読書録

シリアル番号 959

書名

巨象も踊る

著者

ルイス・ガースナー

出版社

日本経済新聞社

ジャンル

自伝

発行日

2002/12/2第1刷
2002/12/20第3刷

購入日

2008/6/9

評価

原題:Who sys elephants caon't dance by Louis V. Gerstner, Jr.

友人のTから次のようなメールをもらった。

先週の昼休み紀伊国屋書店で、Luis Gerstner, Jr. 著 「巨像も踊る」 を見つけ読み始めました。Gerstner はexIBM CEO で1993年に IBM CEO に就任し、凋落しつつあったIBM帝国を見事に建て直した、と言われていたことは知っていた。1980年代を通じて Super ExcellentCompanyと言われた世界の巨人が Personal Computer Trend を見誤ったことにより落ち目になり、当時いつまでも Main Frame の夢にしがみ付いている時代遅れの企業と言われており、ビスケット屋(Gerstner は RJBNabisco CEOだった) にHigh Technology が判る訳もなく、これで IBM帝国は解体され終焉を迎える、との評判であった。小生も、PCTrend は今後も続き、その中で頭抜けた技術を持ち敵無しの勢いのMicrosoft・Intel に勝つ見込みはないし、さすがのIBM も終わりだなと思っていた。という背景があったので読み始めた次第。何時ものとおり通勤電車中の読書でまだ半分しか読んでいないが、復活劇の舞台裏(成功体験にしがみ付いている経営幹部をどのように変えたか等)が面白いだけでなく、Electronics業界のBusinessの変化についての見方に興味を引かれる。もし未だお読みでなかったら、この世界に詳しい貴兄に一読をお勧めします。

ちょうど1988-95年は会社のCIOとしてIBM、富士通のメーンフレームからパソコンへの切り替えをリードした経験からその後のIBMはどう生きながらえたかという興味はあった。Luis Gerstner, Jr. がマッキンゼーでキャリアを磨き、アメックスとナビスコでプロの経営者として辣腕を振るいIBMに乗り込んだことも知っていた。IBMがパソコン部門を中国に売り払ったのは正しい判断だとおもっていたが彼が主導したのか興味をもった。

想像するところ、IBMが生き残ったのは銀行などのセキュリティーの高い閉鎖的システムで利益を上げているのではと思うのだがどうだろう。恐竜は環境の変化には脆弱だが生き残るニッチというものがあり、うまくそこに逃げ込めたのだろうとおもいつつ本屋にでかけた。

早速ページをパラパラめくってみたがパソコン部門を中国のLevonoに売却したという記述はない。調べてみたらそれは2004年のことで2001年にガースナーが引退した後のことであった。しかしガースナーはパソコン部門はIBMのコアビジネスではないと言っていたわけで、彼の考えを後継者が引退後実施したということのようだ。

パソコンがでてきてハード、OS、データベースソフト、アプリケーション・ソフトを小さな企業がばら売りを開始し、それを統合するのは利用者ということになっていた。ガースナーはカード会社に居たこともあり、システム全てとまとめて面倒見るIBMのような企業はやはり必要とされていると睨み、IBM分割はやめてむしろ巨大システムをまとめて提供するサービスに集中するように会社をリードして成功した。高く売っていた問題を値下げで対応し。それで経営は苦しくなったが不要な資産を切り売りして耐え忍んだ。

それまではIBMは暴利をむさぼっていたわけで、事態の推移によりユーザーもIBMも得したということになる。

次にCADなどのアプリケーション・ソフトから撤退したと書いてある。ちょうど我々がIBMでしか稼動しないロッキード社開発のCADMからワークステーションベースのインターグラフに乗り換えた時期 と一致している。現在ではフランスの航空機製造会社のダッソー社が開発したCATIAというソフトと一体となって市販されている。

ガースナーがCEOとしてはじめて経営会議に出席したとき、ガースナーだけが色シャツを着ていた。その次の会議の時にはガースナーが白シャツで全員が色シャツだったという話は人間性は洋の東西を問わずおなじということを思わせる。

ガースナーによればIBMが当時持っていた問題は2つあった。一つは「圧倒的な地位によって、内向きな世界が形成されたこと」、そして二つ目は「言葉狩り」だという。独占禁止当局の批判をかわすために「市場シェア」、「競争相手」、「勝つ」などの言葉を社内の文書や会議で使うことを禁じた。ことばだけならよかったが、次第に考え方にもおよぶようになった。ガースナー氏は「やるべきことを決めるのは市場だ」を原則に掲げてIBMの復活を図ったのである。

一仕事して自家用機でただ一人帰るとき、疲れを癒すために酒を所望するとスチュワーデスが「当社では酒を出すことは禁じられております」という。だれがそのルールを変えられるのか聞くと貴方でしょうという。「わかたった、いますぐそのルールを変えよう」と言ったという。これが権力というものの実体だ。

さて彼がしたことは年功序列賃金を成果主義に変え、経営陣にストックオプション制を導入し、広告代理店を1社に絞って企業イメージを統一したことだろう。

Rev. May 15, 2011


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