読書録

シリアル番号 1036

書名

地球生命は自滅するのか? ガイア仮説からメディア仮説へ

著者

ピーター・D・ウォード

出版社

青土社

ジャンル

サイエンス

発行日

2010/1/19第1刷

購入日

評価

2009/12/17

原題:The Media Hypothesis:Is Life on Earth Ultimately Self-Destructive? by Peter Ward 2009

久しぶりで山木会に参加するために東京に出かけたとき、神田の東京堂書店で購入。帯に「地球に優しくしても地球は優しくしてくれない」とある。「母なる地 球」(ガイア)での共存共栄は幻想にしかすぎず、むしろ生命は互いに凄惨な共倒れと繰り返してきた。この地球はいわば「死を招く母」(メディア)という新 説をもってさっそうと登場した古生物学者の警告の書である。通常の温暖化警告論より厳しい自然の見方が展開される。

長らくジェームズ・ラブロックのガイヤ仮説「ガイアの科 学ー地球生命圏」、「ガイアの時代」、「ガイアの復讐」 は読んで心地よく私もその信奉者であったがどうもちがうらしい。

ざっと通読した。ほとんど既知のものであったが史上しばしばあった生物の大絶滅は巨大隕石によるものは白亜紀末6,550万年前にユカタン半島におちた小 惑星による恐竜の絶滅だけで外のものはすべて 火山活動による二酸化炭素増加にともなう気温の上昇で引き起こされたという説にあらためて恐ろしさを感じた。気温上昇で海洋の酸欠が生じ、硫化水素が大発 生して殆どの生物を絶滅への追いやるのだ。そして今これから人類はその二酸化炭素濃度を高めているのだ。1,000ppmは大絶滅か否かの分岐点になると いう。

ガイヤ仮説を否定する一つの現象としてウォーカー、ヘイズ、カスティングが1981年の論文で指摘した珪酸塩を含む花崗岩の風化によるCO2の 固定は地球の寒冷化の主要な原因だという説は説得力があった。

即ち

CaSiO3 + CO2 → CaCO3 + SiO2

が生命によらない地球の無機的な負のフィードバックというわけだ。

イェール大学のロバートバーナーらは数学モデルを使って過去の大気中の二酸化炭素を算定した。(The Phanerozoic Carbon Cycle, 2004)このモデルは陸の面積と気温から陸の岩石の風化による二酸化炭素の固定速度を、海底の拡大速度から火山から放出される二酸化炭素放出速度を、海 洋中の炭酸塩と重炭酸塩の平衡から大気中の二酸化炭素濃度を計算した。このモデルは研究者3名にちなんでBLAGモデルと呼ばれている。これに生物の影響 も加えて改良したものはGEOCARBモデルとよばれている。このモデルによると 6億年前以降、図のように二酸化炭素濃度は大局的には減少傾向を示しつつ時々大きく振れている。これをバーナー・グラフと呼ぶ。

光合成だけでなくこの無機的な反応のおかげで地球の大気は6億年前に5,000ppmあったCO2を 失ってきた。4億年前に急激に減少したのは維管束植物の出現による。3億年前に280ppmレベルまで下がったが2.5億年前のペルム期に 3,000ppmまで戻り、 再度下がって1.5億年前に2,000ppmまで戻すが過去1億年はヒマラヤの造山運動のために着実に減少して産業革命前には再び280ppmまで下が り、化石燃料の利用で現在380ppmに増え、更に1,000ppmに向かって上昇中である。

このように二酸化炭素は短期的に増えても長期的には地球は地球生命の活動により二酸化炭素を地殻に取り込む傾向があり、最終的には5億年後にはC3植 物(光合成の代謝経路で二酸化炭素をうけとる化合物が炭素鎖3個のカルビン - ベンソン回路しか持たない植物)が光合成できる150ppmを突破し、10億年後にはより効率的な光合成を行うC4植物(カルビン - ベンソン回路に加えCO2濃縮のためのC4経路を持つ)が光合成を継続できる15ppmまで下がるだろうと予想されている。そうすれば殆どの生物は絶滅の 危機に瀕する。全ての光合成植物が絶滅すれば大気中の酸素は1%にまで下がる。50億年後に地球が太陽に飲み込まれる前に生命は地球上で滅びるのだ。

気温の急変は常に生物の大量発生と絶滅を伴っていた。海洋が富栄養化すると微生物が大量発生し、栄養を食い尽くすと死骸が腐敗し、海底の酸素を消費しつく す。そうすると嫌気性微生物が大量発生し、硫化水素を発生させて陸の植物を枯らすというサイクルである。

問題は温度急変時に生物の絶滅が発生していることが化石に記録されていることだ。そのメカニズムは温暖化により極と赤道の温度差が減少し、熱塩循環系(海水の大循環ともい う)が停止すると海洋底で酸素欠乏となることが一つの原因である。そして海洋の豊栄養化によって微生物が異常増殖して酸素を消費しつくすことも原因とな る。酸素がなくなると太古の昔から海底に隠れ住んでいた還元炭素(生物の死骸などの有機物)を酸化し、硫酸塩を還元して硫化水素を多量に発生する微生物が 異常増殖 する。この恐ろしいメカニズムが著者を含む少数の古生物学者 、古気象学者達による研究により現在進行形で明らかになりつつある。

二酸化炭素以上のグレーガスである水蒸気はすくなくとも対流圏では水の循環によって一定に維持されているが、成層圏の量には原因不明の増減 があってこれも気候に影響を与えることが最近わかってきた。

この本では他の気象学者とおなじく二酸化炭素のグリーンハウス効果により温暖化が生じるというIPCCの説にたつ。しか しこれは二 酸化炭素 濃度は温室効果に影響しないに記した通 り、物理学の立場からは おかしい。むしろ大気中の炭素量は生物の絶滅時に増えるとみなせるようだ。気候変動は二酸化炭素以外の変動によるものと考えたほうが良い。

Rev. April 20, 2010


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