グローバル・ヒーティングの黙示録

第六章 産業部門における変 化

 

第六章 産業部門における変化

 

石油精製・石油化学

油田と消費地は陸続きの場合は石油はパイプライン輸送しますが、距離が長いときや海洋で隔てられているときは巨大タンカーで輸送します。原油をあらかじめ 蒸留してLPG、ナフサ・ガソリン、灯油、軽油、重油などにしてからタンカー輸送するとコストがかかりますので未分留のまま消費地近くまで輸送してそこの 製油所で蒸留しています。

不純物として含まれる硫黄化合物に水素を添加して分解して硫化水素として除去する過程で重い留分が軽質化されます。ガソリンのオクタン価を上げるために流 動接触分解装置でオレフィン化しても重い留分が軽質化されます。いずれもそれぞれの製品にブレンドされて市販されるわけです。

蒸留の加熱用の熱は蒸留で分離する最も軽いメタンを主成分とするガスを燃焼して発生させ、脱硫用の水素はナフサを水と反応させて製造します。これかの工程 で発生する二酸化炭素は大気に放散しております。そしてこの工程で失われるエネルギーは原油の5%程度です。

日本ではガソリンに高い税率を課し、トラック・バスのディーゼルエンジン向けの燃料である軽油の税は軽くなっております。産業用の輸送を優遇し、保護しよ うとする政策のためです。これを全て廃止して一律の消費税とし、新に炭素税を適用するとします。そうすると今まで安価なディーゼル油を使うために公害を撒 き散らしながら高価なディーゼルエンジン登載のトラックやバスが走っていたのですが、税率の低いガソリンに転換し、ガソリンエンジン搭載のハイブリッド車 に転換するでしょう。製油所は需要が増えた軽質の製品を多く生産するために熱分解も含めた軽質化に力を注ぎます。このとき発生する二酸化炭素を隔離すれば 社会全般で発生する二酸化炭素量を減らすことができます。

発電装置の排熱の有効利用をする熱併給システム(コジェネレーション)、ガスタービン廃熱を加熱炉の熱源とすることも総合転換効率向上有効です。圧縮比が 高く、高温燃焼するデーゼルエンジンも転換効率向上に有効です。製油所や石油化学プラントは熱回収が徹底されていますがまだ未着手の分野があります。それ は図-5.1のような800oCのガスタービン廃熱を利用する加熱炉などです。実用化された1,500oCガスタービ ンの圧縮比を落として1,000oCのガスタービン廃熱を使うエチレンクラッカーなども考えられるのではないでしょうか?

製油所で大気に放散する二酸化炭素は石灰石中和海洋隔離可能です。 しかしこのような研究をしているとは聞こえてまいりません。

さて第一章のピーク・オイル説で説明いたしましたように石油が枯渇に向かうなか石油精製も石油化学もタイタニック化しているといえます。 日本における石油精製と石油製品の出荷量は1990年代にすでにピークを過ぎて縮小傾向にあります。マーケットの縮小に対応するために合併が繰り返されて おります。石油製品意外の新エネルギー創生の意欲は水素燃料電池意外全くみられません。

この巨大な客船をコリジョン・コースから修正せずに、いままでと同じコースを取らせるようでは救いがないどころか犯罪行為のように思えます。積極的にサン ベルト地帯で再生可能エネルギーをアンモニア燃料に転換し、世界の消費地に向けて輸出するビジネスを展開するだけの気概を持ってほしいものです。

 

天然ガスの液化

石油生産がピークを過ぎれば代替燃料として天然ガスの需要は高まります。シェール・ガスのように非在来型のガスの開発も盛んに行われるようになるでしょ う。天然ガスの輸送はパイプラインで行うのが一般的です。最も安価で、エネルギーロスの少ない方法です。北米大陸ではアラスカ→カナダ→米国、メキシコ→ 米国、 北海も浅いですからパイプラインです。ユーラシア大陸ではロシア→ヨーロッパ、トルクメニスタン→ロシア→ヨーロッパ多数のパイプラインが敷設されており ます。シベリア・北極海→バルチック海→ヨーロッパ間は 目下工事中。今後はシベリア→東アジア、イラン→トルコ→ヨーロッパにパイプラインが敷設されるでしょう。

漏洩しても安心できるようにパイプラインで送るガスはあらかじめ硫化水素などの有毒ガスは除去し、ガスハイドレートが詰らないように水分を除去します。パ イプラインは一定間隔毎にガスタービン駆動の圧縮機を設置して摩擦損失で低下した圧力を元に戻しながら輸送します。著者が試運転を指揮した新潟の長岡近郷で生産される天然ガスは 東京までパイプラインで輸送されています。将来シベリアのパーマフロストゾーンにパイプラインを敷設する場合は凍土が溶けないように冷凍機でガスをあらか じめ零下に冷却します。ガス圧力は最低の輸送費になるように最適化されておりますのでこれ以上改良の余地がないでしょう。

産地と消費地が海洋で隔てられている場合でも距離が短ければ北海→英国、北海→西ヨーロッパ、北アフリカ→地中海横断→南ヨーロッパなどのように海底に敷 設されるパイプラインが使われます。

しかし海上輸送の場合は-161oCまで冷却・液化してLNGとし、蒸気圧が大気圧の液体を保冷されたタンカーで運搬します。ボイ ルオフは0.15%/dayです。エンジン燃料としてバランスしていましたが、効率向上の結果、最近では再液化しているようです。

日本はアラスカ、中近東、オーストラリア、東南アジア、サハリンから輸入しております。アラスカは枯渇のため2010年には輸入停止となりましたが、カナ ダ・北米でのシェール・ガス増産の結果カルフォルニアのキャメロンLNGからの輸入が2012年に決まった。北海のガスが枯渇した西ヨーロッパと英国は西 アフリカから輸入して おります。米国メキシコ湾沿岸は西アフリカ、トリニダードトバコ、喜望峰周りで中近東から輸入します。米国西海岸はオーストラリア、東南アジアから輸入し ます。カタールからの輸入はシェールガスの開発に伴い、中断しました。インド、シンガポール、中国は中近東から輸入します。

LNG輸送ルート


いずれシベリアのガスも日本海沿岸で液化され、アジアマーケット、北米向けに向け出荷される時がくるでしょう。

図-3.1で説明しましたように、ヒートシンク温度TH=35oCの時、沸点-161oC のメタンを液化してLNGにする時、メタンの燃焼熱の約7%のエネルギーを液化動力発生用に自家消費します。動力発生サイクルの熱効率を40%としますと 液化用消費動力/メタン燃焼熱=2.8%となります。液化サイクルの効率(COP)を向上させるには非常に小さな温度差で冷却するかジュールトムソン膨張 弁をターボ・エキスパンダーに置き換えます。

天然ガスの液化曲線に沿って小さな温度差を作るためには純粋冷媒を多段蒸発させ、かつ異なる冷媒を多段にカスケードする方式とかポドビルニアクが発明した ポドビルニアク・サイクルという多成分冷媒(MR)を使って天然ガスの液化曲線に沿って滑らかな冷媒の蒸発曲線を作る方法などが実用化されていています。 初期の頃は全て多成分冷媒を使っていましたが、コンプレッサーとのマッチングを工夫して色々なバリエーションがあります。

<プロパン・プレクールMR法>

プロパン冷凍サイクルと混合冷媒サイクルのカスケードです。スパイラル型液化器を使うとことが特徴です。

図-6.1 プロパンプレクール・MR法

<プロパン・プレクールMR+窒素サブクール法>

プロパン・プレクールMRと窒素エキスパンダーサイクルによるサブクール法です。スパイラル型液化器を使うとことが特徴です。


図-6.2 プロパンプレクール・MR+窒素サブクール法

カタールにはプロパン・プレクールMRと窒素エキスパンダーサイクルによるサブクール法を使う世界最大規模のLNGプラントがあります。


 
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カタールの世界最大のLNGプラント


<デュアルMR法>

混合冷媒サイクルのカスケードです。スパイラル型液化器を使うとことが特徴です。



図-6.3 デュアルMR法

この他、アルミフィン液化器をつかう方法もありますが、熱疲労しやすいという問題があります。シャットダウンが多いと寿命が短くなります。

<まとめ>

供給ガスの持つエネルギーから液化に必要な動力を除いた製品LNGが持つエネルギーを液化効率と定義すれば、混合冷媒は90%以上を達成しております。し たがってガスタービンから出る二酸化炭素を隔離する必要性は低いと思いますが、やってやれないことはありません。

プロセス名

トレイン数 プラン ト容量 熱交換器 効率
単位 - 万トン /年 - (%)
カスケード法 11 2,958 ブレイズド・アルミ 89
一元混合冷媒法 7 762 ブレイズド・アルミ

-

一元混合冷媒法 4 256

スパイラル・ワウンド

-

プロパン・混合冷媒・カスケード法 69 16,816 スパイラル・ワウンド 91.5-92.6
プロパン・混合冷媒・窒素カスケード法 5 3,520 スパイラル・ワウンド

-

二元混合冷媒法 2 960 スパイラル・ワウンド 93.3
世界合計 98 25,272

-

-

表-6.1 世界のLNGプラントの現状  2013年完成含む

<機器>

さて液化用熱交換器としてはTEMA型多管式熱交換器、スパイラル・ワウンド式熱交換器、ブレイズド・アルミニウム型熱 交換機が使われます。TEMA型は純粋冷媒にしか使用されません。混合冷媒はスパイラル・ワウンド式熱交換器、ブレイズド・アルミ型熱交換機を使い、流れ 方向は垂直にします。2相流となる混合冷媒の気液をスリップさせることなく、想定される運転範囲で均一に等速で流す工夫が技術のポイントとなります。この ためガス/液比が小さいほど、流量が減る程、熱交換器の断面積を狭くしております。

マトリック熱交換機はブレージング工法ですので安価です。しかし液を均一分配することが難しい。運転範囲で上向き流れで液がスリップせずガスと等速で流れ るようにすることが大切です。

スパイラル・ワウンド式熱交換器は 上向き流れがスパイラル状のチューブの内側をながれますので運転範囲でチューブ上向き流れで液がスリップしにくく、ガスと等速で流れますので比較的すぐれ ています。 スリップ防止のため低付加で運転するときは回転数を下げ、圧縮比を下げて運転します。

スパイラル・ワウンド式熱交換器のマーケットは小さいですから需要が途切れることがあって工場をフル稼働できませんので製造コストがかかります。冷戦時代 に米国は戦略目的でヘリウムを国家備蓄した時期があります。このときヘリウム回収用のスパイラル・ワウンド熱交換器を製作したエアプロダクツ ・アンド・ケミカル社(APCI)が数々の失敗を通じてノーハウを蓄えました。故に世界のLNG液化器の70%はAPCI社製です。エール・リキッドが工 場まで作って参入しましたが受注できませんでした。一社独占はまずいとリンデを参入させましたが、気液をスリップさせることなく流すことができず液化能力 が70%以上出ないという問題 を経験したこともあります。またスパイラル・ワンド熱交換器には細い伝熱管が気流で振動して、疲労破壊で折れてしまうという機械的な脆弱性も抱えていてこ れを防止するために細かな手作業が必要となるのです。

圧縮機はその時に市販されている最大の遠心式と軸流式から圧縮比とガス容積を処理できるものを選定します。

動力発生法としてはスチームタービン駆動、ガスタービン駆動、廃熱回収器付きガスタービン+(ジェネレーター)+変速モーター駆動、廃熱回収器付きガス タービン発電→コンバインドサイクル発電+変速モーター駆動など圧縮機の必要動力とのマッチングと効率の兼ね合いで決められます。傾向としては高効率のコ ンバインドサイクル発電+全変速モーターでしょうか。トルク不足でスタートできない場合は スタートアップタービンをつけるか、ヘルパーモーターをつけるか圧縮機の圧を抜くというトレインサイズが大きいほどコストダウンが可能ですので、その時 代が提供できる最大のガスタービン出力にあわせた設計がなされます。現時点で稼動している最大トレインサイズはGEのフーム9を採用し、これにマッチング す るように負荷を調整したプロパン・混合冷媒・窒素カスケード法を採用したカタールの780万トン/年です。小型プラントやフローティングプラントでは高効 率ガスエンジン発電+変速モーターという組み合わせもあるかもしれません。

最近の半導体を使う変速モーター駆動の荷役ポンプや変速LNGタービン発電機が使われるようになるでしょう。

LNGの海上輸送は保冷タンカーで行いますが、蒸発してくるボイルオフガスは船の燃料として使い損失はありません。 エンジン効率が向上しますとボイルオフガスは使い切れませんので再液化されます。陸上のタンクに受け入れてからのボイルオフガスは回収してボイラーの燃料 に使いますので、ここにも損失はありません。回収コンプレッサーは低温のガスをLNGをインジェクションして冷却して回収動力の節減をしております。この コンセプトを世界初で導入したことを著者は誇りに思っております。このようなわけでLNGとして輸送するエネルギー効率は極限まで詰められてこれ以上の向 上はむずかしいのですがコンバインド・サイクルの適用が残された課題でしょうか?

今後の方向

1997年、著者は同僚とともに天然ガスをメタノールやジメチ ル・エーテル(DME)に 変換して輸送すると海上輸送距離が6,000kmを越える場合にLNGとして輸送するよりコストが低下するという論文を発表しましたが、この場合は天然ガ スコストが0.5$/MMbtuと非常に低かったからで価格が高騰すると地球上どこでもLNGとして送る方が安価でしょう。ただこのDME化の工程で発生 する二酸化炭素を廃ガス田などの地中または海洋隔離すれば、グローバルヒーティング防止に有効となります。海洋隔離が可能となれば後で紹介しますがアンモ ニアに変換してゼロ・エミッション燃料にすることも考えられます。 ただ第一章で解説しましたように二酸化炭素が気象変動の原因とは言い切れない点もありますので今後どう展開するのでしょうか?

 

LNG冷熱発電

消費地でLNGを暖めて再気化させるとき、海水を加熱源としLNGをヒート・シンクとする動力発生サイクルを構成しますとその回収した動力分の二酸化炭素 の放出を防止できます。

再ガス化した天然ガスをボイラー燃料にするときには気化したメタンガスをタービンで直接膨張させて動力を回収できます。コンバインド・サイクルの燃料とか 都市ガスのトランクラインに高圧で送ガスする場合には、混圧タービンとを使う、多段ランキンサイクルか多成分作動流体を使う逆ポドビルニアク・サイクルが 適用可能で、この方式が最大の動力回収が可能です。

1980-1986年に著者はこの逆 ポドビルニアク・サイクルを根岸の東京ガスの都市ガス供給システムに適用し、毎時100トンのLNGを気化するプロトタイププラントの設計をしま した。液化プロセスと同じで混合ガスの作動流体を扱いますから2 相流となる混合流体が上向き流れにおいて気液がスリップしないようにまた流路毎に気液比を均等に、流す工夫が技術のポイントとなります。安価なマトリック ス型熱交換器を採用しましたのでこれが特に難しく、低負荷で上向き流れにおいて気液がスリップしてしまい、運転不能になるという事態になりました。6基あ る並列熱交換器のうち2基を取り出すという荒治療で想定させる運転範囲で安定運転ができるようになりました。「過ぎたるは及ばざるが如し」の格言が身にし みました。

以後このプラントは20年間 トラブルフリーで稼動中です。

図-6.4 LNG冷熱発電

一度も実用化されたことはないが同じころ米国のエンジニアリング会社のフルアー社のいたクーパー氏らがガスタービンの廃熱を利用したLNG気化器フル アー・パワー・サイクルの特許申請をしたと最近知った。これはほぼ下のフローのようなものです。ガスタービンの排気温度を66oCになるまで廃熱回収する ものです。ガスタービン燃料100MW、ガスタービン出力37MW、ターボエキスパンダー出力14MW、発電機ロス1MWで総合効率50%となります。

図-6.5 フルアー・パワー・サイクル

 

都市ガス源(水素 vs メタン or 混合ガス or アンモニア)

現在、都市ガス源は天然ガスを液化して輸入したメタンガスです。天然ガスもいずれピークをすぎます。しかし、石炭の埋蔵 量は1兆トン(R/P比は164年)と多いため、石炭やタールサンド・オイル・シェールなどの重質 炭化水素燃料からメタンガスに転換し、転換時に発生する二酸化炭素は海洋隔離するという方法が使われるでしょう。

一般廃棄物を焼却処分せず、嫌気的にメタン発酵して都市ガスシステムに供給すれば廃棄物焼却で発生する二酸化炭素を減ら すだけでなく、発生するメタンガスのエネルギー分の 炭化水素燃料の消費もダブルに節約できます。スエーデンが積極的に取り組んでいます。

重質炭化水素燃料が枯渇した時点ではウラニウム資源も使い果たしているでしょうから人類に残された最大のエネルギー源は無限の太陽光エネルギーだけとなり ます。この時はソーラーセル や集光型太陽熱発電(CSP)の電力を使って電気分解で製造する水素ガスを使うことになるかもしれません。黒鉛を減速材に使う高温ガス炉の熱で水を熱化学 分解する方法などの技術は高速増殖炉と同じく、安全上の危惧があり、日本のような高密度社会にむいているとか考えられませんし、第一その時点でウラ ニウム資源も枯渇しております。

ソーラーセルやCSPの電力を使う場合、水素は昼しか製造できませんので常圧・加圧タンクあるいは水素吸蔵物質などに貯蔵することが提案されていますがど うでしょうか?この時点で都市ガス網は電力網で代替されているのではと思います。水素をパイプラインで送るとしても大したエネルギーは送れません。パイプ ライン網のエネルギー輸送効率は発熱量の高いメタンが優れています。そのため水素に二酸化炭素と反応させてメタンガス合成に使うか、メタンガスに混ぜて混 合ガスとしてパイプラインで消費端に配給する都市ガスシステムにしなければならないのではないかと思います。

メタンガスと混ぜるのはパイプラインのエネルギー輸送効率を高めながら、水素分圧を下げてパイプ材質の脆化防止をし、デ トネーションの危険を回避するためです。そしての混合ガスを圧縮してボンベに詰めて燃料電池と内燃機関のハイブリッドエンジンに供給したらどうでしょう か?まず水素は燃料電池で消費され、残りのメタンが内燃機関の燃料となります。こうすれば既存の都市ガス網が現在の自動車の給油網の代替をするようになり ます。

海外の砂漠に設置したソーラーセル電力で水電解して水素を製造できますが水素の海上輸送は現実的でありません。そこで水 と窒素からソーラーセル電力電解でアンモニアを製造して海上輸送します。 海外の資源国で水素を製造し、有機ケミカルハイドライド化して海上輸送して燃料電池発電や都市ガス燃料にするという構想もありますが。脱水素した物質を逆 輸送しなければならず、コスト高になります。このように水素吸蔵物質の探索研究に膨大な研究費が投じられてましたが、無駄な投資となりました。はじめから アンモニアにする研究をすればよかったのです。

太陽炉から製造される水素および海外の遠隔地に建設する原発の電力を使って製造する水素は石炭から得られる一酸化炭素や 二酸化炭素かリサイクルさせた二酸化炭素と反応させてメタンという低炭素燃料として海上輸送することになります。アンモニアはそのまま既存の都市ガス網で 家庭に配給できます。

先に紹介した日本政府が2002年から行った水素燃料電池実証プロジェクトでは水素のパイプライン輸送は研究対象外とし、水素転換プラントからの水素の輸 送は高圧ガス容器に詰めてのトラック輸送、または液化水素ローリー車によるという条件で研究費を出しています。どうしてこのような無意味な研究をして国家 予算の浪費をするのでしょうか?それに人間の錯誤が入り込むトラック輸送よりよほど安全なパイプライン輸送をなぜ思考外に押しやってしまったのでしょう。 日本には強いパイプライン・アレルギーがあります。これは地元の合意を得ぬまま建設を強行することに住民が反発するという不幸な歴史があったためと思いま す。パイプライン建設は沿線の住民の合意なくできるものではありません。都市の地下には都市ガス網が張り巡らされているではないですか。都市ガスのように 住民に利益が直接還元される仕組みがあれば住民の反対はでてこないでしょう。

 

炭化水素からの合成燃料

 図-6.6のように資源国で天然ガスを水蒸気改質するか石炭、褐炭、タールサンド、オイルシェールに水蒸気とともに酸素で部分酸化させ、次いでシフト反応させて水素だけを製造します。

石炭のガス化は石炭を微粉砕し、酸素と水蒸気で部分燃焼させることによって水素と一酸 化炭素の混合ガスを得ます。ついで排熱回収しながら温度を下げて触媒層を通して出来るだけ水素が多くなるようにシフト反応の温度を調整します。二酸化炭素をアミン等で分離すれば水 素がのこります。90%の収率としたとき、化学量論的には炭素1分子から水素1分子得られますから、エネルギー変換率は水素の燃焼熱285.83kJ/mol、 炭素の燃焼熱393.51kJ/molとから転換効率は65%となります。

C+1/2O2=CO         部分酸化

CO+H2O=H2+CO2   シフト反応

シフト反応させずメタネーターでメタンを製造し、冷却してLNGにもできます。また合成ガスからメタノール、ジメチル・エーテル(DME)などの低炭素燃料を合 成できます。フィシャートロピッシュ合成したF/T合成石油(GTL)を製造することすらできます。

人為的温暖化説は間違いですが二酸化炭素は廃油田に注入するか石灰石資源を使って海洋隔離してしまうわけです。


-6.6 石炭・褐炭からの水素または低炭素燃料の製造

CO+3H2=CH4 +H2O  メタネーション

CO+2H2=CH3OH     メタノール合成

3H2+3CO=CH3OCH3+CO2     DME合成

CO+2H2=1/n(CH2)n+H2O     フィシャートロピッシュ合成

こうすれば既存の炭化水素燃料の流通網がそのまま使えます。炭化水素燃料資源国が炭素系合成燃料供給国として登場するでしょう。

<ガスタービン燃焼室ビルトインリフォーマーを持つ燃料用メタノール合成>

本法はガスタービ ン燃焼室ビルトイン・リフォーマーをもつメタノール合成プロセ スです。本法は外熱式水蒸気改質をガスタービン燃焼器の中に入れ込んでしまい吸熱反応の熱は燃焼器の熱でまかない、動力もすべてガスタービンでまかなうと いうアイディアを実現したものです。

メタノール合成反応器はインターナル・クーラーを持って、出来るだけ定温で反応させるため、蒸気発生器となります。動力をバランスさせるため、不足する熱 は天然ガスを補助的に使います 。

メタノール合成の場合は天然ガス中の炭素はほとんどメタノールに移行し、余剰の水素を燃料にするため二酸化炭素を排出しないという特徴をもっています。 メタノールは常温で液体のため使い安い燃料です。

本法の天然ガスからメタノールへのエネルギー転換率は61.7%となります。

-6.7 ガスタービン燃焼室ビルトイン・リフォーマーをもつメタノール合成プロセ ス

メタノールは常温・大気圧で液体ですので ガソリン流通網がそのまま使えます。更にDMEまたはMTGガソリンに変換することも可能です。


炭化水素からハーバー・ボッシュ法によるアンモニア燃料合成

カーボンフリー燃料としては水素と窒素の化合物である、アンモニア(NH3)とその二量体であるヒドラジン(N2H4) があります。ヒドラジンは無水または一水和物として流通しています。

アンモニア合成反応は下記の化学量論式に従います。

3H2+N2=2NH3   ハーバー・ボッシュのアンモニア合成

ハーバーが東大卒業後助手となっていた田丸の助けで、上記反応が可能であるることを実験で示し、バディッシ・アニリン・ソーダ工業の技師ボッシュが高圧反 応器を大砲の砲身を使って実現したため、ハーバー・ボッシュ法と呼ばれます。田丸は帰国後、理研と東京工業大学の設立に奔走しました。

さてアンモニア合成の理 論エネルギー消費量は4.5Gcal/t-NH3です。実際には1990年には6.6Gcal/t-NH3に なりました。アンモニアの燃焼熱は5.37kcal/gですから、天然ガスからアンモニア燃料へのエネルギー転換率は81.4%となります。これに二酸化炭素の回収・隔離エネルギー 損失4.6%とアンモニア冷凍エネルギー損失1.4% を控除すると天然ガスからアンモニア燃料へのエネルギー転換率は75.4%となります。

ヒドラジンはアンモニアを次亜塩素塩で酸化するか、アンモニアを塩素で気相酸化して作ります。

2NH3+2Cl2=N2H4+2HCl2     酸化反応

アンモニアの燃焼熱は91.39kcal/mol、ヒドラジンの燃焼熱は148.6kcal/molですからアンモニアからヒドラジンへの理論エネルギー 転換率は81.3%となります。天然ガスから総合で61.3%となります。メタノール合成程度の収縮率ですが、実際にはもっと低くなるでしょう。

アンモニア合成では炭化水素燃料中の水素のみを使い、炭素は二酸化炭素として捨てます。そして水素を窒素に反応させるため、アンモニアはちょうど水素キャ リアの役割を担うクリーンエネルギーとなります。二酸化炭素の隔離先が得られるか、海洋に石灰石で中和して放流できれるばあいは最適の水素エネルギー輸送 法となります。またエネルギー転換効率も高いという特徴があります。

<天然ガス原料>

天然ガスからアンモニアを合成して二酸化炭素排出ゼロのカーボンフリー燃料またはアン モニア燃料(Ammonia Fuel)として世界マーケットに輸出するということが可能 となります。少し詳しく説明しましょう。

天然ガスに水蒸気を混合して行う水蒸気改質(プライマリーリフォーマー)は吸熱反応ですが、この熱は窒素を導入するための空気による部分燃焼を伴うセコン ダリーリフォーマーの熱を回収して利用する仕組みになっております。

廃熱回収で発生する高圧水蒸気は全てのプロセスコンプレッサーの動力として使われます。副産するCOは高温と低温の2段のシフトコンバーターで二酸化炭素 と水素に転換します。炭酸ガスはプレッシャースイング吸着(またはアミン吸収)で分離し、廃油田に注入隔離します。未反応のCOと二酸化炭素はメタネー ターで水添してメタンに変換します。

窒素1、水素3の混合ガスを高圧に圧縮し鉄触媒を充填したアンモニアコンバーターに送ってアンモニアを合成します。合成塔のワンスルーの転換率は 28.4%程度のため、冷却してアンモニアを分離後、未反応ガスはリサイクルします。

リサイクル系に溜まるメタンはパージガスとして系から取り出し、燃料として使います。

-6.8 二酸化炭素を隔離しながら天然ガスからアンモニア燃料の合成

<石炭・褐炭>

石炭を部分酸化法でガス化してフィッシャートロピッシュ合成やメタノール合成、更にディメチル・エーテル化、またはMTGガソリンにする方法もあ る。空気を使った部分酸化法とシフト反応をしてアンモニア合成する方法はオーストラリアなどに産する低品位褐炭を原料とすればコスト的にも自動車燃料にな りうる。

再生可能エネルギーの転換燃料

世界中の砂漠に降り注ぐ太陽エネルギー6時間分が、全世界の1年間のエネルギー需要に相当すると言われています。再生可能エネルギーの貯蔵・輸送 可能な燃料への転換にはいろいろの方法が検討されています。

水素に変換しても、砂漠と消費地を直結する電力や水素パイプラインは経路脆弱性があります。

水素吸蔵物質に吸蔵させて輸送する方法も検討されていますが、吸蔵物質を水素吸蔵物質をピストン輸送してリサイクルしなければならず、吸蔵物質の劣化があ ります。

トルエン、ナフタレンなど不飽和炭化水素を水素化するケミカルハライド法にしても給油と同時に不飽和炭化水素廃油を集油して産地に送り返す必要がありま す。

二酸化炭素を消費地から逆送するにしてもコストが発生します。空気中から回収するにしても0.04%しかなく、回収にコストがかかります。

熱化学的方法、光分解などまだ研究中でその成否はわかりません。

炭酸ガスがあれば、メタノール合成し、これをDMEか、MTGガソリンに変換する方法が考えられます。

空気中に80%ある窒素と反応させて生成する無水液体アンモニアが燃料として最適であると考え、各種コストスタディーを行い、自動車燃料、都市ガス、発電 燃料としても遅かれ早かれフィージブルとなることをご紹介しましょう。


再生可能エネルギー 1次変換原料 1次変換 1次変換物質 2次変換副原料 2次変換 2次変換物質 多量輸送方法 消費端供給方式 消費端での副生品
太陽光 光 分解 水素 - - - 冷 凍液化水素 圧 縮水素ガス -
集光太陽熱 熱 化学分解(IS、UT-3) 吸 蔵合金、カーボンナノチューブ、アンモニアボラン、リチウムイミド、窒化マグネシウム 水 素吸蔵 ハ ライド 加 圧タンカー ボ ンベ 吸 蔵合金、カーボンナノチューブ、アンモニアボラン、リチウムイミド、窒化マグネシウム
集光太陽熱 酸 化金属Redox(フェライト系、セリウム酸化物系、酸化亜鉛系) ト ルエン、ナフタレン 水 素化 メ チル・シクロヘキサン、デカリン タンカー タンク メ チル・シクロヘキサン、デカリン
再生可能電力(wind、PV、CSP 水電解 二 酸化炭素 メ タノール合成 メ タノール/DME/MTGガソリン -
二 酸化炭素 ギ 酸合成 ギ 酸塩溶液 -
窒 素 ハー バー・ボッシュ合成 ア ンモニア 冷凍タンカー ボンベ -
水、窒素 電 解合成 アンモニアアンモニア - - - -
太陽光 水、窒素 光分解 - - - -
集光太陽熱 酸化アルミニウム、メタン、窒素、水
Redox→窒化アルミ、窒化アルミ+水→アンモニ ア+合 成ガス
アンモニア、メタノール
-
-
-
冷凍タンカー ボンベ -
集光太陽熱 酸 化マグネシウム 熱 分解 マ グネシウム - - - 貨 物船 イ ンゴット 酸 化マグネシウム

表-6.2 再生可能エネルギー転換法

昔、砂漠など太陽エネルギー資源が多いところで発電し、フライホイールに慣性エネルギーとして蓄えて海上輸送する構想を30年前にサイエンティフィック・ アメ リカン誌で読んだことを記憶しています。しかしいまだ実用に耐えるフライホイール蓄電装置は開発されておりません。また数万度という高温で酸素を飛ばして 金属マグネシウムにし、インゴットとして貯蔵・輸送し、水をかけて水素とする方法も考案されていますが、酸化マグネシウム粉末をリサイクルしなければなり ません。

<自動車燃料としての可能エネルギー転換アンモニア燃料>

石油のピークアウトにより、ガソリン・ディーゼル価格は上昇します。そうすると2030年以降、ガソリン価格が砂漠地帯設置のCSP電力転換アンモニア価 格を超えるため、これを自動車燃料とするビジネスモデルがフィージブルとなります。バッテリー車はバッテリー寿命を短くすることができず、交換費用が嵩む ことと電力コスト上昇により、普及しません。料電池車も電極劣化で交換費がさがることはありませんので普及しないでしょう。天然ガスがあるうちはインフラ ストラクチャーを構築してCNG車が普及するでしょう。天然ガスからの液体燃料合成はエネルギー転換損失があって有限資源の早期枯渇に至るので好ましくあ りません。石炭資源が一番大きいので天然ガスのピークアウト後、石炭から液体燃料合成はありえます。しかしこれも有限資源の早期枯渇に至るので好ましくな いことは同じです。

<発電燃料としての再生可能エネルギー転換アンモニア燃料>

第4章でのべましたように、脱原発後、石炭と天然ガスを併用して負荷変動平準化に使うとき、低コスト石炭を最大利用し、高コストLNGはピークシェーブに 使い、発電予備設備には設備費の安いLNGコンバインドサイクルを充てます。これでも脱原発後、二酸化炭素が現状より増えることはありません。天然ガスが ピークアウトする2090年においては石炭と再生可能エネルギー転換アンモニア燃料をLNG代替燃料として、再生可能電源のバックアップに使えます。この とき既存の天然ガス・コンバインドサイクル発電設備はアンモニア燃料に切り替えることが可能です。来世紀は石炭もピークアウトします。それ以降は再生可能 エネルギー転換アンモニアをバックアップ電源に使い続けるということになるのでしょう。世界は同じ条件で競争するわけですから国際競争力に影響はありませ ん。

<都市ガスとしての再生可能エネルギー転換アンモニア燃料>

2060年以降アンモニアが安くなります。既存都市ガス網をそのままにして再生可能エネルギー転換アンモニアを都市ガスとして使うことになるでしょう。

転換燃料の大規模海上輸送

転換燃料の 体積貯蔵密度、質量貯蔵密度を含め図-6.9に示します。比較対象としてLNGを示しました。

水素 単体、吸蔵、水素化に関しては化学工学vol.74, No.9, (2010)の千代田化工建設研究所の岡田のデータをそのまま使いました。水素と炭素または窒素化合物としての誘導品は水素の燃焼熱141.8kJ/gと 誘導品の燃焼熱LNG:55.5kJ/g、メタノール:23.3kJ/g、DME:28.9kJ/g、アンモニア22.3kJ/gとの比を水素当量として 表示してあります。ちなみに水素当量はLNG:0.391、メタノール:0.164、DME:0.204、アンモニア:0.157です。

図-6.9 水素または水素誘導品の多量海上輸送法の比較

<LNG>

LNGの沸点における比重は0.415としますとLNG415kg/m3の水素当量の体積貯蔵密度は415x0.391= 162kg/m3となります。

積載量80,199m3のLPGタンカーの総トン数は45,815GT、排水量DSP= 1.1139GTですから、LPGの比重を0.582とすれば、積載重量80,199x0.582=46,676トン。積載時の船の重量= 45,815x1.1139=51,033トン。空船時のバラスとを含まない船の重量=51,033-56,676=4,357トン。空船時のバラスとを 含まない船の比重量=4,357x1,000/51,033=85.3kg/m3となります。 これをLNGタンカーに転用するとします。このときの質量貯蔵密度は162/(162+85.3)=65.5wt.%となります。

LNGが海上輸送で最も優れていることが分かります。現在でも天然ガスの海上輸送の中心的役割を果たしていることがわかります。

<メタノール燃料輸送>

メタノールの沸点における比重は0.792としますとメタノール792kg/m3の水素当量の体積貯蔵密度は792x0.164 =130kg/m3となります。

空船時のバラスとを含まない船の比重量=85.3kg/m3をメタノールタンカーに転用するとします。このときの質量貯蔵密度は 130/(130+85.3)=60.4wt.%となります。

<ジ・メチル・エーテル燃料輸送>

ジ・メチル・エーテルの沸点における比重は0.67としますとDMEタンカー670kg/m3の水素当量の体積貯蔵密度は 670x0.204=137kg/m3となります。

空船時のバラスとを含まない船の比重量=85.3kg/m3をメタノールタンカーに転用するとします。このときの質量貯蔵密度は 137/(137+85.3)=61.6wt.%となります。

<アンモニア燃料輸送>

自動車燃料、産業用燃料として砂漠など太陽エネルギー資源が多いところで水素を製造して消費地に輸出する場合、空気中に80%ある窒素と反応させてアンモ ニアとして貯蔵・輸送するほうが 大気中に希薄に存在する二酸化炭素と反応させてLNG、メタノール、ジ・メチル・エーテルに転換するよりも合理的です。このアンモニアの体積貯蔵密度、質 量貯蔵密度は図-4.7のようになります。

アンモニアに関してはその沸点における比重は0.6942ですから冷凍タンカー中のアンモニア694kg/m3の水素当量体積貯蔵 密度は694x0.157=109kg/m3となります。30oCの シリンダー中の加圧液体の比重は0.60ですから600kg/m3の水素当量体積貯蔵密度は600x0.157=94.2kg/m3と なります。元素比から105.9kg/m3となります。

LPGタンカーの空船時のバラスとを含まない船の比重量=85.3kg/m3をアンモニアタンカーに転用するとします。このときの 質量貯蔵密度は109/(109+85.3)=56.1wt.%となります。

アンモニア・シリンダーはLPG用を転用するとし、LPG10kg (20litter)用の空のシリンダー重量は13kgとすると空容器の比重量は650kg/m3となります。このときの質量貯蔵 密度は94.2/(94.2+650)=12.7wt.%となります。

アンモニア合成反応は発熱反応で

3H2+N2=2NH3 + 92.4kJ/mol

この反応熱は環境に捨てられて回収できません。H2の燃焼熱は284kJ/molです。アンモニアの燃焼熱は380kJ/molで すから水素を原料とする合成反応のエネルギー転換効率は

(2*380)/(3*284)=0.892

水電解電力に対する合成ガス圧縮・循環・冷凍動力10%、空気分離装置動力1.1%を含めても水素からアンモニアへの総合エネルギー転換効率は

89.2-13-1.1=75.1%

です。このように窒素と結合させて輸送する方法が炭素と反応させて輸送する方法についで輸送効率がよいことが分かります。 二酸化炭素を吸着や膜分離しなければならない欠点に対し、アンモニアは原料となる窒素を深冷分離で回収できますので、優れており、炭化水素燃料が枯渇した 時点ではアンモニアがもっとも有望な転換燃料ルートと考えられます。

<有機ケミカルハイドライド法>

この方法は、私がまだ若いころ東北大の恩師が酒飲み話で出したアイディアです。トルエンなどの芳香属化合物を水素化して メチルシクロヘキサンにしてタンカー輸送し、消費地で脱水素して水素ガスを取り出す有機ケミカルハイドライド法の 水素の質量貯蔵密度は6.1wt%、体積貯蔵密度は47kg-H2/m3となり、大量輸送が可能な方法では ありますが 炭素との化合物にして運ぶことや窒素と化合物を作る方法には輸送効率の面ではかないません。さらに熱効率の面でも最低です。

メチルシクロヘキサンへの触媒を使う水素化反応は発熱反応で収率は99%

Toluene+3H2→Methylcyclohexane + 205kJ/mol

触媒を使う脱水素反応は吸熱反応で収率は95%

Methylcyclohexane→Toluene+3H2- 205kJ/mol

です。水素化反応の発熱を回収せず。脱水素反応熱を水素燃焼で補うとすれば水素化反応のエネルギー転換効率は

(3*284-205)/(3*284)*0.91=0.691

脱水素反応のエネルギー転換効率は

(3*284-205)/(3*284)*0.95=0.721

従って総合エネルギー転換率は

0.691*0.721=0.498 

水素化反応の発熱の40%を電力として回収し、水電解で電力の76%を水素に転換してメチルサイクロヘキサン化し、脱水素反応熱を水素燃焼で補うとすれば 水素化反応のエネルギー転換効率は

(3*284-205*(1-0.4*0.76))/(3*284)*0.91=0.758

従って総合エネルギー転換率は

0.758*0.721=0.547

となり、エネルギー転換率はアンモニアへの転換率より劣ります。こうして取り出した水素ガスは都市ガスまたは火力発電燃料としてつかえますが、燃料電池搭 載自動車燃料としては無理でしょう。給油スタンドでトルエン・タンクを降ろし、メチルシクロヘキサン・タンクを積むなどということは面倒ですし、燃料搭載 スペースも2倍必要です。火力発電に使うにしても脱水素してできるトルエンをタンカーで水素製造元に送り帰さねばならず、実質質量貯蔵密度はもうすまでも なく 、図-6.9の半分になります。全く馬鹿げた方式といえるでしょう。

アンモニアの場合は脱水素して水素燃料として燃料電池に使って、返しのタンクは不要です。このようにアンモニア化が水素の大規模輸送法としてもっとも優れ ており、かつゼロエミッションなのです。

ブシュ大統領が水素エネルギー開発するのでとぶち上げたとき慌てふためいたNEDOがハイドライド法も含む水素燃料供給システム開発に多額の研究費をふり むけました。民間企業もそれに群がって無駄な研究をしたものだと思います。

私 が学生時代、千代田化工創立者の玉置明善と三菱合資同期入社の故徳久氏が東北大工学部応用化学科の教授になっていてトルエンを水素化してサイクロヘキサン にして水素を運搬する構想をよく聞かされたものです。タンカーは帰りは海水のバラストを載せるので往復メチルシクロヘキサンとトルエンを運搬し、そこに水素を 載せることは可能。水素消費端が発電用などの大型設備なら帰りのタンカーの燃費は増え荷役時間も余計に必要にとはいえバラストを積む必要もなく実現は可 能。しかし内陸の分散消費端にメチルシクロヘキサンとトルエンをローリーで往復するのはコストがかかり、コストアップになります。更に水素燃料電池搭載自動車 に2種のタンクを積むなんて現実的ではなでしょう。私は燃料電池燃料としてもアンモニアが優れているとおもいます。

この技術は人為的温暖化説が正しいという前提、虚構にたったプロジェクトでルーツは技術というより政治的なもので古いものです。産油国で余っている水素の有効利用の範囲内なら合理性があります。しかし新規に石油の水素転換するなら それだけ化石燃料の枯渇を早めます。再生可能エネルギーに水素をもとめるなら分散エネルギーですのでなにも大量海上輸送にしか使えない有機ケミカルハイド ライド法は必要ありません。政府の補助金の範囲内でよたよた走る程度でしょう。

燃料電池車が安くなれば水素燃料をなんとか確保しなければなりません。いまは燃料電池車は1台1,000万円します。トヨタは来年安いものをだすと言って ますが、1台300万円に下がればマーケットはうごくでしょうが、どうですか。今日テレビ朝日でみましたが、水素充填して500km走行するそうです。で すから走行距離はハイブリッド車と同じ。EVはせいぜい200kmです。ただEV車は家でも充電できるし、太陽電池でも充電できる。もし燃料電池車が安く なれば都内のガソリンスタンド40ヶ所に水素ステーションを増設する必要があります。この水素をケミカルハライドから供給するとすると、水素ステーション のあるガソリンスタンドにはメチルシクロヘキサンとトルエンの地下タンクをそれぞれ1個増設しなければなりません。そしてローリーのタンクを区画で仕切り が両者をリサイクルするわけです。燃料電池車がテークオフするかどうかにかかっていると思います。

<液化水素法>

第7章 図-7.6のように水素液化用消費動力/水素燃焼熱=23%となり、エネルギー効率はアンモニア化と同等ですが、容積効率はよくありません。大量 海上輸送はコスト高になります。

日本の学界、官界が一体となって推し進めた水素エネルギープロジェクトなどメタノール、DME、アンモニア燃料などの水素誘導品に比べればまったく意味が ないことが明白でしょう。

<ギ酸>

水素と二酸化炭素を触媒を溶かしたアルカリ水溶液に吸収反応させて、ギ酸を作り、0.4モルのギ酸塩水溶液として貯蔵・ 輸送する。消費端でこれを酸性水溶液にして加熱分解して水素と二酸化炭素を取り出し、燃料電池の燃料とするというコンセプト。半分は水で輸送効率は悪い。 それに酸、アルカリ調整する薬剤損失があって、実用的とは思えない、独立行政法人産業技術総合研究所が開発したいかにも役人がためにする研究の典型。 2012年3月19日(日本時間)に英国科学誌Nature Chemistry電子版に掲載された。

転換燃料製造法

風力、ソーラーセル(PV)、集光型太陽熱発電(Central Solar Thermal Power, CSP)などの電力を合成燃料に転換する方法はSolar Fuels from Concentrated Sunlightと呼ばれいくつか考えられ ます。

まず水素を製造し、次いで空気中の二酸化炭素と反応させてメタノールなどの炭化水素燃料にする方法です。

<一次転換>

(1) 光分解法:人工光分解で水より水素を製造する方法

(2) 熱化学法:ISプロセス、ウエスティングハウス法、UT-3プロセス、ORNLのプロセスの4法

(3) Redox法:タワー型集光型太陽炉でフェライト系またはセリウム酸化物系セラミックスに、酸化亜鉛に集光して還元し、これに水をかけて水素を作る

(4) 水電解法:風力、ソーラーセル、集光型太陽熱発電(Central Solar Thermal Power, CSP)などの電力で水を電気分解して水素を作る

(5) アンモニア電解合成法:燃料電池の逆サイクルで水と窒素からアンモニア合成

(6) 光分解アンモニア合成法:人工光合成でアンモニアを合成

(7) 窒化アルミニウム法:酸化アルミニウムを集光で加熱しRedox反応で窒素雰囲気下で炭素またはメタンで還元して窒化アルミニウムと合成ガスを製造する。 窒化アルミニウムと水を反応させるとアンモニアと酸化アルミニウムを得る。酸化アルミニウムはリサイクル

(8) 熱分解マグネシウム還元法:集光型+YAGレーザーで酸化マグネシウムを金属に還元し、マグネシウムから水素を製造

があります。

(1) の人工光合成ま たは光分解は理論的には可能。東大の堂免研究室では窒化ガリウムと酸化亜鉛の固溶体半導体を使い400nmより短波長の紫外線で水素発生に成功しているが 400nmより短波長の紫外線は太陽エネルギーの4%に過ぎない。太陽エネルギーの50%を占める可視光で活性のあるTa3N5、BaTa2N、LaTiO2Nなどの窒化物を試験する予定とのこと。

(2) 熱化学分解法(ISサイクル、Westinghouseサイクル、UT-3サイクル、ORNLプロセス)

1,000°C以下の温度を利用する水の熱化学分解法は高温原子力を利用するために開発されました。

主な水素製造法をまとめた「水素製造法のエネルギー源及び熱力学定数」をご紹介します。原論文は 宮本喜晟、小川益郎、秋野詔夫、椎名保顕、稲垣嘉之、水素エネルギー研究の現状と高温ガス炉水素製造システムの将来展望、JAERI-Review 2001-006 (2001), Table 2.3.1 (p.11))

表-6.3 主な水素製造法のエネルギー源及び熱力学定数

<ISサイクル>

2004年に日本原子力研究開発機構が世界で初めて毎時約30リットルの水素を1週間にわたって連続製造することに成功 しました。千代田化 工が当実験プラントの設計、製作、工事を担当しました。このプロセスが採用している化学反応は下記の通り の水溶液連続プロセスです。

2H2O + I2 + SO2 = 2HI + H2SO4      ブンゼン反応 100oCで発熱

2HI = H2 + I2      ヨウ化水素分解反応  450oCで吸熱

水素分離

H2SO4 = H2O + SO2 +1/2O2       硫酸分解反応  420-850oCで吸熱

酸素分離

H2O = H2 + 1/2O2  総合反応

材質の選定に問題があり、商用化はいまだ不明です。

<Westinghouseサイクル>

ISサイクルの改良型で電解とハイブリッドです。

<UT-3サイクル>

UT-3サイクルはカルシウム系・鉄系の加水分解・臭素化の下記4つの反応で構成されます。いずれも非触媒気固反応で固体は固定床に充填したまま、水の供 給方向を一定間隔で反対方向に切り替え て、連続的に水素を製造します。太田時男編:1995年NTS刊「水素エネルギー最先端技術」によれば

CaBr2 + H2O = CaO + 2HBr        730oCで吸熱

3FeBr2 + 4H2O = Fe3O4 + 6HBr + H2       600oC で吸熱

水素分離

Fe3O4 + 8HBr = 3FeBr2 + 4H2O + Br2   350oCで発熱

CaO + CaBr2 + 0.5O2         500oCで発熱

酸素分離

H2O = H2 + 1/2O2  総合反応

<ORNLプロセス>

Oak Ridge National Laboratoryが開発したトリウム熔融塩炉の650Cの熱を使い熱化学反応で水から水素と酸素を製造するサイクルで研究論文はA Uranium thermochemical cycle for hydrogen productionという本になっています。パテントはCarbonate Thermochemical Cycle for the Production of Hydrogenです。


Heat 650°C⇒2U3O8 + 2H2O + 3Na2CO3 ⇒ 3Na2U2O7 + 2H2(g) + 3CO2(g)

remove H2 gas

Room temperature dissolution to form uranyl tricarbonate

( 3Na2U2O7 + 3CO2(g) ) + 12(NH4)2CO3 + 6CO2(g)⇒ 24NH4(+) + 6UO2(CO3)3(-4) + 3Na2CO3   

Anion resin exchange to separate sodium carbonate from ammonium uranyl/tricarconate

Thermal decomposition  of ammonium carbonate and recycle<100°C

Resin elution to recover tricarbonate and regenerate resin in carbonate form

Thermal decomposition of tricarconate to form oxygen and regenerate U3O8 at 400°C

24NH4(+)+6UO2(CO3)3(-4)⇒12(NH4)2CO3+2U3O8+6CO2(g)+O2(g) 150-450° C

remove oxygen

ー以上、電力中央研究所木下氏の情報

(3) 金属酸化物と金属のRedox反応を利用する原理です。これには使う金属にとして鉄、セリウム、亜鉛、スズ、カドミウムなどあります。

<フェライトサイクル>(酸化鉄⇔鉄系)

サイクルは下記の反応を切り替えておこないます。切り替えはセラミックス円筒かセラミックハニカムリングを回転させるこ とに よって行う。

MFe2O4 = 3(M1/3Fe2/3)O + 1/2O2      T>1,400C M=Ni, Co, etc 

3(M1/3Fe2/3)O + H2O = MFe2O4 + H2     T=1,000°C

フェライトは運転範囲では固体のため回転ドラムに張り付けて回転させる方式方式を採用。東京工業大学炭素循環エネルギー 研究センターの玉浦裕教授がNEDO の資金で研究しています。タワー集光型 太陽炉でフェライト系セラミックス を回転ドラム表面に張り付け回転させながら表面を1,500oCに加熱し、酸素を熱分解で分離して還元状態にし、そこに水蒸気を吹 き込んで水から酸素を奪うと水素が発生するとい うサイクルを繰り返すロータリー式太陽炉です。

得られる水素の発熱量換算での太陽輻射の変換効率15%を目標にしているとのことです。 中央反射鏡で地上に反射させるビームダウン式です。まだ海のものとも山のものともわかりません。



図-6.10 タワー集光型太陽炉で金属酸化物のRedox反応による水素ないしアンモニア燃料製造

タワー型集光型太陽反応炉の太陽エネルギー転換効率は14%を目指しているとのことですが、まだその数値は確認されておりません。問題は頻繁な温度変化で セラミックスが劣化することです。

回転ハニカムリング方式はサンディアゴ国立研究所が開発中です。

新潟大の児玉竜也教授は流動床式を提案しています。

<セリアサイクル>(酸化セリウム⇔セリウム)

望月氏によればドイツでは玉浦裕教授と類似の方法で太陽光集光装置によって得られる高温とセリウム酸化物(cerium oxide)からなる多孔質セラミック触媒とにより、水から水 素 を製造することに成功したそうです。問題は頻繁な温度変化でセラミックスが劣化することです。

CeO2=CeO2-δ+δ/2O2      T>1,500°C

CeO2-δ+δH2O=CeO2+H2         T=600-1,000°C

<酸化亜鉛サイクル>(酸化亜鉛⇔亜鉛):

亜鉛は運転温度で溶融します。溶融金属のクエンチァーの材質選定の問題はありますが、反応金属の劣化という問題はありません。 IEAの傘下のSolar Pacesが酸化亜鉛(zinc oxide)を密閉炉内で1700°Cに加熱して酸素と期待亜鉛とし、急冷して溶融状態の(融点425°C)の亜鉛を噴霧して水と反応させ、水素を得るサ イ クルです。急冷時の熱回収なしに35%の理論 効率を達成できるとしています。回収した熱は発電に利用します。

ZnO=Zn + 1/2O2            T>1,500°C

Zn + H2O = ZnO + H2               T=400°C

亜鉛金属をマグネシウムと同じよ うに水素やアンモニアの代わりに水素消費地に運ぶというこ と もあり得ます。

<酸化スズサイクル>(酸化錫⇔錫)

酸化亜鉛サイクルと同じ原理です。溶融金属をあつかいますからセラミックスの劣化問題はありません。

(4)水電解法

風力、PV,集光型太陽熱発電(Central Solar Thermal Power, CSP)と水電解を組み合わせて水素を製造します。固体電解質を使う水電解(SOEC: Solid Oxide Electrolyzer Cell)もあります。本法はアルカリ液の室温電解や水蒸気電解より高い 900°Cで高効率に電解するものです。

砂漠と太陽しかないサンベルト地帯は緯度30度付近の高気圧帯、すなわちハドレー循環セルの 下降気流の直下にある国々ではCSPがローコストです。たとえばオーストラリアとか、かっての遊牧民の居住地でありモスレム・ベルト地帯とも言われる北ア フリカ、中近東、・・・スタ ンといわれる所です。このようなところは空気が乾燥していて散乱光が少ないため集光型に適します。 集光型太陽熱発電には多様な形式があります。多数の反射鏡(ヘリオスタット)の中央にタワーを建てるタワー集光型、トラフ型反射鏡またはフレネル式反射鏡 の上に集熱管を設置する方式などがあります。フレネル式反射鏡は天然ガス発電に匹敵する発電単価を達成できるとして米国で建設中です。い ずれも溶融塩で蓄熱が可能のため日没後も発電を継続できます。

低価格薄膜型ソーラーセルの転換効率を7%、水電解効率を76%とすると総合転換効率5.3%となります。400oCホットオイル 循環式集光型太陽熱発電(CSP)の転換効率を30%、水電解効率を76%とすると総合転換効率22.8%となります。

古典的な隔膜型水電解の効率は76%程度ですが、NEDOの支援で三菱重工が開発したプラチナ電極固体高分子膜電解の電 解効率は80%、九州大学の松本広 重教授が開発したプロトン伝導性酸化物を使い600oC水蒸気を電解すると90%の効率でした。

通常水電解は隔膜を隔てて、水素と酸素を別々に製造しますが隔膜なしで水素と酸素混合ガスを製造し(酸水素ガスという)、 鋼材の切断などに使われます。爆発性ガスのために多量貯蔵は困難です。この電極にパルス型電流を電極に流すと電解効率が高まるかもしれないと期待され試験が 行われました。隔膜のない末松式酸水素ガス発生電解槽に90ヘルツのパル ス電流を流すと少ない電力で電解できる可能性があるとされるが、パルス直流電流を電流計で測定しても過少な電流値しか示さない。オムロンのデジタル電力計で交 流消費電 力を測定してもその後にある交流→パルス変換機の高調波の影響かこれも過少電力しか示しません。通常の渦電流電力計か、パルス電流のオシロスコープの電圧、 電流から電力 を数値積分して確かめる必要があります。

(5) 電解法アンモニア直接合成

電解法アンモニア直接合成はエネルギーの2重投資を避けるスマートな方式です。高圧電解を併用すれば合成アンモニアを空 冷するだけで液体アンモニアが得ら れます。後で詳しく紹介します。アンモニアからはヒドラジンという炭素フリー燃料を合成できます。

<塩化物溶融塩電解質型>

水素と窒素から電解でアンモニア合成する研究を京大がしております。多孔性ニッケルまたはパラジウム電極を使いカソード(陰極)に窒素ガスを供給すると窒 素は電子3個を得て、3価のイオンとなり、 塩化リチウム、塩化カリウム溶融塩を詠動して電解質として電解してアノード(陽極)に至り、ここで水素と化合してアンモニアを生成します。

カソード(陰極)における反応は

1/2 N2 + 3e- → N3-

アノード(陽極)における反応は

3/2 H2 + N3- → NH3 + 3e-

この方法は合成は良いとして発生期の水素をどう製造するかという問題があります。 京都大学エネルギー基礎科学専攻の長谷川茂樹は溶融塩電解でアンモニアを72%の転換率を達成しました。

同志社大学発のベンチャー企業I'MSEP CO. Ltdの伊藤靖彦氏は京大方式を改良して溶融塩の中程に水を注入して

3/2 H2O + N3- → NH3 + 3/2 O2-

でアンモニアを合成しようとしましたが、更に改良して水素透過金属膜で仕切り、効率を26GJ/t-NH4まで高めました。ちなみに現行の天然ガスからの合成効率が28GJ/t-NH4です。


図-6.11 塩化物溶融塩を使うアンモニア電解合成

<固体酸化物型>

NEDOが研究資金の大盤振る舞いをした水素エネルギー開発で ジルコニウム、イットリウム、ストロンチウム、セリウムの化合物でペロブスカイト型構造を持つプロトン伝導性酸化物セラミックス(PCC Proton conducting ceramics)を使う固体酸化物型(SOFC; Solid Oxide Fuel Cell)燃料電池開発 が盛んに行われました。この派生技術としてPCCを600oCにおいて水電解につかう研究もなされております。九州大学稲盛フロ ンティア研究センターがPCCを電解質として使い、水電解をして水素を製造する研究でペブロスカイトや電極の組成と組み合わせ、多層化をおこなった水蒸気 圧分だけ効率がよくなって90%を達成と報告しております。通常の電気分解の効率が80%ですから蒸気圧分だけ改良したことになります。日本碍子が製品化 しております。しかし製造したものが水素では貯蔵と輸送に問題があって実用的な意味がありません。

1998年にAristotle University of ThessalonikiGeorge MarnellosとMichael StoukidesがPCC固体電解質とし、多孔質プラチナまたはパラジウム電極をアノードとしてこれに水蒸気(天然ガスまたは合成ガスでも可)を供給 し、カソードにニッケルまたは銅系(オリジナル研究は両極ともパラジウム)の電極をおいて電気分解すると水からプロトンが外れてPCCを流れてカソードに 至り、ここで電子を得てプロトンが再び水素に戻るとき、カソードにある窒素と反応してアンモニアが合成されることを発表しました。水の電解とともに常圧で アンモニア合成でき、電力の利用効率は80%でした。熱力学的にはハーバー・ボッシュ合成の圧縮動力と電解用電力は等価ですが、電解電力分が節約できるこ ととハーバー・ボッシュ合成に比べ 、反応速度が大きいこと、また常圧でありますから設備費が安くなることです。

図-6.12 固体電解質を使うアンモニア電解合成

早速米国の大学やベンチャーが研究に着手し、特許取得しております。

日本でせっかくな水分解まで到達しながらなぜアンモニア合成まで到達しなかったかと考えるにNEDOや企業の経営者が一斉に水素や二次電池などに大きな予 算をつけた結果、日本中の研究人材がそちらに気がとられてアンモニアが燃料になるということの深い意味に気がつかなかったからでしょう。そういう意味で日 本はキャッチアップできる立場にありますので若い世代が頑張てほしい。

電解法によるアノード(負極)における反応は

3 H2O→3 H2 + 3/2 O2

カソード(陽極)における反応は

3 H2 + N2 → 2 NH3

以上は2006年のデンバー・アンモニア会議でハーバード大のJason C. Ganleyのプレゼンテーションを整理したものです。

2007年のサンフランシスコ・アンモニア燃料会議で 米国のNHThree LLC社というベンチャー企業がPCCを使う電解法の比較資料を発表しました。ここに転載します。(ア イオワ ・エネルギーセンターで論文のpfd入手可能)彼らはトリチウム回収用に東京窯業が製造したPCC製チューブを実験に使っております。

Measure Natural gas + Harbor-Bosh Syn. Electrolyzer+Harbor-Bosh Syn. PCC Electrolyser Syn.
Energy required per ton of NH3 33MBtu=9,700kWh 12,000kWh(H2 production only) 7,000-8,000kWh
Capital cost per ton/day NH3 capacity $500,000 $750,000(cost dominated by electrolyzer) <$200,000
Fuel cost to produce 1 ton of NH3 at large scale depends on location and NG cost $420(3.5cents/kWh)
$240(2cents/kWh)
$245(3.5cents/kWh)
$140(2cents/kWh)
Cost of 1 ton NH3 at moderate to large scale depends on location and NG cost $600(3.5cents/kWh)
$400(2cents/kWh)
$315(3.5cents/kWh)
$210(2cents/kWh)
Tons of CO2 emitted per ton of NH3 produced 1.8 0 0

表-6.4 電解法によるアンモニアの直接合成法比較

2008年のサンフランシスコ・アンモニア燃料会議ではNHThree LLC社はコロラド大の鉱山学部と共同でおこなったSOFCチューブ試作研究成果を発表しております。

本技術は燃料電池と同じく負電極にプラチナあるいはパラジウム、SSC(ストロンチウム添加サマリウム・コバルト酸化物)正極に銅、ニッケルが必要、ペロ ブスカイトにジルコニウム、イットリウム、ストロンチウム、セリウムが必要で、ジルコニウム資源に制約があることになりましょうか。

資源的制約の少ないのは溶融塩電解です。

<コバルトセンを還元剤にする窒素還元>

東京大学の西林仁昭教授が 開発したPNP型ピンサー配位子という、りん―窒素―りん原子が錯体を中心として三座で配位結合する化合物を有した、窒素分子架 橋二核モリブデン錯体を触媒として用いることで常温常圧の極めて温和な反応条件下で窒素ガスをアンモニアへと変換する反応(K. Arashiba et al, Nature Chemistry, 2011, 3, 125-130,図1)。非常に単純で市販されている配位子を有するモリブデン錯体を用いて触媒的なアンモニア合成が可能になりました。この新規な窒素錯 体存在下、窒素ガスを還元するのに必要な還元剤として比較的安価な有機金属化合物の一種であるコバルトセンとプロトン源(水) とを組み合わせて反応を行うことで、効率的な窒素ガスからのアンモニア合成プロセスを達成しました。

N2   +    6e-     +    6H+  →  2NH3

窒素ガス  コバルトセン     水       アンモニア

還元剤のコバルトセンはレドックスフロー電池様の仕掛 けで還元してリサイクルすれば、結果としてアンモニア電解合成と同じになります。


いずれにせよ電解はエネルギー変換サイクルにブレークスルーをもたらすかもしれない可能性を持っております。また二次電池の代替ともなりうるものです。

本法は炭化水素燃料枯渇前でも、天然ガスコンバインドサイクルで発電し(必要なら二酸化炭素は隔離です)、その電力で電解合成するという方法でカーボンフ リー燃料を合成する ことも可能です。表-3.3 のNHThree LLC社の試算では3.5cents/kWhの電力で$315/tonNH4とし ております。

合成肥料をもたらしたことにより地球が支えることにできる人口総数を増やすことに多大な貢献をしたハーバー・ボッシュ法も、もしかしたら駆逐 してしまう可能性をも秘めている技術かもしれません。

(6) 光分解アンモニア合成はいまだ収率が低く積極的には研究されていません。

(7) 窒化アルミニウム法:酸化アルミニウムを集光熱で加熱し、窒素雰囲気下で炭素またはメタンで還元して窒化アルミニウムと合成ガスを製造する。合成ガスから メタノールとDMEを合成できる。窒化アルミニ ウムと水を反応させるとアンモニアと酸化アルミニウムを得る。酸化アルミニウムはリサイクルする。還元剤として天然ガスか石炭を使いますので化石燃料枯渇 前には使える。天然ガスを原料して水蒸気改質を使う方法の代替にもつかえたつメタノールを副産する。

望月氏から教えてもらった方法でアインシュタインの母校であり、21人のノーベル賞受賞者を輩出したETH(スイス連邦工科 大学、チューリヒ校)の機械・プロセス工学科のエネルギー技術研究所のM.E.Galvez, M. Halmann, A. Steinfeldらによって2007年に提案された。(IEC Res. 2007, 46, 2042-2046)酸化アルミニウムも窒化アルミニウムも運転範囲では固体粉末である。

Al2O3 + 3CH4 + N2 = 2AlN + 6H2 + 3CO     ΔH0 = 932kJ/mol  1,500°C

2AlN + 3H2O = Al2O3 + 2NH3      ΔH0 =-274kJ/mol


図-6.13  窒化アルミニウム法

(8) 酸化マグネシウム熱分解法:集光型太陽-炉でマグネシウムや亜鉛や鉄などの金属を水素キャリアとする研 究もされています。東京工業大学の矢部孝・吉田国雄教授らが開発中のフレスネル・レンズで集光した太陽光をクロム添加のセラミック製ネオジムYAGレー ザー素子で赤外線レーザー光に変換し、レンズで再度集光して2万度の高温を作り出し、酸化マグネシウムを金属に還元する技術は太陽光を直接水素に変換する 方法で大きく化ける可能性を持っています。石油後のエネルギー産業を模索しているアラブ首長国連合(UAE)が資金を出してプロトタイプの実験を計画して いるそうです。これなど成功したら全く新しいタイプの水素製造とエネルギー輸送法となります。集光型太陽熱反応器で天然ガスの改質反応、石炭の部分酸化法 による水素ないし低炭素燃料製造を行うことも考えられます。

<二次転換>

(1)一次変換できた水素を運搬する手段として圧縮水素ガス、液化水素がありますが、コストがかかります。

(2)吸蔵物質吸蔵、カーボンナノチューブ、アンモニアボラン、リチウムイミド、窒化マグネシウムなど各種研究されまし た。

(3)トルエン、ナフタレンなど不飽和炭化水素を水素化するケミカルハライド法など各種研究されまし た。第三章で水素を自動車搭載燃料電池の燃料に使 う場 合のケースも紹介しましたが、本法は燃料電池に直接水素を供給する構想ですが、燃料電池の価格が下がらず、普 及段階に入ったものはありません。

(4)二酸化炭素と反応させてメタノール、ジメチル・エーテルは二酸 化炭素源が問題となります。二酸化炭素を消費地から送り返す方法、大気から吸着分離する方法が考えれれますがコスト的に不利です。ドイツでは2050年ま でに炭化水素燃料と核燃料はゼロにする国家目標を掲げています。しかし風力は不安定で、太陽光と 太陽熱は不安定でかつ昼間しか使えません。二次電池は自動車には使えるかもしれませんが高価すぎます。フラウンフォーファー研究所はノルウェーのフィヨル ドに建設する海水の地熱発電、揚水発電、浸透圧発電でバックアップすることを提案していますが、長期間の天候不順などにそなえ、化学エネルギーに転換して 火力発電することは必須としています。また自動車燃料、航空機燃料、産業用燃料なども必要です。カルロ・ルビアは再生可能エネルギーからの水素のままよ り、空気中に0.04%ある二酸化炭素を吸着または膜で回収し、水素と反応させてLNG、メタノール、ジ・メチル・エーテル燃料などの水素誘導品に変換し て貯蔵・輸送する方法を提案しております。炭素バランスはバイオと同じくニュートラルということです。

(5)二酸化炭素と反応させてギ酸に転換して液体燃料にして運ぶ方法も考えられます。産業技術研究所とブルックヘブン国 立研究所は2012/3/19ネイチャーに水素と二酸化炭素混合ガスをイルジウムを含 む触媒を溶かしたアルカリ溶液に接触させ、常温に近い状態でギ酸塩溶液 を比較的簡単につくれることを発見したと発表しました。このギ酸塩液溶は50°Cに加熱することにより、酸性のギ酸溶液となり高圧の水素と二酸化炭素ガス を発生させ、触媒を含む水がのこってサイクルが閉じる仕組みです。ギ酸塩液溶は既存のインフラで運搬できるメリットがあります。二酸化炭素をどのように用 意するかが問題となりましょう。

(6) 再生可能エネルギーから製造した水素をハーバー・ボッシュ法でアンモニアに変換します。再生可能エネルギーから製造した水素をハーバー・ボッシュ法でアン モニアに変換する方法は電解に必要なエネルギーとハーバー・ボッシュ合成に必要な圧縮エ ネルギーは熱力学的に等価で、エネルギーの2重投資になり取るべきルートではないでしょう。高圧電解をして圧縮エネルギーを減ずる方策による削減効果は数 %と少ないようです。大気中の80%もある窒素と反応させてアン モニア燃料にするのが有望です。大気中に80%ある窒素は深冷分離法で簡単に分離できますから窒素を水素担体にしてハーバーボッシュ合成すればアンモニア 燃料を製造できま す。


図-6.14 遠隔地におけるソーラーセル電力からのアンモニア燃料

アンモニア合成法としてはハーバー・ボッシュ法の代わりに、電解によるアンモニア合成法も利用できます。

(7)2013年、常温常圧で窒素と水素を結合させることに理化学研究所が成功し米科学誌サイエンス電子版に発表した。アンモニアの人工合成は、触媒を 使って窒素と水素を反応させる。ハーバー・ボッシュ法では高温高圧にする必要があった。理研環境資源科学研究センターの侯召民・副センター長らは、チタン や水素を使って「チタンヒドリド化合物」を作成。常温常圧で窒素と反応させると、二つが固くつながっていた窒素の原子が切り離され、水素原子と結びつく。

(8) 鉄鉱石を水素で直接還元する還元製鉄があります。また消費地でのアンモニア還元製鉄も考えられます。

再生可能エネルギー転換アンモニア燃料

再生可能エネルギーの余剰電力を使って電解合成でアンモニアに変換し、自動車燃料とすれば炭化水素燃料枯渇に供えることができます。 炭化水素燃料が枯渇すれば人類は炭素源に困ります。しかし大気中の窒素を水素の担体に使えるわけです。同時に酸素も地球の大気に供給してくれますので植物 に酸素供給の依存から開放されます。

電解技術としてはプロトン伝導性酸化物セラミックス(PCC Proton conducting ceramics)を固体電解質として電解してする方法と溶融炭酸塩電解槽を比較します。

-6.15 アンモニア電解合成でアンモニアという物質に変換して貯蔵し再電力化する法

大型の場合は窒素製造は空気分離装置を使いますが、家庭用などの小型分散電解では図-6.15のように生成するアンモニアの11.76%を燃して窒素と水 にし、水と窒素を回収して使う方法も考えられます。発生する熱は電解槽加熱ないし発電して電解電力の補助に使えます。

3H20 + N2 → 2NH3 + 3/2 O2

4/17 NH3 + 3/17 O2 + 15/17 N2  → N2 + 6/17 H2O

-6.16 アンモニアから窒素を製造する法

 

再生可能エネルギー転換アンモニア燃料の単価試算

再生可能エネルギーとしては風力、ソーラーセルと蓄熱式集光型太陽熱発電(CSP発電)の電力をアンモニアに変換することにします。その時の電力価格、稼 働率は第3章の図-3.28の数値を使います。風車、PVは国内立地ですが、蓄熱式CSPの立地に有利なサンベルト地帯 とし液化アンモニアとして輸入するというスキームです。

<水電解による水素製造>

苛性ソーダを加えた水を隔膜で分割したセルで電気分解して酸素と水素を分離する方法です。水を加熱してその蒸気圧分、電気分解の電圧を下げる方法もあります。NEDOの支援で三菱重工が行ったプラチナ電極固体高分子膜電解槽建設費は720,000円/Nm3/hです。Nm3/h の水素の燃焼熱は284kJ/mol=3.52kW/Nm3/hですから205円/Wとなります。

九州大学のPCC固体電解質の電解槽のコストは不明です。

<アンモニア電解合成>

水電解槽のコストを参考にしてPCC電解槽の建設単価は220yen/W、転換効率は80%、溶融炭酸塩電解槽の建設単価は170yen/W、転換効率 72%としました。

電解槽の寿命は8年とし、正味キャシュフローの割引率を4%とすれば電解槽の固定費 率は下表のように17.75%/yとなります。

  ペロブスカイト電解槽
使用年数 8
NCFの割引率 r (%) 4
資本金/初期投資額 (%) 100
運転年数 (年) 8
固定資産税+事業税 (%/y) 1.4
保険料/初期投資額 (%/y) 0.5
保守費/初期投資額 (%/y) 0
管理費/初期投資額 (%/y) 1.0
燃料費/初期投資額 (%/y) -
均等化経費率(%/y) 17.75

表-6.5 電解槽の固定比率

<転換単価試算式>

電解槽に必要な年収ー電力費=電解槽の単価(yen/kW) x 電解槽固定費率  (yen/y)

年間転換量=1kW x 24h/d x 365d/y x 稼働率 x 転換効率 x (1-所内率)    (kWh/y)

損失電力費=再生可能エネルギー単価 x (1- 転換率 + 所内率) (yen/kWh)

転換燃料単価=(資本費+運転維持費)/年間転換量 + 損失電力費  (yen/kWh)

転換燃料単価=再生可能エネルギー単価+転換単価    (yen/kWh)

窒素は図-6.14のような窒素発生装置を使います。これは生成アンモニアの11.76%を燃して造りますが、燃焼熱の60%は電力または熱として回収で きるとし 窒素関連の所内消費は5%としました。

電解槽からでてくるアンモニアは30oC、1気圧としてこれを30oC、12気圧の液体にするための圧縮理 論動力は中間冷却するとして107kcal/kgです。断熱効率80%とすれば、燃焼熱は5,300kacal/kgですから液化動力消費はアンモニアの 燃焼熱の2.5%です。合計所内率を8%としましょう。

この条件で2000年におけるアンモニア製造費は下表のようになります。当然ながらサンベルト地帯設置の蓄熱器つきCSPが一番ローコストとなります。

ammonia from renewable energy 2000

unit

wind land

PV

CSP w/storage sunbelt

wind land

PV

CSP w/storage sunbelt

cell type of electrosynthesis


PCC

PCC

PCC

molten salt

molten salt

molten salt

construction cost

yen/W

220

220

220

170

170

170

internal consumption

%

8

8

8

8

8

8

geometric factor

-


0.316

1


0.316

1

weather factor

-


0.4

0.8


0.4

0.8

capacity factor

-

0.25



0.25



availability

%

90

100

90

90

100

90

conversion

%

80

80

80

72

72

72

annual ammonia production

kWh/y

1,451

815

4,642

1,306

733

4,178

(revenue-fuel cost)/equity

%/y

17.75

17.75

17.75

17.75

17.75

17.75

(revenue-fuel cost)/annual production

yen/kWh

26.92

47.92

8.41

23.11

41.14

7.22

power price

yen/kWh

10.63

44.78

9.48

10.63

44.78

9.48

lost power

yen/kWh

2.98

12.54

2.65

3.83

16.12

3.41

ammonia fuel cost

yen/kWh

40.53

105.24

20.54

37.57

102.04

20.11

表-6.6 2000年の再生可能エネルギー転換アンモニア燃料価格

年々再生可能エネルギーコストは下がりますから結局下表のようになります。

trend of fuel (yen/kWh)


renewables

electrohydrolysis

2000

2030

2060

2090

ammmonia

wind land

PCC

40.53

35.64

34.41

34.41

ammmonia

PV

PCC

105.24

96.52

94.34

94.34

ammmonia

CSP sunbelt

PCC

20.54

19.02

18.63

18.63

ammmonia

wind land

molten salt

37.57

33.50

32.82

32.82

ammmonia

PV

molten salt

102.04

94.78

93.57

93.57

ammmonia

CSP sunbelt

molten salt

20.11

18.84

18.63

18.63

town gas

-

-

11.91

16.00

21.96

29.90

gasoline price

-

-

10.64

19.45

32.33

49.28

表-6.7 再生可能エネルギー転換アンモニア燃料価格の推移

サンベルト地帯設置CSP電力変換アンモニア燃料コスト、ガソリン、都市ガスをグラフ表示しますと。


図-6.17  再生可能エネルギー転換アンモニア燃料価格と都市ガスのクロスオーバー

サンベルト地帯立地の蓄熱式CSP電力転換アンモニアとはガソリンが2030年頃、都市ガスは2060年頃クロスオー バーします。

アンモニアは常温加圧で液体ですから水素より貯蔵も輸送も低コストです。ジェレミー・リフキンが提唱するような炭化水素燃料からの水素エコノミー時代は来 ず、代わりにアンモニア・エコノミー時代になるのではないでしょうか?


再生可能エネルギー転換アンモニア燃料発電単価

炭化水素燃料や原子力が無くなれば再生可能エネルギーだけとなります。 揚水発電では長期間の天候不順で困ることになります。この非常電源として、再生可能転換エネルギーが必要となります。特にサンベルト地帯の産業として最適 な産業となるでしょう。このアンモニア燃料は消費地にタンカー輸送されてコンバインド・サイクルの燃料とします。

コンバインドサイクル発電機の建設費は197yen/W、耐用年数は40年とし、均等化経費率=11.75%/yとします。利用率=80%、負荷率= 60%、発電効率はコンバインドサイクルとして59%としました。

発電単価=発電機(資本費 + 運転維持費)/年間発電量+燃料費 (yen/kWh)

発電機(資本費 + 運転維持費)=1kW当たりの発電機単価 x 発電機均等化経費率 (yen/y)

年間発電量=1kW x 24h/d x 365d/y x 利用率  x 負荷率 x (1- 所内率)      (kWh/y)

燃料費=転換燃料単価/(熱効率 x (1- 所内率) ) (yen/kWh)

転換燃料の単価は表-6.7のサンベルト地帯産のアンモニア燃料価格を使うと下表のようになります。

ammonia combined cycle

unit

2000

2030

2060

2090

construction cost

yen/W

197

180

170

170

efficiency

%

59

59

59

59

internal consumption

%

2

2

2

2

availability

%

80

80

80

80

load factor

%

100

100

100

100

annual power generated

kWh/y

6,868

6,868

6,868

6,868

(revenue-fuel cost)/equity

%/y

11.75

11.75

11.75

11.75

(revenue-fuel cost)/power generated

yen/kWh

3.37

3.08

2.91

2.91

fuel price (CSP/storage sunbelt, molten salt)

yen/kWh

20.11

18.84

18.63

18.63

fuel cost/power generated

yen/kWh

34.79

32.58

32.21

32.21

power cost

yen/kWh

38.16

35.66

35.12

35.12

表-6.9 再生可能エネルギー転換アンモニア燃料発電単価

これを他の電源の発電単価やグリッド価格と比較しますと下図のようになります。サンベルト地帯立地蓄熱CSP転換アンモ ニア燃料を燃すコンバインド・サイクルは2040年 に石油火力より安くなる程度です。したがって長期天候不順対策として短期間のグリッドの非常用バックアップ電源として使えます。ドイツではメタノールを使うことにし ているようです。


図-6.18 再生可能エネルギー転換アンモニア燃料発電単価と他の発電原価

アンモニアは常温加圧で液体ですから貯蔵・輸送費は水素よりも低コストです。ジェレミー・リフキンが提唱するような炭化水素燃料からの水素エコノミー時代は来 ず、代わりにアンモニア・エコノミー時代になるのではないでしょうか?

<非在来型小規模ガス田開発>

再生可能エネルギーへのつなぎとして化石燃料がありますが伝統的にLNGトレードでは原油スライドという商習慣があり、 カタールなどは暴利をむさぼっております。これを打破するにはアンモニア燃料はいいかもしれません。アンモニアの場合は肥料スライドでしょうからLNGよ り安くなるはず。それにLNGのように大規模にする必要はないため、非在来型小規模ガス田開発にアンモニア燃料化はいいかもしれません。こうして日本の電 力が苦しんでいるLNGの高価格の破壊目的にはよろしいように思います。

 

遠隔地立地原発からの水素・合成燃料製造

<高温ガス炉、熔融塩冷却炉、トリウム熔融塩炉等の熱の合成燃料への転換>

図-6.19のように住民の居ない砂漠、小笠原列島などの人間の住まない孤島にSMRなどの軽水炉を建設 し、ここから得られる電力で水を電気分解して水素を製造することができます。高温ガス炉の熱を使う熱化学法で水素製造することが一時期検討されましたが、高コストで放棄されまし た。現時点では、熔融塩冷却炉やトリウム熔融塩炉の熱を利用して熱化学法で水素を製造する構想が検討されています。米国のDOE/MIT/ORNLの(熔融塩冷却炉) 計画がそれです。

こうしてできた水素を原料にしてアンモニア合成し燃料や尿素合成の原料として世界マーケット に輸出するとか、鉄鉱石が近くにあれば還元製鉄工場を作り、軟鉄を輸出することが考えられます。鉄鉱石輸送に無駄なエネルギーを消費しないですみます。

砂漠立地の場合は当事国が同意しなければはじまりませんし、発生する核分裂生成物の処理法についても合意が必要です。ただ当該国が仮にクリーン資源輸出と排出量を販売出来るにせよ、このような迷惑設備を受け 入れる用意があるかどうかはわかりません。また万一放射能汚染を発生させたときの法的リスクや補償費も保険会社は一定額以上は免責とするでしょうから、汚 染距離を確保するなど、あらかじめ対策を考えておかなくてはなりません。

居住地から300km離れた太平洋上の無人島(一般住民が居ない)があれば、そこにトリウム熔融塩冷却炉を作り、製造さ れる水素をアンモニア燃料に変換して本土に荷揚げするというスキームが考えられます。海洋汚染の可能性もあり、国際問題になるかもしれません。前提として はこれらの問題を全てクリアする必要があります。土地が不足するならフローティング・プラントでもよいかもしれません。海山にいくつもフローティングプラ ントをアンカーし、一大ネルギー生産基地にするわけです。リウム熔融塩の熱を利用する熱化学法にはいくつかありますが、UT-3プロセス、ISプロセス、ORNLプロセスがあります。

<UT-3プロセス>

カルシウム、鉄、臭素を媒介にした多段熱化学分解法で水素を製造する研究も東大などでなされましたが、原発ですら放射能漏洩リスク を抱えるのに高温ガス炉のリスクはより高いですから社会の安全保障上これは使えないとおもいます。


<ISプロセス>

ヨードと二酸化硫黄と水を反応させて水素を製造し、複製する硫酸を熱分解して二酸化硫黄としてリサイクルするプロセスも原研で研究しています。千代田化工が実験装置を納入しています。耐食材がキーとなりましょう。

水素を液化して運ぶスキームは図-6.9で説明しましたように水素を液化する動力損失が大きいため、水素の液化海上輸送は経済的ではありません。やはり水 素を窒素と反応させて輸送し易いエネルギーの形にして海上輸送する ほうが優れています。遠隔の地で原発とアンモニア電解合成を組み合わせてアンモニア燃料を製造し、船で消費地まで運びます。

「高温工学試験研究炉(HTTR)」と呼ばれ、原子力機構が約850億円を投じて建設、1998年に運転を始めた。発電はせず、熱出力は3万キロ ワット。2011年の東京電力福島第1原発事故を踏まえて安全対策を強め、国の審査に合格。2021年7月末に10年ぶりに再起動し、9月19日に出力 100%を達成した。高温ガス炉はヘリウムガスで冷やす。福島第1原発事故のように電源を喪失する事故が起きても、ガスの対流で自然に冷え、安全性は高い とされる。原子力機構は水にヨウ素と硫黄を加え、セ氏900度で熱分解する新技術「IS法」を考案これで30年までに高温ガス炉での水素製造の要素技術を 確立。ただIS法は基礎研究の段階で、実用化は40年以降とみられる。当面は並行して天然ガスから取り出す「ブルー水素」の量産をめざす。これだと副産物 としてCO2が生じるのが欠点だが、技術はすでに実用段階にある。まずは水素を量産できることを証明し、需要家まで届けるサプライチェーンづくりなどに取 り組む計画だ。


<ORNLプロセス>

ウランをサイクル物質に使う熱化学反応

国産のエネルギー資源のない日本で事故時の放射性汚染で避難民を生まない方式での国産エネルギー開発として検討する価値はあります。


<SMR(Small Modular Reactor)熱の合成燃料への転換>

高温ガス炉はコスト高で廃炉になりつつあります。米国で開発された空母・潜水艦向けの高濃縮の軽水炉を更に長寿命化させて30年間燃料交換不要として使い 捨てする 炉をSMRといいます。ウラン235の濃縮度はIAEAの限度が20%のため、燃料交換期間は軍用炉の17年となります。プルトニウム、トリウムをブレンドすればトリウムが燃えるので燃料交換なく30年燃えるか も しれないがSMRのような小型炉では中性子経済がわるいので無理だろうと電力中研の木下氏はいいます。周辺機器はメンテナンスは不要でしょうが、炉内は可動部分がないので解放点検なしに使えます。

遠隔地炉として このSMRの電力を電解につかう方法と熱化学反応で水素を製造し、これに空 気から分離した窒素と反応させてアンモニアを製造し、消費地に燃料として送ることが考えられます。軽水炉のため、熱化学反応に必要な700°Cがだせませんので電解しか手はありません。

砂漠の太陽熱利用のアンモニアは輸入となり、貿易収支に影響を与えますが、自国内無人離島にSMRを建設すれば、国産エネルギーとなります。無人離島とし て尖閣列島、小笠原諸島にある 無人島を有効利用できます。人口密集地より100km離れていればメルトダウン事故が生じても補償問題は生じません。問題は事故後の廃炉コストが民間では 負担できないかもしれません。


図-6.19 遠隔地における原発熱転換燃料

 

炭素または二酸化炭素隔離法を採用する炭化水素資源からの合成燃料と還元製鉄

気候変動の原因が気象学者達がいうような人為的二酸化炭素放出によるものであれば炭素ないし二酸化炭素を隔離しないかぎり炭化水素資源の利用はできませ ん。しかしIPCC理論は第一章で論じましたよう に気体分子論からみればかぎりなく疑わしいといわざるをえません。そのときは隔離無し 天然ガスまたは石炭を熱分解して炭素を分離・隔離するか、ガス化して二酸化炭素を分離・隔離しつつ、メタノールやアンモニア燃料などの合成油を製造できま す。

 

図-6.20 石灰石中和海洋隔離法を採用する石炭からのメタン製鉄とアンモニア合成

<二酸化炭素の分離・隔離を伴う合成油>

二酸化炭素のプレコンバッション隔離、なかんづく海洋隔離法は石炭からの合成肥料製造、メタン製鉄にも適用できます。

まず石炭を酸素で部分酸化して一酸化炭素を製造します。

2C + O2 = 2CO

一酸化炭素はシフト反応で水蒸気と触媒存在下で比較的低温で反応させて水素と二酸化炭素にします。

CO + H2O = CO2 + H2

こうしてできた二酸化炭素を除去すると水素ガスが得られます。これに窒素ガスを混合して圧縮し、高圧反応器でアンモニアに合成するのです。尿素はアンモニ アから製造します。

3H2 + N2 = 2NH3

除去した二酸化炭素は石灰石中和海洋隔離法で隔離するわけです。1モルの炭素(燃焼熱394J/mol)から2/3モルのアンモニア(燃焼熱 383J/mol)が得られます。総括収率を90%とすればエネルギー収率は58.3%となります。失われたエネルギーは合成反応のリサイクル・コンプ レッサーの駆動などに使われます。

製鉄業は石炭からコークスを製造し、高炉に供給するのをやめ、合成ガスをメタネーターでメタンに転換します。このメタンを高炉に送って鉄鉱石を還元するの ですがコークスを使わないため、ジルコニアのボールをつめて空隙を確保します。発生する二酸化炭素を石灰石中和海洋隔離法で隔離するわけです。未来的には アンモニア還元製鉄すら視野に入るのではないでしょうか?

以上のハーバーボッシュ法の変わりに第三章でご紹 介した電解によるアンモニア合成法も利用可能です。

<炭素の分離・隔離を伴う合成油の製造>

炭化水素を燃焼して発生する二酸化炭素を回収・隔離することがIPCCによって推奨されています。しかし二酸化炭素はガスですから隔離する場所の確保が大 変難しくなります。しかしメタンの熱分解で炭素を固体で分離すれば、これは素材にするか、穴を掘って埋めるだけでよいことになります。

こういう観点でポツダムにあるInstitute for Advanced Sustainability Studies (IASS)はCombustion of methane without CO2 emissionsという研究を2010年にはじめました。 これはノーベル化学賞を受賞したジョージ・オラーの論文:Alternative Energy Sources Beyond Oil and Gas: The Methanol Economy George A. Olah, 2005の 「Chemical Recycling of CO2」という章を出発点としております。IASSのScientific Directorはパラボリックトラフ集光器の溶融塩を流すことを提案して成功させたノーベル物理学賞受賞の物理学者Prof. Dr. Dr. h.c. mult.Carlo Rubbiaです。 こうしてできた水素と空気中に存在する0.04%の二酸化炭素を吸着・膜などで濃縮して反応させメタノール合成しようという案です。この燃料を燃しても大 気中にあった炭素なのでカーボン・ニュートラルだというロジックです。この代案として大気中に80%ある窒素と反応させてアンモニア燃料を製造することも 可能です。 しかしいずれにせよ炭素を燃さないで隔離するという構想ですから、もしIPCCの予測が間違っていたら壮大なる無駄ということになります。

 

動力回収

製鉄業ではコークス炉のコークスを窒素ガスで冷却し、熱くなった窒素ガスで発電して動力を回収することが行われております。石油精製業はまだ採用しており ませんが、加熱炉を直接バーナーで加熱する代わりに、ガスタービン排気で過熱することが可能です。

コークス炉ガス、高炉ガス、転炉ガスなどの副生ガスを集めて1,300oC級コンバインドサイクル発電をして、効率は47.5% (HHV)を確保しています。余剰の電力は 電力会社に販売しております。電力会社のコンバインドサイクルより少し効率が低いのは燃料ガス圧縮動力が余計に必要だからです。


熱音響機関

パイプの一部が熱せられ、別の一部が冷却されているとき、そのパイプ内を空気が行き来すると膨張と圧縮がくりかえる。そ のとき空気の揺らぎが増幅されて音が出る。熱音響現象は熱エネルギーが音に変換される現象だ。大口径のパイプをループ状に結び、その一部に細管の束からな る蓄熱器を設置し、その細管の一旦を排熱などで300℃程度に加熱し、他端を循環水で冷却すると大音声の音が出る。この音を大口径パイプの反対側に導き、 そこに細管の束からなる蓄熱器を設置し、細管の束の一端を循環水で加熱すると、他端が冷却されて低温になる。こうして冷熱がえられるのである。

 

リサイクルによる自動車燃料

<廃植物油からの脂肪酸メチルエステル>

廃植物油とメタノールから脂肪酸メチルエステルを作り、ディーゼル油とすることもここに含まれます。しかしエネルギー全体に占めるフラクションは非常に小 さなものです。

<廃木材からの発酵エタノール>

木造家屋の新陳代謝の多い日本では、木材廃材を焼却処分せず、バイオ燃料に変換できます。古紙も可能性があります。セルローズやヘミセルロースを希硫酸な どで加水分解して糖化し、セルローズから得られたグルコースなどの六炭糖は酵母を使う発酵法でエタノールにし、ヘミセルロースから多く得られるキシロース などの五炭糖は遺伝子組み 換え菌でエタノール発酵させ、この技術は廃木材に適用するだけでなく、森林を定期的に伐採して得られるセルローズにも適用可能です。

<廃プラスチック熱分解燃料油化>

廃プラスチックを熱分解して燃料油に変換する技術もあります。

 

バイオ燃料

<サトウキビからの発酵エタノール>

ブラジルではサトウキビを絞った蔗糖を発酵させて蒸留し85-100%エタノールとしたE10というエタノールを点火栓式エンジン搭載の自動車燃料として います。 これは絞りかすであるバガスを補助燃料にできますのでエネルギー収支比(EPR Energy Payback Ratio)がなんとか維持できています。しかし食料としての方が重要でしょう。

<余剰穀物からの発酵エタノール>

米国、フランスは石油の価格が高騰したため、トウモロコシなどの余剰穀物をアミラーゼという酵素で糖化してからアルコール発酵させるか、ビートや砂糖キビ をアルコール発酵してエタノールを製造し、自動車燃料にしております。過剰穀物の価格維持のための輸出農産物への補助金はWTO協定で禁止されているた め、過剰穀物を抱えている欧米政府はエタノール化して自動車燃料にするところに補助金をつけることにしたのです。しかし穀物の価格が高騰しすぎて、アフリ カ諸国など貧困国が困っています。

発酵残渣として副産するトウモロコシ蒸留残渣(DDGS, Distiller's Dried Grains with Solubles)はタンパク質や脂質に富んでいるため大豆より安価だとして家畜飼料に使われております。

いづれの方法もエネルギー収支比が低く推奨できません。

<ガソリン・エタノール混合燃料>

米国政府の動きに慌てた経済産業省はエタノール化は自国の農業保護政策とは認識できず、穀物を原料とするエタノール燃料を輸入するように石油業界に指導し ました。減反政策をやめて水田を復活させて離農者を減らし、余剰米を補助金でエタノールにして農業を崩壊から守るというなら意味があるかもしれませんが、 外国の農産物価格維持に協力してエタノールを輸入するなど国家利益の毀損政策でしょう。ただ農業で生活できずサラリーマン化してしまった零細農家を帰農さ せることは手遅れでしょう。彼らは耕作放棄した農地はもはや転売する資産としてしか認識しておりません。

経済産業省はE3というエタノールを直接ガソリンに3-10%混合したガソリンを販売するように指導していますが、石油連盟は品質を理由にE3を販売する ことを拒否しております。石油企業はエタノールが使えるなら沸点が中途半端で製品にできない石油のC4留分中のイソブテンと反応させてETBE(エチル ターシャリーブチルエーテル)というオクタン価改良剤に変換してこれをレギュラー・ガソリンに混合してハイオク燃料にする方法を採用したほうがより合理的 だと考えているのです。

<パーム油からの脂肪酸メチルエステル>

ヨーロッパでは東南アジアから輸入するパーム油とメタノールから脂肪酸メチルエステルを製造し、ディーゼルエンジン登載の自動車や旅客機のジェット燃料に しております。

<藻類の培養による中性脂肪や軽油>

光合成のエネルギー転換効率は5%ですが農産物の転換率は1%以下であります。このようなわけで昔からバイオ系学者により提案されては消えてゆく研究テー マの一つでありましたが、最近微細藻類ではソーラーセルに匹敵する転換率のものが見つかっているようです。ただまだコスト上の問題を抱えております。

2009年、ニュージーランドのマッセイ大のキスティー博士 (Chisti)や 筑波大の渡邉信教授はボトリオコッカス(Botryococcus braunii)という微細緑藻類に期待しています。火力発電所の排出二酸化炭素を原料に深さ30cmのプールで培養する。油の2/3は植物油、1/3は 軽油相当のC17-C20の炭化水素。軽油の燃焼熱46MJ/kg、植物油の燃焼熱を38.5KJ/kgとすると生産油の燃焼熱は40.9MJ/kgとな ります。1ヘクタール当たりの油生産量と転換効率は表-3.9のようになります。

  1ヘクタール当たりの油生産量 (トン/年) kJ/day m2 転換効率(%)
トウモロコシ 0.2 2.2 0.02
大豆 0.5 5.6 0.06
ベニハナ 0.8 8.9 0.08
ヒマワリ 1 11.0 0.11
アブラナ 1.2 13.0 0.13
アブラヤシ 6 67.0 0.67
緑藻類 ボトリオコッカス 47-140 520-1,560 5.2-15.7

表-7.11 農作物と藻類の培養による中性脂肪や軽油 

このように藻類の転換率はソーラーセルに近くなり、米国では研究開発が活発化しています。 エクソン・モービルはBPと共同で人間のゲノム解析をしたJ. Craig Venter率いるシンセティックジェノミックス 社(Synthetic Genomics Inc. SGI)と提携し、600億円を投じ、遺伝子組み換え光合成藻類からガソリンや軽油と互換性のある再生可能燃料を商業規模で生産するためにバイオ燃料製造 技術の開発に取り組むと2010年末、公表しました。単位面積あたりの生産量は他のバイオ燃料の3倍以上ということです。しかし二酸化炭素だけでなく、 水、栄養素やミネラルの供給、光を受ける広大な培養池、光が深く浸透しないための攪拌機などコストがかかりますので採算性が問題でしょうし、広大な土地は まず食料生産に優先使用させるべきでしょう。 したがってこれは本気の研究ではなく、愚かな消費者を欺く企業のイメージ改善広告費と理解するのが妥当でしょう。あるいはJ. Craig Venterの神通力のなせる業かもしれません。

微細藻類スピルリナは藻類ではなく細菌ですが熱帯のアルカリ塩湖に自生しています。フラミンゴの羽をピンクに染めるのはこのスピルリナがもつカルテノイド 色素のためです。このスピルリナは低カロリー・高蛋白の食品として水車型攪拌機を設置した培養池で多量に培養されています。

微細緑藻シュードコリシスチス (Pseudochoricystis ellipsoidea)などの単細胞を水中で培養して光合成させ、中性脂肪や軽油を生産しようというものもあります。デンソーが開発中とか。もしこれが 可能なら中性脂肪はメタノールと反応させて脂肪酸メチルエステルにしてディーゼル燃料に変換できます。

有機物があれば、ポトリオコッカスより10倍以上の生産能力で石油を造る藻類オーランチオキトリウムを渡辺信、彼谷邦光教授の筑波大チームが沖縄の海で発 見したと2010年12月報道しています。深さ1mで面積1ヘクタール当たり年間1万トン、東京都面積の10分の1(約2万ヘクタール)で、日本の石油輸 入量に匹敵する生産量になるとしています。しかしオーランチオキトリウムとは他のラビリンチュラと同様、葉緑体を持たない従属栄養生物であり、周囲の有機 物を吸収して生育する藻類ですので光合成ではなく、他の生物が作った有機物を石油に変換するだけのことで、その有機物をなにで作るのかが問題。ボトリオ コッカスより10倍以上の生産能力があろうとも全く意味のない発見です。

20015/12/2鞭毛虫の仲間であるミドリ虫を石垣島で培養している出雲社長が率いるユーグレナがミドリムシから搾った油を燃料に精製する国内初の設備 を横浜市に建設すると発表した。千代田化工がシェブロンの技術でプラントを建設し2018年の稼働予定。全日空が10%ブレンドで使う。 実用化への最大 の課題は石油由来のジェット燃料の10倍程度とされる価格をどう下げるか。

<養殖海草バイオ燃料>

まだアイディアの段階ですが、ホンダワラを水深400mの大和堆(たい)でロープ養殖する案が提唱されてい ます。乾燥重量100grから3ccの発酵法エタノールがとれるとのことです。農業のような土地や用水の制限がなく、四国の半分の広さ10,000km2で 養殖すれば日本のガソリンの30%相当のエタノールが得られます。バイオエネルギー利用としては好ましい感じがあります。

<まとめ>

前述のように微細藻類の光合成にはまだ希望があるかもしれませんが、農作物の光合成転換率は1%程度ですのでエネルギーとして利用するには無理がありま す。ソニア・シャーの「石油 の呪縛」によればバイオエネルギー1キロカロリーを生産するに必要な化学合成肥料の原料となる天然ガスやトラクターなどの農業機械、発酵・蒸留時 のエネルギーの合計は10キロカロリー必要といわれ、かえって二酸化炭素は増えてしまうとしています。

日本エネルギー研究所によれば(得られるエネルギー)/(投入エネルギー)比はトウモロコシ1.3-1.8、小麦1.2とのことです。そして得られるエネ ルギー1メガジュール当たりの二酸化炭素排出量はガソリン86グラムに対し、トウモロコシ80グラムでほぼ同じレベルになります。

サトウキビはバガスを燃して蒸気を作り、蒸留につかうことができるため、バガスの燃焼熱を投入エネルギーから控除できますので(得られるエネルギー)/ (投入エネルギー)比は8となります。またサトウキビの得られるエネルギー1メガジュール当たりの二酸化炭素排出量は18グラムとなり、ガソリンより優れ ていることになります。

いずれにせよ炭化水素燃料がなくなれば、化学合成肥料もソーラーセルから得られる水素を出発点にしてアンモニア、そして尿素と合成しなければならなくなる はずで農業による本格的なバイオエネルギーはありえない話です。あくまで農業の衰退防止のための余剰穀物の有効利用にとどめるのが良策といえるでしょう。

それに森林を永久的に伐採して農地を拡大させるようなバイオエタノール生産は森林吸収分を控除するのは本末転倒ということになります。ブラジルのアマゾン の森林を砂糖キビ畑に代えて エタノールにするとガソリンを使っていたときの排出量の2.3倍になるとの経済産業省の試算があります。

国産米から作るエタノールの場合、排出量はガソリンより12%増えます。逆にテンサイトウからのエタノールは52%、建築廃材からのエタノールは90%削 減となる。

手付かずの新大陸に殖民した米国人やブラジル人は大陸の人々のように農地の疲弊に悩まされた経験はないため、気軽に農業によるバイオエネルギーを考えます が、今後、世界人口はまだ増えますので食料生産のほうがエネルギー確保よりはるかに大切ですし、なにより水資源枯渇問題が表面にでてきて、農業を脅かしま す。

森の木の根は空気中の炭酸ガスを地中のカルシウムと反応させて重炭酸カルシウム塩として海に流し去るという重要なシンクの役割を果たしていることが最近分 かってまいりました。

炭化水素燃料が枯渇してしまえば食料の次に大切な、我々の体を守る衣類、家屋というものを構成する有機素材を化学的に合成することはできなくなります。当 然バイオ的に作るしかないわけで、穀物生産によるバイオエネルギーなど二の次となるでしょう。

いずれにせよ大規模化、機械化に乗り遅れた日本の農業をまず再生させることがバイオエネルギー利用にとっての第一歩でしょう。以下各セクター毎に現時点で 利用可能な技術を調べて使えるものを検討してみましょう。

 

人工光合成

人工光合成と は太陽エネルギーを用いて水と炭酸ガスから酸素と有機物を合成したり、水を水素と酸素に分解する一種の植物ミミックの夢の技術です。気長に基礎研究してい れば、そのうちひょっとしてということになるかもしれませんが、試行錯誤で進化してきた自然界をコピーしてもいいものができる可能性は低いといっていいだ ろう。進化は試行錯誤ゆえ見つけそこなったルートはほぼ永久にみつけられないからです。車はヒョウとは違うし、飛行機も鳥とは違い、人間が工夫した空間は はるかに豊かであるわけです。

水の完全分解用の光合成模倣型の可視光応答型光触媒システムの開発はこれまで困難でした。植物が行う光合成プロセスに見られる可視光照射下での水の分解プ ロセスは、エネルギー蓄積型の反応であり、太陽エネルギーの利用方法として、その機構を模倣した研究が種々検討されてきました。

植物やバクテリアの営む光合成、窒素固定などを人工的に達成するため、光化学反応の観点から種々の研究がなされてきました。生物による光合成の機構は複雑 であり、実験室的には集光機能、電子伝達媒体、電荷分離構造などの要素を作成し、段階を経て積み上げていくことが必要となり、前途はなお遠いといわざるを えません。光触媒の立場からは水の光分解による水素、酸素の製造から始まり、水素をCO2、N2の還元剤に 用いて生物の生産する炭水化物、NH3を触媒的に合成することになりますが、こうした工程については部分的に成功しております。

2010年末、イスラエルのテルアビブ大のプロトキンらがアフリカから南アジアに分布するオリエンタル・ホーネットというスズメ・バチの背中にある鮮やか な黄色の皮膚は「色素増感型」太陽電池に類似した機能を持ち、0.3%での太陽エネルギー転換ができることを発見しました。紫外線の強い昼間、このスズ メ・バチの活動は活発になるそうです。

<水素製造>

1995年にはPt/TiO2触媒にUVを照射する水の光分解が研究されました。太陽光エネルギーの3〜5%と言われるUV光に依 存するのは有利ではありません。ドーピング、色素増感等、可視光域でこれを達成する手段とちてチタン化合物で層状構造を有するTitanic acid (H2Ti4O9)の層間に形成される二次元ナノ空間に可視光励起型半導体(Fe2O3、CdS、 TiO2等)を包接した触媒が研究されました。

2010年に ローレンス・バークレー研究所が酸化チタンと酸化クロームが酸素を挟んで結合した分子と酸化イリジウム分子をナノ多孔質シリカ上に固定した表面触媒は可視 光を使って、水を酸素と水素に分解 します。同じ表面触媒が二酸化炭素をCOと水に分解する。 などの研究をしています。

色素増感型太陽電池研究者のスイス・ローザンヌ大グレツェル教授はCVD法でITO基盤上にカリフラワー状に生成させたシリコン含有酸化鉄のナノ粒子とコ ロイド状の酸化イリジウム粒子は水を酸素に酸化する光変成効率5%を達成し ています。一方、メソスコーピックp型酸化物半導体はより高い効率で水を水素に還元しました。

東大の堂免一成教授、九州大の石原達己教授らが同様の研究をしています。堂免一成教授と三菱化学は2010年、光触媒である酸化タングステンと酸窒化タン タルを組み込んだ化合物を水に入れて光を当てると水素と酸素に分解しました。420nmの可視光の6.3%を水素に転換できたといいます。

経産省は2014/8エネルギー関係技術開発オードマップに人工光合成の実証実験を2022に開始と計画に盛り込んだ。

2014/9/15パナソニックは太陽光と二酸化炭素と水から窒化ガリウムとインジウム半導体を使って水素イオンを発生させ、銅触媒で二酸化炭素を一酸化炭素に還元する転換効率0.3%を達成と発表しました。

東芝は2014/11人工光合成の転換効率を1.5%にできたと発表しました。紫外線しか使えない窒化ガリウムを可視光と赤外光にひろげるためにシリコン、ゲルマニウム半導体を使い水素イオンを発生させ、銅触媒の代わりにナノサイズの金触媒をつかって達成とのこと。

2015/7/6パナソニックでは、水の分解を行う光触媒として、ニオブ(Nb)系窒化物を使った触媒を 独自に開発。酸化チタンを用いた従来の光触媒が、太陽光全体の4%程度の紫外光を対象としたのに対し、ニオブ系窒化物による新規開発材料では、全太陽光の 57%が使用可能で、高いエネルギー変換効率が得られるとしている。発生した水素と酸素は分離膜で分離される。プロトンは同研究開発は新エネルギー・産業 技術総合開発機構(NEDO)のエネルギー・環境新技術先導プログラムに採択され、同機構の支援などを受けながら研究を進めていくという


<アンモニア製造>

H2O、N2を出発原料とする光触媒法NH3合成は、現象としては1941年には見 出されておりました。1977年に米国のSchrauzer等、1980年代に東大の堂免一成、内藤周弌、大西T、田丸健二等が低効率ではありましたが成 功し 、1983年に「Chem Lett」に発表しました。使用した触媒はSrTiO3、BaTiO3、 2μm、RuO2 0.8%、NiO 1.5%を担持。光照射により、H2とともにNH3を 生成することが判明しました。これらの触媒はまたNH3を光分解してH2を生成することも見出されました。 SrTiO3、BaTiO3単独ではNH3生成活性が低く、またH2の 生成は認められませんでした。NiO、RuO2の担持でNH3、H2の生成活性が向 上しましたが、両成分の担持でNH3の生成が飛躍的に向上しました。反応では量論比との一致を確認するには至りませんでしたが、O2が 生成することは確認しています。

<糖合成>

2010年にノーベル化学賞を受賞した根岸教授がクロスカップリング反応を使って糖の光化学合成の研究を提案したところ、縦割りの専門の壁に囲まれ、全地 平を見渡せない その他研究者達が根岸教授を神輿に担いで我田引水の策謀をめぐらせているように見えます。国家予算を無駄な研究に浪費してもらいたくありません。かって東 工大資源化学研究所に付属資源循環研究施設が創設されました。その目的の一つに「CO2の循環利用」でありました。その無意味な案を棚上げされた久保田宏 教授のような気骨ある研究管理者が居なくなりました。最近の研究者は金さえもらえればという拝金主義に成り下がったようにも見えますね。際限ない資本主義 的風潮の弊害なのでしょうか?

ちなみに1960年代の高度成長期にBPがイースト菌に石油中に含まれるノルマルパラフィンを食べさせて太った菌を家畜の飼料にするという微生物タンパク 質(Single Caee Protein SCP)製造技術を公表し、CSP騒動という集団ヒステリー状態がわが国を襲ったことがあります。

アフリカで飢えに苦しむ人々を横目に見てバイオエタノールを製造し、人工光合成で食物を製造するなど倒錯の世界でブラックユーモアにもなりません。食物製 造は生物に任せるべきでしょう。現時点において食料はメタノールにするくらい余剰生産されていますのでアフリカの飢えを救うのは技術ではなく、配分を公正 に行う社会システムの問題でしょう。

 

鉄分の海洋散布による光合成

モス・ランディング海洋研究所の海洋化学者ジョン・マーチン博士は風の強かった氷河期には陸から海に多くの鉄分が供給されて、植物プランクトンが増殖し、 大気中の二酸化炭素濃度を下げて気温が低かったと指摘、「タンカー一杯分の鉄があれば地球を氷河期に戻せる」と語ったとされています。しかし大量の鉄散布 は廃棄物の海洋投棄を規制するロンドン条約に抵触するし生物多様性条約からも生態系に予想できない副作用が発生する恐れありとしてはまだ小規模実験に限ら れています。

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April 1, 2007

Rev. January 4, 2018


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