010年までに全廃する方針を決め、2基はすでに停止しております。しか し2009年2月にスエーデン政府は脱原発方針を見直しました。

フランスから電力を購入していたイタリアは脱原発政策を転換し、原発4基の建設を決めました。スエーデンも脱原発政策を転換しております。

英国は原子力政策を維持しており、2015年中国がフランスから技術供与を受けた原子炉を中国国有大手の中国広核集団 (CGN)などが中心となって開発した原子炉を英南東部エセックス州にある「ブラッドウェル原発」で採用することにした。建設はフランス電力公社 (EDF)と共同で手がける。原発のプロジェクト会社にはCGNが66.5%を出資し、建設後の運営も含めて中国勢が完全に事業を主導することになる。英 南西部のヒンクリー・ポイント原発などにも中国国有大手が出資することで合意した。中国側の総投資額は数兆円規模に及ぶとみられる。

世界で各国の電力に占める現時点の原子力の割合と今後の計画は表-2.3にまとめました。 1011年1月現在運転中の軽水炉は436基(392GW)、建設・計画中の原発は166基(175.5GW)前後、 建設中75基(中国30、ロシア11、インド8)、計画中は91基(中国23、ロシア13、日本11)です。経済協力開発機構(OECD)原子力機関は 2050年にピークの1,500基と3.4倍になると予想しています。 本当でしょうか?福島後どのようになるか興味深いですね。

現時点の電力に占める原子力の 割合(% 運転中 建設中 計画 将来構想
米国 22 104 0 12 8
フランス 80 59 1 1 -
日本 35 53 3 10 -
ロシア 16 27 0 19 6
韓国 35 18 7 3 -
イギリス 23 31 0 0 -
カナダ 19 18 0 0 -
ドイツ 28 19 0 0  
インド 3 7 3 13 -
ウクライナ 45 15 4 0 計画中
中国 2 9 8 25 42
スエーデン 46 11 0 0 -
イタリア 0 0 0 4 0
スペイン 26 9 0 0 -
ベルギー 58 7 0 0 -
台湾 20 5 3 0 -
スイス 40 5 0 3 -
フィンランド 30 4 1 3 -
ブラジル 0 0 0 0 計画中
南アフリカ 0 0 0 0 計画中
合計 16 436 30 125 119

表-2.3 電力に占める現時点の原発の割合と今後の計画 2008

このように市民レベルの経験の差、電力市場の自由化の度合いにより温度差があり、世界ではコンセンサスはなく、迷いが見えます。

ジェームズ・ラブロック氏は「ガイアの復讐」でグローバル・ヒーティングよりウランを使う原子力利用のほうがまだましとして日本の原子力関係者を喜ば せていますが、日本のような人口稠密地域で巨大放射能汚染が発生すれば、その被害はスターンズ報告にある気候変動の被害を越えるでしょう。ジェームズ・ラ ブロック予言が破綻する場合もあるのではないでしょうか?これにつきましては詳しく考察したいと思います。

 

放射線について

放射線にはアルファ、ベータ、ガンマ線、中性子線の総称である。 アルファ線はヘリウムの原子核、ベーター線は電子線、ガンマ線は電磁波、中性子線は中性子という素粒子です。

化学結合のエネルギーは10eV以下ですが、例えばセシウム137の出すガンマ線は662keVです。化学結合の66,200倍のエネルギーで分子を壊 し、2次電子を放出して玉突きにする。

原子力はこういうものを発して生命を脅かす。

 

ウラン資源量

ウラン資源は日本内にはなく、全量外国に全て依存しております。ウランの確認埋蔵量は有限でNEA/&IAEAによれば459万トン(可 採年数は85年)です。このうちすでに200万トンは採掘済みで人類の未来を託すに充分な量ではありません。毎年1%の原発電力の成長率を達成するための ウラン資源量は無いとされています。

2007年には546万9000トンに増えました。国別ではオーストラリア23%、カザフスタン15%、ロシア10%、南アフリカ8%、カナダ8%、アメ リカ6%、ブラジル5%、ナミビア5%、ニジェール5%、ウズベキスタン2%、その他13%です。最大のウラン資源国のオーストラリアは国内に原発を持た ないため全量輸出ですが、環境破壊防止と核拡散防止のため生産制限していました。しかし温暖化防止の要請 から2007年に解禁しました。それでもオーストラリアはインドが核不拡散条約(NPT)に加盟していないことを理由に未だにウランのインドへの輸出 禁止をしております。

インドは1974年の原爆開発以降ウランの入手難に陥り、既存原発17基の稼働率55%でした。2008年の米印原子力協定締結でようやく購入は可能 となりましたが。インド政界のトップがウラン外交を展開してなんとかウランの手当てをして原発比率を3%から30%まで増やそうとしております。 中国も同じようなものです。いままで核兵器を減らす過程で不要となったウラン235などがだぶついて買い手市場だったのですが、彼らが大量買付けに成 功すればウランは売り手市場となり、価格高騰は目前です。そうすれば、原発は安価という日本の神話にも終わりがくるのではないでしょうか?

2007年にJAEAの経営企画部戦略調査室小林孝男氏はウランの需給バランスについて

中国、ロシア、インドを初め原子力発電所新設計画が活発化していることに加え、商業用余剰在庫が先細り、2013年 には米ロHEU契約が終了する見通しから、原子力発電事業者による調達活動が活発化している。投機筋の参入もウランスポット価格の高騰に拍車をかけている と思われる。2010年ころまでには民間在庫の取り崩しが必要なことから、ウラン市場は売り手市場の高値水準が続く。しかし、カザフスタンやオーストラリ アを初めとする世界のウラン生産事業者は、鉱山の新規開発・拡張計画を活発に進めており、ウラン市場は数年後にはひとまず安定すると予想される。しかし本 当に心配なのは、20年以上先の2030年 以降のウラン需給である。ウラン探鉱活動も活発になっているが、ウラン鉱床の発見は、対象深度の深部化や技術的な問題からより困難になりつつあり、追加資 源の発見がタイムリーに行われない可能性がある。2007年4月末、官民合同のハイレベルミッションがカザフスタンを訪問し、原子力協力と合わせてウラン 鉱山共同開発、ウラン長期購入に係わる多数の契約に調印し、わが国のウラン資源確保は大きく前進。長期的には、さらなる開発輸入拡大が望まれる。国産のウ ラン資源ともいえる核燃料サイクル技術の早期確立も望まれる。

と語っています。最後の核燃料サイクル技術の早期確はほぼ絶望でしょう。日本は新規資源開発としてカザフスタンに入れ込んでいますが、深度1,000mに 酸を注入して採取する方式だそうですから環境汚染とコスト上昇が予想されます。またカザフスタンはソ連と中国にはさまれていて、地政学的に安定感がないの も 気がかりです。2009年5月、カザフスタンの日本との窓口となったトップマネジメントが逮捕されるなど、資源確保も安泰ではありません。2010年後半 からウラン需給は逼迫すると予想し、日本の三井物産などの商社と電力会社はこの国のウラン開発に参画しようとやっきになっております。またオース トラリアやモンゴルで権益を手に入れようと懸命になっています。2011年に入ってロシアの国営原子力企業ロスアトム社ががその傘下のARMZ社を通じて オーストラリア、タンザニア、アフリカにウラ二ウム鉱山を持つマントラ・リソーシーズを買収すると発表しました。ロスアトムはすでにカナダ、南アフリカ、 カザフスタン、ナンビア、モンゴルを手にして世界第二のウラン生産企業になりました。世界中が原発開発に走ればウラン価格は炭化水素燃料のように高騰 するのを見越した動きです。

ウラン鉱山の採掘法は坑道で掘る方式はラドン濃度を測定し、換気を十分に行うことが義務付けられています。しかし最近で は最大の生産国カザフスタンのように、In-Situ Leaching(ISL法)という技術で採掘されるものが多くなってきました。地上からボーリング孔を掘り、ポンプによって水(希硫酸や酸素を加えるこ とがある)を地下に循環させて、ウランを溶かし回収する方法ですが、エネルギー消費量は断然少ない方法と言えます。ただ昔からインシチュ・リーチング法を 採用した鉱山ではカドミウムが灌漑用水に流れ込んで発生したイタイイタイ病を始め、中国の希土類採取におけるトリウム汚染など多くの環境汚染を生んでまい りました。カザフスタンでは地中1,000mで行っていますので問題視されていませんが、これが地中の水脈を伝ってどこかの谷間の集落に湧き出るというリ スクはどうアセスされているのでしょうか?

ウランは海水中に3ppb含まれ、総量は45-60億トンあるとされます。黒潮が日本近海に運ぶ量は年間520万トン、この0.2%回収できれば 8,500トンとなり、日本の原発の必要量をまかなえます。ポリエチレンの布に放射線を照射してアミドキシム基にすると三炭酸ウラニルとして付着するよう になります。これを精製しますとイエローケーキ(重ウラン酸アンモニウム)が得られます。この捕集材を8回繰り返し使うとすればキロ当たり32,000円 となります。副産するバナジウムを控除しますと16,000円(72$/lbU)となります。鉱山から得られるイエローケーキは18$/lbU3O8 でしたが、2010年には60$/lbU3O8ですからからまだまだ経済的に回収するのは容易 ではありません。

トリウムはウランの4倍の資源量があるとされていますがこれはまだスタートしていない産業ですので別途トリウムサイクルのところで論じます。

 

ウラン濃縮

ウラン238の原子核は92個の陽子と146個の中性子から構成されていて時々アルファー線を出して崩壊します。2回アルファ崩壊するとラジウムにな ります。電子を1個放出するベータ崩壊では中性子1個が陽子にかわり、最終的に鉛になります。この崩壊はたまにしか起こらず、ウラン238はかなり安 定した金属です。

しかし中性子の数が3個少ない同位元素(アイソトープ)は中性子の照射を浴びると核分裂して中性子を放出し、連鎖反応が継続する臨界状態となり、原子番号 の小さな雑多な放射性廃棄物に変わります。中性子は水で減速され熱になります。この発生熱で水を気化し、水蒸気でタービンを回して発電するわけです。通常 の水を減速材兼冷却材につかいますので軽水炉といいます。同時にウラン238は中性子を照射されるとプルトニウムに変わります。

現在の軽水炉型の原発には核燃料処理系の問題がついてまわります。核分裂するのは0.72%含まれるウラン235だけですのでそれ自体では臨界に達し ない上限の4%程度までウランを濃縮(フロントエンド処理)しなければなりません。

ウラン235の濃縮は昔は拡散法でしたが現在ではより省エネ方の遠心分離法が使われます。米国やフランスでは古い拡散法もまだ使われています。

米国で遠心分離濃縮工場がなかったのは政府が独自開発した大型遠心機の商業化が進まなかったためです。USECが休止中 のポーツマス濃縮工場敷地に建設を計画してきたACP(Advanced CentrifugePlant)もまだ完成の目途が立っていません。その間2009年には英独蘭の3国共同体であるURENCOがニューメキシコ州に遠 心濃縮工場を建てまし た。AREVAもアイダホ州で新規建設を予定しています。

PWR系は長期契約でウラン鉱床 (南アフリカやカナダ)から買い付けており、鉱石から濃縮まで商社が仕切って一括契約です。濃縮はフランスのアレバ社(EURODIF、ロアール川沿いのトリカスタン)と米国の拡散濃縮施設で濃縮しています。フランスでは2011年より順次遠心法に移行中です。

米国は自国に遠心分離濃縮工場を持テイルの再濃縮歴史的にやってきていません(ガス拡散では非経済 的)。したがって1945年から濃縮工場サイトでUF6の形でシリンダーに入れて保管を続けて来ている訳ですが、近年では2か所に酸化物(UO3または U3O8)への転換施設を作り、固体の酸化物にしてドラム缶などに入れて民間運営の低レベル廃棄物処分場(全米で3か所程度あると記憶)でピットなどでの 浅地処分を進めているという。

BWR では違ったフロントエンドで冷戦中はGEはソ連で濃縮してもらったという話があります。冷戦後、ロシアのウランが、核兵器解体プロジェクトでアメリカにわ たり、GE製燃料の輸入というかたちで、燃料集合体として日本にはいってきました。

遠心式は高強度アルミニウム製の遠心分離機をつかうのが一般的です が、ウラン資源がない日本で も原燃が一部濃縮を行っています。しかし、六フッ化ウランは晶華現象で56.5°Cで固化しますこれを知らず充分余熱せず運転開始したため、シリンダーの ダイナミックバランス を失い、全数解列し、シリンダーの全数交換をしているほどおそまつ。この技術は動燃が成功裏に開発したが原燃は設計・施工分野について技術提携しましたが 運転管理にかんしては提携外としたためということです。

濃縮工場では環境を汚染するリスクがあります。現にフランスのアレバ社が天然ウランを含む廃液を地表や河川に流してし まっ たという事故が2008年7月に発生し、過去30年間に770トンの放射性廃棄物が流出していたという研究報告もあり、フランス国内で施設に対する信頼が 揺らいでいます。

 

燃料棒製造

濃縮ウランを酸化物粉末にし、これを電気炉で焼き固めてペレットにし。これをジルコニウム被覆管に充填して封印する作業が燃料棒製造工程です。米国 GE、東芝、日立製作所出資の原子力発電用燃料製造会社として、1963年に久里浜で操業を開始しております。2000年に至り、米国GEグループ企業の 株式会社グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン(GNF-J)に吸収されて、燃料のみならず炉心管理技術他関連サービス、またMOX燃料の設計・ 品質管理も行っています。設立当初は周辺は田園地帯でしたが、今では市街地に取り囲まれて立地が適切か疑問があります。

電気炉の操作手順を遵守しなかったと2011年原子力安全・保安院に注意されております。

 

再処理

<ウラン・サイクルの核燃料再処理>

日本では2008年までは英仏の核燃料会社への委託再処理契約をしておりました。フランスへの再処理費用は約2億円/ト ンとのことです。1980年代に 国内で再処理するために日米原子力協定に基づき、原燃が青森県六ヶ所村に年間最大800トンの使用済み燃料 から年間4トンのプルトニウムを取り出す再処理工場建設が計画されました。原発から出る使用済み燃料棒は年に1000トン。回収率は17%とされた。これ が2006年に完成し、試運転開始したところ不具合が生じ、2008年に中断。 しかし2010年でもいまだト ラブルが続発し、2012年完成ということになっていますが、2012年1月24日の模擬試験は不首尾でした。

現在各国で採用されている軽水炉の核燃料の再処理方法はピューレックス(Plutonium Uraniumu Reduction Extraction; Purex)法と呼ばれるものです。エンジニアリング会社の千代田化工が英国セラフィールドのプロセスをかつぎ、JGCがフランスのラ・アーグに使われて いるプロセスを推奨したところ、フランスのラ・アーグに使われていたプロセスが選ばれました。しかし電力業界はJGCは信頼できないと退け、使い慣れた MHIに全体の設計と見積もりをするように指名しました。化学プラントに習熟していないMHIは非常におどろき、設計と見積もりに80億円を要求したた め、これも退けられ、単なる連絡係りとなりました。そして設計も工事も伝統的な重電各社縦割りで分担しました。受け入れ貯蔵とせん断熔解工程はMHI、分 離精製部門は硝酸を使うことからJGCと住友化学、ガラス固化はIHI、制御は東芝という分担ということのようです。電力業界がLNGを購入しているメ ジャーオイルは千代田化工やJGCに発注してすべて成功しているわけですから重電に任せたのは単なる因習。

せん断工程では燃料棒をせん断機で切断し、回転ホイールの溶解槽で濃硝酸に溶かします。溶解槽の素材はジルコニウムです。この水溶液水相にドデカンにリン 酸トリブチル(TBP)30%を溶かした有機溶媒(油相)を環状形パルスカラムで向流接触させますと、硝酸とイオン対を生成したウラン及びプルトニウ ムがTBPに抽出され、油相に移動します。次に油相を還元剤(硫酸ヒドロキシルアミン等)を含む別の水相と接触させますと、プルトニウムだけが水相に移動 するという原理を使います。核拡散防止条約にミートするように、回収したプルトニウムにウランをまぜて水溶液を作り、これをマイクロ波で脱硝酸して酸 化物MOXとして保管しています。 ここは日本独自の技術です。軽水炉の使用済み核燃料再処理のウラン、プルトニウムの回収率は99.5%とされております。この過程で発生する廃ガスか らはヨウ素を活性炭で吸着し、ドラム缶に詰めます。

ガラス固化体には20pBqの放射性物質が含まれています。表面で1,500Sv/h、一分以内に致死量となります。 したがって遠隔操作しかできない代物です。ちなみに福島第一から放出されたセシウムの総量を気象庁気象研究所は30,000-40,000tBq(30- 40pBq)としています。したがってガラス固化体1.5-2個分がばらまかれたことになります。

ガラス固化工程はフランスでは200日で使い捨てするインコネル製の熔融坩堝を電磁過熱しています。しかしフランス式の 炉を嫌って、5年使えるはずの日本原子力研究開発機 構(原研)独自開発のガラス固化溶融炉 (IHI製)を採用しました。しかし使用済み燃料を裁断した後に「さや管」などの不溶解残渣を取り除く装置からでる白金族などを多く含んだ不溶解残渣廃液 を混ぜた本試験を行ったところ、廃液中の 「さや管」のジルコニウムや核生成物のルテニウムなどの白金族が異なる電気伝導性を持つため、ジュール熱加熱方式では温度分布が生じて、白金族が 上層に仮焼層といわれる不熔解物質が浮かび、温度を上げると溶解槽の底に沈み固化して閉塞してしまいました。かき混ぜ棒を入れてかき混ぜたましたが、これ が曲がり、無理して引き抜いたところ周りのレンガを損傷しました。また急激な温度低下のため、天井のレンガの脱落などの問題が判明しました。修理は作業者 の放射線被爆を避けるため、遠隔操作を強いられ、2010年10月までかかると発表しました。2010年10月になると完成は2年延期と言い出しました。 2012年1月に2機あるうちまだ火を入れていない方で放射性物質を含まない模擬廃液とガラスで試験しましたが、出口が詰まる問題は解決できていなく、か きまぜ棒も役に立たないと判明しまし た。レンガが落ちて出口をふさいだと推定されています。

フランスやイギリスでうまく行っているのになぜ日本でうまくゆかないのでしょうか。フランスでは高周波加熱を使ってステ ンレス製の坩堝を加熱している のに対し、 日本は直接通電ジュール加熱を使っていることです。白金族が異なる電気伝導性をもつため、熔解しない部分がでてしまうのです。普通ならジュール熱加熱を高 周波加熱に切り替えます。またレンガが落ちるのは東海村の試験炉とおなじことで構造上の欠陥があることになります。耐熱煉瓦で炉の天井を構 築する場合、アーチにしてレンガには圧縮応力だけが作用するようにしなければ天井のレンガは落ちるのは当然です。公表された図はフラットな天井となってい ますj。これはつり天井を意味します。すなわちレンガに引っ張り応力がはたらきちぎれたのです。いずれ にせよ根本的な問 題で、構造をかえな ければうごかないでしょう。

電力会社にとって再処理プラントを建設したのは動かすのが目的ではないと言われています。使用済み燃料保管場所確保が切 実だったから再処理プラントという錦の御旗をたててそこに運び込むのが目的だったといいます。カネがかかるものは動かないほうが電力会社にとっては好都 合。試運転と称してまだまだ時間稼ぎするでしょう。やめたと いえ ば青森県としては使用済み燃料の保管場所ではないから全部持って帰れと言わざるをえず、それもできないのです。実質は青森県がゴミ捨て場となっていること を覆い隠す壮大な欺瞞劇場となってしまいました。フランスと英国に委託したガラス固化体は2011年末1,533本がここに運びこまれました。(東海村に 247 本)2011年で仮にすべての使用 済み燃料を処理するとすると24,700本になります。2021年頃には、ガラス固化体に換算して約4万本に達すると見込まれており、これらの処分費用は 約3兆円と試算されています。

英国に委託した再処理の結果できたガラス固化体2014 年に返還されましたが、その輸入価格は値上がりし、1本当たり1.28億円。4万本で4兆円になる計算です。



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日本原燃の公表資料によればガラス固化体の受け入れ建屋はEA、保管庫はEB(1,440本)増設保管庫はEB2 (1,440本)と呼ばれます。上の再処理施設の航空写真ではEAとEBは東西に隣接しております。EBには冷却施設出口シャフトがある のでそれとわかります。EB2はEBの北に隣接して建るため、地下を堀り下げているのがわかります。輸送容器はEAの左側から入り、地下回廊にあ る台車に載せられてEBに入り、ここで容器の蓋があけられます。床面走行クレーンでガラス固化体が取り出され、つぎに床面走行クレーンが東西方向に動き、 トロ リーが南北方向にうごいて所定の160本ある縦型通風菅内に縦に9段に積み上げるという仕掛けです。菅の外側を冷却空気が流れます。地下のため、テロリス トが入り込んで破壊するのは簡単ではありません。通風側に隙間はありま すが、ここに入り込 めば命は1分と持ちません。ただ航空機が墜落すればヤバイですね。

再処理プラントの改修費に加え、MOX燃料工場の建設費増も含め4,000億円必要となるため 、電力会社に増資を求めるということです。これは電力料金に跳ね返ります。1989年の計画では完成は1997年ということでしたから18回の延期で15 年の遅れになります。当初建設予算は7,800億円でしたが2兆1,930億円と2.8倍に膨らみました。

問題はこれだけではありません。中断までに製造されたガラス固化体は60本ですが、60本中の29本以外は地層処分に問題のある「粗悪品」でした。ガラス の温度が不安定であったため、必要とされる1100度以下の温度で作られた固化体が多数あります。これらの欠陥ガラス固化体が地層処分に耐えられる保障は ありません。また高レベル廃液がガラスで完全に固化されず、水溶性の化合物が固化体底部(?)に溜まっているのです。水溶性の化合物は、キャニスターが腐 食して地下水と接触した瞬間から溶け出し、放射性物質が流れ出します。

原燃が担当するウラン・プルトニウム混合酸化物燃料製造工場の稼動も当初より3年遅れの2015年6月に延期されています。これらの機構のトップは一 応技術系とはいえ、長年行政官をしていた人間が天下っている組織です。事大主義で技術開発の必然であるトライアル・アンド・エラーによる問題処理が不得意 です。自らの責任を回避することしか考えない人間がトップにいるかぎり、上手く行かないのではという疑いがあります。

原子炉は単純な構造で核燃料は固体酸化物とし、ジルコニウム・チューブのガス溜まりに封印されておりますので、まれにピンホールからキセノンガスやヨード など、放射性ガスが漏れる他は重大事故がないかぎり、冷却水が汚染されることはありません。かつ放射能は5重の封じ込めがなされています。しかし再処理装 置ではウランやプルトニウムは酸に溶解されて液体状態でジルコニウム容器と配管の中を流れています。普通の化学プラントと同じ構造です。このプラント の保守は作業者の放射線被爆防止のために遠隔操作を採用せざるを得ず、煩雑になっております。そして化学プラントは複雑で、腐食性ですのでよく漏洩事故が 発生します。このプラントはどの部分でも臨界にならないようにホールドアップを制限しております。漏れ出た溶液が床の凹部に溜まり臨界に達することがない ように十分配慮してあリます。

水溶液は循環しますが、次第に汚れてまいります。このプロセス水は煮詰めて、プルトニウムやウランなどは濃縮液として分離し、ガラス固化装置に送りま す。蒸発した水はまだトリチウムを含みますので冷却して沖合い5km程度の海底に放流されます。再処理プラントはジルコニウムチューブをナタで切断するわ けですからパンドラの 箱をぶちまけたようにあらゆるものがでてまいります。トリチウムは三重水になってしまうので蒸留しても分離できず、ヨウ素123もガスですから蒸留で分離 できません。ヨードの半減期13時間ですからいいかもしれませんが、トリチウムの半減期は13年ですから始末が悪い。三重水を体内にとりこんだ魚を食べれ ば我々の体内の長くとどまり致命的なダメージをこうむります。ただその間に希釈されてしまうというわけですが、六ヶ所村の再処理工場の放流口における廃液 放出量は360m3/d、

平均濃度は原発の
プルトニウム(α線)───約23倍
プルトニウム241────約12倍
トリチウム─────  約2280倍
ヨウ素────────約33倍

となっております。この他にも炭素14、クリプトン85、ヨウ素131、半減期1,600万年のヨウ素129などがでてくるという。

仮に操業できたとしても六ヶ所村の処理能力は日本で発生する廃棄物の50%しか処理できないのです。結局処理されずに、原発内の貯蔵プールに中間貯蔵とい う名目で半永久的保存されることになるでしょう。現在の貯蔵プールの日本の総容量は2万2,420トンですが、すでに15,110トンが溜まっているので す。特にアメリシウム、キュリウム、セシウムを含む高レベル放射性廃液は原子力研究開発機構に406トン保管されていてその放射性物質の総量は10- 100京ベクレル。ガラス固化技術は未熟で稼働していません。にもかかわらず毎年900-1,000トンの使用済み燃料が出てまいります。東電はむつ市に 3,000トンの使用済み燃料を金属製のキャスクに小分けして保管 する施設の計画をしております。これも耐震安全性を検討中で認可が遅れています。

電力は実は再処理には期待していないのですが、ゴミの捨て場がないので再処理プラントと偽って青森県をなだめ、六ヶ所村をゴミ捨て場にするのが本音であっ たといわれています。再処理プラントでは地元の人の職場など無いに等しいのです。結局ババを引いたのは青森県ですね。それは六ヶ所村の中間貯蔵が満杯なこ とで分かります。新幹線がようやく乗り入れ中央とつながりましたが、この中間貯蔵は本当は永久貯蔵だと青森県民が気がつけば、抵抗するのではないでしょう か?フランスや英国に再処理を再度頼むこともできず、電力会社はどうするのでしょうか。まさか東通原発の中間貯蔵に移送するのが目的だったという真意を告 白するのでしょうか?再処理と最終処分は沖縄の米軍基地と同じく、時の政権にとって虎の尾を踏むような、地雷原となるのではないでしょうか?だ から先送りされ、日本も米国、フランス、ドイツとおなじようにドリフトする運命だと達観しております。

電力会社 発電所 貯蔵量(トン) 残りの貯蔵量(トン) 満杯の時期
北海道電力* 340 80 2011
東北電力 女川 330 460 2017
東通 30 200 -
東京電力 福島第一 1,670 430 2012
福島第二 980 380 2013
柏崎刈羽 2,140 770 -
中部電力 浜岡 1,000 740 2015
北陸電力 志賀 110 580 2019
関西電力 美浜 310 310 -
高浜 1,110 520 -
大飯 1,260 640 -
中国電力 島根 360 240 2020
四国電力 伊方 520 410 -
九州電力 玄海 730 330 2013
川内 810 330 2020
日本原子 力発電 敦賀 560 300 2017
東海第二 350 90 2016
再処理工場 六ヶ所村 2,500 500 2010
合計   15,110 7,310 2017

表-2.4 使用済み燃料の原発内中間貯蔵量  2009/3現在   *3号機稼動で増える予定

六ヶ所村に再処理工場の脇を通るむつ市から横浜町に向かい、南北15kmの横浜断層が2008年、ボーリングにより過去11万年間に動いた可能性のある活 断層と認定されました。M6.8の自身の可能性があるということです。これは六ヶ所村に再処理工場の設計時には想定されていなかった活断層です。

青森県は建前は一時的受け入れですが、最終処分場を受け入れる地方自治体がなければ、実質的には永久的に青森県に保管しなければなりません。私は六ヶ所村 周辺をドライブしましたが、殆ど沼地のようなところで、あそこで実質永久保管はヤバイなと思ったものです。ここでテロリストが破壊活動したら周辺は汚染さ れて手もつけられなくなるという恐怖を感じました。隣に自衛隊の基地もないし、丸腰。平和ボケ・ニッポンという感じでした。

米国などでは中間貯蔵はドライキャスクで保管するのが一般ですが日本ではまだ福島第一ともう一か所東海第二発電所だけで 残りは六ヶ所村も含めプール貯 蔵だとのことです。これではテロリストアタックに脆弱です。福島第一では津波にも傷一つなく保管できています。福島第一で使用していた乾式キャスクは神戸 製鋼製で厚さ 47cmの鋼鉄とプラスチックの複合材で構成され、内部に銅製の伝熱フィンをうめこんであります。
2008年7月7日、南フランスのボレーヌ市に接するトリカスタン原発で30m3のウラン廃液が近隣の川に流出した事故があり ました。アレバ社の子会社ソカトリ社の設備の中で突然起こったようです。フランスの民間で放射能観測と情報発信を行っている機関CRIIRADの報告によ ると、ソカトリのプラントからすぐ下流のガフィエール川で9日に採取したサンプルからウラン236が検出されたそうです。これは原子炉の中で生成され る物質ですから、事故を起こしたのは、新燃料を扱う濃縮工場ではなく、使用済み燃料を扱う再処理施設であろうと思われます。(ウランのアイソトープの 天然比率は、太陽系のなかではどこでも同一です)こういう原発推進派にとっての『不都合な真実』は東京新聞を除き、朝日、日経、NHKなど日本のメジャー なメディアは無視することが多いため日本では知られていません。

フランスでは、国内の原子力発電所から排出された廃棄物だけではなく、日本や他のヨーロッパ諸国の使用済み燃料、軍事用のものまでが、英仏 海峡に面したラ・アーグに集められます。そこでアレヴァ社が、核廃棄物の処分を一手に引き受けています。使用済み核燃料は再処理工程を経た後、1%がプル ト ニウムとして回収され MOXとして使い切るとのこと。只しだいに超ウラン物質が生成し、処分にこまることになります。

95%がウランとして回収され、ウラン235回収のため、フランスから8千キロ離れたシベリアの 奥深くにあるトムスク(Tomsk)の北西15kmのTom河北岸沿いにある地図に載っていない秘密都市セヴェルスク(Seversk ロシア名Cebepck)に輸送されます。

GoogleマップでまずTomskを探し、ついでセヴェルスクを上空からのぞくと、石炭火力やリファイナリー がある工業地帯の真ん中にTomsk-7というプルトニウム製造用の8.5%濃縮ウランを使う軽水冷却、黒鉛減速炉が見えます。チェルノブイリと大差ない 炉です。発電もしていましたがすでに米国との合意で運転を停止していますから自然対流式冷水塔から湯気がでていません。そして周辺には高いベントスタック から再処理施設と推定される工場が森のなかに点在していまして、これはセットで運転されていたのでしょう。再処理施設の一画に100x600m長方形の空 地に直径1.5mx長さ5mの数千本の円筒形容器が縦置き、または横置きで 多数集積されているところがみえます。


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4%の核分裂生成物はガラス固化体として永久保管。現状は六ヶ所村とおなじ地上保管ですが、半減期1,000年のガラス固化体をいつまでも地上の建物に保 管できるはずもありません。放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が実施主体となって処分深度500mの粘土層に2025年までに収納する計画です。

英国セラフィールドの再処理工場(Thorp)は漏洩事故で操業中止となりました。

海外に委託して再処理したプルトニウム239の濃度が低い原子炉級プルトニウムは2014年末37トンで国内分含め47.8トンで2,000年の37.2 トンより増えています。バックエンド処理ができないため、現在廃燃料中に溜まっ ている原子炉級プルトニウムは144トンあります。IAEAの目安では軽水炉級プルトニウム8kgで粗製原爆が可能とすれば、既処理分で6,000発、未 処理分が18,000発分となります。

日本の再処理は「ウランとプルトニウムの共抽出(混合抽出)」ですから兵器はつくれないということになっています。しかし軽水炉級プルトニウムの 50%/50%混合物の臨界量は兵器級プルトニウムの5.6倍にすぎないといわれます。ならば共抽出物17kgで粗製原爆が可能となります。共抽出といっ ても工程上はそのようなことはできませんから一旦プルトニウム溶液を作ってこれにウランを溶かし込んで、酸化させるというプロセスをとります。にもかかわ らず日本が原子力級プルトニウムの再処理プラントをつくることは日米協定で特別に 許されているわけです。ちなみに韓国は湿式再処理プラントの建設の了解は得られていません。

核拡散防止のため、核兵器を持たない国で原子力の平和的利用をしようという国は米国と二国間原子力協定締結をすることになっています。日本はこの協定に準 拠し、使用済み核燃料の再処理は行うことができることになっていますが、その期限がくるのは2018年でその後の保証はありません。台湾と韓国は再処理は 許されておりませんでした。しかし2010年に韓国は核兵器を作りにくい「乾式再処理」に限定して再処理の共同研究をする方向で米韓原子力協定を交渉中で す。

ドイツは米国と協定し一旦再処理をすることにしていたのですが、1998年の政権交代で脱原発が決まる前でも電力自由化により、規模が大きすぎることとコ スト高を理由に産業界は原発の新規建設に興味を持っていませんでした。ドイツは1980年代に再処理工場をチェコ国境に近いバッカースドルフに建設する計 画をたてました。周りには湖などがありまして、魚釣りなんかも楽しめる非常に美しいところです。1986年に建設が開始されましたが1989年に建設計画 が中止になりました。そもそも使用済み核燃料中のプルトニウムは質量の1%位です。リサイクル率1%というのは古紙1%の再生紙ではほとんど意味のないリ サイクルとなってしまうように、意味のあるリサイクルとは言えません。リサイクルの目的のひとつはゴミの減量ですが、プルトニウムを取り出す作業を加える ことによって使用済み核燃料のまま処分するときより、廃棄物が10倍から20倍に増えるからです。

バッカースドルフはもともとは森でしたが、計画中止になった時はすでに相当切り出されて更地にされ、いろいろな施設も建てられていました。特に、使用済み 核燃料を貯蔵しておく中間貯蔵施設は完全に建てられていました。当時の原子力法によると、まず使用済み核燃料に関しては、再処理してみて、それが経済的に 合わないということがわかったときに初めて直接処分を考えるようにという規定になっていました。原子力法により再処理しなければならなかったのです。 1989年に計画を中止するというのは、政府が考えたのではありませんでした。1994年になって原子力法が変わって、必ず再処理しなければならないとい う部分が改訂されたのです。このバッカースドルフという地域は非常に貧しい地域で、今でもそれほど豊かな地域ではありません。チェコ共和国との国境に近い ところで、当時は大変、経済的に問題を抱えていた地域でありました。そこが再処理施設に非常に適した場所だといわれる理由でした。政府は、再処理施設に よって雇用が生まれると地域の住民に約束したのです。それではこの建設計画が中止になって、バッカースドルフ地方の経済がどのようになったでしょうか?工 場用に敷地が整備されています。まず最初に、BMWが、この敷地内で自動車部品の製造を決定いたしました。次にBMWに部品を供給しているような業者も参 入するようになりました。この二つだけで2003年現在では、2006人分の雇用が創出されています。これは、再処理施設からの雇用よりも多い件数です。 これ以外にも、1992年以降、掘削機を作っているメーカーが、ここに進出をしてきて、300人の雇用を提供しています。

<東海再処理施設>

原発の使用済燃料を再処してプルトニウムを回収する実験プラント。1,900億円かけて1,500Sn/h1981年に 運転開始、原発10基分1,140トンの処理をしてアスファルト固化施設の爆発で2014年廃止されたものです。切断されたジルコニウム被覆管が水深7m のプールに投入されたままになっている。その水面での放射線量は3mSv/hです。核分裂物質の廃液は400m3あり、ステンレス タンク6基に保管されています。1,500Sv/hという人は20秒で死ぬ線量を持っている。常時冷却し、水素を換気するひつようがあります。ガラス固化 装置は故障したままである。

<プルトニウム・サイクル>

通常のウラン・サイクルの再処理でも六ヶ所村のプラントで明らかになったことは白金属などの廃棄物が増え、ガラス固化炉が動かないことです。この解決 法はまだ先が見えていません。 加えるにプルサーマルはウラン・プルトニウム混合燃料ですから更にプルトニウムが増殖してしまいます。マイナー・アクチノドもより多く生成します。こ うして再処理を繰り返すうちに高レベル廃棄物が多量に発生して手がつけられなくなる恐れがあります。高速増殖炉でマイナー・アクチノドを燃すことも研究さ れていますが肝心のもんじゅが14年経ても動きません。元東電副社長の豊田正敏氏はトリウムにプルトニウム混合して酸化物燃料としてワンスルーで使えば、 プルトニウム増殖を止めることができると2010年11月に提案しております。ただそうしても最終処分場を国が決められない以上、この案もむな しいものとなるでしょう。

ベルギー、スイス、ドイツ、米国はコスト高と核拡散防止を理由に再処理はしないことにしました。

<プルトニウム・サイクルの再処理>

もんじゅなど高速増殖炉はプルトニウム239の濃度が70%以上の兵器級プルトニウムを作る能力があります。兵器級プルトニウムは3kgあれば原爆を作れ ます。(Carlo Rubbia Energy 2050, Stockholm) 混合抽出しても数kgで兵器になりそうです。ということは常陽や「もんじゅ」共抽出物からの核兵器製造可能はより容易であるということになります。

六ヶ所村の再処理工場は軽水炉の廃燃料処理目的で設計されていまして高速増殖炉のブランケット燃料の再処理には臨界安全管理形状からみて容器の規模が大き すぎて臨界事故を発生させるおそれのために使えません。また面倒な六角形のラッパ管の解体もしなければなりません。炉心燃料は高レベル廃棄物が多く、白金 族など貴金属も多量に生成し、ピューレックス法の硝酸に溶けにくく スラッジとなり、不溶解残渣廃液にプルトニウムが閉じ込められて回収率を下がる問題があります。専用のリサイクル機器試験施設(RETF Recycle Equipment Test Facility)の建屋は10年前の2000年に完成しておりますが、核拡散防止目的に沿う湿式法再処理の要素技術は現時点では要素技術開発中で、 2015年までに要素技術、2025年までに実用規模建設という計画のようです。 乾式再処理は酸化金属廃燃料をフッ素と燃焼させて6フッ化物にしてガス化し、これを深冷分離し、水素で還元して金属とし、これを酸化物にする方式です。 副産するフッ化水素は電解してリサイクルします。10年も研究されていますが成功したという報告はありません。 このようなわけで建屋工事完了後10年になりますが予算をつけられない状態です。

 

最終処分

核分裂は放射能が強い核分裂生成物ともともと地球に存在しない半減期の長い放射能物質を生み出す反応です。下図は核種間の放射線強度の相対表示です。全て の核分裂生成物(Total FP)はピンク色で表示しております。半減期の長いプルトニウム239などの全アクチニド(Total Actinides)は紺色で表示してあります。核分裂生成物の放射能が特に強い期間は1,000年です。アクチニドは原料だったウラン鉱石と同程度 になるまで数万年。半減期が100万年の物質も一部ありますので、安全性を考えれば10万年は注意が必要となります。 半減期が100万年と長いアクチニドが問題とされますが、半減期が長いということはゆっくり崩壊するということです。その分、放射線も弱い。怖いのは半減 期1,000年程度の核分裂生成物です。原子炉の使用済み燃料棒のなかには4年分の分裂生成物が蓄積していて、原爆の比ではありません。

図-2.12 軽水炉の使用済み燃料の放射能

チェルノブイリ原発1基の炉心の2%が放出されただけで半径300kmが居住不能になりました。日本の50基を4年間炉心で燃焼させるとして40年間運転 するとするとチェルノブイリの500倍の使用済み燃料が発生します。したがって日本にある使用済み燃料中の放射能はチェルノブイリ原発で放出された放射性 物質の25,000倍溜まっていることになります。

英国とフランスを除くヨーロッパ諸国と米国は安全の確保がむずかしいこととコストがかかりすぎる、かえって廃棄物が増えるという理由で原発使用済み燃料の 再処理はしないと決めました。しかし日本はプルトニウムを採算度外視で回収するため、再処理する方針です。英仏に委託した再処理後の廃棄物も全て国内で最 終処分する必要があります。この国家方針は福島原発事故をうけて見直されるかもしれません。どちらになろうと、再処理しようがしまいが、放射性廃棄物の最 終処分は必須になり、今後数万年にわたって管理下に置くという難題を抱 え込みます。いつのときか、後世によりよい方法が見つかることを考慮して、処分法を後戻りできる「可逆性」や、埋めた後にも取り出せる「回収可能性」の確 保が米国、フランス、スエーデン各国で議論させています。

米国は再処理しないワンスルー利用です。米国のエネルギー省は使用済み核燃料は再処理はせず、全ての使用済み燃料をネバダ州ユッカ・マウンテンの凝灰岩に 処分する 路線だったのですが、州政府は反対しました。オバマ政権はユッカ・マウンテンを 最終処分場とすることを中止し、当面それぞれの原発敷地内でキャスクという容器にて乾式貯蔵しながらよりよい方法がでてくるまで50-100年間の中間貯 蔵で対処しようという方向とのことです。乾式保存法に関しても人工のどのような容器も数万年の耐用年数はありません。次世代への負債として残ることになり ます。そして放射性廃棄物を減量する目的で再処理し、プルトニウムを燃すための高速炉開発をする核燃料サイクル推進路線(GNEP、Global Nuclear Energy Partnership)に転ずる案をブッシュ政権下で2006年に作成しました。パートナーシップ国(米、日、仏、露、中)が国際協力で技術開発を進め ようとしておりましたが、これもオバマ政権でどうなったかは不明です。

2014/2米エネルギー省がニューメキシコ州カールスパッド郊外にある「核兵器の研究開発によって生じる超ウラン元素 の高レベル・長半減期放射性廃棄物の、恒久的な処分のためのアメリカで最初の地層処分施設」米国核廃棄物隔離試験施設(Waste Isolation Pilot Plant、略してWIPP)は放射能を感知 したため、139名の職員を退避させたと公表。地下655mに埋設した廃棄物からもれた可能性があります。地下の空気はフィルターを通しており地上には漏 れて いないいません。チワワ砂漠にあるこの施設には通常、年間最大で6,000立法メートルの放射性廃棄物が運ばれ、作業員800人以上が働いています。同施 設は2030年まで廃棄物を受け入れる予定です。当然プルトニウム製造時にでる核分裂物質と超ウランがすてられているでしょう。カールスパッド (Carlsbad)は元々はチェコ西部の有名な温泉保養地の名前です。かってニューメキシコを横断しましたがルート66より更に南のハズレの砂漠の中で す。このように絶対にもれないというのはウソということになります。この航空写真をみると最終処分場の周りはドンキーという石油汲み上げポンプ群にに取り 巻かれてし まっています。処分場は不可さ655m、シェール層はそれより深いんだろうとおもいますが、アメリカも広いようで狭い。実際には地下の岩塩を運び出すト ラックが火災を起こしたのだが自動的に消化装置が働いたようだ。放射能の漏れはなかったという。


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台湾もワンスルー利用ですが使用済み廃棄物は一時的に蘭嶼島に保管されていますが、最終処分場は決まっておりません。そ して蘭嶼島の管理は杜撰で、津波な ど で流失すれば放射能物質は台湾には逆流しませんが黒潮にのって海を汚染し、日本に流れ着く危険性大です。もし海を汚染すれば魚は食卓に乗せられません。

世界でも最終処分場がきまったのはフィンランドとスエーデンだけです。 フィンランドとスエーデンが決まったのはボトムアップ方式だったからと考えられています。フィンランドのオルキオト島(Olkiluoto)の花崗岩の岩 盤に建設中の最 終処分場はオンカロ(隠し場所)と呼ばれていま す。地下水の流入は避けられないようで、可逆性の維持に問題がありそうです。福島はいま地上のオンカロになったと言われています。


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ドイツ中部のニーダーザクセン州の旧岩塩鉱山アッセの深さ750mの坑道にドラム缶12万6,000本の低・中レベル放 射性廃棄物を埋めたが、1988年に地下水が坑内に流れ込んでいることがわかり、掘り出すことにしたそうです。予算は5,200億円。でも 坑道崩壊もあり得て掘り出せるのかは不明だそうです。もともとはそこに最終処分場が検討されていたそうで恐ろしいことです。

ドイツ政府は使用済み燃料の中間保管の候補地を探していますが、地元住民の反対 がはげしくて難航しています。日本のように札束で村長さんの頬を引っ叩いて、目を覚まさせるというやり方はドイツでは取っていないようです。岩塩廃坑はヒ トラーが収集した美術品の保管という10年単位の保管には適したところです。しかし岩塩は比重が周辺の岩盤より軽く、万年単位では地上に出てきます。とこ ろがプルトニウムは半減期が1万年ですから適しません。ドイツは日本と同様に国土が狭くて、人口密度が高いので、いっそのこと、ロシアに保管できないかと いうことで、ロシア政府と 交渉すると云っていましたが、まだ落着していないようです。

英国もトップダウン方式で失敗しています。スエーデンの最終処分場はストックホルムの北方、車で2時間の町エストハンマ ルで稼 動中の原発が3基ある町です。原子力を恐れる住民は町を去り、残っている住民はこの原発で職を得ている人々です。だからこそボトムアップで誘致することに 決まったわけです。処分法を後戻りできる「可逆性」を持っていて地下500mの岩盤に穿った水平坑道の床に掘った竪穴に球状黒鉛鋳鉄製の円筒キャスクを保 管することになっています。

日本では高レベル放射性廃棄物処分には後戻りできない「不可逆性」を採用することを決めています。即ちガラス固化体の直埋設法(地層処分)で固まっていま す。そして原子力発電環境整備機構(NUMO)が担当することになっています。北海道幌延町にそのモデルが2010年公開されました。高さ1.3m直径 40cmのガラ ス固化体と厚さ20cmの金属容器、厚さ70cmの粘度で囲み、地下300mに200kmの坑道を建設、4万本を埋める計画とか。核分裂物質の放射能が強 い1,000年間は金属容器と粘土が持ちこたえる設計だそうです。 その後のことはケセラケセラ。この計画で処分できる量は2021年までの廃棄物でその後のことは計画すらできていません。 ただ北海道幌延町はモデルだけで肝心の場所は決まっていません。フィンランドのオンカロでは花崗岩のトンネル内に地下水の侵入があるという報道がありま す。ガラス固化体には水溶性放射性物質がガラス化されずに残っているとか。また崩壊熱で100°C以上にもなるわけで、間欠泉にならないのか?と心配にな ります。

文理全分野84万人の科学者の代表、日本学術会議は万年単位に及ぶ超長期にわたって安定した地層を確認することに対し、 現代の科学的知識と技術的能力では限界があるとしております。

トップダウンからボトムアップに方針転換した日本では受け入れを申し出た地方自治体は四国の東洋町以後ありません。(後 日取り下げ)地下 水位の高い日本で、だれが我が家の裏 庭にそのような厄介なものを抱え込むことを容認するでしょうか? 私の読みは成田紛争のように中央政府が最終処分場を押し付けることは不可能と思います。結局、新潟、福島、福井、静岡など原発付近の住民が目のまえで廃棄 物が溜まってゆくことに耐えられなくなり、税金のおすそ分けをもらうのと引き換えに妥協しようと考えるまで日本の新規原発や立替による成長は鈍化するだろ うと踏んでいます。原発が怖い人は新潟、福島、福井、静岡、青森から逃げればよろしい。ますますその地域は衰退するのではないでしょうか?

ずれにせよ直埋設法という日本方式はくさいものに蓋をして忘れてしまいたいという考えにすぎず、理性的な判断とはいえないのではないでしょうか。直埋設法 は強大な地圧がかかり、ガラスは地下水と化学反応して劣化し、放射性廃棄物が地下水に溶け出すことが懸念されます。地下水汚染を未然に防げず、汚染が拡大 してしまってから判明するということになりがちです。日本の国土は造山帯にあり、活断層がいたるところに存在しております。放射性廃棄物を次世代が放射能 が安全なレベルまで下がる1万年間にわたって安全に保管管理する費用または失敗して被る損害は予想がつきません。最終処分にいくらかかるかについては、最 終処分の方法がまだ見えていない部分がたくさんあるために上限と下限のひらきが大きいといえます。原発の恩恵を受けた現世代が未来世代の負担となることを 決めてしまってよいのかとう「世代間倫理」も考慮しなければならないでしょう。

日本の使用済み燃料を英仏の再処理工場で再処理したときは、他の廃棄物と一緒に混ぜて処理しました。そこで持ち込んだ計算上の放射能量の相当分だけの高放 射能廃棄物を送り返せばいい契約になっています。そして海上輸送量を減らすために高放射能の固化体を送り返すことにしています。ガラス固化体全て均一組成 なら問題ないのですが、核分裂物資であるストロンチウムとセシウムは初期放射能が強いですから、これが多いかもしれません。 海上輸送ルートでハイジャックされないために世界最大の巡視船であるしきしまを建 造しなければならなかったわけです。これも本当は電力コストに算入すべきものでしょう。

今後の保管は日本が意図している地層処分という不可逆的な静的保管ではなく、欧米が計画している出入り可能な洞窟などに 仮置きする可逆的な動的保管しかないのではと思います。不可逆保管ではエントロピーが増大し、後で新技術が開発されたとき何もできず悔いが残る方法です。 2013/9/20経産省も重い腰を上げて地層処分しても将来回収できるようにする方針に転換することを総合資源調査会に提案すると報道される。

原子力委員会は再処理すると高レベル廃棄物が50,000m3、に直接処分するばあいは 180,000m3になると試算 しています。

事故後の2012/4/8最終処分に関して原子力委員会の試算が下表のように公表されました。

原子力発電の比率 (%)
全量再処理(兆円)
組み合わせ(兆円) 全量直接処分(兆円)
35% @2030
18
17-17.11
13.3-14.1
20% @2030
15.4
5.4
11.8-12.6
0% @2020
-
-
8.6-9.3

表-2.5 処分費用比較

福島事故前の原子力政策大綱は 2030年以降原発比率は30-40%とし、すべての使用済み燃料からプルトニウムを取り出して再利用する「全量再処理」路線を掲げていました。しかし全 量直接処分が一番やすいことがわかります。うち六ヶ所村の再処理施設の廃止費用は5兆円です。

国と青森県の間には「最終処分場にはしない」という約束がありますから、核燃料サイクルをやめるとなった瞬間、預かって いる放射性廃棄物が「原発のごみ」 となり、各原発に送り返される可能性があります。米国のように当分それぞれの原発に残すという案も全国46道府県に分散貯蔵する案も汚染を全国に広げるよ うなもので最大の愚行です。1万年地方自治体が管理できるとは思いません。2011年12月08日の国会で、2002年にロシア政府から使用済み核燃料の 中間貯蔵及び再処理の受託提案が尾身幸次元科学技術政策担当あてにあったのを「六ケ所」建設の妨げとなるとしてこの手紙を官僚が隠蔽したそうです。といわ けで六ヶ所村のプラントができてしまったわけです。今更、再処理 方針をやめてロシアに頼んでも長期間に膨大な保管料を1万年間支払うはめになるし、5兆円の六ヶ所村の再処理プラントの廃止費用もダブルに掛かかります。 このように したのは誰の責任なのでしょうか?いまだに日本商工会議所はプルトニウムサイクルという愚行を継続せよと政府に嘆願書をだしています。

モンゴルはモンゴル産のウランを使う条件で廃棄物受け入れを表明。

<マイナーアクチニドの無害化>

マイナー・アクチニドのネプツニウムなどは中性子を照射すれば核分裂し、最後は放射線をださないルテニウムとセシウムに なります。高速中性子源は「もんじゅ」か、陽子ビームを重金属に照射して発生する高速中性子を使う加速器駆動未臨界炉ということになりますが、廃棄物から マイ ナー・アクチニドを分離する技術は未開発です。

<核分裂生成物の無害化>

まず核分裂生成物から放射性同位元素を単離してから高速炉内で中性子照射すれば無害化できます。多段遠心分離もかんがえ られます が、コストと崩壊熱による発熱が問題となります。量子効果がでる極低温に冷却して共鳴吸着させることが考えられますが崩壊熱との闘いとなりましょう。放射 線を出すときに発生する運動エネルギーである反跳エネルギー(recoil energy)=崩壊熱+照損傷です。

<廃炉に伴いでる放射性汚染物質>

技術的なことは兎も角、膨大な量ですので、どこに処分するかた政治的には決まっていません。多分、福島第一の廃炉残存物 を今の敷地に残すことは福島県は合意しないでしょうが、沖縄の例に見られるようにズルズルと発電所の敷地内に放置することになるのでしょう。果たして立地 自治体が合意するかどうか。して全国の原発の廃炉にあたって放射性残存物をどうするかは、大きな政治的問題になるでしょう。でもそれを今論ずることは政治 的に避けて先送りしたいのでしょう。


再処理場・最終処分場の立地

関西電力の内藤元副社長によれば高レベル廃棄物の最終処分場を無人島の馬毛島を購入しようと芦原は東電の平岩外四氏にも ちかけ、電事連がそれを購入しようとまできまっていたが経団連会長の稲山新日鉄会長に経団連会長の座を撒き餌にして石油化学コンビナートが頓挫した六ヶ所 村にすることを持ちかけられ、平岩氏は変心した。芦原と内藤は東電の本心は最終処分場を六ヶ所にすることだと理解した。政府と青森県のやくそくは、した がって公的なウソとなっている。


原子炉の形式

<黒鉛減速炉>

1942年に亡命物理学者のエンリコ・フェルミやレオ・シラードがシカゴ大学のフットボール競技場スタッグ・フィールド(Stagg Field)の観客席下にあったスカッシュ・コートに黒鉛と金属天然ウランを積みました。この世界初の原子炉CP-1が臨界に達し、5Wの出力を2分間臨 界を保持して制御棒を落としたのです。原子炉の研究はその後、シカゴ大学の西のアルゴンヌの森にアルゴンヌ国立研究所を建設し、そこで行われるようになり ました。重水と天然ウランから も原子炉を作れます。困難な濃縮をせず天然ウランから原爆用のプルトニウムを製造する目的で使われました。しかしウィンズスケールの黒鉛炉からの放射 能の大気中放出以降、天然ウラン・黒鉛炉は放棄されました。その顛末は以下の通りです。

1957年10月、英国中西部アイリッシュ海沿岸にあるウィンズケール(Windscale)で(1981年6月からセラフィールド Sellafield)空気冷却方式のプルトニウム生産発電両用の黒鉛減速型原子炉の正常運転を停止し、中性子減速材である黒鉛の中に蓄積されているウィ グナーエネルギー(Wigner energy)を、加熱操作しながら放出している間に、加熱操作および制御棒操作の誤りから発生した熱のため燃料棒が損傷し、放射能漏れの事故を起こしま した。黒鉛減速型原子炉では、運転中黒鉛中に高速中性子の照射で、結晶格子内の原子が正規の位置から移動してウィグナーエネルギーが蓄積されます。ウィグ ナー効果で黒鉛中に蓄積したエネルギーは、黒鉛を300〜400℃で加熱すると放出されます。このため黒鉛炉では定期的に運転を停止し、加熱操作を行う必 要がある場合があります。しかし原子炉の計測装置の数が十分でなく、計測装置を設置する場所も適切ではなかった。このため的確な状況判断が出来ませんでし た。このような放出操作や判断の誤りにより、黒鉛が過熱し、冷却空気によって着火したのです。恐らく2本以上のウランカートリッジに欠陥を生じて白熱状態 となり、核分裂性物質が放出されました。炉心を冷却するために空気を送り込んだ時期と、完全に鎮火させるため炉に水を注いだ時期の2回に、合計 7.4E14 Bq の131Iが大気中に放出されました。避難命令が出なかったため、地元住民は一生許容線量の10倍の放射線を受け、数十人がその後、白血病で死亡しまし た。農場では、家畜が見たこともない奇病で死んだり、子牛や子羊が奇形で生まれたりしたのです。現在の所、白血病発生率は全国平均の3倍です。なお、現在 でも危険な状態にあります。2万キュリーのヨード131が工場周辺500平方キロを汚染し、ヨードの危険性を知らせたことでも有名です。1957年10月 26日、核兵器施設の所長ウィリアム・ペニー博士が委員長を務めた調査委員会が作成した "ペニー報告書" をハロルド・マクミラン首相は"政府機密30年法" を適用し、長い年月、封印しました。現在のセラフィールドには海岸線と牧草地を境に有刺鉄線で囲まれる広大な敷地に、プルトニウム生産炉の高い煙突、かつ て"世界最初の原発" として登場したコールダーホール型(Calder Hall)原発の巨大な冷却塔が聳えていましが、英国の電力事業自由化に伴い、採算悪化で解体されました。 さらに日本のの原発からの使用済み燃料を再処理していたソープ、MOX工場、高レベル放射性廃液貯蔵タンクなどの核関連施設が立ち並んでいましたが。再処 理工場のソープは2005年に処理中の放射性溶液漏洩で操業が中止されています。

1986年大規模放出事故を起こしたチェルノブイリ原発のように黒鉛を減速材につかうチャンネル炉は制御棒の構造欠陥によるポジティブスクラム効果に加え、 正の冷却材ボイド係数を持っていたため、炉心の蒸気圧上昇に伴い核分裂の反応度が増加してしまった事故です。このような炉では一旦暴走がはじまると制御棒 を全て挿入しても核反応は止められません。温度上昇により、ウラン238が余計中性子を吸収するドップラー効果は正の冷却材ボイド係数に負けて暴走 してしまいます。かくして圧力が上昇し、圧力容器に相当する圧力チャンネル管が破裂し、格納容器がなかったため、コンテインメントに失敗して多量の放射能 が蒸気とともに空高く巻上げられ、広範囲に雨となって降り注ぐという事態に到りました。

このようにチェルノブイリ事故は典型的な反応度事故です。欧米日の軽水炉は負の冷却材ボイド係数になっているのでこのようなことはないとされています。軽 水炉であるPWR炉もBWR炉も燃料棒それ自体では反応度はプラスにならないように成分調整されています。さらに軽水炉では燃料ペレット、ジルコニウム核 燃料被覆管、圧力容器に加え、圧力容器を格納する鋼製 (最近の改良型は放射線遮蔽を兼ねる鉄筋コンクリート製)の格納容器が用意されています。この格納容器の底部の圧力抑制プールには核反応停止後の崩壊熱冷 却相当の水が備蓄されていて仮に非常冷却系が破壊されても水蒸気を復水して閉じ込めることが出来る仕掛けになっています。格納容器はコンクリート製の建屋 に収まり、都合5重の封じ込めが用意されているため、放射能漏れ事故は社会的に許容される範囲だということになっています。しかしこの格納容器も万一メル トダウンした炉心が底部コンクリートに触れるとガスが発生し、格納容器破裂の可能性もあり、ヨーロッパでは圧力放出装置をつけているとのことでたいした防 壁ではないようです。

<高温ガス炉(GCR)>

高温ガス炉の起源は、1956年に英国で独特の被覆燃料粒子が開発された時点にさかのぼります。次いで、OECDとしてこの被覆燃料を基にしたブロック型 燃料 の実験炉ドラゴン炉が英国に建設・運転されました。その後、ペブルベッド型燃料とブロック型燃料の高温ガス炉が開発され、ドイツでは、発電用実験炉として AVRが、発電用原型炉としてTHTR−300が建設・運転されました。また、米国では、発電用実験炉としてピーチボトム炉が、発電用原型炉としてフォー トセ ントブレイン炉が建設・運転されました。これらいずれの高温ガス炉も1989年に運転を終了しています。現在は、試験研究炉が中国と日本で運転されてお り、中国 では、2009年に着工予定の実証炉(HTR−PM)への基礎データを蓄積しています。一方、日本では、高温ガス炉実用化のためのデータ蓄積として、 2010年3月までに950℃の高温連続運転、冷却材喪失事故を模擬した安全性試験などを実施し、さらに高温ガス炉とこれによる水素製造技術の研究開発を 進めています。

1983年頃、ドイツでウラン235を中性子源とするトリウム燃料を67万個の直径6cmの球状容器に納めたペブルベッド炉が稼動していたことがあり ます 。ヘリウムを冷却材、黒鉛を減速材にしたTHTR-300と いう出力300MWの原子炉 でした。このときはスチームタービンサイクルが採用され空冷式でした。しかし採算悪化のため廃炉となりました。2015年には廃炉中ですが、ペブルが壊れ て、炉内の汚染が激しく、難儀しているようです。

南アフリカ共和国(以下、南ア)がPBMR(Pebble Bed Modular Reactor)、2010年着工をめざしていましたがヘリウムを使うブレイトン・サイクルの効率が上らず、水を介して高温蒸気を作りタービンを廻す案も 軽水炉の経済性に及ばなかったため中断しました。

日本では高温ガス炉は2000年に950°Cを達成しました。その後は水蒸気改質による水素製造に移行しています。冷却材にヘリウムガス、燃料の被覆材に セラミックス、 炉心の構造材に黒鉛を使っています。直径が1mmにも満たないウランなどの酸化物や炭化物の黒い球状の粒を芯として、その外側を特殊な炭素や炭化ケイ素の 薄いセラミックスで4重に包んだものです。セラミックスの被覆は、 ウランを保護すると同時に、ウランの核分裂によって発生する核分裂生成物を燃料の外に漏れないように閉じ込める役目を果たします。 炭素や炭化ケイ素で被覆した燃料は、金属で被覆した燃料よりも熱に強く、1,000°C以上の高温でも溶けることはありません。効 率50%を達成するためにヘリウムのブレイトンサイクルを使うので圧力容器が必要です。

<軽水炉(LWR)>

軽水炉はウラン235を数%に濃縮して軽水で減速しただけで臨界に達することができる炉 です。軽水を加圧下で沸騰させない方式は加圧水炉(PWR)、PWRを小型化したSMR、沸騰させる方式を沸騰水炉(BWR)といいます。PWRはもとも と軍用に開発されたものですが、燃料 棒が健全である限り、装置の汚染度が少なく、安価なためもっとも商業的に成功しました。しかし一旦冷却水が失われるとメルトダウンし、圧力容器と格納容器 が 破壊され、放射線の強い核分裂生成物が環境に放出されることが次第に明らかになり疑問が呈せられています。

ー加圧水炉(PWR)ー

軽水炉の一つPWRは気泡という複雑な要素がありませんので、出力制御が容易で原子力潜水艦、原子力空母の主機関として開発され、後に発電用に転用 されたという歴史をもちます。

原子力空母 ジョージワシントンのPWR炉

フランスの原発も全てPWRで負荷 追従運転を行っています。反応度はケミカルシムというホウ酸濃度で制御します。phを制御するために水酸化リチウムを加えますので微量含まれるリチウム同 位体が熱中性子と反応してヘリウムとトリチウムが発生します。これは年1回の燃料交換時、環境にでてまいります。

6Li + 1n → 4 He + 3H

ロシアのPWR原子炉では、このトリチウム発生を防止するためにカリウムをケミカルシムに使っています。カリウムの放射性アイソトープは増えます が、燃料交換時ガスとして出てこないメリットがあります。PWRにこの他にもデメリットがあります。機器の数が沢山あり、その分故障が多く稼働率が低下す ること、コンパクトのため圧力容器の中性子劣化が早いな どです。

1979年のスリーマイル島のPWR 炉の原子炉冷却材喪失による燃料被覆管とペレットのメルトダウン事故が発生しました。制御棒を挿入後も冷却水を停止したり注入したりしたため、キセノンの 崩壊熱で炉心の温度が1468oCに上昇したり、注水で下がったりしましたが、結果的に炉心の45%が溶融し、炉心の20%(20 トン)が圧力容器の底を形成する半球殻に落下しました。

幸運にも残っていた水が二層流となって溶融した塊と半球殻内面との間にギャップつくって半球殻の温度が827oC を越えなかったた め、圧力容器の底はぬけませんでした。しかし事故後の検査では炉底板に深い亀裂が入っていたことが判明しています。発生した水素が格納容器内部で爆発しま したが格納容器は持ちこたえ、キセノンはもれましたが、セシウムは封じ込めに成功しました。この幸運により、ジルコニウム核燃料被覆管が大量 に破壊されても残る圧力容器、格納容器、建屋を含め3重のコンテインメント・システムが機能して環境への漏れはありませんでした。でも僥倖であることは変 わりなく、たまたま水が残っていなければ半球殻は破壊され、残る格納容器も破壊されないとは言えないでしょう。またこれはPWR炉の底部がシンプルな半球 殻であったから破壊されなかったとも考えられます。

水が沸騰しないように圧力かけていますし、一次水と二次水の熱交換器が必要で伝熱チューブの振動による疲労破断がしばしば生じます。また鍛造で製造 する圧力容器を構成する鋼材中の炭素量の偏りがが再稼働後問題になりました。日本鋳鍛鋼がおさめた川内原発など8原発など13基が問題とされています。

ー沸騰水炉(BWR)ー

軽水炉の一つ、BWRは沸騰する気泡が炉内の水のホールドアップを変えます。タービン出力を炉内圧が下がらない範囲で徐々にましますと、水温が下が り気泡は減少して核 分裂が増えるという負荷追従性がありますが日本では使っていません。このようにPWRのように制御棒を使わなくとも、負荷追従性あるいは自己制御性があり ます。出力の制御は泡の量を水循環量を変えて行います。

しかしBWRの自己制御性は両刃の刃です。タービンへ行く主蒸気隔離弁が閉じると炉の圧が上昇し気泡がつぶれて核分裂反応が増加することがありえます。こ れを防止するために主蒸気ヘッダーには安全弁がつけられ、格納容器のサンプに圧を逃がす構造になっています。

制御棒とその駆動機構が底部半球殻を貫通しているBWR炉ではどうなるのでしょうか? BWR炉は復水器が負圧のため、海水や空気が一次水に混入してステンレス やインコネルの応力腐食割れ (SCC)に起因する故障がおおいことです。東電福島原発は圧力容器内のシュラウドに亀裂が見つかって長期間運転停止したことがあります。オーステナイト 系ステンレス鋼を溶接するとき、溶接による加熱が何回か行われます。加熱が行われることにより材質中の炭素がクロムと結合し、結晶粒界に沿ってクロムカー バイトが析出します。するとその近傍に沿ってクロム欠乏域ができ、耐食性が低下します。クロム欠乏域が発達した組織では、大きな(降伏点以上の)引っ張り 応力が加わっていると、高温純水中でも、酸素濃度が高い場合には、結晶粒界に沿って局部的な腐食が発生し、SCCにまで発展していくということが分ってき ました。溶接の歪、材料の冷間加工、機械切削など生じる残留応力がのこるのです。オーステナイト系ステンレス鋼は温度を上げると鋭敏化してしまうため、応 力除去焼鈍ができません。オーステナイト系ステンレス鋼の表面に引っ張り残留応力がある状態で塩類のような高濃度のハロゲン化合物が接触すると常温でも孔 食(ピッティング)を起点としたSCCが起ることがあります。これは割れが結晶の粒内を貫通していくタイプのSCCです。残留応力の低減とハロゲン化合物 の付着を最小に抑えることが大切です。オーステナイトステンレス鋼は中性子照射によって僅かながら炭素がクロムと結合します。これが結晶粒界に集まること によりクロム欠乏域ができ、中性子照射の総量が程度以上になると、これらが関与していると考えられる粒界割れが発生することがあります。これをIASCC (Irradiation Assisted Stress Corrosion Cracking)と呼んでいます。BWRのシュラウド部分では30年間でレベルの照射量ですが、IASCCのしきい値に近く、その可能性も否定できない と云われています。

シュラウドの割れは重大事故に至るルートではありません。しかし圧力容器底部になる制御棒駆動機構のインコネル製のハウジングは圧力容器そのものです。 ニッケル基合金であるインコネル(商品名)はSCCが起りにくい材料と考えられてきましたが、BWR一次冷却系環境下でのSCCがみられるようになりまし た。これもオーステナイト系ステンレス鋼の場合と同様に、主たる材料要因は粒界近傍のクロム欠乏によるものです。オーステナイト系ステンレス鋼の場合は溶 接熱影響部が発生部位ですが、インコネルは溶接金属部位にも発生します。共金(ともがね)溶加棒及び母体の インコネルに、ニオブを追加することにより溶接金属中の炭素を安定化させSCCの発生を防止できることが分り、最近はニオブを添加したインコネルを採用し てい るそうですが古いものはそうではありません。定期検査でいまのところ応力腐食割れは見つかっていようようですが目視検査程度で見つかるものでしょうか?

図-2.13 BWR炉の圧力容器底部半球殻を貫通す る制御棒駆動機構収納インコネル製ハウジング


福島第一の事故でBWRの封じ込めできないという欠陥が明らかにないました。大改造しても直らない基本的な欠陥で早急に市場から淘汰されるべき類の欠陥と おもいます。詳しくは「BWRの構造的欠陥」をご覧ください。

ー小型炉(SMR)ー

Small and Medium Sized Reactorsの略でPWRを小型化し、蒸気発生器も、循環ポンプも一体化して配管をなくし、モジュール化してコストダウンを図るものです。米国が大型 の圧力容器製造能力を失った対抗策として構想されました。木下さんによればDOEの予算でクリンチリバーに一号機をB&Wとベクテルが建設す るそうです。TVAとテネシー州の議員更なる4基をノックスビルに誘致しています。

ー4S(Super-Safe, Small & Simple)炉ー

元は電力中央研究所の服部禎男がもちかけて、東芝の原子力部門の技術者が具体的に設計したとされる、炉心の直径が約1メートル以下(5万キロワットタイプ で高さ4メートル)という小型原子炉。小型の原子炉が中性子を漏らしやすいという特徴を逆手に取った発想で、燃料を装填しただけでは、どうやっても臨界に ならないという安全性を備えているとされている。臨界させるには、燃料棒に沿ってリング状の中性子反射板をスライドさせることで、漏れた中性子を反射させ て連鎖反応を維持させる設計になっており、燃料はスライドする中性子反射板に沿ってロウソクのように30年(5万キロワットタイプで20年)かけて徐々に 燃焼して、終端まで反応して炉の寿命を終えるという。燃料の入れ替えという概念はなく、その分事故率を下げられるとされている。中性子反射板を燃料のない 部分に退避させることで緊急停止する仕組みになっているとされる

<フッ化物熔融塩高温炉(FHR)>

フッ化物熔融塩で冷却する高温炉です。 圧力部分がありませんので、安全性が高く高温が得られます。FLUORIDE SALT-COOLED HIGH-TEMPERATURE REACTORの略。オ −クリッジ国立研究所(ORNL)で開発。中国は上海で2017年までにDOEのライセン スでFHRをつくると宣言しています。その第二号炉をノックスビルにつくる というのが、彼らORNLの人々のシナリオのようです。

熔融塩で冷却する方式で核分裂炉、集光型太陽熱発電、核融合炉全てに適用可能。700°C程度の高温が得られます。熔融塩は透明のため、集光型太陽熱の集 光面に使えます。熔融塩に核分裂物質を溶かしこんでもよいが(MSR)核分裂物質が環境に漏れやすい。そこでセ ラミックスにしてカーボンとSiCの多層膜製の円筒形チューブに閉じ込めてもよし(SmAHTR or HEER)。板状にしてもよし、べブルに閉 じ込めてもよし(PB-AHTR)。ボールを積み上げる方式は50年前Daniels Pileと呼ばれていたものです。マイクロパーティクルに閉じ込めて熔融塩で流動化させて黒鉛グリッドの中をながしてもよい。熱は二酸化炭素ブレイトン サイクルの熱源または熱化学サイクルの熱源に利用できる。非常用冷却は空冷。フッ化リチウムは中性子でトリチウムになるのでリチウム抜きの塩をつかうこと を考えてもよい。

ー溶融塩固体燃料原子炉(AHTR; Advanced High Temperature Reactor)ー

2006年に溶融塩炉を発電用と水素製造用とする研究開発用プロトタイプ炉を2021年から運転開始することを許可しよ うという計 画が ブッシュ政権下の米政府によって検討されました 。

米国のオークリッジ研とカルフォルニア大が検討した新型炉で粒子状にしたウラン固体燃料を黒鉛減速材の格子の中に充填し、溶融塩で冷却するものです。目的 は熱化学反応を使って合成燃料向けの水素を製造しつつ発電するというもの。固体燃料炉だから軽水炉とおなじく、ウラン資源量、燃料サ イクル、放射能廃棄物の問題はそのまま残ります。

ーHEER: High Efficiency and Environmentally-friendly Nuclear Reactor or Liquid Salt Thermal Reactorー

45.7%, 720C, NaF-BeF2, SiC cladding fuel pins, 10year cycle, 19.9wt% enrichment Uranium Hydride(U0.31ZrH1.6), supercriticalCO2

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プルサーマル発電、プルトニウム専焼原発

<プルサーマル発電>

日本が再処理を依頼した英のセラフィールド、仏のラ・アーグにすでに25トンのプルトニウムが溜まっています。この日本 が所有するプルトニウムはプルサー マルで年間6トン燃す計画です。燃料再処理によって国内にも6トンありますので合計28.2トンも溜まってしまいました。燃料再処理を継続すれば今後もず つ増えます。核拡散防止上、核兵器に転用可能なプルトニウムを消費するためにプルトニウムを混入したMOX燃料を一般の原発で燃すプルサーマルをし なければなりません。

通常、軽水炉ではウラン235とウラン238を混合したウラン燃料(二酸化ウラン)を核分裂させることで熱エネルギーを生み出します。このと き、ウラン238が中性子を吸収することにより、プルトニウム239が生成され、そのプルトニウム239自体も核分裂します。その結果、発電量全体に 占めるプルトニウムによる発電量は平均約30%とな ります。プルサーマル発電を行なわない場合でも、運転中の軽水炉の燃料中にはプルトニウムが存在し、ウラン同様に発電に利用されているのです。それに 対し、プルサーマルではウラン238とプルトニウム239の混合酸化物(Mixed Oxide)を燃料として使用します。これをMOX燃料と呼びます。プルサーマルで使われるMOX燃料はプルトニウムの富化度(含有量)が4〜9%であ り、MOX燃料を1/3程度使用する場合、発電量全体に占めるプルトニウムによる発電量は平均50%強となります。こうして溜まった核兵器製造ができるプ ルトニウムを燃すのがMOX燃料の目的です。

ところがプルサーマルには再処理に関し、次ぎの5つの問題があります。

@軽水炉からの高レベル核廃棄物をワンスルーでそのままガラス固化させる場合と比べ、事故が発生する可能性が飛躍的に高まる。

A再処理を行なうプルトニウムをリサイクルすると核燃料の高次化(マイナーアクチニドであるアメリシウム241が生成され、核分裂反応が阻害され、臨界に 達しなくなってしまい、核燃料として使用できなくなる)が進むため、最大でも2サイクルまでしか行なえない(高速増殖炉の場合はこの問題は発生しにくい)

B冷戦終結後、ウラン資源の需給は安定しており、再処理で製造したMOX燃料では経済的に引き合わない状態になっている。

C再処理によって核廃棄物は却って増える(一般的な資源のリサイクルと異なる)。

D使用済みMOX燃料は非常に熱い、熱量の高い廃棄物で最終処分場では大きな割合を占め貯蔵施設量を大きくする必要があ るという問題もあります。これは BWR炉では大きな安全上の問題を抱えることになります。

この他にもプルトニウムを6年間貯蔵してできるアメリシウムの量は、許容不可能なレベルになる、プルサーマルでは原発の制御性は悪くなるなどの問題があり ます。

プルサーマルはしかし紆余曲折ののち、2009年11月九州電力玄海3号で日本で始めて開始されました。これで節約され るウランは1-2割にもかかわ らずコストは使用済み燃料を未処理で捨てるより1割程高くなります。 燃料再処理装置が上手く稼動することが前提ですし、MOX燃料製造工場も2015年には建設しなければなりません。しかし着工は遅れています。 2011/3/11爆発した福島第一の2号機にもMOX燃料が使われていました。

<プルトニウム専焼炉>

Jパワーの大間原発の改良BWR炉はプルトニウム専焼炉のため、制御性が更に悪くなります。中性子の吸収能力を高めた制御棒と多量のホウ酸水で対処すると のことですが、どうでしょうか?せめてPWRにしたらと思うものですが、どうした判断なのでしょうか。危機感をもたずただ惰性で物事を決めているように見 えます。

同じ軽水を冷却材と減速材に使うとはいえ、燃料棒それ自体では反応度はプラスにならないように成分調整され、PWRでは初期反応度を押さえるバーナブル・ポイゾンも 装填されているとはいえ、停止後のキセノンの崩壊熱があります。システムの破壊確率はゼロではありません。

2011/3/11の福島第一原発爆発後、工事は中断されたままである。悪魔に魂を売った補助金漬けの青森県は不動だ が、海峡を越えた函館市では反対訴訟が計画されています。

福井県高浜町の池野正治氏の調査によれば2009-2010年において
大飯3号機のウラン燃料は核燃料税17%から逆算すれば109,000,000yen/670kg=163,000yen/kg
敦賀2号機のウラン燃料は核燃料税17%から逆算すれば124,000,000yen/670kg=185,000yen/kg
ウランは平均174,000yen/kgです。

中部電力浜岡向けMOX燃料は通関実績から330,000,000yen/260kg=1,269,000yen/kg
四国電力伊方向けMOX燃料は通関実績から900,000,000yen/670kg=1,343,000yen/kg 
MOXは平均1,306,000yen/kg です。

したがってMOX/ウランコスト比=7.5となります。

ウラン燃料もMOX燃料も軽水炉で燃す以上、炉内の流動特性をかえないためにも単位重量当たりの発熱量は同じに調整されているものとします。現在の原子炉 のフロントエンド燃料費は 原発は本当に安いのか?電事連試算発電単価の検証にあるように2002年基準で0.73yen/kWhです。これを全量MOX燃料に入れ替えれば 燃 料費は 0.73x7.5=5.48yen/kWhとなります。原発の資本関連費は4.85yen/kWh、廃炉費積建金0.2yen/kWh、バックエンド処理 費(最終廃棄含まず)2.67yen/kWhを加えれば合計13.2yen/kWhなります。ここでMOX燃料費にはバックエンド処理費とダブルところが あるでしょうが、そもそもバックエンド処理費には最終処分費用が算入されていませんのでほぼ13en/kWhみてよいのではないでしょうか。これに政府の 原発促進支 援費.1yen/kWhが上乗せされますから実質発電単価14yen/kWhとなるわけです。これは同じ年度の石炭火力の6yen/kWh、LNG火力の 6.4kWhの2 倍 以上、風力と同程度となります。

JパワーのMOX専焼大間原発の発電単価がこのように高価になるのであればプルトニウムサイクルはコスト上、国家の電力費を上昇させ、産業を疲弊させるこ とになるのではないでしょうか。⇒かといってなにもしなければウラン資源の資源量は化石燃料程度ですからウランを使う原子力に国の未来をあずけるの は国家のエネルギー政策としては誤りではないでしょうか。トリ ウムにしてもウランの4倍程度。石炭はまだありますが、それも有限、結局再生可能エネルギーに将来を託すしかないということになります。聞くところによる と近藤委員長はわかっていますが、役人にとり囲まれて何もできないということのようです。

日本の原子力カルト集団は永久機関を国に売る詐欺団のようなもので、プルトニウムサイクルというおとぎ話を、なにもわからない文系官僚に売り込み、そして 成功したというわけでしょう。詐欺というのはかわいそうかもしれませんが、科学者はコスト音痴ですからわからなかったというのが実情なんでしょう。でもそ んな軽薄な科学者を信じる官僚こそ愚かですね。むろん政治家はどうしようもありませんが。そうして一旦筋道ができれば、その組織は国が亡びるまで税金を食 いつくすのでしょう。

高速増殖炉

<高速増殖炉(FBR)>

ウラ二ウム235を燃料としている炉では、中性子がウラン235の原子核につかまえられやすくなるように、軽水を減速材として、エネルギーの高い(スピー ドの速い)中性子を減速させて熱中性子にしています。このような原子炉を総称して熱中性子炉といいます。多量にあるウラン238は核分裂しませんが、 高速中性子を拾って核分裂できるプルトニウム239になります。

238U + n → 239Pu;   239Pu + n → fission prod. + 2.5n

このような炉を高速増殖炉(FBR; Fast Breeder Reactor)と呼びます。プルトニウム239は核分裂を起こします。プルトニウムの富化度20%前後のMOX燃料を炉心に挿入して燃料とし、周辺のブ ランケットに劣化ウランすなわちウラン238を挿入して、高速中性子でプルトニウム239に変換します。超ウラン元素などの放射能廃棄物の焼却処 分も可能で、増殖目的以外に、廃棄物減量目的で超ウラン元素を燃す、高速炉としての用途があります。燃料は酸化物とし金属管に収納した固体燃料として 使います。

天然ウランはウラン235を0.7%、ウラン238を99.3%含みます。軽水炉でのウラン利用効率はワンスルーでウラン資源の 0.5%、1回リサイクルで0.75%ですが、高速増殖炉ではウラン238を高収率でプルトニウム239に変換できますので、ロスを含めても、ウラン 238の60%をプルトニウム239に変換できる可能性があり、ウラン資源の制約から逃れることができると期待されました。

こういうわけでウラン資源不足問題を解決するために高速増殖炉を開発しようという計画が世界的にひろまりました。米国、英国、ドイツ、フランスが一時 期、開発に着手しました。日本も欧米におくれじと開発競争に参加しました。しかし米国は民間ベースで開始し、資金が継続せず、議会が原型炉の予算を承認し なかったため挫折し、英国はサッチャー政権時代に経済合理性を根拠に政府の意思として撤退することにし、ドイツにはオランダ国境に近いカルカー (Kalkar)高速増殖炉計画がありましたが安全を考慮して州政府が許可せず、すべて中止しています。ロシアは増殖比率は1以下ですが高速炉を28年間 稼動させ、2010年に廃炉にする予定です。また2014年初臨界予定で増殖目的の高速炉を工事中です。フランスはナトリウム冷却のスーパーフェニックス 炉1,240MWを成功させましたが、原発過剰と燃料再処理に苦しみ、コストが高いことを理由に1998年に廃炉を決定しました。その後も研究は継続して いますがナトリウム冷却は捨てていないとしつつ、ヘリウム冷却も検討しております。中国はロシアの炉をベースに2008年に初臨界、インドも2011年商 用運転開始目標に熱心に開発しています。このように増殖炉は本当に設計の増殖率を達成できるかはまだ未知数といってよいでしょう。とうぜん採算性はその上 に更に疑問符がつきます。

高速増殖炉で消費される核分裂物質(ウラン235やプルトニウム239など)の量と生成される核分裂物質(プルトニウム239)の量との比を転換比と いいます。1以上になると増殖比と呼ぶことになっています。理論的には1.24-1.29とされていますが「もんじゅ」は1.2とのこと。しかしIAEA データベースには実際に達成した転換比は記載されていません。新しいロシアやインドの増殖炉の設計転換比は殆ど1か少しマイナスになっているという点も興 味深いものがあります。

さてここからややこしくなるのですが、転換比は再処理を含む総合転換比のようです。高速増殖炉の場合、炉心に富化度(プルトニウム239の混合割合)20 -30%の燃料を装填し、周りのブランケットにウラン238の劣化ウランを装着します。槌田敦によると炉心のプルトニウム239の装填量は 1,400kg。1年運転すると8kg減ってブランケットに62kgのプルトニウム239が生成します。燃料棒は毎年順繰りに交換し、4年炉内で使われる とします。増殖比=1.2を達成するためには再処理工程での未回収量=62x4/1.2-8x4=174.7kgとしなければなりません。ブランケットの プルトニウム回収率を99%とすると損失62x4x0.01=2.5kgですから炉心燃料の再処理損失は174.7-2.5=172.2kg以下でなけれ ばなりません。従って炉心燃料の再処理損失率=172.2/(1400-8x4)=12.6%以下となります。(増殖比1.29の場合、再処理損失率= 11.6%)

京都大学原子炉実験所の小林圭二講師によれば4年炉内において1.2倍に増殖させた燃料棒は取り出してから除熱して再処理するまで4年かかります。これを 炉外滞在時間といいます。それと燃料加工と再処理のロス率13%とすれは(1.2-0.13)^(y/8)=2が成立する倍増時間y=90年となります。 これくらいの時間があれば太陽エネルギー利用がテイクオフしているでしょう。実際にはもんじゅの燃料加工だけでロスは5.7%でした。再処理はまだプラン トがないので不明ですが、燃料加工より大きいだろうと想像できますのでロス率13%は妥当でしょう。

高速増殖炉では白金族が多量生成するため、硝酸に溶けにくく、スラリーとなって、ピューレックス法での液々抽出のプルトニウムの回収率が低下します。ちな みに増殖比=1となる炉心燃料の再処理損失率=15.6%です。これが達成できなければ増殖路線は崩壊します。高速増殖炉の使用済み燃料再処理プラントで あるリサイクル機器試験施設(RETF:Recycling Equipment Test Facility)がいまだ成果を公表していないこと、ピュレックス法に加え、新湿式再処理法、電中研が検討している米アルゴンヌ研究所(ANL)の金属 燃料乾式再処理法、東電が検討しているロシアデミトログラードRIARの酸化物燃料乾式再処理法、さらには原研(現日本原子力研究開発機構)が検討してい る窒化物乾式再処理が検討されている のはこのためと疑われます。また核拡散防止のための混合燃料作成も難しさがあるようです。先進国が皆手を引いたのはここに理由があると私はにらんでいま す。

燃料は増殖させず、再処理もせず、ワンスルー利用した放射性廃棄物は永久保存する路線だった米国はユッカ・マウンテンの最終処分場が反対でつぶれたのをう け、ブッシュ政権下の2006年にプルトニウムやマイナー・アクチニドを燃して放射性廃棄物を減量する高速炉を検討しました。しかしコスト上の理由で中断 しております。これを核燃料サイクル推進路線(GNEP:Global Nuclear Energy Partnership)といいます。パートナーシップ国(米、日、仏、露、中)が国際協力で進めようとしております。日本の三菱重工、日本原燃、アレバ が民間企業として巻きこまれています。政権がオバマ政権に代わっても細々とした研究しかしていないようです。

ただこの高速炉には隠された目的があって複製する超ウラン元素からライフルで撃てる超小型原子兵器を作ることもあるのかもしれません。どうするか注目 されていましたがこの計画は技術基盤が整っていないこととコストがかかるという理由で断念したということです。

高速増殖炉はプルトニウム238(崩壊熱は出すが、アルファ線以外ださないので熱電池に使われる)やプルトニウム240など偶数の原子量をもつアイソトー プを副産せず、兵器級プルトニウムである97.5%という高濃度のプルトニウム239を生成しますので原爆が造りやすく、諸外国に核疑惑を生じる危険もあ るわけです。

各国の方針をまとめますと表-2.6のようになります。

原発 核燃料再処理 高速炉・高速増殖炉
アメリカ × ×
ドイツ × ×
イギリス ×
日本
フランス
ロシア
中国
インド

表-2.6 高速増殖炉と核燃料サイクル

日本の原子力カルト集団は永久機関を国に売る詐欺団のようなもので、プルトニウムサイクルというおとぎ話を、なにも わからない文系官僚に売り込み、そして成功したというわけでしょう。詐欺というのはかわいそうかもしれませんが、科学者はコスト音痴ですからわからなかっ たというのが実情なんでしょう。でもそんな学者を信じる官僚こそ愚かですね。むろん政治家はどうしようもありませんが。そうして一旦筋道ができれば、その 組織は国が亡びるまで税金をくいつくすのでしょう。

フランスの再処理会社アレバは暴利をむさぼれる日本からの再処理の注文が減って倒産寸前。オランダも処理費を支払ってアレバにプルトニウムを引き取らせ た。アレバはプルトニウムというマイナス価格の物質とうババを引いた形になっている。もしかしたらフランスの原子力は日本が支えていたのかもしれません ね。いずれ六ヶ所村はスクラップになるでしょうがその費用も電気料金にのってきます。値上げの理由はLNGコストだなんとかいってウソつくのでしょう。ア レバが倒産すれば安全確保のためにフランスの国税がつかわれるのでしょう。

ー高速増殖炉の冷却方法ー

高速増殖炉は中性子を減速させない一次冷却材として金属ナトリウム(SFR; Sodium Cooled Fast Reactor)、ヘリウムガス(GFR; Gas Cooled Fast Reactor)、鉛・ビスマス(LFR; Lead Cooled Fast Reactor)他多々あります。いずれも燃料は酸化物にして鞘管に納めた固体燃料を使います。増殖を目的にせずとも常圧で使える冷却材として使う場合も ありますが、価格は水より高くなります。

冷却方式 プロジェクト 特徴
金属ナトリウム冷却高速炉(SFR)

日本の「もんじゅ」は2012年運転再開。フランスの実証炉Astridは 2012年にgo or no go決定。TWR炉

固体燃料棒の交換・再処理、冷却材の酸化

ヘリウムガス冷却高速炉(GFR)

フランスの実証炉Allegroは2012年にgo or no go決定

フランスは固体燃料のナトリウム冷却の問題を避けるために固体燃料のヘリウ ムガス冷却高速炉の検討中。ただ固体燃料ゆえにチェルノブイリのような事故の可能性を否定でき ない

鉛・ビスマス冷却高速炉(LFR)

ベルギーの実験炉ギビネアは2010年運転開始。技術実証炉アルフレッドは 2017年建設開始、2025年運転開始

固体燃料棒,中性子は黒鉛で減速冷却材の酸化 。加速器駆動。スーパーODS(Oxide Dispersion Strengthened Steel)鋼の燃料被覆が必須

カリウム冷却炉 -

固体燃料の交換・再処理

ナトリウム・カリウム合金冷却炉 -

固体燃料棒

溶融塩冷却

アメリカのAHTR FHR

粒子状にしたウラン固体燃料を黒鉛減速材の格子の中に充填し、溶融塩で 冷却するもの

表-2.7 高速増殖炉の冷却材

固体ウラン燃料を使う軽水炉は水、圧力容器の破損、制御棒と燃料棒交換のため、稼働率が低く、 機器の故障、運転ミスに起因する本質不安全な要素を持っています。増殖炉はナトリウムを使って熱を取り出すため、化学活性が高い問題があります。そこでヘ リウム、鉛・ビスマス等の冷却が考案されました。

ー金属ナトリウム冷却高速炉(SFR or LMR)ー

日本が開発中の原型炉である「もんじゅ」は固体燃料を金属ナトリウムで冷却していま す。出力280MW、設計転換率は1.2です。炉心で発生した熱を一次ナトリウム冷却系→二次ナトリウム冷却系→水冷却系と熱交換器経由でカスケードされ ます。炉心と一次ナトリウム系は格納容器に収納され、二次ナトリウム冷却系が格納容器壁を貫通しております。

日本の原型炉「もんじゅ」の転換率も世界の他の増殖炉の転換率も同じ程度です。プルトニウム239をリサイクル利用するには再処理工程(バックエンド処 理)しなければなりません。燃料を再処理することにより1.2倍の燃料を得るというのが目標です。これを何回か繰り返せば天然に存在するウラン238 の60%はプルトニウム239に転換できるとされています。

1985年に5,900億円(2,100円/W)かけて建設され、1995年に40%出力で試運転中にこの二次ナトリウム冷却系につけられたサーモウェル がナトリウム流が作る対称渦によって励振し、疲労破壊で折れ、ナトリウムが漏れ出して火災になりました。サーモウェルの太さが変わる段付部にRをつけな かったゆえの設計ミスによって生じた漏洩です。漏洩したナトリウムがコンクリートに触れると水素を発生して危険なため 、6ミリの鋼板でコンクリートを覆っていますが、この鋼板に1.6mmの減肉がありました。その後179億円かけて改造されました。

文部科学省研究開発局原子力研究開発科作成の予算説明書によれば2009年までの建設費と維持管理費は9,000億円(運転停止中の維持管理費2,300 億円)、今後も毎年200億円必要とされます。2013年の本格運転まで性能試験をする予定だがこの間の発電量を関電に売ったところでたいした収入にはな らない。したがって上手くいって維持管理費にあと400億円はかかる。結局、総額1兆円はかかると予想されます。実用化は2050年ということになってい ます。高速増殖炉は軽水炉より技術的にもずかしく、リスクが大きい。かてて加えて「もんじゅ」は活断層の真上にあることが最近判明し、耐震設計の見直しを 迫られています。

14年間の運転停止後、ようやく2010年5月運転再開しました。運転開始直後炉からの放射性ガス検知器3台の内2台が故障で誤動作信号を出しても運転継 続しています。別にもセンサーがあるとしていますが炉心に直結している残る1台が故障したとき、どう判断するのか興味あります。核反応を中止して燃料棒を 抜き出そうとしていた2010年8月26日に長さ12m、重さ3.3トンの炉内中継装置(furnace relay device)がグリッパーからはずれて炉心近くに落ちる事故がありました。溶融塩は透明ですがナトリウムは透明でないため、どのような損傷があったのか 確認に2ヶ月を要しました。ちなみに炉内中継装置は燃料棒交換時にナトリウムと空気の接触を防止するためのコンテナーです。後再引き上げを開始しましたが 炉内中継装置自体が落下で変形し、引き抜けませんでした。 スリーブ毎に引き上げが必要になり、この装置の設計製作を東芝に委託するために17億円必要となり10ヶ月を浪費しました。問題は外部に支払う費用もさる ことながら浪費される時間でしょう。アイドルとなる職員の給与が全くの無駄使いとなるのです。そしてその間、 福島原発メルトダウンで原発路線は崩壊の瀬戸際です。

第18回新計画策定会議の参考資料によれば実証炉は原子炉構造・配管を簡素化し、一体還流蒸気発生器など採用し、高温化すればコストダウンが計れるとして おります。原型炉「もんじゅ」は1,000W規模にスケールアップした建設単価は900円/Wで、実証炉は380円/Wとしております。更に配管短縮、炉 容器コンパクト化、ポンプ組込型中間熱交換器など採用して200円/W以下にする目標をたてています。既存原発の建設単価278円/kWから逆算したかな り希望的な数字であると思われます。コンサルタントがフィービリティー・スタディー報告を書いときに行う出来そうもない可能性を羅列した代物のように見え ます。コンパクト化などは概念設計当初の大規模放出現象の発生頻度10-6/炉年以下にするとした設計思想を捨て去るものでしょ う。

ー「もんじゅ」開発体制の問題ー

高速増殖炉開発は独立行政法人日本原子力研究開発機構が国家予算を使って担当しています。この前身となる原研の歴史を見ても米国発の軽水炉より優れた炉を 実用化した実績はありません。開発は複数の方法を段階的に試験して失敗ルートはキズが深くなる前に捨ててゆくものですが、国家研究機関は当初に描いた1本 の路線だけを強引に突っ走ろうとするため、上手く行きません。えてして国家研究機関は従業員運命共同体になりやすく、効率的な研究ができないところです。 大学の土木工学科を出た連中が建設省と農水省にはいって土建国家を築いたように、大学の原子力工学科などをでた人間も例外ではありません。

特に原子力は放射能汚染の可能性を排除できなく、住民の反対が執拗ですから、許認可の手続きが煩雑になります。これに便乗して成功しようが失敗しようが関 係なく、中止もなく、許認可の不効率をよいことにダラダラと研究者や管理者が定年退職するまで税金を使い続ける可能性があるのです。政治家も官僚も中断の 決断もできず、脳死状態で、原子力船「むつ」のように無駄な金を使い続けています。担当官庁は原子力船ムツとおなじく判断ミスをみとめず、ただひたすらほ とぼりがさめるのを待っているように見えます。太平洋戦争の敗戦を受け入れる決断したと同じ責任を感じて決断する人が居ないためか、利害関係者は知らん 顔。 国庫の懐が寂しくなると、継続のコストは電力会社に数千億円という巨額の資金を拠出させて支払っています。そして実用化できなくとも時の流れのなかにうや むやにして忘却の彼方という処理の仕方をします。原子力船ムツの前例をみれば明らかでしょう。

ー「もんじゅ」の経済性ー

高速増殖炉はウラン235の濃縮度を通常の軽水炉の5倍以上に上げるかプルトニウム239の富化度を20%前後に上げざるを得ず、制御が難しくなりま す。

ウラン235やプルトニウム239を核兵器に転用させず、核ジャックさせず、平和的に、安全に世界にあまねく普及させて利用するなどということはドイ ツの脱原発の理論的指導者トラオベ博士の指摘の通り 、核兵器抑止の軍事費が膨大になってしまい、高い視点からみれば核兵器所有は採算に乗らなっています。報道されることはありませんが日本海側の原発は核 ジャックされないようには自衛艦で警護せざるをえなくなっております。米国の軍事費にただ乗りすることは期待できないでしょう。相応の責任が生じるのは道 理です。軍事費を考えなくとも高速増殖炉の発電原価は表-5.29のようにグリッド・パリティーの達成時期の2014年には28.1円/kWhとなり、 ソーラーセルの発電原価15.3から25.4円/kWhに負けるのです。したがって、世界的規模での普及は無いのではないでしょうか。

高速増殖炉は再処理とセットになって機能します。非核兵器保有国では日本だけが日米原子力協定で軽水炉でも少量ながら併産させるプルトニウムも再処理をし て回収することを許されております。そしてこの協定は2018年に期限を迎えます。対米追従外交が必要となる所以です。

軽水炉の運転でたまったプルトニウムは再処理も出来ずに原発敷地内にある中間貯蔵設備にこれまでに31トンも溜まっています。再処理設備もまともに動かせ ない国が高速増殖炉で更にプルトニウムを製造しても意味がない事態となっています。海外に委託して再処理して回収した多量のプルトニウムを軽水炉で燃して もマイナーアクチニドが増えて2回リサイクルすれば、燃料としては使い物になくなります。

ただ増殖炉にはメリットもあって燃料濃縮の前処理は必要なくなります。後処理の燃料再処理コスト0.8円/kWhが乗ってくるだけですし、その再処理も高 濃度のプルトニウムが得られます。また超ウラン元素のような廃棄物の焼却減量も可能となります。

ー「もんじゅ」のシステム設計ー

実験炉「もんじゅ」のシステムとしての設計思想を見ますと、ナトリウム冷却ですからホウ素溶液注入は不可能です。制御棒常時炉心に挿入されたままになって おり、運転時だけ引き上げる構造です。停止信号ではずれ重力で落下するようになっています。この信号系のシングルフェイリャーで反応停止不能となります。

ナトリウムの沸点が880oCと高いので沸騰による冷却材喪失がない、冷却 系配管の高所水平引き回し、鞘管、炉のまわりのガードベッセル等で漏洩によるナトリウム損失はないとの理由付けをしておりますが、ナトリウム一次系配管が ギロチン破断し、ポンプ停止しなければナトリウムは失われます。 冷却材のナトリウムが万一沸騰すると炉内でボイド係数が正となる場所があり、そこでは反応度があがり暴走する可能があります。仮に制御棒を挿入できたとし ても崩壊熱の冷却材喪失になります。メルトダウンの可能性を排除できません。

軽水炉には格納容器内に安全弁放出蒸気を冷却凝縮するための冷却材が備蓄されています。しかし「もんじゅ」にはナトリウム蒸気冷却材は備蓄されていませ ん。従ってメルトダウン時、格納容器内に充満する高温ナトリウム蒸気を冷却液化できませんので「もんじゅ」では格納容器を大きく確保しております。格納容 器内のモーターや遮断弁などは高温のナトリウム蒸気に耐える必要があります。メルトダウンしても炉の底がぬけないように受け皿が用意されそこでは連鎖反応 は停止する形状になっています。

柏崎の原発が 地震で緊急停止したとき、4号炉の格納容器内の備蓄水があったおかげで、地震で壊れてしまった緊急冷却水が無くとも非常冷却系のバックアップとして格納容 器内底部の圧力抑制プールの備蓄水を有効利用して、4時間しのいだのです。「もんじゅ」は幸い巨大な格納容器をもっていますが実証炉となるとそういうわけ にもまいりません。どうするのでしょう?

ナトリウム循環ポンプは3系列あり、ポンプを動かすメインモーターと小型のポーニーモーターがあります。停電になるとディーゼル発電機の電力でポーニー モーターを回し、冷却を継続できることになっています。 ディーゼル非常発電機も3系列ありますが、一つが故障すれば2系列しか動きません。

ナトリウム1次系、ナトリウム2次系、水系が3段直列結合になっています。

ー「もんじゅ」のトラブルー

IHI社担当の炉外のナトリウム配管の温度計の保護管が流体振動で疲労破壊し、漏れでたナト リウムが燃えました。修理に14年 (工事は2年で13年間は法廷闘争に明け暮れる)かけて2010年、再スタートしましたが 、MHI担当の炉内中継装置を落下したとき装置が変形し、引き抜けなくなって、回転蓋(回転プラグ)のスリーブ毎引き抜くことになリました。この工事のた め、ほぼ2年は空費するでしょう。

同じく2010年、3台ある非常用ディーゼルエンジン発電機1基のシリンダーに亀裂が発見されました。

ー司法におけるもんじゅー

最高裁は2005年に運転差し止め再審の棄却判決を出しています。これは裁判史でも禍根を残す判決でした。

ーもんじゅの維持費ー

1995年のナトリウム漏れ事故以降、まったく動かないもんじゅの2014年度の維持予算は195億円で累積兆円に達する。運転再開費用は含まない。これ を中止できないのは政治の怠慢。

<統合型高速炉 IFR>

第4世代ナトリウム炉である「統合型高速炉 IFR」は米国が1995年に開発を中断したもんじゅとおなじナトリウム冷却炉に電解型燃料再処理を統合したものです。

高速炉と言う意味はナトリウムを冷却材につかうため、軽水炉のように中性子の速度が減速されず、高速のままだという意味です。プルトニウム燃料棒だけを装 填すればプルトニウム燃焼炉になり、炉心の周辺にウラン238を置けば増殖炉になります。

もんじゅでも燃焼試験していますが、殆どうごかず、データもたいしてとれていません。

燃料は金属とし、統合運用する電解型燃料再処理は使用済み金属燃料を熔融塩中で電解しウランをカソードに集めてウラン金属とし、核分裂物質は熔融塩の下層 のカドミウム層に溶かし込む。というもので揮発成分はすべて熔融塩からでてまいります非鉄の精錬なら兎も角、とても安全に操業できるしろものではないとお もいます。

ここからがサギもどきなのですが、米国からみればプルトニウムがふえなければ核兵器もつくれないから米国の利益になる。だから軍事的に米国の覇権を守れる すばらしく安全な炉だというわけです。米国は議会が予算つけてくれないから、映画監督のロバート・ストーンやエネ研の田中伸男は日本をけしかけてドンドン やれというわけ。日本政府も安保で米国にクリンチして中国から守ってもらいたいので協力したい。だからもんじゅはガタガタなのですが廃炉にできない。ナト リウムが冷えてかたまらないようになけなしの関電の電力を浪費してあたためてウン十年です。

住民にとっては核兵器はどうでもいい。セシウム、ストロンチウムなどの核分裂物質が減ればよいと思います高速燃焼炉では核分裂物質は減りません。安全だと 無知な民をだます壮大なウソがまかりとおっているのです。

<TWR炉>

Traveling Wave Reactor(トラベリング・ウェーブ・リアクター:進行波炉)という構想もあります。燃料の中を”Breeding(燃料生成)"とそのすぐ後の” Burning(燃焼)”の波がゆっくりと進行していくことによりTWRの名がつきました。これはビル・ゲーツが出資するTerraPower LLCがローレンス・リバモア研で発想されたアイディアをインテルのXeon Core processorを1,024個搭載したスパコンでシミュレー ションしている段階です。劣化ウラン(ウラン238)を燃料とし、ウラン235が必要なのは点火時のみです。一旦燃料に点火すれば、燃料供給も、 使用済み燃料の除去もなしで50年でも動き続けることができます。核燃料の精製施設、再処理施設が不要です。ナトリウムで冷却しますが反応度をどのように 制御するのか、機器の故障のときの反応停止はどうするのか未公表ですが多分制御棒で行うのでしょう。

燃料被覆管を使うそうでジルコニウム合金は使えず、高速増殖炉のようにステンレス管かになりますが、中性子照射によるスウェリング、高温によるクリープが 大問題で4年が限度です。もんじゅ用に開発されたスーパーODS(Oxide Dispersion Strengthened Steel)鋼は少し長くなる程度のようです。スーパーODS鋼は粉末冶金法で製造すします。したがって50年でも使えるような材料は、100年待っても みつからないでしょう。

 

トリウムを燃料とする原発

<トリウム炉の原理>

地殻に含まれる トリウムはトン当たり8グラム、ウランは2グラムで資源の量ではウランの4倍あります。ところがウランは大部分が海水に溶けてしまっていま す。トリウム232は 陸地に閉じ込められています。そしてレアアース(希土類)採取の残渣として世界に数十万トンの在庫があります。今の世界の原発と同じ規模(4億kW)を今 世紀末まで動かせる量です。

というわけでトリウム炉が今世界で見直されています。オーストラリアのマイケルジェフリー総督は2009年5月、「持続可能なエネルギー源としてトリウム 利用を考えるべきだ、トリウムは核兵器を生まないからだ」と述べま した。2009年10月にドイツで開催された気候変動専門家会議でも議論され、2009年12月の日中印温暖化専門家会議の声明文にも明記されておりま す。米国民主党のリード上院議員が2億5000万ドルのトリウム燃料研究開発費支出法案を提出しました。チェコでも2013年から溶融炉実験炉の建設計画 があるということです。水爆の父、エドワード・テイラーも亡くなる前、トリウム溶融炉を支持していたといいます。インドでは固体燃料を使う増殖炉にトリウ ムを混ぜる方式を研究しています。

トリウム232は90個の陽子を持っています。 トリウムは自身では核分裂しませんが熱中性子を拾って核分裂できるウラン233になります。一挙にウラン233に転換するのではなく、まず中性子 を拾ってトリウム233となり、これがベータ崩壊して、プロトアクチニウム233となり、更にベータ崩壊して、ウラン233となります。こうして生成 したウラン233をトリウムと混合して燃料とする核分裂炉です。燃料再処理が必要となります。そしてこのウラン233は核分裂して余剰の中性子を 生みますので熱中性子炉で連鎖反応が可能となります。稀少な資源であるウラン235の濃縮なしに、また高速炉なしに無限のエネルギーが得られます。

232Th + n → 233U;   233U + n → fission prod. + 2.3n

ただこの反応で余剰の中性子は0.3しかありませんので、中性子損失があると連鎖反応が継続しません。この追加的中性子源としてウラン235またはプ ルトニウム239を加えるか中性子源として陽子加速器を使うことが考えられます。カール・ルビアは加速器を提唱しています。しかし加速器が高価なことと、 電力消費が多く、多分経済的ではないだろうと考えられます。

この反応は強い放射能を持つ半減期30年程度の核分裂物質ストロンチウム90とかセシウム137を生成しますが、半減期の長いプルトニウムなどのアクチノ イドの生成が少ないというメリットがあります。

<トリウム燃料の再処理>

トリウムは常温の空気中では、表面が酸化被膜を作り、内部は侵されません。粉末状にすると常温でも発火して酸化物(ThO2)とな ります。塩酸、王水に溶 けますが、硝酸には不動態化して溶けません。アルカリにも不溶です。高温で、水素、酸素、窒素、ハロゲン元素と反応します。したがって再処理はハロゲン化 しておこなうことになります。4フッ化物は固体、6フッ化物はガスという性質を利用して分離するのです。

私はハロゲン化物を扱う化学プラントを2つ建設し、運転した経験をもちますが、化学物質というだけで極限のむずかしさが ありました。それに放射線が加わりますとすべてロボットでメンテナンスしなければならなくなり、今の福島第一のような状態になります。ほとんど稼働率は低 くとどまるでしょう。

<固体燃料>

ドイツでは1983年頃トリウムをべブルにする高温ガス炉THTR−300が運転されたが採算性悪く運転中止しました。フランスの実証炉Allegroは 2012年にgo or no go決定 予定です

カルロ・ルビアが提案した固体燃料炉は溶融鉛バスの炉心にトリウム232とウラン233の混合固体燃料を装填し、陽子加速器で陽子を溶融鉛バスに照射 するものです。

燃料再処理にはフッ素を使ってガス化分離するFregat乾式再処理法などを採用します。Fregat乾式再処理法は酸化金属廃燃料をフッ素で燃焼させて 6フッ化金属と酸素にし、深冷分離して水素で還元して金属としこれを酸化させるという工程を踏みます。副産するフッ化水素は電解してフッ素にもどすことが できます。全て放射線遮蔽壁を隔てた遠隔操作となります。また6フッ化物はガスですから、その漏洩防止に多重コンテインメントも必要となり、高度の技術を 要します。分離したウラン233はガンマ線が強く、再処理と燃料棒の製造を難しくします。そして副生するトリウム228がアルファ線放射するという問 題があります。

軽水炉で副産するプルトニウム239の焼却目的での利用も可能です。通常の軽水炉でもウラン238+プルトニウム239混合燃料を使うプルサーマルと 同じく、トリウム232+プルトニウム239混合燃料を軽水炉に装填して燃すことができます。同時に副産するウラン233も 使わず廃棄するということになります。これは米国のlightbridge社が開発した技術です。東電の元副社長の豊田正敏氏もこれを推奨しております。 ただ問題はウラン233は200年保管しておけばガンマ線が弱くなり、核兵器材料として最適となることで 核拡散を促進してしまいます。

インドでもトリウム固体燃料の研究をしているといわれていますが成功したという話はなく、米国や日本と原子力協定を結び軽水炉の導入を図っています。

<液体燃料>

一液式溶融塩炉(MSR)

米国の航空機用原子炉、米国のオークリッジ国立研究所(ORNL)でアルビン・ワインバーグの指導の下、1950-1970年代にトリウム溶融塩炉が研究 され、4年間、無事故で運転した実績があります。元東海大学教授の古川和男博士はこの一液式溶融塩炉を提唱しています。このトリウム利用構想 を京都大学の亀井敬史助 教が朝日新聞で紹介 しました。溶融塩を冷却材に、トリウム燃料をこれに溶かして使う溶融塩炉(MSR)です。トリウム232とウラン233を4フッ化物とし、これをフッ 化リチウム(LiF)とフッ化ベリリウム(BeF2)溶融塩(Flibe)に溶かして核分裂を行うので圧力容器を使わず、停止させるために制御棒挿入に失 敗しても溶融塩 を黒鉛のある炉心からドレインさせるだけで反応は停止します。黒鉛は直接溶融塩にふれます。配管系がギロチン破断しても炉心が空になれば反応は停止しま す。常時メルトダウンした状態で発電するわけですからメルトダウン事故は論理的にありえません。ただ配管や機器のどこかに穴があいておもらしする事故は化 学プラント事故と同じ程度の頻 発で発生するでしょう。熔融塩にトリウムやウラン233、核分裂生成物質が溶け込んでいますから漏れてもそこからセシウムなどが福島などのように大量に放 出されることはないとおもいます。ただ周辺数kmの犠牲は覚悟が必要でしょう。燃料交換のため運転を停止する必要もないため、稼働率は高まります。スター ト時は中性子源としてウラン235また はプルトニウム239を混ぜます。生成したウラン233を回収して炉にリサイクルします。 ウラン233は強いガンマ線をだしますのでこのウラン233のリサイクルは非常に困難なものとなるでしょう。

ただオークリッジ溶融塩炉ではU235、U233を入れた運転経験だけで、トリウムを使用していないという。またオークッリジではオフガス系のフィ ルターに臨界量のフッ化ウランが蓄積し、その部屋が水没したとき危うく臨界になる危険があったとのことです。

森永先生は本法は稀少なベリリウム資源を溶融塩として使うので、核融合炉 と同じ資源的な制約があるとしておりましたが。世界の全発電量を賄う核融合炉(1,500基)には、16.5万トンのベリリウム(埋蔵量ベースの2割)が 必要とのことで。165,000x(1/0.2-1)/1500=440years分あるということになり、心配しなくてよさそう。

フッ化リチウム中のリチウム同位体が熱中性子により、フッ化トリチウムを発生させる可能性が指摘されております。これは一次系に閉じ込め、二次系は フッ化ホウ素を加えた熔融塩にするなど工夫されています。 強いガンマ線を出すウラン233の溶融流体を一次循環系の循環ポンプによって循環させることは遠隔ロボット・メンテナンスなど高度な技術を要求されま す。溶融塩は高温のため電磁流体ポンプは使えないので気体軸封縦型片持ち遠心ポンプでしょうが、メカニカルシールや潤滑油システムが付帯しています。潤滑 油も放射 性ガスで汚染されるかもしれず人間による部品交換はポンプを格納容器から取り出して行うことになるでしょう。メカニカルシールや潤滑油システムの構造が複 雑で水洗による除染をしても、残留放射能が障害になるかもしれません。この他にも中性子で劣化する黒鉛の交換 とか火災という問題もあります。固体燃料の場合はジルコニウム保護管内上部に溜まって次第に崩壊するキセノン、クリプトンなどの放射性希ガスは溶融塩のな かをバブルアップしますので減衰するまでの一時保管タンクで無害化する必要があります。リチウム系熔融塩の7.5%は中性子で核分裂してヘリウムとトリチ ウムを生成し、フッ化トリチウム (三重水素)になります。これは腐食性があり沸点も19°Cですから気層にでてまいります。トリチウムの半 減期は12.32年です。

とはいえリチウムを遠心分離などで精製するのはコストがかかります。フッ化リチウム(MP=848C)を選んだのはフッ化カリウム(MP=860C)は当 然放射性アイソトープが増えることと、中性子経済が悪化するからだめとワインバーグは考えたそうですが生成するフッ化トリチウムが熔融塩に溜まれば、沸点 は約19Cですから、熔融塩に溶解させるのは難 しいのではないでしょうか。すくなくとも圧が上がって折角常圧の一次系の耐圧に問題がでるのではないでしょうか?放射線はさておいて、その腐食性が問題に なるのではないでしょうか?材料がなければ装置は作れません。どうせ核分裂物質はガンマ線をだすのですからカリウムをさけてリチウムにした判断が正しいの でしょうか?中性子経済は中性子エネルギーの設計値をすこし高めにすれば解決するかもしれない。

Fkabeすなわちカリウムでもいいのではと私は思います。ナトリウムも放射性同位元素がありますからカリウムと同じですが、少なくともトリチウムはつ くりません。そしてフッ化ナトリウムのMP=993Cですね。この場合はFsobe。核分裂生成物のフッ化セシウム(MP=682C,、BP= 1251C)、フッ化バリウム(MP=857C,BP=1835C)など、うじゃうじゃできるわけですからワインバーグがなぜカリウムをきらったかわかり ません。「毒をもって毒を制する」という感覚が必要ではないでしょうか?カルシウムには放射性同位元素はありません。フッ化カルシウム(MP= 1418C)とフッ化ベリリウム(MP=554C)の混合物を溶媒にするなどはどうなんでしょうか?ただ熔融温度1418Cが高すぎるのかもしれません ね。核分裂生成物のヨウ素はリチウムと結合してヨウ化リチウムになり、セシウムはフッ化セシウムとなり、沸点は 1300°Cで熔融塩に保持されます。

このように燃料循環系に蓄積するウラン233、核分裂生成物、プロトアクチニウム233を分離して自然崩壊させウラン233にする方法として Fregat乾 式再処理法があります。溶融塩にフッ素を吹き込んで4フッ化金属を燃焼させて6フッ化物としてガス化し、深冷分離する技術です。溶融塩はフッ素とは反応し ません。ストロンチウム90、セシウム137、タリウム同位体などの核分裂生成物は深冷分離または減圧脱気します。プロ トアクチニウム233は液体ビスマスで還元抽出分離します。ガス化したウラン233とトリウム232の6フッ化物は水素で還元して4フッ化物にもど し、リサイクル溶融塩に溶かし込んでリアクターにリサイクルします。 発生するフッ化水素は電解してフッ素と水素ガスに分解しリサイクル利用します。Fregat乾式熔融塩技術はフランスとチェコで開発され、ソ連で実用化さ れかかりましたが、チェルノブイリ事故で放棄され、その後、研究されておりません。

二液式溶融塩炉

カナダのオタワにあるカールトン大学のデービッド・ル・ブラン教授は二液式トリウム溶融塩炉をEnergyFrom Thoriumで提唱しています。ウラン 233とトリウムを2液に分けると分離隔壁が増えますが、ウラン233をフッ化ガス化し、分裂生成物の分離が溶融塩を真空脱気するだけとなり、プ ロ トアクチニウム233の分離が不要となるとしております。

グーグルTechTalkで元NASAのジョー・ボノメッティ博士が2009年11月19日に行ったプレゼンThe Liquid Fluoride Thorium Reactor: What Fusion Wanted To Beでは2液炉ですが、プロトアクチニウム233をビスマスで還元分離し、一定期間タンクでベー タ崩壊させてウラン233としてから炉に戻す方式を見ることができます。

<トリウム炉の放射能廃棄物と核分裂生成物の消滅の可能性>

トリウム溶融塩炉はネプツニウム237,プルトニウム239、240、アメリシウム241アクチニド(Total Actinides)の生成が少ないことが長所とされます。しかしアクチニドは核兵器転用が可能という問題がありますが、半減期が1万年と半長いというこ とは崩壊速度がゆっくりしていて放射能は弱いということですので、危険はオーバーに表現されています。ということはトリウム炉の長所としては核拡散防止に なるという点だけでしょう。

一方、クリプトン92、ストロンチウム90、セシ ウム137、バリウム141などの核分裂生成物(Total FP: Fission Products)は強い放射線をだして、扱いが難しいし、廃棄物としてやっかいです。しかしウラン235とウラン233の核分裂生成物の組成と量はJAEAのデータを見られればわかるようにおなじようなものです。そしてこの半減期は1,000年と短い。と いうことは放射能がそれだけ強いことを意味します。だからト リウムサイクルは放射性廃棄物問題を解決して はくれないのです。

さてこの放射性廃棄物を消滅するには放射性廃棄物だけを分離して溶融塩炉や軽水炉に戻し、中性子照射すれば無害化は可能です。でも放射性生成物を他の安定 な生成物と分離するには遠心分離とか拡散操作しかなく、コストがかかって実用的ではありません。溶融塩炉はこのリサイクルが簡単ということですが、化学分 離プロセスまでは組み込めますが、強いガンマ線を出すアイソトープの遠心分離まで組み込むことはエンジにリング上想像を絶することです。

だれも論じませんが、トリウム炉の廃炉コストも忘れてはいけません。これら廃棄物は深刻な課題を社会にもたらすことにも思いを至らなければならない のです。

<トリウム炉をプルトニウム焼却炉として使う方式>

トリウム炉は、火種としてプルトニウムを使うわけですが、軽水炉からでる使用済燃料を未分離でトリウム炉に供給してもトリウム炉は臨界になりませ ん。ですから再処理プラントで濃縮したものを使わねばなりません。ということは強い放射線を1,000年出し続ける核分裂生成物質は減量されず、そのまま 濃縮された形で残ります。1万年後まで残るプルトニウムは減りますが、厄介な核分裂生成物が残ります。一つ一つの核種をみれば、ものによっては熱中性子 照射で安定な各種に変わるものはあります。その一番よい例がキセノンで中性子を多量に吸収しますので、原発停止直後は再起動できないくらいと聞いておりま す。だから連鎖反応のポイゾン物質といわれるくらいです。キセノン以外も採算にのるレベルで消滅してくれるかははなはだ疑問です。といいますのも軽水炉も 当然熱中性子により核分裂反応が生じている場で、あらゆる核反応の動的平衡の結果、一定の成分で核廃棄物となり炉から取り出されているわけですから常識的 に考えてトリウム炉でこの動的平衡が大幅にずれるということは考えにくいでしょう。核計算で確認できるはずです。

私の疑問はトリウム炉もウラン233の核分裂反応なのだから、核分裂生成物の種類はウラン235とほぼ同じでしょう。これはどう消滅するのかとい う素朴な疑問が湧きます。 トリウムサイクルの初期のころはトリウム炉は中性子欠乏症だから軽水炉の分裂生成物を消滅することはできないが、後期になるとウラン233が備蓄できるの でこれを中性子源として軽水炉で生成した核分裂生成物を消滅できると古川先生は主張されています。トリウム炉でも核分裂の原理はおなじでウラン233が半 分に割れた核分裂生成物なります。ただその時、核分裂生成物の中性子の数はバラバラで放射性を持つものが多い。そこでこの核分裂生成物を熱中性子が飛び交 う炉内に長くおけば中性子が付加されて安定な生成物になる可能性はあるということのようです。でもこれなら理論的には現在の軽水炉でも同じことができると いうことになります。圧力容器をおおきくして炉心の周りを使用済燃料で囲めばよろしい。なぜしないかと言えば、1GW程度の圧力容器が材料的に可能な上限 でそれ以上余計な空間を確保できないからです。だが溶融塩炉では圧力容器がないため可能だと古川先生は考えたのでは。 でも私から見れば中性子付加数が多ければまた不安定な物質になりうるわけで、運が良ければパチンコ玉が当たり穴にはいるが、だめな時もある。このようなラ ンダムな現象に中性子を無駄につかうわけです。いわばパチンコ屋が稼ぐようにプレーヤーは長くプレーすればするほど金を失うしかけと同じ。 核分裂生成物に金をどんどんつかっていいというなら可能かもしれませんが得られる成果はその金に値しないかも、いわばどぶに金をすてるようなもの。環境汚 染をする可能性が数千炉年に1回でも原子力をつかうのは安いからでしょう。そのメリットをなくしてまで核分裂生成物の放射能を無害化する人はいないのでは ないでしょうか?

原子力が経済的に成立しうるのは使用済燃料を再処理せず保管し続けることのようです。世界がその方向に向かっているのを見てもあきらかです。六ヶ所村の再 処理プラントが6年試運転してうごかないのを見れ納得できるのではないでしょうか。製造業で競争力をうしなった日本がこんな無駄な研究を継続する余裕はな いはずです。

キセノンはガスですが、軽水炉の燃料棒のジルコニウム鞘の中にとじこめられている間に中性子がなくとも自然崩壊によって別の物質にかわります。この 原理をつかってトリウム炉の溶融塩に熔解せずにでてきてしまうキセノンはすぐ大気放出させず、一定の期間保管してから大気放出するということになります が、これだけで環境負荷は軽水炉より高くなります。

というわけで10万年の歴史しか持たない人類にとってトリウム炉でプルトニウムを減らしてもあまり意味がないとおもいます。その過程で東ウラルの廃 液爆発のような惨事が発生するだろうことを私は想定し ております。 これはインドのポバールのような事故ですが環境に放出されるものは科学毒ではなく、元素毒ですので消滅できません。プルトニウムを1万年後の人類のために 消滅させようとして、多大な迷惑料を支払わねばならないことになります。

ただトリウム炉は核兵器に転用可能なプルトニウムを消滅することができますから核拡散防止という意味では意味があります。でもこれは日本が世界の廃棄物処 理業者に身を落として金を稼ぐことになりますね。この狭い日本でそのようなことをする場所がないでしょうし、日本がプルトニウムを精製した型でもつことを 世界が許すはずもありません。むしろ核拡散防止のためにはプルトニウムは分離して取り出さないでおけば、それを盗む人は強い放射線で死にますのでもっとも 安全な保管法でしょう。唯一テロリストとミサイルがこわいですが、それは防空壕を作ればよろしいということになります。

六ヶ所村方式のプルトニウムとウランを製造装置内部で再混合して製品の方で純粋プルトニウムを製造しないMOX方式は軽水炉 だから可能であって、溶融塩炉は中性子補給目的のため、精製したプルトニウムを必要とします。これは核兵器を多量に所有して覇権を維持したい核保有国だけ が可能なことでしょう。太平洋戦争に負けた日本は蚊帳の外です。北朝鮮やイランに米国がなぜ目くじらたてるか見ればわかります。国際的協力下にどこか広大 な無人地域(もしあったら)で廃棄物処理し、副産する電力でアンモニア燃料を作ってタンカー輸出するという事業としては意味があるかもしれませんが。

<加速器を使う溶融塩炉>

カルロ・ルビアは溶融塩にフッ化鉛を20%程度溶かしこみ、陽子加速器で陽子を溶融塩バスに照射する方式も提案していますが、加速器の電力消費が大 きく所内消費が過大になり正味出力は減ります。 

Mitrailleuse 加速器によるProgrammable-ADS 炉 A new concept of ADS (Accelerator Driven Subcritical) reactor using Mitrailleuse Acceleratorというものも検討されています。半導体スイッチで直流高電圧を切り替えることで、繰返し静電加速を可能としたカスケード型静電加速 方式を採用した高エネルギー加速器を使います。


核融合

核融合はいろいろ考 えられますが、いまのところ 核融合は中性子1個と陽子1個から重陽子(Deuterium)と中性子2個と陽子1個からなる三重水素(トリチウムTritium)を融合し、中性子2 個と陽子2個からなるヘリウム4(Helium-4)と中性子(Neutron)を生成させる反応です。原料は重水素はカナダなど水力発電単価の安いとこ ろで電解プラントで副生する重水から製造します。半減期12.32年のトリチウムは資源としては存在しないので融合炉のブランケット内でリチウムと中性子 の反応で生成させます。

<トカマク方式>

電子のクーロン反発力に打ち勝つために高温が必要とされています。 発電の原理は超伝導コイルで2億度のプラズマを磁気的に閉じ込めた空間にエネルギーを継続的に投入して温度を維持しつつ(ローソン条件)発生する中性子を ブランケットで熱にし、この熱でスチームタービン発電機を回すというものです。プラズマを磁気的に閉じ込めることが出来た時間はまだ数秒程度でこれを1年 に延ばすことが可能か不明です。1兆円という巨額の国家予算を投入しているトカマク方式はディスラプションというプラズマの不安定現象のため、閉じ込め時 間を大きくできず、原因解明すらできておりません。いまのところ解決策は運を天にまかすことしかないとされています。ヘリカル型という安定に核融合ができ そうな形式も考案されていますが、まだ構想段階です。 米国のローレンス・リバモア国立研究所を創設した水爆の親、テラー博士は磁力線でプラズマを閉じ込めるなどゴムバンドでジェリーを閉じ込めるようなものだ と喝破して慣性核融合(ICF, Inertial Confinement Fusion)に大きく舵を切っています。

核融合炉ではエネルギーは高速の中性子としてプラズマから輻射されます。これを熱エネルギーに変換するブランケットの中に中性子増倍材としてベリリウムを ぺブル状に充填します。地球のベリリウム全資源は実験炉3基分しかないと開発者のベリホフは指摘しております。しかし日本ではなぜかこの問題が論じられる ことはありません でした。世界の全発電量を賄う核融合炉(1500基)には、16.5万トンのベリリウム(埋蔵量ベースの2割)が必要とあります。そしてこのブランケットに は寿命というものがありますので定期的に交換しなければなりません。その頻度は2-3年に一度か10-20年に一度かはまだ不明です。仮に消耗量が 1,500ton/yearとすれば165,000x(1/0.2-1)/1500=440yearsとなり、埋蔵量はほぼ問題はありません。ただ困った ことにこの廃棄物は放射能を帯びており、安全なレベルになるまで100年間の保管は必要となります。ブランケットは中性子を熱に変換し冷却材に伝えつつ、 超伝導コイルを中性子から守る役目もあり、かつトリチウムを製造するという3つの役目を担います。経済的な交換寿命は3年とされています。

冷却材としては水、ヘリウム、液体金属、溶融塩、合金(リチウム鉛)などです。日本原子力開発機構は水を冷却材に使いリチウムを含むセラミックスでトリチ ウムを発生させますが、リチウム鉛を使う京大方式もあります。 最後に中性子線を浴びて長期間安定な容器向きの金属材料にも不安があります。

このように核融合はまさに夢としかいえない代物です。 融合炉の反応物も放射能を持っており、この製造と取り扱いを安全にするという大問題があります。ガス体ですから常時固体のウランより封じ込めの難しい 物質です。原子力屋と言われる産学複合体が国家予算を食い物にしている構図が見え隠れします。これも箱物行政のコピーに過ぎません。オルテガ・イ・ガセットがいう「専門家こそ大衆」そのものといえます。

にもかかわらず、日本は欧州とともに国際熱核融合実験炉(ITER)に参加しました。フランスのカラダッシュで基礎工事が始まっています。しかし1兆 7,000億円の総事業費 (半分は建設費で物納)が増え、炉の完成は2026年になるとのことです。日本が核融合に熱心だったのは水爆原料となるトリチウムが欲しかったというう がった見方もあります。

<パワーレーザーレーザービーム>

米国は早々とトカマク方式に見切りをつけ1999年、慣性核融合に舵を切りました。これは外部から192本のパワーレーザーレーザービームを照射して燃料 標的を圧縮・加熱し、核反応を促進するものです。しかし設計上の問題が発生して2003年にITERに復帰。2009年5月にはローレンス・リバモア国立 研究所で 192個の強力なレーザーをもつレー ザー核融合研究施設が完成しております。開発は継続し、2013年秋に自己加熱に成功しました。ただ装置に歪みがあり、レーザーのエネルギーの99%は直 径2mmの重水素と三重水素の燃料ペレットには当たらなかった。ヨーロッパでも欧州 委員会がレーザー核融合の商業化に舵を切っております。

2020年にはIEEEのSPECTRUMでは5つのアイディアを紹介。

MCF  Magnetic Confinement Fusion

ICF    Ityernal Confinement Fusion

MTF   Magnetazed Target Fusion

FRC  Field-Reversed Configuration

Stellarator


<常温核融合>

常温核融合は一時期、盛んに研究されましたが、いまだナゾの多い現象で現在で はあまり研究されていません。

<ミューオン触媒核融合>

最近はミューオン触媒核融合反応というものも構想されています。トリチウムの電子軌道にミューオンを加速器で加速させて ぶち込むと、ミューオンは電気的に中性のため、クーロン力が働かず、高温にしなくとも重水素とトリチウムが核融合を起こすと期待されています。でもトリチ ウムな内部被ばくの原因物質ですから怖いエネルギー源であることに変わりはありません。


原発や燃料再処理工場から常時放散される放射性ガス

原発にはまだ未解決でかつ解決不能の問題があります。原発の核分裂や六ヶ所村の燃料再処理工場から常時放散されるキセノン、クリプトンなどの放射性希ガ ス、トリチウム(三重水素) 、ヨウ素131の影響です。半減期が短いためと生物に吸収されない不活性ガスのため、希釈して大気放散すれば、放射線被爆は低いとされています。ただヨウ 素131は生体に吸収されるため問題となります。六ヶ所村のモニタリングステーションでは、今までの自然界の変動幅を大きく上回る濃度が観 察されており、ガス性放射能の影響が確認されています。

キセノン125は半減期16.9時間、キセノン127は半減期36.4日、キセノン133は半減期5.243日、キセノン135は半減期9.1時間で大気 中に蓄積しません。しかしクリプトン85の半減期は10.756年、トリチウムの半減期は12.32年です。トリチウムは三重水となって放流水にクリプト ンは大気中に次第に蓄積します。

これら希ガスは原発の燃料被覆管壁を貫通して漏れ、また燃料再処理プラントで被覆管を切断すれば放出されます。六ヶ所村では、年間800tの使用済核燃料 を処理する予定で、排水中に1.8京ベクレル(1.8×1016Bq)、排気中に1,900兆ベクレル(1.9×1015Bq) が放出されるとされています。

トリチウムはまた冷却水中の重水素の中性子吸収、PWRでは反応度制御にホウ酸をつかいますので水素イオン濃度制御のた めに水酸化リチウムも注入します。このリチウムが中性子反応でトリチウムを生成しますのでPWRではトリチウムが水となって定期点検時に放流されます。三 重水素は普通の水と分けがたく、体内にとりこまれ、胎盤経由で胎児にも吸収され内部被ばくの原因になります。

原発では原子炉内構造物の応力腐食割れ防止のため、炉内の水に水素を注入しております。また冷却水は放射線で分解して水 素を発生させます。冷却水中の酸素 は中性子を浴びてC14になります。こうして復水器 抽気に出てくる水素は酸素を注入して白金触媒で接触酸化させて水にしております。燃料被覆管壁を貫通して漏れ出るトリチウムは水素と一緒に酸化され三重水 になりま す。これは大量の冷却水で希釈して海に放流しております。キセノンなどの希ガスは活性炭に一次吸着させて放射能の減衰させてから大気放散をしておりますが クリプトンの半減期は長いので10年の長きにわたって保管できず 、そのまま大気に放散されます。C14は酸化雰囲気にすると熔解していたC14がアセトアルデヒド、メタノール、エタノール、アセトンとなって脱気してき ます。

放射性希ガスやC14測定は法で義務化されておりません。原発や燃料再処理周辺のモニタリングするステーションが対象に しているのはマンガン54、コバルト60、ジルコニウム95、ニオブ95、ルテニウム 106、セシウム137、セリウム144、プルトニウムなど固形物核種だけです。大気圏原爆実験が停止されてから確実に減少傾向だそうです。

つくば気象研究所が行ったクリプトン85の大気中濃度測定では2004年の時点で約1.4Bq/m3で毎年0..03Bq/m3/ 年の速度でほぼ直線的に増加を続けていました。これを2060年まで外挿しますと3.08Bq/m3(年間0.3ミリシーベルト) となります。日本の六ヶ所村の再処理プラントが稼動すれば増加速度は増すはずです。ただ米国のEPAが定めたラドンの実内濃度の安全レベルは 150Bq/m3(約毎時1.8マイクロシーベルト、年間16ミリシーベルト)というのでまだ余裕はありそうです。

筆者は1970年代に米国で放射性希ガスを液化し、放射能が減衰するまでタンクに貯蔵する設備を試作していることを目撃しました。担当者によるとコストを 理由に実用化はあきらめたとのことでした。

望月リポートによれば2007年12月にドイツ放射線保護庁BfSが、23年間にわたる統計データを基にした、原発の近所における子どものガン発症に関す る疫学的研究、略称KiKK報告書を発表しましたが、「原発の立地場所の周辺では5歳以下の子どもの白血病に罹るリスクが高くなる」というこの報告書の中 心的な結論の重大さと結論を導く方法が純粋に統計的であったために、連邦環境省はBfSとは別の機関である放射線保護委員会SSKにこの報告書の内容を再 検討するように依頼しました。SSKは予定どおり、9ヵ月間の検討を経て、2008年9月26日に再検討の報告書を決議しました。これを受けて連邦環境省 は2008年10月9日に 「@原発の立地場所から半径5km以内に住む、5歳以下の子どもは白血病を発症する確率が有意に高いというKiKK報告書の結論は正しい。A原発のつくり だす放射線への曝露によっては@の結論は説明できない。したがって、@の結論の原因解明は今後の研究課題である 」とのプレスリリースを発表しております。

小児白血病の原因として原発から放出されるC14が原因だという証拠として送出量の棒グラフを示しております。グラフは一年周期でピークがでていま す。定期検査時に高くなっています。ドイツはPWRとBWRを使っています。PWRの一次系を検査のため開放するとき、還元雰囲気で運転していた一次冷却 水に過酸化水素を加えて酸化雰囲気にすると熔解していたC14がアセトアルデヒド、メタノール、エタノール、アセトンとなって脱気してきます。むろんこれ らはフィルターで一部捕捉されますが一部は大気にでてきます。炭素同位体は生体に容易に取り込まれてしまうので白血病の原因となるのでしょう。

日本では 関西はPWRですが、関東はBWRです。BWRは一次系がタービン・復水器を循環していますから常時溶存放射性ガスは復水器からベントしなくてはなりま せん。むろん吸着器経由ですから少なくはなりますが吸着できなかったC14はそのまま出てきてしまいます。積算生成量はPWRもBWRも同じ ですがPWRトリチウムもでますので日本の原発周辺の幼児白血病は原子炉の様式に関係なく高いはずです。しかし原発との距離で整理した統計が存在しないた め、不明のままです。こうい う研究に政治家は予算をつけるべきでしょう。

 

長崎原爆でのプルトニウム降下量

近畿大の山崎秀夫准教授が長崎市の西山貯水池の水底から深さ6mの泥のコアを採集してプルトニウムを測定したところ1945年層で1kgの泥にプルトニウ ムが303ベクレル堆積しおり、ピークを形成しております。長崎の原爆以後の黒い雨が流れ込んだためと考えられています。大気圏内核実験で降ったプルトニ ウムは1960年代が世界的に最高値となりましたが西山貯水池では14ベクレルしかなく、その後は着実に減少しております。セシウム137も同じ傾向にあ るとされています。

 

軽水炉廃炉後の廃棄物処理

110万キロワットの原発を廃炉にすると50-55万トンの廃棄物がでます。そのうち放射能で汚染されたものは3%とされています。制御棒や炉内構成材な ど放射線が強い部材は地下50mで100年間保管することになっていますが、埋設場所はどこも決まっていません。

浜岡原発の1号炉54万kWと2号炉84万kWの解体費用は840億円(61,000円/kW)に膨れ上がり当 初の目論見の2倍です。全国の原発55基のうち運転開始後30年以上のものが17基あります。最長60年稼動させる是非はともかく、いずれ廃炉になること は確実であります。

 

原発の大規模放出事故のリスク

原発には大規模放出現象による放射能汚染のリスクがあります。原爆は爆発時発生する多量の中性子線による死傷で、残留放射性物質はグラム単位で大したり量 ではありません。したがってその後も生き残った人々はそこで暮らし続けることが可能です。このような意味で放射能はジェームズ・ラブロック氏の指摘のとお り、一般大衆が原爆の悲惨さから導き出したイメージとはことなります。

軽水炉はチェルノブイリの黒鉛を使った炉のようにそれ自体では核反応の暴走は生じないように設計されておりますし、チェルノブイリには用意されていなかっ た格納容器も用意されています。

しかし設計時想定していない、地震、航空機墜落事故、多重に用意されている冷却系の喪失または誤操作などでシビアアクシデントが生じ、溶融炉心が格納容器内に漏 れでてくると水蒸気爆発による格納容器の破壊、溶融炉心による格納容器のコンクリート床の熱分解が生じます。放射性物質が格納容器内部に出てくればコンク リート製格納容器の壁を貫通する放射性ヨウ素の漏洩などが発生します。

原子炉は長期にわたっての運転中にトンに達するオーダーの放射性物質を溜め込んでいます。これを格納容器内に封じ込めることができず、大気に放出されます と軽水炉でもチェルノブイリ級の大規模放出現象が発生すると想定されます。そして最悪、半径300kmの範囲内が長期間居住不能となります。寿命の短い生 物は比較的被爆量は少ないのですが寿命が長い人間が長期間放射能に暴露されるリスクをさけるため居住不能になります。

居住不能期間はカルシウムやカリウムになりすまして生物に摂取される半減期28年のストロンチウム90や半減期33年のセシウム137が参考になります。

人間が立ち入らない地域はかえって自然保護になるというパラドックスさえありますが、広範囲 の放射能汚染は第二次大戦より大きな経済的インパクトを日本にもたらすでしょう。ソビエト連邦が崩壊したのもチェルノブイリ事故が契機となったとされてい ます。

チェルノブイリ原発事故のとき南西の風でした。高温で成層圏まで吹き上がった放射性物質が雨となって降りそそぎ、ベラルーシュとウクライナの地を汚染しま した。避難勧告の限界汚染レベルが1平方キロメートル当たり15キューリー以上または年間被爆線量1rem/y= 10mSv/y=1.1mSv/h以上となった範囲はチェルノブイリ原発を中心にして半径 320kmの範囲でした。レム(rem)の名称はroentgen equivalent in man(エックス線の1レントゲンと同じ生物学的効果のある量の意)からきています。

ドイツ在住の望月氏によれば「ドイツの秋は狩猟のシーズンで、イノシシの肉が食卓を飾ります。ところが、チェルブイリ原発事故から24年経つ今でも、当 時、もっとも激しく汚染された南独バイエルン地方では、野生のイノシシの肉が食品の放射能許容値であるキロあたり600Bqを超えるものが、獲物の約 1/5にも及ぶそうです。そういう肉は、バイエルン州政府が買い上げて廃棄処分にします。買い上げ価格は、肉キロあたり4.09ユーロです。そして昨年は 総額で424,650ユーロの補償金が支払われたそうですので、年間100トン強ものイノシシ肉が残留放射能のために廃棄されたことになります。

日本で放射能漏れ検査に従事している原発・燃料再処理工場の労働者が1年間に浴びる累積被爆量は50mSv(ミリシーベルト)ですが実際の平均値は1.3 ミリシーベルト、最も多く被ばくした作業員は19.7ミリシーベルトだったとのことです。しかし規定の累積被爆量に達せずとも白血病や急性放射線症以外に も悪性リンパ腫、多発性骨髄腫で死亡している例が労災と認定されています。

実効線量(mSv) 人体に対する放射線の影響
0.1〜0.3 胸部X線撮影
2.4 一年間に人が受ける放射線の世界平均
4 胃のX線撮影
7〜20 CTスキャンによる撮影
50 原子力関連業務につく人が一年間にさらされてよい放射線の限度
250 白血球の減少。(一度にまとめて受けた場合、以下同じ)
500 リンパ球の減少
1,000 急性放射線病の危険。悪心、嘔吐など
2,000 出血、脱毛など。5%の人が死亡する
3,000〜5,000 50%の人が死亡する
7,000〜10,000 100%の人が死亡する

表-2.8 放射線が人体に与える影響

浜岡原発上空650kmの地点から視野角10度の広角レンズを真下にむけ、半径1,000m以内を撮影したとして作成した日本地形図の上にチェルノブイリ の避難勧告の出た汚染範囲をオーバーラップさせると図-2.14のようになります。ちょうど日本の首都圏がすっぽり入る広がりです。暗 紫色は15キューリー/km2(555,000Bq/m2)を越えるホットスポットに相当します。番号は既 存原発の場所と炉の数です。

日本の国土の66%は山林です。このような人間がつかえないところを除いた有効面積当たりの人口密度は日本では英国やヨーロッパに比べ6倍も高いのです。 従って放射能により土地を失うというリスクは他国より6倍高いということになります。ヨーロッパ、米国、中国、インドは大陸国で、英国ですら山岳地帯は 25%と少ないため、人口密度は低く、放射能漏洩による土壌汚染の経済的リスクは日本より低いでしょうし、地震も少ないでしょうからグローバル・ヒーティ ング防止に原発を増設するというオプションはありうるかもしれません。しかし人口密度の高い日本ではどうでしょうか。


図-2.14 浜岡原発とチェルノブイリ原発の汚染地域を同じスケールの上に重ねる

color

Ci/km2

min. Bq/m2

min. Bq/cm2

min. mSv/y

light purple

1 to 5

37,000

3.7

3.4

red purple

5 to 15

185,000

18.5

16.9

dark pirple

>15

555,000

55.5

50.6

ここで汚染土壌から人体への吸収量は経口被曝係数を1Bq=0.000013mSv @ 1mm とし、8m2 の地面から1m 離れた人体が1年間被曝する量としました。

ヨハネ黙示録」8 章にアブサンの原料に使われた有毒のニガヨモギという草がでてまいります。原発からの大規模放 出現象が発生したウクライナのチョルノブイリ周辺には防虫剤に使われる同じキク科ヨモギ属のオオシュウヨモギ(ウクライナ語でチョルノブイリ、直訳すれば 『黒いディル』、ロシア語でチェルノブイリニク)が自生してしていたため、オオシュウヨモギが村の名前になったとメアリー・マイシオが「チェルノブイリの森    事故後20年の自然誌」で指摘しているの読んだことがあります。ニガヨモギは厳密にはロシア語でポリンというのだそうですし、「ヨ ハネ黙示録」のニガヨモギはベルモット(ドイツ語のvermutはニガヨモギ)やアブサンの原料に使われるニガヨモギではなく、その近縁種だそうですが、 たまたま当論文のタイトルの黙示録とチョルノブイリに 因縁のようなものを感じたものです。

日本ではチェルブイリ原発事故などといっても別世界の出来事のようで実感が湧かないが、ドイツでは事故から24年経つ今でも、このように、まだまだ、大き な影響を蒙っているというお話です。この話はドイツの全国紙 DIE ZEIT の2010年11月11日付の記事に載っていました。チェルブイリ原発事故の死の灰が降った地域の地図も載っていますがドイツ、フランス、英国、北欧など 欧州のかなりの面積が汚染されたことが分かります」とのこと。

 

リスク分析

山本定明の「原発防災を考える」によれば、原子力大事故のリスク分析は殆どアメリカの原子力委員会(AEC)が行ったものでProbabilistic Risk Assessment、PRAを駆使するRasmussen Report(WASH-1400)が理論的主柱です。しかし1975年、アメリカの物理学会はProbabilistic Risk Assessment、PRAを科学的なものではないと批判しました。しかしNRCはいまだこれをベースとして設計を評価しています。チェルノブイリ事故 後の1986年、Nature誌に多数のPRA批判の論文が掲載されたと望月氏は記憶しています。

日本はなにもしないで言葉狩りだけを行っています。たとえば「事故」を「事象」といったり、PRA(probabilistic risk assessment)をPSA(probabilistic safety assessment)と言い換えたり倒産寸前までいったIBMが言葉狩りをしていたことはルイス・ガースナーが指摘しております即ち日本は老大国 IBM化しているのでしょう。

year

report

description

1957

WASH-740

"The Brookhaven Report" Prepared for Price?Anderson Nuclear Industries Indemnity Act

1965

WASH-740 Rev.

Secret Report

1973

WASH-1250

"Nuclear Power Plant Safety" 邦訳「原子力安全性ハンドブック」

1975

WASH-1400

"Rasmussen Report" based on Probabilistic Risk Assessment、PRA(日本では言葉狩りでPSAと言い換える)

1975

アメリカの物理学会 (APS報告)

WASH-1400 のPRAは科学的なものではないと批判をするもNRCはいまだこれをベースとしている。安全距離は800km

1986

Nature誌

チェルノブイリ事故 後PRA批判の論文掲載

1991

NUREC-1435

1979年のスリー マイル島事故後の行動計画

1990

NUREC-4550 & 4551

Mark-Iピーチ ボトム原発の全電源喪失(シビアアクシデント)解析をPRAで行い格納容器ベントの必要が分かった

1990

NUREC-1150

グランドガルフ BWR、サリー、ザイオン、セコイヤPWR原発をPRAで行い事故シーケンスを調べて確率を下げるようにした

1992

通産通達

シビアアクシデント 対策指令

表-2.9 原発リスクアセスメントの歴史

 

原発事故はべき分布

1974年のProbablistic Risk Assesment; PRAという手法を使うラスムッセン報告書'The Reactor Safety Study' An Assessment of Accident Risks in Commercial Nuclear Plant(WASH-1400 NUREG-75/014)は日本の原子力村の住人が隕石よりまれだと主張する根拠となったものです。実際にはスリーマイル島もチェルノブイリ事故もラス ムッセン報告書と大きくかけ離れたものでした。これは想定したシナリオのリスクしか計算できないのです。PSAはNASAで用いられた障害樹(fault tree or FT)に従って故障確率をブール代数で計算するものです。設計思想を固めるには非常によいツールですが、想定しない障害樹の故障確率は計算しません。現に スリーマイル島事故はFT解析では事前に予測できませんでした。使い方によりますがIPCCモデルと同じく、ブラック・ボックス化してますので大衆の認識操作」には好都 合な手段となります。

スリーマイル島事故を予測できなかっため、アメリカ原子力規制委員会はオークリッジ国立研究所に委託 し、原発の確率を求めました。それによると大事故が起きる確率は1/4,200炉・年でした。世界に400基の原子炉が運転中なので10年に1回重大事故 が発生 することになります。

チェルノブイリ後はワールドウォッチ研究所のC・フラビンは大事故は回2,000炉・運転年であるとしました。

Bulletin of Atomic Scientists1 9 April 2011掲載のM. V. RAMANAのBeyond our imagination: Fukushima and the problem of assessing riskでシビア・アクシ デンツの確率は1/1,400炉・運転年としています。また1978年のRisk Assessment Review Group Report to the NRCは "conceptually impossible to be complete in a mathematical sense in the construction of event-trees and fault-trees … This inherent limitation means that any calculation using this methodology is always subject to revision and to doubt as to its completeness."とまで言っております。

そもそも1974年のラスムッセン報告書に先立ち、1955年にブルックヘブン・チームがまとめた「ブルックヘブン報告」がありますが、原子力委員会に とってあまり好ましくないこの報告内容は、長い間、公表されずにいました。おなじことが日本でもあります。1960年に原子力産業会議が科学技術庁の依頼 で纏めた「大 型原子炉の事故の理論的可能性および公衆損害額に関する試算」が長い間公表されませんでした。

タレブは「ブラック・ス ワン」で米国のリーマン・ショックに端を発する金融危機は金融リスクをガウス分布で予測する危険確率で回避できると皆が考えていたことに原因があ るとしております。 ナシーム・ニコラス・タレブはブラック・スワンとは「まずありえない事象のこと」で@予測できない、A非常に強い衝撃を与える、B一旦発生してしまえば、 いかにもそれらしい説明がでっち上げられ偶然には見えず、あらかじめ分かっていたように思えるという3つの特徴を持つものと定義しております。

ガウス分布を前提にするブ ラック・ショールズ式などは全く信用できない代物でロングタームが倒産したのも2008年の金融危機も当然おこるべくしくしておこった。ノーベル 経済学賞はノーベル財団の正規な賞ではないが、ガウス分布を前提にするような理論は百害あって一利なし。学会の腐敗を物語る以外のなにものでもない」とい うのです。

タレブは言及していませんが。原発の放射能大量放出事故はべき乗分布に従うのではないかとの危惧が頭の中で閃きました。そこで早速過去の事故統計をひっく り返して、べき乗分布であることを確認しました。米国の政府機関であるNICの顧問で地政未来学者マシュー・バローズらも原発はブラックスワンのリスクを 抱えていると言明しています。 総合知学会のメンバーで千葉工業大学でエージェントモデリングで既存の経済学が予測できない経済危機を記述しようとしている荻林成章先生も原発の事故統計 が物理学のカオス理論から導かれる「べき分布」で表現できることは最早常識だとされています。

OECD  2010 NEA No.6861にスイスのPaul Scherrer Institute (PSI)が作成した"Comparing Nuclear Accident Risks with Those from Other Energy Sourcesという報告書にFrequency-consequence curvesというのがあります。これは横軸に事故の死亡者数x、縦軸にxを発生させたGW-year当たりの累積確率を両対数目盛にプロットしまもので これはべき分布です。しかしこれは死亡者数ですから化石燃料事故には適した統計ですが、人々が故郷を追われる面積をxにしなければ事故直後の死者が少ない 原発事故のインパクトを表現できません。そこで避難面積に比例する放射能放出量をxとする統計が必要となります。べき分布に類似の統計は: Comparing Nuclear Accident Risks with Those from Other Energy Sourcesというものです。

<べき分布図>

べき分布を確率密度 関数(Probability Density Function)で表すと

p(x)=Cx-α-1

式で表せます。xは放出される放射能で単位はGW-year当たりのキューリー。p(x)は確率密度関数で単位は1回/GW-yearです。C= 0.01411、 α= 0.289となります。原子炉出力が1GWの場合GW-yearは炉・年とおなじです。xが小さいと α= 0となります。

べき分布、ポアッソン分布、ガウス分布の確率密度関数を同じスケールで表示したものを図2-15に示します。ポアッソン 分布のλ=0.5、ガウス分布の平均値μ=0、標準偏差σ=8のケースです。



図-2.15 各種確率密度分布図

べき分布に平均値は存在せずスケール・フリー(スケール不変性)です。とはいえ崩壊熱事故の場合は放出される放射能の 最大値は炉内にあった核分裂物質量を超えることはありません。ただ核分裂暴走事故の場合は最大値は装填した4%のウラン235全量に相当する核分裂物質に 等しくなることを否定できません。

ポアッソン分布やガウス分布の考えに囚われているとロングテールが表現できないためスリーマイル島やチェルノブイリ事故は例外的異常現象として無視せざる をえません。ポアッソン分布やガウス分布を前提に物事を考える原発 開発当事者はロシアの出来事だとか格納容器がないためだとか屁理屈をつけて例外的異常現象としてカウントせず106炉年に1回とし ているわけです。格納容器などは圧力容器が激しく蒸気爆発したらひとたまりもありません。多重封じ込めは単一の出来事で多重性を失うのです。金融業界はさ すがにテール・リスクをどう見込むか真剣に検討を始めているにもかかわらず、電力業界と政府はガウス分布という都合のよい理論に逃げ込んでテール・リスク を無視し続けています。

<考察>

原発事故がなぜべき分布となるかというと、5層の多重閉込機構があっても核エネルギーは膨大なため、巨大地震も原因にはなりますが、地震がなくとも小 さな間違いや故障が大きく増幅され、一旦メルトダウンが生じるとシステムに統計物理学で重要な概念の一つである相転移が生じ、構成要素の信頼性が極端に低 下します。 相転移が起きる前後では、たとえば比熱などの物理量がベキ分布に従うことが多い。このことは、相転移の前後では典型的なスケールが存在しないということを 意味している(スケールフリー)。この現象はまさにカオスまたはフラクタル的な現象で ある。こうして多重システムは簡単にうちやぶられます。システムから放出された高温の放射能放出物を含む水蒸気は空気より軽いですから成層圏まで吹き上が り、自己膨張で冷却されて雨となって地上に降り注ぎます。図-2.4の汚染地域の形をみても地面に水をこぼしたパターンと似ていてこれもフラクタル的な現 象であることが理解できると思います。放出量が大きくなるほどその確率はさがるという常識的にも一致します。

次節の「放射能コンテインメントの信頼性」でフォールトツリーモデルを使った原子炉のコンテインメントの信頼性計算を見てください。想定したシナリオの確 率は計算できますが、想定できなかった 原因で相転移が生じることは想定しないかぎり計算できません。解析のまえにまず認識がなければなにも分からない。そして全てを認識することは不完全な人間 には不可能であるということです。

私はかってM重工のコンサルタントとしてイランLNGプラントの概念設計をしたとき、リダンダンシーに関するコンセプトを評価するために原発で開発された フォールトツリーを使いました。しかし、神戸地震で私が基本設計したM商事のLPG基地が破壊されたとき、10万人を避難させるかというところまで追い詰 められました。そのとき、地震直後横浜から現場に飛んだわが社の社員の自己犠牲的献身によりプラントを危機から救い出しました。LPGはじゃじゃ漏れでし たが、東電のように無能ではなかったのと放射能がなかったので救い出せたのです。東電のLNG発電所からの送電網が落ちたときも多重システムに情報を分け る分岐点は一重です。そのコンピュータ素子を保守員が間違って引き抜いたという想定外の事故でした。そういう経験から設計時に行うフォールトツリー分析は 無意味だと感じたのです。かならず想定外のことが起こるのです。

この「想定外はかならず起こる」ということは永遠に真理です。総合知学会ではこれを「非知」といいます。人間が想定できる能力はその認識の程度で限界があ ります。しかし自然は無知な我々の想定していないところを水が低きに流れるように見つけ出すのです。こうして「非知は既知になる」のです。

人間の認識とは不思議なもので米国の権威らしきものがいうと日本人は大学教授を先頭にこころから信じるのですね。戦後できた原子力工学科なるものはこれを 信じるように洗脳する機関でした。だからデタラメ(斑目)安全委員長以下の原子力村という信者団体が生まれたのです。私も親戚の人が東北大学で原子力工学 科を創設したのを裏で見てますが、機械工学の助教授だったのが米国に留学して帰ってすぐ教授ですから、ようするに教授の椅子をつくるために原子力工学科を 創設したと分かり、胡散くさいと敬遠したことを覚えています。歴史的にいえば日本の大学教授の権威は自分で作ったものではなく、米国の教授連の権威を借り て威張っているわけですから。その肝心の米国人はもしかしたら俺達は間違っていたかもしれぬと言い出しているのに、日本の狂信者たちはいまだに原発はコン トロール出来ると心から信じているところが滑稽です。

原発関係者(原子力村の住人)は原発事故は落ちてくる隕石に当たるようなものだといいますが、隕石の落ちる確率はガウス分布で説明でき8ます。隕石が人に 当たって人が死んだという記録は ないように、その確率などゼロに等しいでしょう。プリンストン大の研究によれば地球の文明が破壊されるほどの天体衝突が今後100年以内に起きる確率は 1/5x10-7としています。 このように原子力村の住人は原発事故の確率を整理したべき乗則を故意に無視してきました。

マーガレット・サッチャー首相は「予期せぬことが起きると、いつも予期していなければならない」 と言っていますが、日本国政府は彼女のリーダーシップで作られたIPCC予言に従って原発推進するだけで、こちらの警告は耳にはいらぬようです。

私がたまたま、ニューヨーク近郷に仕事で滞在していたとき、エクソンのHーオイルのリアクターが爆発してロケットのように飛んで数百メートルのところに落 ちたのをTV中継でみたことにあります。このリアクターは原発の圧力容器と全く同じ基準で設計され、多分同じシッピング・ポートのメーカー製のはずです。 このような意味で鎌倉の風上にある浜岡原発 や横須賀の原子力空母が怖い。もし事故がおこったら中部電力や日本国家を訴えるつもりですが、多分つぶれて、国家と対峙しなければならないでしょう。訴訟 費用だけは確保しておこうと思います。

しかし鎌倉の住民にとっては怖いといえば横須賀の原子力空母のほうがもっと怖いかもしれません。なぜかというと高濃縮ウラン燃料を使い、2基の原子炉の総 出力808MWという発電所なみの原子炉の燃料棒は17年間燃料棒の交換もしませんし、内部の検査もできません。そうすると核分裂物質をたっぷり溜め込ん でいます。これが漏れたら手もつけられません。多分日本海溝まで曳航して沈めるより手はないのではないでしょうか。ただ大部分の時間は西風ですから鎌倉で はなく、千葉方面に流れる可能性が高いということでしょうか。

2011/3/11の福島メルトダウンは全電源喪失による崩壊熱の暴走でした。しかしポンプの主軸折損、パイプ破断、制 御系暴走、などで分裂連鎖反応をとめられなければ炉内4年分の分裂物質がすべて炉外に放出されることも考えなければならないことをこのべき分布は示してて います。現にポンプの主軸折損は玄海原発3号機で2011/12/9に発生しています。

<再稼動とべき分布>

べき分布を解析とか汎関数で理解しようというところに無理があると思います。伝統的な科学が頼ってきた要素還元主義では 理解できない複雑システムが創発する現象だからです。生データか、コンピュータシミュレーションでしか理解できない現象でしょう。

原発のような精密なものがなぜ地震やガラスが割れて粉々になるような自然現象とおなじように事故確率がべき分布になるのかということは、複雑な人間系が 入ってくるからと説明できるのではないでしょうか。あらかじめ考えておいたことがすべてハズレたとき、メルトダウンまであたえられた時間が2時間しかない というということに基本原理がありますね。こんな短い時間に何の状況データもなくてなにかせよといっても無理。ほとんどガラスがわれるのと同じ現象でしょ う。

ではなぜあらかじめ考えておかなかったかというとこれも人間系が原因で、それはあらかじめ考えること自体が原発を否定することだからではなかったのではな いでしょうか?

ようするに原発は人間系が扱える代物ではないということでしょう。特に人間系がぐるぐる回り、すなわちコンピュータコードでループしている日本においては です。フランスがうまくやっていることは不思議だと森永先生はいっています。多分ループができないような社会的な知恵があるのだと思いますが、わかりませ ん。

この基本を否定して再稼動するというのは基本原理を理解したくないということにつきます。ですから原発をやめるには一般庶民の恐怖心にたよるしか手はない と思って私は情報を発し続けているのですが。

原子力学会が政府の片棒を担いで防災だなんだといっていますがこれは事故は避けれれないから被害者をどう納得させるかというPR技術にすぎないと私は思っ ています。ですから原子力学会は防災防災というわけでこれはサイエンスではなく単なる政治ではないでしょうか。

おなじことはバブルとその崩壊で、人類が繰り返してきたことでこれは今後も発生するでしょう。原発であれ、他のエネルギー関連システムであれ、いつかはわ かりませんが事故は公平にやってきます。貧富の分布もべき分布になっていて太古の昔から解消されたことはありません。これはほとんど人知の及ばないことで はないでしょうか。それができるというのはどこかに政治的なウソが隠れています。マルクスだって無力だったではないですか。

それに気が付いた少数の人は原発懐疑派となり、気がつかなかった人、あるいは気がついたが、今更足を洗えなかった人が原子力カルト集団を作り頑張っている という構図でしょう。


確率論的リスク分析

前の章では事故統計から事故確率をもとめべき分布になり、ロングテールを持っていることを示しました。別の方法として構成要素のそれぞれの故障確率からシ ステムの故障確率を計算するのが確率論的リスク分析(PRA)であります。信頼性の低い 部品を並列にすれば、信頼性の高いシステムをくみ上げる手法として設計者や評価者が使う方法です。

PRAはW. Vesely: Fault Tree Handbook. NUREG-0492, U.S. Nuclear Regulatory Commission, Washington DC1981に準拠して行われますが、ここでは超簡略化してその概念だけおさらいしましょう。PRAの手法の一つにフォールトツリー手法があります。これ は原 発事故が発生する原因となる要素の故障確率と要素の結合関係からシステムの事故発生確率を推算するものです。

原発の構成要素の平均故障期間をMTBF(Mean time between failures)とすれば故障の確率密度関数は指数分布(ポアッソン分布)となり、その密度関数pは

p(t)=λe-λt

となります。ここで指数λ=1/MTBFです。

指数分布の累積分布は

P(t)=λe-λtdt=1-e-λt

となります。ここでλt<0.1の時、

Pλt

が成立します。

要素が並列または多重に配列されているとフォールト・ツリーがANDゲートとなり、ブール代数で

P(A and B) = P(A ∩ B) = P(A) P(B)

となり乗算法則がつかえます。

構成要素が直列に配列されているとフォールト・ツリーがORゲートとなりブール代数で

P(Aor B) = P(A B) = P(A) + P(B) - P(A ∩ B)
P(A ∩ B) <.01であれば誤差の範囲で

P(A or B) ≈ P(A) + P(B), P(A ∩ B) ≈ 0

となりますので、加算法則が使えます。

システムの事故確率はこの乗算法則と加算法則を組み合わせて計算します。福島で生じた事故を簡便なFT手法で記述をしますと

component λ fission stop cooling containment
control signal 0.001 |                      
control rod 0.001 |OR= 0.002 |
               
boric acid 0.01 - - |AND= 2E-05 |              
DC power 0.001 - - - - |              
AC power 0.01 - - - - |              
heat sink 0.01 - - - - |              
IC or RCIC 0.01 - - - - |OR 0.031 |          
ECCS 0.01 - - - - - - |AND= 3E-04 |      
pool water 0.01 - - - - - - - - |OR 0.01 |  
RPV 0.5 - - - - - - - - - - |  
PCV 0.8 - - - - - - - - - - |  
building 1 - - - - - - - - - - |
manual operation 1 - - - - - - - - - - |AND 0.00412408

表-2.11 福島事故の簡易FT表示

OR結合しているものは制御棒制御信号と制御棒、DC電源とAC電源とヒートシンク、ECCRと備蓄水です。

AND結合しているものは制御棒系とホウ酸注入系、IC/RCICとECCR、備蓄水とRPVとPCVとビルと手動操作です。

RPVは脆性破壊を想定すればBWRでλ=1/30,000 year-1、PWRでλ=1/20,000 year-1程 度とされます。(2009年の高浜1号炉の脆性遷移温度は95C、玄海1号は98C、米国の当初の基準値93C、現在の米国の基準値132C、1970年 代の圧力容器は銅の不純物が多くもろい)しかしメルトダウンすれば役立たずで底が抜け る確率 は0.5となります。(ちなみに1970年代のPRVは銅などの不純物を含み脆化しやすい)PCVもメルトダウンのコリウム の高温でボルトが伸び、フランジリーク、ケーブル貫通部のシール不良でガス漏れするため、0.8となります。

ビルは水素爆発で完全に破壊されますので1となります。

最後のよりどころの人間系はPCV内の隔離弁がAC駆動でAC電源喪失後、手動運転は完全に不可能になりますから1。

結果として、事故確率はマイナス3桁の0.004 year-1となりました。

このように電力業界と政府が想定したFT計算の期待値のマイナス4桁にはなりませんでした。

かくしてFT分析は稼働率を推算するのには利用できますが、事故確率推算には要素の確率を状況に応じて使いわけねばならないことがわかります。結局マル チ・エージェントモデル手法で物理モデルを構築し、コンピュータ上で運転して観察するという手法しか正しく事故確率を予測できないように感じま す。

<PWR炉の封じ込め>

PWR炉の5重の封じ込めの構造は図-2.16の通りです。蒸気発生器を介してタービンを駆動する二次冷却系蒸気を作りますので二次冷却系は放射能で汚染 されておりません。また制御棒駆動機構が炉心の上に設置され、制御棒は重力により落下しますので挿入の信頼性は信号系の信頼性と同じとなります。一次冷却 水が漏れたときは巨大なドライコンテナ方式またはアイスコンデンサー方式(大飯1,2号)の格納容器の空間の圧力上昇で封じ込めることになっております。 封じ込め層の多重化はBWRより多いのですが、蒸気発生器の伝熱管の破断など一次系が損傷した時、減圧による気化で冷却不能になりやすい問題があります。

図-2.16 PWR炉の5重の封じ込め

<BWR炉の封じ込め>

BWR炉の5重の封じ込めの構造は図-2.17の通りです。BWR炉は一次冷却水が圧力容器と格納容器を貫通する形でタービンと複水器を循環する形式です ので格納容器のコンテインメントの多重性は破れています。ジルコニウム核燃料被覆管のピンポールから漏れ出る少量の放射能ガスによる汚染防止としては復水 器抽気ガスを吸着処理して環境に放出しないようになっています。またジルコニウム核燃料被覆管に重大な漏れのあるときに主蒸気隔離を閉じて格納容器下部の 圧力抑制サプレッションプール部に備蓄されている4,000トンの水で冷却して、格納容器内に閉じ込める仕掛けになっています。一次冷却水は複水器で海水 と伝熱管壁1枚で接していますが、海水にも遮断弁が付いていて二重封じ込めになっています。一方、故障の原因ともなる蒸気発生器という余計な機器はありま せんし、中性子脆化のリスクも低いのですが大勢に影響しません。BWR炉は下から上向きに水圧で押し上げる構造になっているため、駆動系の信頼性に相当す る分、総合信頼性は低下します。

図-2.17 BWR炉の5重の封じ込め

いずれにせよ両者ともホウ酸水溶液注入システムをバックアップとしています。ジルコニウム核燃料被覆管数本程度の漏洩は広域な放射能汚染を発生させること はありません。

 

原発の耐震性

1981年7月20日に原子力安全委員会が旧設置基準を決定しました。たまたま1964年6月の新潟地震から1983年5月の日本海中部地震までの19年 間、巨大地震は発生しておりません。不幸にもこの間に55基の殆どの原発が旧基準で建設されたのです。旧基準ではM6.5、震源距離10kmの直下型地震 を想定していました。しかし地震学の進歩に伴い、次第にこれでは不充分であることが判明して2006年にようやく改訂されました。旧基準で設計された既設 原発の新基準に基づく耐震再評価(ガル)が行われ、2008年3月、公表されました。旧基準での基準地震動の最大加速度との対比は表- 5.10の通りです。

ここで基準地震動とは表層地盤をはぎとった解放基盤での地震動と定義されています。新基準で建設された原発は下北半島の北端に2012年完成予定の大間原 発が最初のものとなります。

なお*印は化学プラントとおなじ簡易設計法と安全率4で設計された初期の原発。他はより詳細な応力解析を伴う設計手法を使い、安全率3で設計したもので す。2015年に電力各社は政府の会計ルールの変更を受け40年を越える老朽原発(#印)の廃炉を決めました。

原発名

運転開始年

炉形式

1981年設置基準の地震動の最大加速度 S2(ガル)

2008年耐震再評価結果 Ss(ガル)

北海道 泊1〜2号 1989-'91 PWR 375 550
泊3号(建設中) 2009   375 550
東北 東通   BWR 375 450
女川1〜3号 1984-'95 BWR 375 580
東京 東通 2017 BWR

-

-

福島第一1〜6号 1971-'79 BWR 370 600
福島第二1〜6号 1982-'87 BWR 370 600
柏崎刈羽1〜7号 1990-'97 BWR 450 1,000
中部 浜岡1〜2号 1976-'76 BWR 450 運転中止中、2008年耐震補強費が新設を越えたため廃炉と決定
浜岡3〜5号 1987-'93 BWR 600 800
浜岡6号(計画) 2018 -

-

1〜2号の代替として新設計画中

北陸 志賀1〜2号 1993 BWR 490 600
関西 美浜1*#、2#、3号 1970-'76 PWR 405 600
高浜1〜4号 1974-'85 PWR 370 550
大飯(おおい)1,2(ice)-3,4号 1979-'93 PWR 405 600
中国 島根1#〜2号 1974-'89 BWR 398 600
島根3号(建設中) 2009 BWR 398 600
四国 伊方1〜3号 1977-'94 PWR 473 570
九州 玄海1#〜4号 1975-'94 PWR 370 500
川内1〜2号 1984-'85 PWR 372 540
日本原子力発電 東海(1997年廃炉) 1966 GCR(黒鉛炉)

-

-

東海第2 1978 BWR 380 600
敦賀1#号 1970 BWR

-

想定寿命40年で2010年運転停止予定だったが2016年に延命された

敦賀2号 1987 PWR 532 650
日本原燃 再処理工場 2008試運転中 - 375 450
原子力機構 もんじゅ ? ナトリウム増殖炉 466 600
合計 59基 - -

-

-

-2.12 既設原発の炉形式と基準地震動

近年のGPSによる観測をもとにした研究により、日本海東縁から近畿地方北部にかけて歪集中帯が分布していることが知られるようになりました。そして最 近、実際に歪帯での直下型地震が頻発するようになっております。刈羽原発のある中越沖では地震エネルギーが解放されましたので暫くは安心ですが、その他の 地域には歪は蓄積され続けています。太平洋岸にある浜岡原発がフィリピンプレートの沈み込み帯の直上にあるため、その危険性が喧伝され、運転差し止め訴訟 までに至っております。

耐震新基準では活断層は12-13万年以降に活動したものを対象にすると定めておりますが、2008年5月の四川大地震では2億年前から6500万年前ま でに活動した竜門山断層帯が動いたことから耐震新基準はこれで良いのかという疑惑が生じております。

見直しにより各社とも基準地震動は増えましたが設計余裕の範囲内であるとして刈羽と浜岡以外は余裕を食いつぶすだけで改修もしないと発表しております。し かし、設計余裕は未知の要素を考慮しての安全率ですから安全率が低下したことはいなめません。

<刈羽原発で観測された基準地震動>

刈羽原発の設計に使われた解放基盤面(図-2.18のベース・ロック、第三紀層以前の堅固な岩盤、内閣府マニュアルの基準地盤) の限界地震S2値は450ガルでした。

しかし中越沖地震のとき1号機のビル最下層で記録された水平方向の最大加速度は993ガルでした。東電が行った「はぎとり解析」によれば1-4号機 の地下289mの開放基盤面に換算した加速度は表-2.10のように2,280ガルとなります。1981年設置基準の地震動の最大加速度S2=450(ガル)を5倍も越えています。5-7号機では開放基盤面加速度は1,156ガルとなります。

図-2.18 基準地盤・表層・震源距離の定義

内閣府が2001年に公表した内閣府地震被害想定支援マニュアルの推定 法により解放基盤面の最大加速度を推算すると表-5.10のように震源距離18.4kmの時207ガル、震源距離5.4kmの時465ガルとなります。実 測値をベースにした剥ぎ取り解析値と内閣府マニュアルの推算値の差は地下岩盤に褶曲面があり、ここで増幅されたためと説明しております。

東電は解放基盤面の地震動2,280ガルが地下45mの原子炉建屋基礎上に到達するまでに表層で減衰され660〜830ガルになるとし、原子炉建屋 基礎上での地震動は1,000ガルとして補強工事をすると2008年5月公表しました。しかし地震学者は不足と考えているようです。

地震/原発 マグニチュード 震源距離 内閣府マニュアルによる基準地 盤の最大加速度 はぎとり解析結果(新設計基準 値Ss) 旧設計基準値S2
    M km ガル ガル ガル
1995/1

兵庫県南部地震

7.3

16

420

- -
2007/7 中越沖地震/刈羽旧設計基準 6.8

18.4

207

-

450
2008/5 柏崎・刈羽1-4号機 6.8

5.4

465 2,280

-

X年 想定東海地震/浜岡 8.5

33.5

800

800

600

-2.13 地震加速度の推定値と実測値の対比

中部電力の浜岡原発は2011年再開をめざして運転中断中の1-2号機を除き、近未来に予想される東海地震を想定し、新基準に準拠して基準地震動の最大加速度800 ガルに耐えられるように補強しています。しかし2008年12月1と2号機の耐震補強費が新設原発1基と同じになるとして廃炉にすると発表しまし た。ただ住民は全ての運転差し止め訴訟をおこして控訴審中です。原告は震源断層面の固着の程度は一様ではなく、固着の強い部分(アスペリティー)の直上に 原発があれば応答スペクトルは3,500ガルになると主張しています。

2009年8月11日のM6.5、震度6弱の地震では運転中の4号と5号炉が120ガルに設定していた自動停止装置が作動して自動停止しました。5 号炉最下層では439ガルが観測され、他の炉最下層では110-178ガルでありました。設計は地中で600ガル(基準地震動は800ガル)です。5号炉 制御棒モーター故障など35件の故障がみつかっています。5号炉燃料貯蔵プールの水から通常の50倍の放射能が検出されたが外部には漏れていないと報告さ れています。この地震はプレート境界で発生するM8クラスの巨大地震ではなく、境界より深いところにあるフィリピンプレート内部 を石廊崎断層から北西にむけて駿河湾を走る断層線が動いて発生したものでした。

中越沖地震後、電力各社は耐震性に問題ないとしていましたたが、2009年2月25日、経済産業省原子力安全・保安院は若狭湾周辺にある原発の活断層が別 々に動くとしていたものを同時に動くとして耐震設計を再検討する方針を作業部会に示しました。関係するのは美浜、大飯、高浜、敦賀、もんじゅとなります。

原発の強度設計は基準地震動を入力として地盤ー建屋連成モデルに地盤や建物の質点、バネ定数、減衰定数を仮定して、それぞれの機器、配管にどのような周波 数と加速度が加わるかを計算します。この計算結果は応答スペクトルとよばれます。この建物のフロア毎の応答スペクトルに基づき、機器と配管の応力設計をす るのです。

2012/4/1内閣府は南海トラフ地震についての有識者の検討結果を発表しました。マグニチュード9.1を想定すると浜岡の最大津波は21m(現 想定14m)震度7ということです。福島事故後、かさ上げ中の防波堤高は地盤の隆起を含めて90cm不足となります。

<地震時の制御棒挿入不能>

GE設計のBWR型炉においては14cm正方の断面を持ち長さ4.5mの燃料集合体は図-2.19のように圧力容器底部に立つ制御棒案内管の上部につけら れた燃料支持金具に穿った4つの穴に1本ずつ挿入され、燃料集合体の重量は制御棒案内管で支えられております。

図-2.19 BWR型炉燃料集合体と制御棒

燃料集合体の固有振動数である5Hzの強いたて揺れがあれば、燃料集合体が燃料支持金具の穴から抜けて宙に飛び上がります。4本の集合体は下部格子板に よって拘束され、束になって水平方向にも振動してます。制御棒案内管群も横方向に固有の振動数でゆれます。たまたま飛び上がった集合体が十字断面を持つ制 御棒の出口の十字型スリットに落ちて乗ってしまう可能性はあります。そうすると強い地震を感知して、自動的に制御棒を挿入しようとしても、制御棒が核燃料 集合体にぶつかったり、破損したりして、挿入できなくなる可能性があるのです。

浜岡原発で危惧され る制御棒挿入障害」で説明したとおり、独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)が行った数 値実験では上下方向の加速度が2G(1,960ガル)、周波数5Hz(周期0.2秒)のとき、燃料集合体の跳躍高は68mmであったとしていま す。燃料支持金具への挿入深さは60mmです。したがって1,747ガルの上下方向の加速度があれば、燃料集合体は飛び上がって外れる可能性はあるので す。南海トラフ地震の震度7は制御棒の固有振動周期0.2secの時の加速度は1,500ガルに相当します。

図-2.20 原発構造物の地震時の応答スペクトル

もし上下動と水平動の加速度比が浜岡原発でも刈羽原発と同じとし、M8.5の東海地震が発生すれば、上下動2Gで浜岡原発の1-2号機の制御棒が挿入でき なくな る可能性があることになります。(1-2号機の廃炉決定)

2008年6月14日(土)午前8時43分(JST)頃に岩手県内陸南部(仙台市の北約90km)で発生した、岩手・宮城内陸地震はマグニチュード7.2 (気象庁暫定値)。最大加速度は気象庁:岩手県奥州市衣川区:1,816.5gal(1.85G全方向合成)、国土交通省:奥州市胆沢区石淵ダム: 2,097gal(Y方向2.1G)、防災科学技術研究所:一関西観測点(岩手県一関市厳美町祭畤(げんびちょうまつるべ):4,022gal (4.1G全方向合成)、日本国内観測史上最大値で、世界最大の加速度としてギネスブックの認定を受けた。上下動3,866gal(3.9G)、南北動 1,143gal(1.1G)、東西動1,433gal(1.4G)。最大速度(三成分合成)= 100.1cm/s。関西での周期0.06秒における加速度応答スペクトルは9,853cm/s2であった。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震 は最大加速度2,933gal(ベクトル和2.99G)でした。マグニチュード7.2の直下型地震があれば制御棒挿入失敗の可能性があるわけです。

2012年6月10日、東北電力は女川3号機の燃料プールに移した縦横13センチ、長さ4.5メートルの筒状燃料集合体のジルコニウム製のカバーが 1400体中、10数体は2センチ程破損していると発表しました。(地震時炉内にあった集合体は500体)上部格子板と当たって破損したとしか考えられま せん。2号機についても同様の損傷がない か調べる」としています。

PWR炉は運転中は制御棒が炉心の上に吊り上げられており、スクラム信号で切り離されて炉心に落下する構造ですが、激しい横と縦揺れにおいて果たして上手 く落下してくれるか、これも確かなことは言えないのではないでしょうか?

<旧BWR炉循環ポンプ周りの脆弱性>

旧BWR炉の循環ポンプは圧力容器の外に設置され、圧力容器とは配管で接続されています。浜岡3号機の循環ポンプ周りの 配管は2,486ガルで破断されるという解析結果を中部電力は公表しております。もし浜岡の直下に固着の強い部分(アスペリティー)があれば応答スペクト ルは固有周期0.2秒周辺で3,500ガルになるため破断することになります。

これでも中部電力が裁判であらそう姿勢です。なぜこういうことになるかというと巨大組織ではトップは自分で判断する能力はありませんから部下の進言を聞き ます。部下はトップの聞きたいことを報告します。トップは運転継続をしたいわけですから、どのような技術的情報があっても、部下は都合の悪い情報は適当な 仮定を設けて除外してしまうのです。これを避けるためにはトップが真の実力をもたねばなりません。しかし日本ではトップは 非専門家の文系が占拠していますから残念ながら正しい判断能力を持った人がトップになることはないのです。何もないときはこれでよいのですが非常時を考え ると制度上の欠陥と言えるのではないでしょうか。

 

原発の対テロ脆弱性について

原子炉の圧力容器は分厚いコンクリート建屋と格納容器に守られて堅固です。しかし大型航空機の墜落やミサイル、爆弾などの空からのアタックには脆弱でしょ う。また運転中に冷却装置や送電線に 攻撃を受け、冷却水が断水すると仮にスクラムが成功しても、崩壊熱を除去できなくなってスリーマイル島以上の炉心メルトダウンもありえます。

空からの攻撃に脆弱な部分は使用済み燃料棒を崩壊熱が下がるまで数年プールで冷却保管するしている部分です。特にBWR構造上、プールの底が抜ける と、冷却不能になって使用済み燃料がメルトダウンします。PWRはプールが地上にあって底が抜けにくという程度の違いがあるだけです。

地下の最終処分場が決まってませんのでプールから出した使用済み燃料棒は鋼鉄製の容器にいれてそれぞれの原発の敷地内に保管して、六ヶ所村の一時保 管所で中間貯蔵されます。耐爆の建物ではありませんので空からの攻撃に脆弱です。

現在の政策はこの使用済燃料を解体してウラン、プルトニウム、そして核分裂物質に分離することになっています。分離された核分裂物質はガラス固化されて、 英国やフランスから運んだガラス固化体とともに地上のコンクリ―ト建物で空冷されながら保管されます。このガラス固化体が空からの攻撃にさらされた時は強 力な放射能物質が拡散され甚大な被害が生じます。

テロと原発に ついて当局が想定していうのかどうかさえ不明です。原発は化学工場と異なって放射能汚染が発生すれば除染完了まで長期間つかえなくなる可能 性をはらんだ施設です。人口稠密な日本にふさわしいか再考の余地があるでしょう。

 

放射能漏洩事故を想定した準備

さて万一事故が発生したとき、人命損失を最小にしつつ人々を避難させるには多重コンテインメント思想と同じく事前の準備が必要です。森永晴彦氏が講談社か ら出版した「放射能を考える危険 とその克服」という著書で「原発の安全は電力会社が自らの責任で維持してきたにすぎないのに、日本の原子力行政機関は国民の不安をおさえ、国民を 政府に『依らしむため』の機関として存在してきた。そのためかえって放射能漏れ事故の危険性は増してしまった。こうした政府の『備えなければ、憂いなし』 という考えはまことに由々しき事態だ。原発 や原子力空母はよかれあしかれ、稼動中なのだから万一の放射能漏洩事故を想定して準備しておくことこそ、真の安全確保というものである。市民防衛組織とでもい うべきものを作り、大量の放射線測定器を市民に持たせて使い方を教育し、自主的に避難させなければ、消防も、警察もお手上げでなにもできないであろう」と 書いています。

この本は氏がミュンヘン工科大学教授であった時、チェルノブイリ事故直後、土壌汚染を測定した経験をする前に書かれたものです。氏が、「オッツ!野原の汚 染は意外に高いな。1平方メートル当たり1マイクロキューリーもあるぞ。こんなに汚染させたら研究所長の首がいつくあっても足りない!」とおもいつつ、屋 外の放射線強度を測定しました。翌日のメーデーの日に学校の先生が自分の子供達を大勢つれて野原に遠足にでかけるのを目撃した助手が憤慨していたそうで す。市の担当者が市民がパニックになるのを恐れて、放射能汚染警告をメディアに流すべきかどうか判断がつかず、ボンまででかけて相談していたのです。ドイ ツですら官僚機構なんてこんな程度です。このような経験を持って、氏は自説が間違っていないことを確信したそうです。

原子力王国フランスですら、「クリラッド」や「アクロ」と呼ばれる非政府組織の放射線監視団体が国や電力事業者とは一線を画して、中立で第三者的立場で放 射線を監視・分析してい ます。フランスに次ぐ原子力王国の日本にも同様な組織が必要となるのではないでしょうか?

行政はピラミッド型の階層構造で判断しますので重大な原発が原子力船の放射能漏れのときどうしても公表までに時間がかかり大切な時間を空費します。この間 に放射性ヨードを取り込むおそれがあるわけです。原子炉、原子力空母の周辺10km以内の町内会には放射線検知器を配布し、役員持ち回りで測定し、警報を 出すシステムを構築しておく必要があります。幼児を抱える家庭では警報に接するや自宅に配布してあるヨードを子供にのませて1週間外出せず家にこもること が大切です。空から降って来る、また風に吹かれてくる放射性物質が地表に落ちて、雨で固まってから、その汚染度に応じて必要なら避難、または永久その汚染 への立ち入りを禁ずればよいのです。 このような準備をしておけば、人々はこの測定計器の教えにしたがって被爆の危険から逃れることができるのです。しかしそのような準備がなければ、大勢の人 がそのために、急性放射線障害で命を落とすか、ガンにおかされるでしょう。 心ある静岡県のとある町は放射線測定器こそ用意はしていないものの、成長盛りの子供に飲ませるヨードは用意してあるそうです。しかし私が住む鎌倉市には放 射性ヨードの備蓄も事前配布もなく、放射線検知器は鎌倉消防署及び大船消防署に1台ずつと何台かの簡易測定器があるのみとのことです。鎌倉市総合防災課は 原子力空母の放射能漏れがあった場合には、まずは避難をしてもらう。という程度の認識です。家にこもる必要性を全く認識していません。爆発や火災など化学 的な事故はそれでよいのですが、放射能対策に関しては全く無知であるわけです。

チェルノブイリ事故の時、風は南西から吹いておりました。その結果、南南東120kmにあるキエフは難を逃れました。もし風向が90度違っていたら、バイ キングによって建国された古代ロシアの首都、人口200万人のキエフがホットスポットになったのです。不幸中の幸いでした。このような時は数万人という規 模で犠牲者が出るのではないでしょうか?4,000万人のメガポリスを半径320km圏内にもつ浜岡の場合は想像を絶します。

日本の原発は何重もの安全装置が備わっているので事故の確率はゼロに近い。したがって住民に測定計器の使い方を教える必要はないし、無用な不安を呼び覚ま すので、孔子が泰伯第八 196で「子日わく、民は之に由らしむべし。之を知らしむべからず」と言ったことを、可(べし)・不可(べからず)を命令形(〜せよ!〜する な!)と勘違いしている教養 の無い官僚たちの勝手しだいとなっています。そして民はどうかというと「ソーシャル・キャピタル(Social capital, 社会関係資本)が乏しい人程、原発や放射能汚染を安全だと思い込もうとする」と社会学者の鈴木謙介が指摘しています。ソーシャル・キャピタルとは人々が持 つ信頼関係や人間関係(社会的ネットワーク)のことで。儒教的な上下関係の厳しい垂直的人間関係でなく、平等主義的な、水平的人間関係を意味することが多 いのです。

日本の鉄道車両も事故を起さないように信号システムなどをしっかり整備しているから車両の強度を高める必要はないとし て、脆弱な車両を走らせ、JR西日本の事故時に100名に達する人命を失しなっています。事故はいつか必ず起こる。その時、人命を救うために はどのような車両であるべきかという考えが完全に欠落しがちです。官僚と政治家の独特のヤバイものには触れないという思考様式のためでしょう。著者は 1912 年、イギリスの不沈豪華客船タイタニック号がニューファウンドランド沖で氷山と衝突して沈没、1,500名の人命が失われたことを思い出します。タイタ ニック号が不沈船といわれた根拠は二重底と防水隔壁を持っていたからです。不沈船という神話があるが故に船主も設計者も全員乗せるに足る救命ボート数を積 んでいませんでした。結局大きな犠牲を出しました。奇妙な類似性がありますね。そして原発はタイタニック号のようなちっぽけなものではないのです。 こう書いたのちの2011年3月11日に予言は的中したのです。

 

原発の二律背反性収支算定 

PWR炉の放射能大量放出事故の確率は図-5.8のように167,300炉年、BWR炉の放射能大量放出事故の確率は図-5.9のように153,375炉 年程度となります。現在日本には表-5.9のようにPWR炉は23基、BWR炉は35基あるわけですから。それぞれを40年間稼動させるときのBWR炉の 事故確率は0.9%、PWR炉の事故確率は0.54%ということになります。

スリーマイル島事故をチェルノブイリ事故に準ずる大規模放出事故とみなすと8,400炉年に1回の確率となりますので日本の58基の炉を40年間稼動させ ると事故確率は27.6%ということになります。

経済協力開発機構(OECD)原子力機関は2050年には世界の原発はピークに達し1,500基となると予想しております。今後40年間にリニアーに炉の 数が増えるとすると2050年までに大量放出事故が9回発生することになります。

原発は安価とされていますが表-5.34にあるとおり、石炭火力は原発より安いのです。つまり原発による利得はありません。ここでは仮にゼロとしましょ う。日本の年間総発電量は10,362億kWhですが無漏洩で40年間BWR原発を使い続けることができたとしてもその利得は0兆円となります。

スターン報告はIPCC報告が科学的に無意味であれば有効性を失うのですが、仮にこれが多々しいとしてみましょう。 スターン報告は気候変動対策をなにもとらなかったときの損失はGDPの5-20%としています。そして日本の原発が一次エネルギーに占める割合は2005 年には11.3%ですから損失はGDPの0.5-2%となります。日本のGDPは500兆円ですから、気候変動を防止したための損失防止分を利得とみなせ ば2.5-10兆円となります。

一旦放射能汚染が生じると汚染物質の半減期以上にわたり、住めなくなります。セシウム汚染なら30年程度ですがプルトニウムなら1万年です。仮に図- 2.14のように浜岡原発とチェルノブイリ原発の汚染図を同じスケールの上に重ねると、半径320km内に15キューリー/km2を 越えるホットスポット(赤色)が納まります。ホットスポットの面積は長さは320km、幅は100kmの楕円とほぼ同じです。その面積はpx320/2x100/2x0.5=12,560km2となります。 ホットスポットに降下した放出放射性物質量は2x105キューリーということになります。

ホットスポット土地の平均評価額を10,000円/m2とすれば、その土地の損失額は13兆円となります。ちなみに米作農地の米の 売上から除染して採算にのる限界j除染費用は3,600円/m2、同じく森林の除染限界費用は120円/m2と なります。

首都圏の人口は4,200万人です。1世帯4人とすれば家屋数は1,000万戸。この内半分の500万戸が汚染のため住めなくなるとすると、1戸の家屋の 平均評価額1,000万円として50兆円となります。

ここには一瞬にして住む家を失った2,100万人の難民の移住費用は1戸の家屋の平均評価額5,000万円とすれば250兆円となります。

項目 算定基準 利得(兆円) 損失(兆円)
原発の安価な電力による利得 石炭火力は原発より発電単価はひくい。従って原発を採用する利得はゼロということになる。 日本の年 間総発電量10,362億kWh BWR炉無漏洩40年 0 -
原発による気候変動防止利得 GDPの5-20% GDPは500兆円 一次エネルギーの11.3% 2.5-10 -
汚染による居住不能土地損失 12,560km2 10,000円/m2 - 13
汚染による居住不能家屋損失 500万戸 1,000万円  - 50
汚染で発生した難民の移住費用 500万戸 5,000万円 2,000万人 - 250

合計

- 2.5-10 313

表-2.14 BWR炉の二律背反性収支算定

40年かけて営々として温暖化防止によって(自然現象の方が大きいが)2.5-10兆円を稼 いでもたった1回の事故で313兆円を失うかも しれないわけです。 国家予算が500兆円ですから同じオーダーということになります。ジェームズ・ラブロック予言は破綻しています。

二律背反性収支算定はFT分析も含め、仮定の仮定ですから絶対値は不確かです。当局と事業者は当然もっと詳細な検討はしているとおもいますが、未検討の要 因は常に人々の手を離れたところに隠されてしまいます。とくに権威勾配のきつい組織において、しばしば生じることです。 このような解析結果はだれにでもアクセスできるようにして、権威勾配の影響下から解放しなければなりません。無誤謬神話に逃げ込んでいる役所としてはやり たくないことだ。大規模地震の被害想定と同様に原発の二律背反性収支算定は地震被害想定のように政府が率先してまとめて公表することなんか期待しないでお こう。

ナシーム・ニコラス・タレブは「ブラック・スワン」で「日本の文化はランダム性に間 違った対応をしていて、運が悪かっただけでひどい成績が出ることもあるのがなかなかわからない。だから損をすると評判にひどい傷がついたりする。あそこの 人たちはボラティリティをきらい、代わりに吹き飛ぶリスクをとっている」と指摘しております。

一般大衆がわかるわけがないものを不用意に公表したら、無用な混乱を生むだけだと反論があるでしょう、正しい分析結果をベースとして受益者であり、潜在的 被害者でもある住民の目でリスクと恩恵のバランス点を判断してもらうというのがあるべき社会の姿 ではあるのだが。放射能汚染リスクとグローバル・ヒーティング防止とのトレードオフ関係を明示してはじめて原発は理性的に社会に受け入れられるのでしょう ね。

日本には1962年施行の「原子力損害補償法」は事業者だけが無制限の賠償責任を負うという「責任集中制」があります。一定額の保険加入の義務、そして政 府保証の仕 組みなどが規定されています。民間保険は日本原子力保険プールが引き受けていますが、確率がべき分布にしたがう場合正規分布のような中心値がありませんか ら、事故が発生するたびに平均値が上昇します。したがって2011/3/11の福島メルトダウン以降の民間保険は日本原子力保険プールは引き受けないとし ています。10倍の保険料を支払えば引き受ける外資系保険会社とも条件は合わず無保険となりました。そこで国に1,200億円の供託をしています。政府保 証は600 億円でしたがこれを法改正して1,200億円に引き上げました。しかし313兆 円の損失を原発事業者が負担できるはずもありません。結 局国家が税金で救済することになるでしょう。そのときは第二次大戦の敗戦後のような事態で、A級戦犯さがしが行われ ることになるでしょう。関係者は歴史に 残る負い目を背負うことになります。

(2012/3/6福島第一事故に関し、東電株主42名が東電の現旧役員27名に対し5.5兆円の株主代表訴訟をおこしました。金額の根拠は2011年 10月の政府経営・財務調査委員会が試算した東電の賠償額4兆5402億円に廃炉費9643億円です。2002年に文科省地震調査研究推進本 部が三陸沖から房総沖でマグニチュード8クラスの大地震が起きる可能性を指摘していたことを根拠に2002年以降の役員27名を対象にしたということで す。立証 の根拠を国の機関の成果物にしたことはさえています。2/3が官僚OBという最高裁の判事諸君もこれは文句は言えないでしょう。役所は縦割りですか らこういう時は役に立ちます)

米国の電力会社は1979年のスリーマイル島事故以降このリスクは負えないと、原発を止める動きがあったため、国家が電力会社がしでかした汚染を補償する という1957年制定のプライス・アンダーソン法の上限を超える補償は政府が検討するということになっています。 それでも以後30年間米国では原発の新設はありませんでした。

2005年にブッシュ政権が債務保証という優遇処置をしたため新設の動きがでております。オバマ政権は推進派ではありませんが、放射性廃棄物処理は 棚上げ したまま温暖化法案とセットで原発容認の妥協戦略を打ち出しています。

ケルン在住の望月浩二氏がドイツ・グリーンピースの原発の事 故損害賠償保険料免除の問題に関する調査報告書を読んで次のように要約してくださいました。

ドイツで原子力発電が開始されてから現在まで、国民の税金がどれだけ原子力発電のために注ぎ込まれたかを、過去から現在までの政府の支出明細を調査して洗 い出して、その合計金額を決定するという報告書を発表しました。それによると合計金額は1,650億ユーロ、すなわち22兆円とのことです。ドイツの消費 者が支払う電気料金は20セント/kWhですが、この合計金額は電気料金に隠された上乗せ分の4セント/kWhが加わることを意味するそうです。しかし、 この報告書の結論でもっと大きな問題は、事故損害賠償保険の件です。原発が深刻な事故を起こした場合の事故損害の金額は莫大になるので、その保険金を電力 会社がきちんと支払うならば、それは莫大な金額になるのだが、現実には、電力会社にはそれが不当にも大幅に免除されている、それをきちんと支払うならば、 原発で発電した電力の料金は270セント/kWh値上げされることになる。もしこれが実施されるならば、原発の電力は他の発電方式の電力と比べて競争力が 皆無になるであろうとの由。ドイツの消費者の電気料金が20セント/kWhから290セント/kWhに値上がりすれば原発の電力の競争力はないことになり ます。

モラルハザードは今にはじまったことではありません。 1999年6月、参議院の経済・産業委員会で加藤修一議員と西山登紀子議員が取り上げて秘密にされていた原子力発電所が事故を起こしたときの損害賠償額の 推算値が40年ぶりに公開されました。これは1960年に原子力産業会議が科学技術庁の依頼で纏めた「大 型原子炉の事故の理論的可能性および公衆損害額に関する試算」であります。全報告書

ここでは放出放射性物質量は107キューリーとしています。この量は当時の東海原子力発電所の50万キロワット級原子炉内の放射性 物質の2%が放出された場合の想定値です。気象条件と放出条件を想定して15ケースについて死亡、障害、長期立退、一時疎開農業停止、農耕制限、損害金額 が計算されています。最大値を上げると、死者は720人、障害者は5,000人、長期立退は22万人、一時疎開農業停止は1,760万人、農耕制限は15 万平方キロです。これはチェルノブイリの経験から推算した 長期居住不可能面積12,560平方キロより大分大きいのは妥当でしょう。最大損害賠償は農耕制限に相当し、当時の国家予算の2倍以上となりました。そこ で科学技術庁は国会に報告するとき損害額は国家予算より小さいと 虚偽の報告をして原発の建設にゴーサインを出してもらったわけになります。官僚が国民を騙した行為があったということのようです。

原発=原子爆弾という一般大衆やマスコミの取り方は短絡すぎます。しかし電力会社の人にとっては原発は安全だというのも一種の仮説または信仰のようなもの と著者にはみえます。市民を説得しようと長い期間そう言っていたら自らアブラカダブラの呪文に引っかかっているようにも見えます。原発の事故は隕石に当 たって人が死ぬほどの確率であると電力会社の人はいいます。しかし隕石に当たって人が死んだという話は聞いたことがないにも関らず原発の事故は大きいもの で2つ、その他、非常に沢山の事例があるのです。

リチャード・ドーキンスの「神は妄想である」でバートランド・ラッセルの天空のティーポットのたとえ 話しが紹介されています。それは「地球と火星のあいだに楕円軌道を描く陶磁器製のティーポッドが存在するという説を唱えることにしましょう。しか しそのティーポッドはあまりにも小さいので最も強力な望遠鏡をもってしもみることができないはということをさりげなく付け加えておけば誰も反証できない」 というものです。ドーキンスはバートランド・ラッセルの天空のティーポットのたとえ話しは「立証責任は仮説を信じない側にではなく、仮説を信じる側にあ る」ということを示唆していると言っています。この考えに従えば電力会社が原発は絶対に汚染難民を発生しないと信じるならばその立証責任は電力会社にある と思います。一般住民をどうやって説得するのでしょうか?政府や電力会社の人たちはイギリスのブライアン・ウィンが定義した「欠如モデル」にすがって いるにすぎません。一般市民を「正確な科学技術の欠如した状態」にあるものと捉え、彼らに知識を注入することを目的とみなす発想です。しかしいくらこの啓 蒙普及活動しても人々の不安は解消されません。

現在の地方自治体は規模も小さく、財政基盤も脆弱で中央政府の走狗です。それゆえ原発立地の保証金の誘惑に負ける首長もでてまいります。しかし道州制にな れば、そうもゆかないでしょう。電力消費者と原発立地被害者とは同じ選挙区の住民になりますのでより民主主義が作用するようになるでしょう。市民と指導層 の双方向コミュニケーションが事態を解決することになります。ただ権限の再分配なき市民の参加も空虚です。そのためには電力小売を自由化し、ドイツのよう に電源ミックスを消費者に自発的に選ばせるようになるのでしょうか。原発を支持する消費者はそれを選び、再生可能エネルギーを支持するひとはそれを選ぶの です。原発問題は電力の地域独占をやめて発電と送電を分離してはじめて政治家を入れないで純経済的に解決できるという著者の信念は深まりつつあります。国 土交通省とおなじく、独占は驕慢と腐敗を生むのです。そうすると電力会社の意のままに原発を建設することは困難になるとおもわれます。

 

原発の規制と推進の分離

日本は規制担当の保安院と推進のエネルギー庁は両方とも経済産業省の管轄下にあります。これは利益相反の原理にもとる構図でしょう。米国は推進担当部門は エネルギー省で規制は原子力規制委員会(NRC)の担当と分離しております。フランスでも規制機関の原子力安全委員会(ASN)は独立しております。

規制と推進の分離なくして原子力平和利用への国民の支持はえられないでしょう。

 

世界の原発建設需要に潜む補償リスク

世界に150基の新規需要があることに触発されてGEの原子炉メーカーである東芝はPWR炉を持つウェスチング・ハウス社を4,000億円で買取り、ウェ スチング・ハウス社を横取りされた三菱は類似のPWR炉を持つフランスのアレバと提携し、日立はGEと結んで熱心に受注活動を繰り広げています。米国では スリーマイル島事故汚染事故以後電力会社が原発から撤退することを恐れた米政府が原子力事業者の損害賠償責任限度を規定する「プライス・アンダーソン法」 の上限を超える補償は国家補償とするというものです。このような手厚い保護をしてもその後の新設はありませんでした。

2010年に入り、日本の原子炉メーカーは海外への原子炉輸出では韓国に負けておりますが。かえって幸運ということもありうるのです。それは事故時の損害 賠償リスクです。

インドでも原発増設にあたり2010年、原子力損害賠償法を閣議決定しました。電力会社が被害者に支払う補償金の上限を250億円とし、外国企業の納入企 業に重過失があった場合、電力会社は支払った保証金を納入企業に肩代わりさせることができるというものです。これはポバール事故でユニオン・カーバイド社が国境を理由に十分 な補償しなかった経験に立脚しています。米国はそのような法律の下では原発の輸出はしないと明言しております。

日本政府が主導し、原発メーカー3社、東京電力と官民共同出資の産業革新機構が手を組んで「国際原子力開発」を設立しました。こうしてベトナムの原発2基 を1兆円で 受注しました。事故の場合の補償 条項がどうなっているのか不明ですが税金の無駄使いがないように監視してゆかなければならないでしょう。

 

セミサブマーシブルズ搭載型原発

原発のリスクを緩和する一案として原子炉を図-2.21のようなセミサブマーシブルズ(半潜水浮体)に搭載して万一の事故による人口稠密な国土の汚染を回 避する策が考えられます。半潜水浮体を使うのは波の影響をさけるためです。無論、国際的合意が必要となります。

図-2.21 半浮体式搭載原発と温度差発電のハイブリッドシステム

陸から100km海上、水深1,000mのところにある4oCの海水をくみ上げて冷却水とする と、原発と温度差発電がハイブリッドされたような高い熱効率 達成が可能となります。セミサブマーシブルズは合成繊維製の係留索ろアンカーで海底に固定し、さらに放流水をスラスターとして使って係留をアシストしま す。GPSを使って常時海上の定位置にとどまり、海底に敷設する直流送電ケーブルに接続します。

発電量は冷却水温30oCの場合の10%増になります。地震と放射能汚染で土地を失う恐怖から解放され、温度躍層以下の海水と表層 の海水を強制対流させて表層に二酸化炭素が溶け込んで、高くなった酸性度を緩和し、海底のミネラルリッチな海水を表面にくみ上げて漁獲高も回復させ、二硫 化ジメチルも大気中に放出されるでしょうから大気の冷却効果もでて一挙五得です。このコンセプトの応用として原発で得た電力を電気分解で水素に変換し、パ イプラインで陸に送ることも可能です。取水管引き上げ下げ用のデリックを常設し、必要があれば、取水管を引き上げて、メンテナンス基地に移動します。日本 列島は広大な大陸棚に取り巻かれていますので広大な立地が期待できます。

ただこの構想は初期の頃米国で構想されたが海洋汚染の見地から米国のNRCの認可が出なかったということです。図- 2.21 の半浮体式搭載原発の原子炉は図では海面上に設置のように見ますが、メルトダウン防止のためには原子力空母のPWRのように炉心と蒸気発生器は海面下に設 置し、非常時には蒸気発生器に海水を重力で流し込めばBWRのICと同じように自然対流で冷却でます。

 

遠隔地における原発よりの直流または超伝導送電

人口稠密な日本に原発を立地させると放射能汚染難民を生じるリスクは無きにしもあらずです。もしそ のようなことが発生したら原発のコストメリットで蓄えた富を一瞬で失うことになり、気候変動のリスクより大きくなります。このように日本に立地する原発を使っての二酸化炭素の削減は日本では一種の賭けです。原発は半径300km位 の無人地帯、すなわち砂漠地帯に設置すれば仮に放射能のコンテインメントに失敗しても失うものは少ないのでそのようなリスクは回避されます。これに着目すれば遠隔の砂漠地や浮体に原発(冷却水が必要と なり ますが)を設置し、直流送電または超伝導送電線で消費地に送電することが考えられます。

直流送電はパワー半導体の成功で可能となっています。超伝導材は実用化されている金属系はまだ23oKでヘリウム冷却が必要です が、1986年にIBM研究所が発見した銅酸化物系の臨 界温度は134oKですから沸点77oKの液体窒素で冷却できます。ただ酸化物系は線材に加工することが困 難でした。しかし住友電工が液体窒素で冷却するビスマス系銅酸化物超伝導ケーブル300mを試作し、2010年から東京電力と協力して送電の検証運転に入 ります。2008年2月東京工業大学の細野秀雄教授らが発見した鉄、砒素、希土類、酸素からなる鉄ニクタイド系はまだ32oKです が、中国 の浙江大学では56oKを突破したとのことで、液体窒素温度まで上昇する可能性を秘めているといいます。常温超伝導物質はいまだ夢 のようです。

直流送電せず第6章遠隔地立地原発からの水素・合成燃料製造にある通り熱化学反応で 水素を製造し、更にアンモニア燃料に変換することが考えられます。

 

核エネルギーに関する科学者の責任

以上原発の是非を論じてきましたが最後に科学者の責任ということを一言。ジャーナリストで社会評論家 武野武治(むのたけ じ)氏があるドイツ人の言葉を引用しております。それは「科学は人間の欲望を無限に伸ばすためじゃない。ここまでは行ってもいいけれど、こ こで止まらなきゃダメだということを教えるのがその役目である 」というものです。(言 語録1332参照)

利便性ある生活のために我々は化学物質による環境汚染というものをうみだしましたが化学物質は化学反応で無害化できます し、現に社会的要請に従い、無害化技術を生み出して問題解決してきました。しかしどんなに科学が発展しても、人類は人が作り出した放射性物質を無害にはで きない。なぜならそれは元素だからです。 米国政府が高速増殖炉で減量化することも検討しましたが、困難ということで、棚上げされています。従って地下深くに埋めるか地下空洞に保管するしか方法な ないのです。何万年後にそれが 破綻し生活圏に出てこないようにできる という確信を科学者はもてません。なぜなら実験できないからです。科学者は実験で確認できないものを認めることはできないのです。ここから出る結論は核エ ネルギー利用は自己破滅に至る道かもしれない ということです。これを科学者は一般市民に説明する責任があります。でなければ御用学者と言われてもやむをえないのではないでしょうか。

「専門家」は知っている人、「科学者」は知らない人と言われます。日本には専門家は多いが、科学者がいないように見えま す。

 

原発は本当に安いのか?電事連試算発電単価の検証

日本では原発の発電コストが安いとされています。その根拠は電事連が定期的に資源エネ庁のコスト等検討小委員会に提出している電源別発電単価です。表- 5.29の電事連試算発電 単価は2004年1月発表の電 事連の基準年を2002年としたときの「モデル試算による各電源の発電コスト比較」です。確かにベージュ色の欄にしましましたように原発がいちば ん安くなっております。

電事連試算の内訳の詳細は公表されていません。そこで同様の計算法でグリーンウッド試算なるものをしてみました。

<発電単価の計算方式>

発電単価の計算式は以下の通りとすました。

発電単価=(燃料費外必要年収)/発電量+(燃料費)/発電量    (yen/kWh)

発電量=1kW x 24h/d x 365d/y x 利用率 x 負荷率 x (1-所内率)     (kWh/y)

(燃料費外必要年収)/(発電量)=(1kW当たりの発電所建設単価)x 必要年収投資比/(発電量)     (円/kWh)

 (燃料費)/(発電量)=(kWh当たり燃料価格+石油石炭税)/(熱効率 x (1-所内率) )    (yen/kWh)

なお核燃料のkWh当たり燃料価格は熱効率 100%換算

電力会社は新規電源の投資のタイミングと関係なく一定の電力料金で経営しております。この一定の年収のなかで借入金返済、金利、法人所得税、運転維持費、 燃料費などを賄います。しかしここでは1基の発電所の建設費は運転開始から廃棄までの一生に渉るキャッシフローで償還するという考え方で計算します。必要年収投資比(%/y)は下式で定義されます。

正味キャッシフロー(NCF)/初期投資額 = (年収 - 借入金元利合計返済 - 法人所得税 - 運転経費 - 燃料費)/初期投資額           (%/y)

運転経費/初期投資額 = (固定資産税 + 事業税 + 保険料 + 修繕費 +  管理費 + 人件費)/初期投資額

法人所得税/初期投資額 = (年収 - 金利 - 法定償却費 - 運転経費 - 燃料費)/初期投資額 x 税率

定額償却の場合

法定償却費/初期投資額=1/償却期間

法人所得税率は地方税も含めれば40%となります。法人所得税がマイナスの場合はゼロと置き換えます。(償却期間は法定償却に助けられ、また燃料費/初期 投資額が約3%を越えるとき全運転期間が赤字で無税となります)

このような場合、

正味キャッシフロー(NCF)/初期投資額 = (年収 - 運転経費 - 燃料費)/初期投資額     (%/y)

と等価になります。更に燃料費を別枠で算入するとすれば

正味キャッシフロー(NCF)/初期投資額 = (年収 - 運転経費)/初期投資額 - 燃料費/初期投資額     (%/y)

となります。

NCFiはi年の正味キャッシフローNCFi を割引率 rで割り引いて運転期間のn年間合計したものが、初期投資額Eに見合わなければならないとして複利計算します。Sは残存価値または廃炉費(マイナス)で す。

   n
E + S/(1+r)n= NCFi/(1+r)i
 i=1

         
必要年収初期投資比NCFi/Eを法人所得税をモデル化した場合は収斂で求めます。法人税をモデル化せずNCFiが 一定でかつS=0の場合は

E =NCFi((1+r)n-1)/(r(1+r)n)

式で計算できます。割引率r=4%、運転年数n=40年の場合

NCFi=0.05052E  

となります。これに固定資産税1.4%、事業税1.3%、保険料0.5%、修理代2.5%、管理費1%を加えますと表- 2.15のように燃料費外必要年収/初期投資額NCFi/E=11.75%となります。

これは 電事連とほぼ同じ評価基準です。

電事連の原発建設単価は1999年から2003年の間に運転開始した発電所の建設単価を使っています。

原発の寿命は当初は30年でしたが、保守をしっかりして必要部品を交換すれば40年以上は運転できそうなことがわかってきました。現在日本で運転されてい る原発52基機のうち、12基が30年以上運転されております。


unit

power company

government

PV, wind & geotherm

CSP

CSP sunbelt

hydraulic

electro-synthesis

battery

PV factory

NCF rate of return: r

%

4

4

4

4

4

4

4

4

4

capital/E

%

80

100

100

100

100

100

100

100

100

debt repayment period

y

10

-

-

-

-

-

-

-

-

Interest rate

%/y

4

-

-

-

-

-

-

-

-

debt repayment method

y

equal installment

-

-

-

-

-

-

-

-

depreciation period

y

16

-

-

-

-

-

-

-

-

depreciation method

-

Fixed

-

-

-

-

-

-

-

-

income tax rate

% of profit

40

-

-

-

-

-

-

-

-

operating period: n

y

40

40

30

40

40

40

8

9

20

property tax/equity

%/y

1.4

1.4

1.4

1.4

1.4

1.4

1.4

1.4

1.4

business tax/equity

%/y

1.3

1.3

1.3

1.3

0

1.3

0

0

0

insurance premium/equity

%/y

0.5

0.5

0.5

0.5

0.5

0.5

0.5

0.5

0.5

maintenance/equity

%/y

2.5

2.5

0.5

2

2

0.5

0

0

0.5

administration/equity

%/y

1

1

1

1

1

1

1

1

1

(revenue-fuel cost)/equity

%/y

11.87

11.75

10.48

11.26

9.96

9.75

17.75

16.35

10.76

表-2.15 (年収-燃料費)/初期投資額

<利用率・稼働率・負荷率>

設備利用率(Availability)は定期検査や故障で停止している時間を除いた運転可能日数です。

利用率=(運転可能日数)/365

原発の利用率の実績は一律13ヶ月の定期検査や故障などの理由で60%まで下がっていますが、18ヶ月毎に延ばせる省令案が2008年夏以降実施されるよ うになるため多少改善されるでしょう。5年以後はこれが国際標準の24ヶ月毎に延ばされるので改善されるでしょう。ここでは原価比較のために計画の利用率 80%としました。

実際の稼働率(Operation factor)はこの利用率に負荷率を乗じたものです。

稼働率=(利用率)x(負荷率)

ここで負荷率(Load factor)は実出力のピーク出力に対する率と定義します。

負荷率=(実出力)/(ピーク出力)

石炭にしてもLNGにしてもボイラーー蒸気タービン方式とガス化ガスタービン発電ーコンバインドサイクルとでは熱効率も、建設単価も大きく異なり、発電単 価で3円の開きがあるとのことですが、ここでは建設単価 、熱効率、所内率は2004年1月発表の電事連の数値をそのまま利用しております。

<廃炉積立金>

廃炉費は40年後に発生する廃炉工事費をSとすれば、割引率r=4%で現在価に変換し、n=40年間の収入で積み立てるとして計 算します。

   n
E + S/(1+r)n= NCFi/(1+r)i
 i=1

ですからNCFiが一定でE=0なら炉工事のための毎年の積立金は

NCFi=(S/(1+r)n) (r(1+r)n)/((1+r)n-1)=S* 0.20829 *0.05052=0.01052S

となります。

2009年に浜岡1,2号炉の廃炉費S=61/Wと公表されました。発電単価に算入すべき廃炉積立金は 61,000x0.01052/6,763=0.095yen/kWhとなります

英国政府による原発のデ コミッショニング費用に関する報告書では原発の解体には建設の約3倍の費用がかかるそうです。廃炉工事費S=279yen/Wx3= 837yen/Wとなり、発電単価に算入すべき廃炉積立金は 837,000x0.01052/6,763=1.3yen/kWhとなります。

毎日新聞、2011年7月16日の記事によればイタリアのカオルソ原発廃炉コストは4基7,280億円とのこと。1基 1,000MWとすれば廃炉工事費S=182yen/Wと新設よりは安いが浜岡の3倍となります。発電単価に算入すべき廃炉積み立て金は 182,000x0.01052/6,763=0.283yen/kWhとなります。

朝日新聞、2016/4/23の記事によれば島根1号機460,000kWの廃炉費用は380億円ちのことなのでS=82.6yen/Wとなります。

もし再度原発事故がおこれば2013年の日本の全原発の帳簿上の遺産価値2.83兆円と廃炉費用の積み立て不足額1.2 兆円が損失となります

2013年6月、PWRを使うサン・オフレ原発はMHI製の蒸気発生器の漏れを理由に廃炉を決め、MHIに損害賠償を求 めました。

望月氏より入手したドイツ政府の「原発廃炉マニュアル」GRS-S-50.pdfによれば、廃炉費は700 Millionen Euro(700億円)。1GWとすれば70yen/Wとなり浜岡と同じレベルとなります。ドイツでは8社の廃炉専門企業が廃炉を進めており、その蓄積ノ ウハウで世界規模の原発廃炉ビジネスに乗り出しています。例えば、ロシアの原子力潜水艦の原子炉の解体はドイツのEWN社が引き受けています。

廃炉費積立金が不足分した場合は電力会社が支払うことになります。

<土地損失額>

福島の放射能汚 染の汚染マップをみれば 今回幅20km、長さ40kmの地域が高い放射線汚染で長期間居住不能になる恐れがあります。この面積は800km2に相当しま す。全期 間土地損失補償費 または土壌反転費を1m2当たり5,000円とすれば、4兆円となります。または20kmサークル範囲内の住人78,000人が 20年 間疎開する慰謝料と費用は1人200万円/年とすれば、3兆円。農業と漁業補償は月1,000億円とすれば2年で2兆円です。原発の廃炉1.5兆円。合 計ざっと8兆円。(東電は10兆円と公表)

<事故補償積立金>

原発事故を引き受ける保険会社はありません。したがって電力会社は法律で定める事故損害賠償保険に加入しなければなりません。しかし保証上限は2,000 億円です。不足分は積み立ておかねばなりません。

世界の原子炉の大規模放出事故は平均では1,450炉年に1回。実際にはべき分布になるため、ガウス分布のような平均値はありません。したがって3つの代 表的な大事故の放出量、損害額、累積確率、電気料金算入額は下表のようになります。

損失額は福島を基準値として放出量の平方根に比例するとしました。

電(気料金算入額=損失額 x 累積確率


放 出量
損 失額
累 積確率
電 気料金算入額

tBq/GW-y)
 tera yen/accidents
1/(GW-y)
yen/kWh
ス リーマイル島
0.655
0.0679
0.000690
0.05
福 島2
12,410
9..2
0.000345
.3.17
チェ ルノブイリ
1,733,333
109
0.000069
7.50

表-2.16 事故補償積立金

平均値がないゆえ最大値を覚悟しなければなりません。

<炭化水素燃料費>

電事連原価の燃料費は表-2.17にまとめた基準年2000年の炭化水素燃料価格と為替レート100yen/$ベースとしております。石油石炭税は 2007年の税率を採用しております。ここで容積換算値159リットル/bblです。

< フロントエンド燃料費>

ウラン価格は2003年頃までは10$/U3O8 lbでした。これは核兵器廃棄物の再利用でウラン鉱山からの一次供給は需要の半分のためでした。しかしそれもほぼ終り、2008には投機筋がはいって 95$/lbの高値をつけた後、2010年には42-60$/lbとなりました。これは2014年には50$/lbになるかもしれません。理由は核兵器の 転用は完了しまた一次供給にたよらなければならなくなりつつあることと、世界的な原発建設ラッシュのためと考えられます。 ただ鉱山開発も行われていますから本当のピークウランが来るのは2030年以降ではないかと思われます。

フロントエンド燃料費0.95yen/kWhとは2014年予想の50$/lbの原料価格にウラン濃縮、MOX化などを 含む費用です。

再処理によってできるプルトニウムはウラン235の価格の3倍となり経済的に使えるものではなく,、プルトニウムサイクルは破綻しております。

<バックエンド燃料費>

2005年6月12日に公益事業学会第55回全国大会に原子力資料情報室が発表した「原子力発電の経済性に関する考察」 と2004年の電事連(割引率 3%)のデータと東京大学の資料によれば2002年のウラン燃料費の内部構造は表-5.27のようになります。ここでSWUはSeparation Work Unit、すなわち濃縮作業量で原料ウラン濃度0.72%、平均濃縮度4%、平均テール濃度0.3%としたときの濃縮ウランの量です。1tの SWU製造のために1.925トンの原料ウランが必要となります。HMはHot Metalという意味でMOX中のプルトニウムとウランの金属成分の重量です。

2004年1月発表の電事連の報告書に記載された核燃料サイクルの設備コストは3%の割引率で全操業期間で均等化したコストを表-5.27に示します。

電気事業連合会が2003年11月11日に開かれた総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)電気事業分科会の小委員会に報告した六ヶ所再処理工 場を40年動かすとして、その建設・操業費と、工場の廃止措置(2078年まで)が合わせて約11兆円(六ヶ所再処理工場の建設費は2兆1,900億 円)。海外からの返還分も合わせた高レベル廃棄物の貯蔵および処分、輸送、中間貯蔵など他の「バックエンド」事業も合わせた総額が約18.8兆円との計 算。単純に19兆円を40年800tSWU/年で割り、原料ウラン換算すると再処理・バックエンド費は308,000yen/tUとなり、原子力資料 情報室のデータの5.25倍となります。

六ヶ所で再処理されると想定されているのは、2004年度までに生じている1.4万トンと2005年度から2036年度までに生じる分のうちの1.8万ト ン(残りは中間貯蔵)の使用済燃料。この合計3.2万トンを2046年度までの40年間で再処理するとの想定(800トン/年)です。2046年度までに 中間貯蔵が更に3.4万トン生じる計算です。 合計で6.6万トンとなります。フランスへの委託再処理費は2億円/トンとのことですので、この単価ですと11.2兆円ということになり、総合資源エネル ギー調査会の数値とほぼ一致します。 ということは総合資源エネルギー調査会の数値はフランスへの委託再処理費をベースに計算したと分かります。

2006年から再処理にかかる0.5yen/kWは電気料金に上乗せして徴収されています。月平均300kWの家庭で147円相当となります。これは家庭 用の料金請求書に明示はされていません。最終処分地が決まっていませんから 最終処分の費用は未算入と考えてよいでしょう。

ところが2004年10月22日(金)の東 奥日報に よれば 内閣府に属する原子力委員会(近藤駿介委員長)は2004年10月22日原子力政策の基本となる原子力長期計画を改定する新計画策定会議で、原子力発電所 から出る使用済み核燃料をすべて再処理した場合の総事業費が42兆9,000億円に上るとの試算を公表しました。これは通産省系の数値よりも大きな値で、 役所によって見解は分かれるようです。再利用せず地中へ直接埋設処分する場合は、30兆−38兆6,000億円と見込んでいるとのことです。日本の年間総 発電量1兆362億kWhとして59年間この30%が原発でまかなわれるとしますと原発の総発電量は18.3兆kWhとなります。設備投資額の内訳がわか りませんので発電量で割り算して再処理・バックエンド費は2.67yen/kWhとなります。ちなみに2004年1月発表の電事連の報告書全操業期間で 0%の割引率で均等化した再処理・バックエンド費は1.23yen/kWhとなっています。同じベースではありませんが2倍以上の差です。原子力委の試算 は、核燃料の加工費や使用済み核燃料の推定発生量が増えるなど経産省試算と前提条件が異なるため、総額が大幅に上回る結果になったと言われております。原 子力環境整備促進・資金管理センターに3兆円を積みたててあると報道されています。この積立金は42兆9,000億円に充当するつもりなのでしょうか。

以上整理して再処理・バックエンド燃料費のうち再処理、中間処理の費用は2.67yen/kWhとなりました。廃棄物の最終廃棄処分費は場所も未定のため 入っておりません

大項目 小項目 原子力資料情報室 価格 2004年の電事連(割引率 3%) 1999年の電事連(割引率 3%) 2002年 2014年
    万円/tU yen/kWh yen/kWh yen/kWh yen/kWh
フロントエンド 鉱石調達・精錬(イエローケーキU3O8)

550(22$/lb)

0.59

0.17 0.17 0.17x50/22=0.39
転換(UF6) 80
濃縮 1,700万円/tSWU 0.27 0.27 0.27
再転換・成形加工(UO2) 8,000 0.22 0.22 0.22
MOX燃料加工・輸送(国内) 26,000万円/tHM 0.07

0.07

0.07

0.07
小計   0.66 0.74 0.74 0.95
再処理   35,100 0.50 0.63 2.67 2.67
バックエンド 中間貯蔵 3,100 0.04 0.03
高レベル放射性廃棄物貯蔵 5,800 0.27 0.25
高レベル放射性廃棄物処分 7,400
その他廃棄物処理 2,800
その他廃棄物貯蔵 1,400
その他廃棄物処分 3,100
小計 23,600 0.31 0.29

表-2.17 ウラン燃料費の内部構造 $=100yen

<使用済み燃料の保管基金積み立て金>

使用済み燃料の再処理政策は結局放棄されるでしょう。使用済み燃料が再処理されないなら、それを原発敷地から持ち出す理由を失い、結局中間貯蔵と称して強 い放射線をだす核分裂物質の放射線が弱くなるまでの1,000年間はその原発が廃炉になった後も廃炉で出た放射線廃棄物とともに原発敷地内に保管する以外 方策はありません。

それぞれの原発の立地内に少なくとも核分裂物質の放射線が弱くなる1,000年保管されるとしましょう。期間 n=1,000年間に毎年かかる保管土地代、施設代、租税負担合計 R=-1円は廃炉時に積み立てる廃燃料基金 Pから充当されるとするとします。n=100,000年でも大差ありません。電力企業は1,000年というい寿命はないでしょうから政府が税金として徴取 して積立て、金利で運営するというスキームになるのでしょう。

P=R1/(1+r)k =R((1+r)n-1)/(r(1+r)n)=25R

割引率 r=4%、運転期間n=40年で使用済み燃料基金を積み立てるとするとk年のNCFk

NCFk=(P/(1+r)n) (r(1+r)n)/((1+r)n-1)=P*0.01052=R*0.263

保管期間中、毎年かかる保管土地代、施設代、租税負担合計 Rは建設費の10%程度ではないでしょうか。

<化石燃料費>

その他の燃料をまとめると下表のようになります。参考までにガソリン価格と都市ガスも示しました。 税と流通費含むガソリン価格は原油価格の実勢から相関式を作成しました。都市ガス価格はLNG価格に再ガス化と配管網の費用を加えたものです。

Fuel Price in 2000 (100yen/$)

price

tax & processing

price+tax& process

LHV

LHV/860

(price+tax&pro)/LHV

Crude Oil

$/bbl

30

yen/kl

18,868

2,040

20,908

kcal/kl

9,250,000

kWh/kl

10,756

yen/kWh

1.94

LNG

yen/t

28,090

yen/t

28,090

1,080

29,170

kcal/t

13,000,000

kWh/t

15,116

yen/kWh

1.93

Coal

$/t

40

yen/t

4,000

700

4,700

kcal/t

6,200,000

kWh/t

7,209

yen/kWh

0.65

Uranium

$/lb

22

yen/kWh

0.170

0.290

0.460

-

-

-

-

yen/kWh

0.46

Enriched Uranium

-

-

yen/kWh

0.170

0.560

0.730

-

-

-

-

yen/kWh

0.73

Spent Uranium

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

yen/kWh

2.67

Gasoline

-

-

yen/l

20

84

104

kcal/kl

8,400,000

kWh/kl

9,767

yen/kWh

10.64

Town gas

yen/m3

145

yen/t

28,090

151,910

180,000

kcal/t

13,000,000

kWh/t

15,116

yen/kWh

11.91

表-2.18 2000年の炭化水素燃料と核燃料価格

 

<政府支援費>

日本政府は電力会社から1キロワット時当たり37.5銭の電源開発促進税を徴収し、それを原資にして電 源三法交付金を原発、水力、火力の助成金として 迷惑施設を受け入れる地方自治体にばら蒔き、住民の心を買っております。まさにファウストの悪魔のような行為です。かてて加えて若い世代を洗脳しようと 2002年からは同じ電源開発促進税を原資として総額3億円の原子力・エネルギー教育支援事業交付金制度が設けられました。それぞれの電源の過去10年間 の 財政資金をそれぞれの電源の過去10年間の総発電量で割れば表- 2.18のようにそれぞれの電源の政府支援費/発電量が得られます。しかし原発建設がストップしたため、1,000億円が未使用となり、2007年に特別 会計から外れました。ただ今後の原発新設の必要に応じ、特別会計に入れるようになっております。いわば埋蔵金化しているわけです。

原発には特に厚く、無視できない支援がなされているわけです。電力の消費者は同時に納税者であるわけでから、この支援コストを含めたものが本当の電力価格 ということになります。これを加えるとますます原発が一番安い電源ではないといえます。

外資ファンド「ザ・チルドレンズ・インベストメント・マスターファンドTCI」がJパワーの株を買い増そうとしたとき政府が外為法で介入したのは大間原発 の建設を撤回しなければJパワーの収益がTCIの期待収益を出せないと判断したとされています。これは政府は原発の収益性がないことを認めたことになるの ではないでしょうか。

これだけ手厚い支援をしても福島県双葉町のごときは15年の償却期限を過ぎた途端、財政破綻自治体に転落してしまいました。原子力は麻薬にすぎません。

 

過去10年間の財政資金

総発電量

比率

政府の支援費/発電量

  億円 億kWh % yen/kWh
原発 35,000

3,110

30

1.1
水力 1,363 932 9 0.14
火力 1,053 5,906 57 0.02
日本の総発電量 -

10,362

100

-

表-2.19 電力料金外の政府の支援コスト

<寄付金>

電力会社の立地自治体に対する寄付金は表に出ないコストとして電力料金に算入されています。電力自由化なしにこのような 寄付行為がゆるされているのは社会が不公平でないことの証でしょう。

<結論>

電事連の資源エネ庁のコスト等検討小委員会提出の電源別発電原価と同じベースで行った著者の試算を比較しますと表-5.29のように原発だけ発電単価と一 致しません。これは廃炉費と再処理・バックエンド費の差のようです。グリーンウッド試算では廃炉費は浜岡原発の公表値を電事連の計算方式にしたがって計算 し、再処理・バックエンド費は2060年までの総再処理費用42兆円とその間の原発の 総発電量から計算した数値を算入しました。電事連試算では廃炉費は含めず、再処理・バックエンド費は含めていないようです。

ここで電事連は稼働率を80%としているので同じ数字を採用しましたが、1980年からの平均稼働率は74%です。特にBWRは海水中の塩分混入によるス テレンレス部材のクラックが続発したのが原因です。政府は定期検査期間を延長して88%に上げることにしていますが、経年劣化で更に下がるのが理屈ですか ら、意味のないお題目といってよいでしょう 。東電にかぎれば、柏崎/刈り羽原発の地震による停止で2007年には44.9%まで低下しております。全国平均稼働率74%で補正すれば既存原発は資本 関連費の(0.8/0.74-1)=0.096倍増しますので

4.85x0.096=0.47円(yen/kWh)

上乗せとなります。

電気料金には含まれませんが政府が原発の立地を受け入れた地方自治体に支給する支援費も加算すれば原発は最も高価な電源となります。

ドイツの脱原発の基本方針となったドイツおよび米国の原子力産業で働き、INTERATOMの業務執行取締役、カルカーの高速増殖炉の開発と建設担当、 AEGの原子炉部門担当取締役、ブレーメン大学のエネルギー経済・政策研究所の所長を歴任したクラウス・トラオベ工学博士(Prof. Dr.-Ing. Klaus Traube)の論文「原子力−無責任な威嚇、取るに足らない可能性Atomenergie –unverantwortliche Bedrohung, marginale Potenziale」と同じ結論 。即ち原発は安くないとなりました。

verification of announced cost by government in 2002 unit nuclear coal BTG LNG BTG oil BTG hydraulic
construction cost  yen/W 279 272 164 269 732
demolishing cost  yen/W 61 0 0 0 0
efficiency % 34.5 41.8 48.4 39.4 0
internal consumption % 3.5 6.1 2 4.5 0.2
availability % 80 80 80 80 80
load factor % 100 100 100 100 100
annual power generated kWh/y 6,763 6,581 6,868 6,693 6,994
(revenue-fuel cost)/equity %/y 11.75 11.75 11.75 11.75 9.75
(revenue-fuel cost)/power generated yen/kWh 4.85 4.86 2.81 4.72 10.20
fuel price yen/kWh - 0.65 1.44 1.94 0.00
fuel cost/power generated yen/kWh - 1.66 3.03 5.17 0.00
2.2%deposit of demolishing/power generated yen/kWh 0.20 - - - -
uranium fuel/power generated yen/kWh 0.73 - - - -
spent fuel/power generated yen/kWh 2.67 - - - -
power cost yen/kWh 8.45 6.52 5.83 9.89 10.20
government support yen/kWh 1.1 0.02 0.02 0.02 0.14
power cost + government support yen/kWh 9.55 6.54 5.85 9.91 10.34
announced cost by government yen/kWh 5.6 6.0 6.4 11.0 13.3

表-2.20 基 準年を2002年とする電事連試算電源別発電単価

74%という低い実績稼働率の上昇分は4.85x0.096=0.47円(yen/kWh)となります。 参考までに福島第一原発の事後処理を算入した数値も計算いたしました。

<原発の建設単価の見直し>

さて現存の原発の過半数がBWR型で30年前の建設費の安かった時に完成しております。電事連公表の日本の既設原発の建設単価は279yen/Wです。し かし時と 共に建設費はインフレで上昇します。また1981年代の原子炉は地震動を過小に評価した旧設置基準で建設された低コスト仕様です。(資本費+運転維持費) は原発施設が更新されるまで低く固定されるわけです。新耐震設計に基き、かつ高価なPWR型の高コスト仕様で原発を新設するとなれば発電単価がどうなるか は興味のあるところです。また原子力ルネッサンスといって建設ラッシュにはいると長い原子力不況期で淘汰され、圧力容器供給能力が限定されていること、長 期間原発建設がなされなかったために技能者がおらず、新たに養成していますので学習コストがかかること、コアキャッチャーなどの追加費用と建設費が高騰し ます。

フィンランドの電力会社TVOのオルキルオト3号炉(欧州加圧水型原子炉 EPR)1,600MWの原発を受注したアレバは技師や作業員が未熟のため建設費が受注金額30億ユーロの約2倍となり、2010年現在58億ユーロ (399yen/W @110yen/ユーロ)に膨らみました。これは既設の399/279=1.4倍です。まだ増加の可能性ありとのことで、TVOが追 加の支払いに応じないため、国際商業会議に仲裁を依頼し、赤字を資産を売却してしのいでいますが、ついにフランス政府が助け舟をだす事態になっています。

仏電力が建設中の1,630MWのフラマンビル原発3号機(EPR)は契約金額33億ユーロの1.5倍の50億ユーロ(337yen/W  @110yen/ユーロ)に膨らみ工期も遅れています。

東芝・ウェスチングハウスは改良型加圧水型炉AP1000を開発し、2011年2月NRCの認可を得ました。これは崩壊 熱を冷却する水を格納容器上部に常 備し、自然対流で冷却できる仕組みを持っています。 2008年3月にサザン・カンパニーのジョージア州ヴォーグル(Vogle)原発3,4号機とSCANAの子会社South Carolina Electric & Gas Companyのサマー原発2,3号機 (SCE&G)向けにそれぞれ同型原子炉2基計4基の契約をしました。この4基の 1,100MW出力のPWR型原発を総額1兆4,000億円(140億ドル)で受注しました。完成は2017年。建設単価は318円/Wとなります。地震 国日本の新基準で設計すれば耐震構造 のPWRの建設単価はこの1.1倍の350円/Wになるでしょう。SCANA公表のOwner cost含む建設単価は4.4$/W(352yen/W)となります。これは既設の352/279=1.26倍です。しかしSCANAは2017/7に建 設費は159億ドルを越えたと建設中断を決めました。

ヴォーグル向けには中国企業が2国間協 力協定に基づいて部品を供給する見通しとなりました。WH、SNPTC、国有大手の中国核工業集団(CNNC)の連合で英原発事業の入札に加わる可能性も あると公表しました。別の国有原発大手、広核集団(CGN)はフランス電力公社(EDF)と組み、英国のヒンクリーポイント発電所の原子炉増設に参加する ことで合意しまた。

日立傘下の英ホライズンニュークリアパワー社も(ヒンクリーポイントの原発新設を検討中だが、英国政府の出資がないと進 めないとしている。

東京電力東通では2017年運転開始予定のABWR型1,385MW原発に当てる増資は4,500億円で建設単価は325円/Wとなります。これは既設の 325/279=1.16倍となります。

2008年4月、英ファンド「ザ・チルドレンズ・インベストメント・マスターファンドTCI」のJパワーの株買い増しの 中止を勧告した経済産業省はJパ ワーの大間原発にプルトニウム消費目的のMOX燃料100%で稼動する新耐震設計の改良BWR型1,383MWの原発の建設許可を出しました。そしてその 建設費が4,690億円と発表されました。建設単価は339円/Wとなります。これは既設の339/279=1.21倍となります。

2009年には東芝・ウェスチングハウスは米国ショー・グループ(The Shaw Group Inc.)とともに、米国プログレス電力の子会社であるプログレス・エナジー・フロリダ(Progress Energy)と、レビィ発電所1号機、2号機の新規原子力プラントの建設に関する契約を締結しました。1.1GWx2基を受注金額7,100億円で 2016年運転開始予定。建設単価が31yen/Wと小さいのはスコープが原子炉周辺設備の納入やエンジニアリング、建設工事と狭いため。 Progress Energyは2011年にDuke Energy に買収された。

東芝がNRGと共同出資して計画したSouth Texas Project1&2は外資による原子力禁止法に抵触するとしてNRCが許可しないと2013年4月30日明らかになりました。

米国のコンステレーション社の原発新設は米政府が債務保証をするからということで始まったのですが保険金建設費の1割と高すぎるとしてキャンセルされまし た。原発は長期にわたって資本回収するため、融資銀行はより短期の再生可能エネルギーへの投資を好むようで、原子力ルネッサンスには逆風となっています。 米国での増設は10基以内と見られています。

2013年3月11日、米国では、欧州加圧水型炉(EPR)を採用したメリーランド州のカルバートクリフス原発3号機に ついて、米側オーナーのコンステ社 がエネルギー省からの融資保障が不透明として撤退。政府の原子力規制委員会(NRC)も、ユニスター社が外国人との理由で建設許可を出さないことを決定し たそうです。

2018/5/10MHIがトルコで進めていたBOO方式の原発も建設費高騰で挫折しかかっている。

福島事故も勘案し、全ての安全対策をする2030年以降の新設原発の建設単価は390yen/Wとして発電原価を計算ました。

<高速増殖炉>

現在高速増殖炉(Fast Breeder Reactor)の実証炉の設計は中断されていて建設費は不明です。やむを得ず原型炉の「もんじゅ」の建設費実績から0.6乗則でスケールアップした数値 1,266円/Wを使用しました。高速増殖炉はフロントエンド の濃縮工程費が不要となっています。

5,900億円 x (1000MW/280MW)0.6/1,000MW=1,266円/W

ただしこの推算は精度では意味がありませんので比較はしませんでした。

<1,500oC級 LNGコンバインドサイクル>

1,500oC級 LNGコンバインドサイクル(More Advanced Combined Cycle MACC)、石炭ガス化コンバインドサイクル(Integrated coal Gassification Combined Cycle IGCC)の熱効率は高くなっております。富津3,4号は1,300oC級コンバインドサイクルで効率50%、出力304万kW、 建設費はタンクも含め、6,000億円(建設単価197円/W)です。川崎火力は1,500oC級コンバイン ドサイクルで効率59%です。建設費は富津とほぼ同じとのことです。

<揚水発電>

揚水発電の電力回収率は71%ですので揚水式発電単価には2000年の複合発電原価14.61円/kWhの29%である4.24円/kWhを揚水発電の蓄 電ロスとして燃料費欄に計上しました。

揚水発電は葛野川発電所の建設単価238円/Wを使いました。

<業務用燃料電池>

米国のBloom EnergyのSOFC型100-200kWの建設単価は7-8$/Wです。これですと表-2.20 のように基準年を2000年とすれば設備費25.5yen/kWh、燃料費31.3yen/kWhとなり合計56.8yen/kWhとなります。

<家庭用燃料電池>

燃料電池は再生可能エネルギーではありません。しかしソーラーセル電力で水素を作り、再電力化するときにつける装置です。

松下ホームアプライアンス社は都市ガスを燃料にする固体高分子型(PEFC)家庭用燃料電池を商品化しています。1kW出力での発電効率は100%出力時 38%です。2007年に 機器価格は481万円(セル単価4,810円/W)でした。松下は2015年までにこれを50万円(500円/W)まで下げたいとしています がどうでしょうか?

新日本石油と三洋電機も都市ガスやLPガスから取り出した水素から電力と温水を作るエネファームという固 体高分子型(PEFC)家庭用燃料電池を2009年に6,000台販売する としております。出力750W、貯湯量200リッターで工事費別途で320万円(補助金140万円)です。(セル単価3,200円/W)

JX日鉱日石エネルギーは2011年暮れ、固体酸化物型(SOFC)燃料電池を家庭向けに売り出しました。燃料は都市ガ スで す。燃料電池の出力700W、効率45%、コジェネ総合効率87%で価格は270万円(3,860yen/W)。高分子型とおなじです。まだまだ採算には のらないし、寿命が気になります。将来の価格を40万円にする目標を掲げていますが多分不可能でしょう。しょせんハイブリッド車のミラーサイクルに太刀打 ちできないのでは。そしてこの自家発電装置を動かすには電力会社からの外部給電が必要です。

2012年6月26日、東芝はエネファームTM1-AD(SOFC)をガス会社経由で売り出しました。これは電力会社からの給電なしで動かす自立運転機能 付です。 700W出力で300万円(4,285yen/W)です。

2012年11月オーストラリア国立研究所のCSIROが天然ガスを燃料とする平均出力1kW(1.5kW- 0.5kW)のSOFC燃料電池を開発しました。発電効率は最大出力で60%。BlueGenという商品名で全世界に市販され、価格は30,000$ /kWとFinancial Reviewが報じています。セル単価は2,400yen/Wとなります。

価格は下がっていますがホンダの1kWのレシプロエンジンを使うコジェネレーションの87万円(870yen/W)に価 格で太刀打ちできるまでにはまだまだです。

家庭用にオンデマンドで使い、電力会社に売るわけではありませんから利用率は低くなります。実績は27%ですから、30%としました。

都市ガス料金は11.91yen/kWhとしました。さて発電効率は最新のSOFCで60%、ガスエンジンで38%ですが排熱で給 湯に使うとすれば更に25%は向上するとし、SOFC85%、ガスエンジンで63%とします。表-2.20 のように分散発電は稼働率が低いですから残念ながら都市ガスで分散発電するより、高効率コンバインドサイクルで集 中的に電力に転換したほうがよいという結論です。

<その他>

その他は電気事業連の効率と建設単価のセットをそのまま使いました。表-2.20のように耐震原発は安い電源とはいえません。福島事故後はさらに後始末費 が上乗せになります。

non renewables 2000 unit nuclear coal BTG LNG combined oil BTG pump storage SOFC fuel cell gas engine
construction cost  yen/W 279 272 197 269 238 2,400
870
demolishing cost  yen/W 61 0 0 0 0 0 0
efficiency % 34.5 41.8 59 39.4 71 85
63
internal consumption % 3.5 6.1 2 4.5 0.2 0 0
availability % 80 80 80 80 80 30 30
load factor % 100 100 100 100 100 100 100
annual power generated kWh/y 6,763 6,581 6,868 6,693 6,994 2,628 2,628
(revenue-fuel cost)/equity %/y 11.75 11.75 11.75 11.75 9.75 10.48 10.48
(revenue-fuel cost)/power generated yen/kWh 4.85 4.86 3.37 4.72 3.32 95.71
34.69
fuel price yen/kWh - 0.65 1.44 1.94 14.61 11.91 11.91
fuel cost/power generated yen/kWh - 1.66 2.48 5.17 4.24 14.01
18.90
2.2%deposit of demolishing/power generated yen/kWh 0.20 - - - - -
uranium fuel/power generated yen/kWh 0.73 - - - - -
spent fuel/power generated yen/kWh 2.67 - - - - -
power cost yen/kWh 8.45 6.52 5.85 9.89 7.55 109.72
53.60

表-2.21 基準年を2000年とする新型原発、高速増殖炉、LNGコンバインドサイクル、揚水発電、燃料電池の発電単価

設備 利用率は一律80%、負荷率は一律100%としております。稼働率 = 利用率 x 負荷率とします。原発の稼働率が定期検査や地震により60%に低下しているのですから これだけで2.24yen/kWh高くなります。廃炉コストが英国のように新設の3倍とすれな更に2.52yen/kWhかさあげになります。税金からで ている 原発立地の地方への補助金1.1yen/kWを加えれば、新設原発の発電単価は 13.71-16.23yen/kWhになっているのです。

 

日本における原発新設への疑問

2010年6月が民主党政権下で策定したエネルギー基本計画で発電時に二酸化炭素を出さない電源比率を2030年までに70%にするように目標を設定し た。このため 電力業界は2020年までに二酸化炭素排出抑制の一つとして新規原発を9基新設する計画のようです。 具体的には中部電力は浜岡原発1-2号は廃炉にし、2-3基を新設する計画を持っています。これに対し以下のような疑問点があります。

(1) 気象学者やIPCCは気体運動論と放射の緩和時間の拮抗による二酸化炭素と空気分子の伝導を無視した気象モデルを使っているため、彼らの二酸化炭素による 温暖化説は間違っている可能性があります。

(2)原子力という廃棄物処理コスト未算入のエネルギー源を増大させながら鉄鋼業化学工業などコスト競争力はあるが雇用の面では役立たずの素材産業を温存 し、韓国の造船業に素材提供するという構造が果たして日本人の職場確保に望ましいものであるかどうか疑問

(3)再処理プラントは技術的問題で過去15年間、18回完成が延期され、2012年までは動きませんし、その後の確証もありません。また費用は当初の 2.8倍に膨らみました。動かず、今後も動くと期待できず、六ヶ所村の中間貯蔵は満杯、各原発の中間貯蔵も今後数年で満杯、最終処分場は未定で政治はこれ を解決できません。

(4)米国やECでの新規原発のブームにより、需給バランスが崩れて建設費が熟練工不足で上昇し、発電単価にして16セント/kWhに上昇し、燃料再処理 しないでも原発は安価ではないことが明らかになりつつあります。(Cooper, Mark. “The Economics of Nuclear Reactors: Renaissance or Replace?” Institute for Energy and the Environment, Vermont Law School. June 2009.)

(5)産業構造の変化で電力需要が減ります。巨大装置は需給の急変に対応できません。災害時に巨大な電源を失います。LNGスポット品高額購入したり、高 価な石油火力を再すたーとさせたり、柏崎・刈羽長期停止で危機感を懐いた東電が真夏のピーク時に万一発電能力不足が生じたら真っ先に給電を切るという条件 で大口ユーザー特約3円/kWhという低価格を打ち出しました。 しかし日本産業が低迷して電力需要が減り柏崎・刈羽長期停止でも需要が供給を下回りまわり、この優先遮断は発動されることなくすぎました。

(6)原発はブラック・スワンが潜んでいるという本質的な問題があります。

(7)ソーラー・セルや集光型太陽熱発電(CSP)などの再生可能電源コストが急速に低下しつつあるという事実があります。

(8)16年という巨大なプラントの償却期限は16年と短く、これを過ぎると固定資産税収入が激減して、潤沢な地方支援費で麻薬漬けになった原発立地の地 方自治体を貧困化させるという問題が生じています。

(9)電力会社がグローバル・ウォーミングの切り札だといって電力需要も増えないのに原発に追加投資しても、電力の負荷変動追従性が悪くなるだけでなく、 投下資金が回収できない事態になるものと予想されます。経済合理性にさとい電力会社が採用する経営方針とは思われません。 しかし気候変動防止のための切り札は原発だという信仰をもっている自民党の加納時男氏参議院議員(元東京電力の原子力担当副社長)に代表される旧弊な原発 推進派の存在が気がかりではあります。貧乏な弱小首長に札びらを切って原発や燃料再処理を押し付けても、それでもしかしたら住めなくなるリスクを抱えてこ れに何もいえない大都市住民の意思はどう反映させたらよいのでしょうか? 道州制になれば利益相反も解消されるのかなとおもいます。

(10)原発推進派はよくジェームズ・ラブロック氏は「ガイアの復讐」をバイブルとしておりますが、ラブロック氏は原発のリスクは地球環境全体からみれば 気候変動より小さいといっているわけで、日本の首都圏が放射能汚染で利用できな くなるリスクまで詳細に検討しているわけではありません。

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April 1, 2007

Rev February 15, 2020


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