自由人のエネルギー勉強会

アルゴン42を普及させ、原発事故にそなえる市民防衛隊を育成する構想

グローバルヒーティング対策として原発に注目があつまっているが万一漏洩事故が発生したとき、人命損失を最小にしつつ人々を避難させるには多重コンテインメント思想と同じ事前の準備が必要である。

森永晴彦先生が講談社から出版した「放射能を考える 危険とその克服」という著書で「原発の安全は電力会社が自らの責任で維持してきたにすぎないのに、日本の原子力行政機関は国民の不安をおさえ、国民を政府に『依らしむため』の機関として存在してきた。そのためかえって放射能漏れ事故の危険性は増してしまった。こうした政府の『備えなければ、憂いなし』という考えはまことに由々しき事態だ。原発がよかれあしかれ、稼動中なのだから万一の放射能漏洩事故を想定して準備しておくことこそ、真の安全確保というものである。市民防衛組織とでもいうべきものを作り、大量の放射線測定器を市民に持たせて使い方を教育し、自主的に避難させなければ、消防も、警察もお手上げでなにもできないであろう」と書いている。

この本は先生がミュンヘン工科大学教授であった時、チェルノブイリ事故直後、土壌汚染を測定した経験をする前に書かれたものである。氏が、「オッツ!野原の汚染は意外に高いな。1平方メートル当たり1マイクロキューリーもあるぞ。こんなに汚染させたら研究所長の首がいつくあっても足りない!」とおもいつつ 、屋外の放射線強度を測定した。翌日のメーデーの日に学校の先生が子供達を大勢つれて野原に遠足にでかけるのを目撃した助手が憤慨していたそうです。市の担当者が市民がパニックになるのを恐れて、放射能汚染警告をメディアに流すべきかどうか判断がつかず、ボンまででかけて相談していたのである。ドイツですら官僚機構なんてこんな程度です。このような経験を持って、氏は自説が間違っていないことを確信したそうである。

このような準備をしておけば、人々はこの測定計器の教えにしたがって速やかに安全な場所に避難で きる。しかしそのような準備がなければ、大勢の人がそのために、急性放射線障害で命を落とすか、ガンにおかされるであろう。チェルノブイリ 事故の時、風は南西から吹いていた。その結果、南南東120kmにあるキエフは難を逃れた。もし風向が90度違っていたら、バイキングによって建国された古代ロシアの首都、人口200万人のキエフがホットスポットになったの だ。不幸中の幸いであった。このような時は数万人という規模で犠牲者が出るのではないだろうか?4,000万人のメガポリスを半径320km圏内にもつ浜岡原発の場合は想像を絶する。ささやかながら、心ある静岡県のとある町は放射線測定器こそ用意はしていないものの、成長盛りの子供に飲ませるヨードは用意してあるそうである。

日本の原発は何重もの安全装置が備わっているので事故の確率はゼロに近い。したがって住民に測定計器の使い方を教える必要はないし、無用な不安を呼び覚ますので、知らしむべきではないとされてい る。しかし私は1912年、イギリスの不沈豪華客船タイタニック号がニューファウン ドランド沖で氷山と衝突して沈没、1,500名の人命が失われたことを思い出す。タイタニック号が不沈船といわれた根拠は二重底と防水隔壁を持っていたからです。不沈船という神話があるが故に救命ボートは全員乗せるだけの数を積んでいなかったため、大きな犠牲を出し た。 奇妙な暗合がありますね。そして原発はタイタニック号のようなちっぽけなものではないのだ。

さて市民防衛隊を結成するといっても見えない放射線を実際に測定してみなければイザという時に役に立たない。そのためには測定器とともに、訓練として放射線を測定するためにはごく弱い放射能を容易に入手できるゼネレーターが必要になる。

アルゴン42をステンレス容器に入れておき、これが連続崩壊する過程で親核種アルゴン42から生成した娘核種カリウム42をステンレス容器に挿入する収集電極に付着させて取り出し、電極を水に漬けてカリウム42を水に溶解させるというゼネレーターがある。先生が西ドイツミュンヘン工科大学の教授だったころ、コンパクトサイクロトロンでトリトンを加速して製造したアルゴン42を日本アイソトープ協会にあずけ、これが大学の生化学研究室で使われて便利なことが確認されている。

アルゴン42ーカリウム42ゼネレーター

これを利用できないかと、森永先生の呼びかけで2008年4月5日、学士会館で「アルゴン42普及のための研究討論会」が開催された。

98才の伏見康治先生以下このゼネレーターを学生の研修用に使った元上智大学のカルメン・ヒル女史、松井元杏林大学医学部生化学教授、アルゴン42をつくることを検討した高エネルギー加速器研究機構の西山研究員、アルゴン42を精製する方法を検討した元原研の田中氏、流通を担うアイソトープ協会の代表、測定器の使い方を指導するNPO法人NBCR対策推進機構の代表 、そして森先生の一高時代の寮の友人の牟田口義郎氏やJALの元パイロット渡氏など多数が集まった。 牟田口義郎氏は若き頃、朝日新聞のカイロ支局長を務め、後に地中海学会を立ち上げた知性派である。そして氏の大学と職場の後輩が我が畏友の川上氏だ。

学士会館でのアルゴン42普及のための研究討論会 伏見先生と森永先生

西山研究員からは年内に完成する日本原子力研究機構/高エネルギー加速器研究機構の線形加速器を使えばアルゴン42を製造できると報告。この線形加速器に400mA 180MeV (72kW) で陽子を厚さ10cmのチタンに1日照射すれば1cm厚さのチタンに7.10Bq(180mCu)のアルゴン42を生成できると報告された。

元原研の田中氏からはガスクロで精製でき液体窒素でアルゴンを固化できるので回収は可能。問題は半減期は短いが多量にできる不純物放射能の処理にコストがかかることである。

アイソトープ協会からはこのゼネレーターは許可なく扱える放射能規制値を越えないようにすること、コスト低下のためにまず生化学研究分野で定常的な需要を掘り起こす必要があることなどの指摘があった。

ゼネレーターの電極貫通部のゴム製のシールの漏洩防止法はULVACの林社友が検討することになった。

(財)平和・安全保障研究所の傘下にあるNBCR対策推進機構の代表は国内の漏洩は無論、中国での漏洩事故の時も国民を守り、または国際出動して汚染マップ作成に協力できる体制をとりたいとの発言があった。

グローバルヒーティングは国境を越える問題のため、国民国家はこれを解決できない。国連が唯一の妥当な組織ではないかとの森永先生の発言に対し、大鷹元チェコ・オランダ大使は国連は米国、ロシア、中国などが拒否権を持っているので、グローバルヒーティング対処能力に悲観的な見解を述べられた。アントニオ・ネグリ、マイケル・ハートも「帝国 グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性」で同じ認識を示している。

アントニオ・ネグリの世界像

自由人のエネルギー勉強会へ

April 9, 2008

Rev. June 18, 2009


伏見康治先生とお会いしたのは2008年4月5日が最後となった。森永先生のお宅で何回かお会いしただけだが、1ヶ月後の5月8日、老衰のために亡くなられた。1954年、中曽根議員が原子炉製造のための補正予算を提出したとき、伏見先生は民主、自主、公開の三原則を盛り込んだ原子力憲章草案を一晩で書き上げ、学術会議が承認し、1955年の原子力基本法に盛り込まれた。

Rev. May 10, 2008


トップページへ