BWR炉で危惧される

制御棒挿入障害

 

元東芝社員の林信夫氏(ペンネーム)はBWR型原発は「直下型の大地震が襲うことになると、大きな上下の振動と、水平方向の振動が同時に来ます。上下の振 動が激しければ、交換を前提としている燃料集合体は上に投げ出され、下部格子板から離れて宙に浮き、下部格子板は水平方向にも振動してますから、穴の位置 がずれて穴に戻らなくなる可能性があります。したがって、強い地震を感知して、自動的に制御棒を挿入しようとしても、制御棒が核燃料集合体にぶつかった り、破損したりして、挿入できなくなる可能性があります」

と告発している。

GE設計のBWR型原子炉においては14cm正方の断面を持ち長さ4.5mの燃料集合体は下図のように圧力容器底部に立つ制御棒案内管の上部につけられた 燃料支持金具に穿った4つの穴に1本ずつ挿入され、燃料集合体の重量は制御棒案内管で支えられている。そしてシュラウド下部の炉心支持板は制御棒案内管の 横揺れを抑えている。そして燃料集合体の上部は4本まとめてシュラウド上部格子板で横揺れを抑えられている。燃料集合体は自重で燃料支持金具に乗っている だけだから、強いたて揺れがあれば、燃料集合体が燃料支持金具の穴から抜けて宙に飛び上がり、十字断面を持つ制御棒の出口の十字型スリットに落ちて乗って しまう可能性はある。そうすると林信夫氏の指摘のとおり、制御棒を挿入しようとしても、制御棒は燃料集合体にぶつかり、挿入できなくなるのだ。

独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)が行った数 値実験では上下方向の加速度が2G(1,960ガル)、周波数5Hz(周期0.2秒)のとき、燃料集合体の跳躍高は68mmであるという。燃料支 持金具への挿入深さは60mmである。したがって1,747ガルの上下方向の加速度があれば、燃料集合体は飛び上がって外れる可能性はあるわけだ。

福島第一原発1号機の主要機器の固有周期は朝日新聞2007/9/28によれば

 

機器配管

周期(sec)

主蒸気系配管 0.165
原子炉圧力容器 0.167
炉心支持構造物 0.183
燃料集合体 0.252
停止時冷却系配管 0.260
原子炉建屋 0.339

である。

中部電力は2006年の新耐震設計審査指針に照らして浜岡原発の基準地震動Ssを最大加速度800ガルに引き上げて配管 系や煙突の補強工事をしている。しかし原子炉そのものは手をつけていない。新 耐震指針の応答スペクトル基づく手法による 補強目標地震動(水平動)基 準地震動の加速度Ss=800ガルのとき、下の応答スペクトル図の黒線の通りであると中部電力は公表している。燃料集合体の固有周期0.25秒に相当する 加速度は2,000ガルとなる。

応答スペクトル図

また2007/9/20には原子炉毎に個別データを示した柏 崎刈羽原子力発電所地震観測データを用いた浜岡原子力発電所における概略影響検討−応答スペクトル比較図を公表している。これによれば制御棒挿入 性に関わる水平動は

 
  固有周期(秒) 水平動の加速度(ガル) 上下動と水平動の加速度比
1号機 0.26 2,100 0.83
2号機 0.26 1,700 1.03
3号機 0.21 1,400 1,25
4号機 0.21 1,200 1.46
5号機 0.21 1,200 1.46

となる。中電がいう制御棒挿入性とは制御棒駆動装置の固有振動のことか燃料集合体の固有振動か不明だが、一応燃料集合体 としよう。中電は水平動の加速度しか公表していない。燃料集合体が飛び上がって支持金具から外れるかどうかは上下動の強弱によるのだ。そこで外れる上下動 の閾値となる加速度1,747ガルに達する上下動と水平動の加速度比を計算してみた。結果は上の表のようになる。

東電は原子力安全・保安院の提出した詳しい柏崎刈羽原発の地震観測データの第一報を7月30日に公表 している。第二報は8月 22日に公表された。

第一報掲載の原子炉建屋基礎版上で観測された最大加速度(ガル)

観測点 NS EW UD UD/NS UD/EW
1号機 311 680 408 1.31 0.60
2号機 304 606 282 0.93 0.46
3号機 308 384 311 1.01 0.81
4号機 310 492 337 1.09 0.68
5号機 277 442 205 0.74 0.46
6号機 271 322 488 1.80 1.51
7号機 267 356 355 1.33 1.00

これによると上下動と水平動の加速度比は水平動が南北方向と東西方向で異なるのでバラツキは0.46-1.8の間で平均値は0.98である。縦ゆれが横揺 れと同じ程度に激しかったことを示している。旧設計指針で はこれが0.5で良しとしていたのだ。

もし応答スペクトル値は最大加速度に比例するとし、上下動と水平動の加速度比が浜岡原発でも刈羽原発と同じとすれば、浜岡原発の1-5号機の制御棒が挿入 できなくなる可能性はゼロではないことになる。特に1-2号機の制御棒は燃料集合体にぶつかり、挿入できなくなる恐れ大であることになる。

大地震 制御棒挿入 できません

という事態になるかもしれないのだ。

さてこのたびの柏崎刈羽原発ではどうだったのだろうか?第一報に掲載された4号機原子炉建屋地下5階の水平動の応答スペクトルの概要を青色の線で示した。 燃料集合体の固有周期0.25秒での加速度は水平方向で1,500ガルであった。(前掲の応答スペクトルの青色で示した)浮き上がって外れる可能性のある 加速度1,747ガルよりは若干低かった。これで原子炉が 無事停止できた理由が説明できる。

制御棒数本挿入できない事態なら核反応をとめることができかもしれないが、相当数の挿入不能の事態に陥れば、大事故となる。制御棒の作動不良のバックアッ プとして中性子を吸収するホウ酸溶液注入という手が残されているが、制御棒が作動不良するような地震でこのシステムが生きながらえている保証はありえるの だろうか?柏崎刈羽原発でも制御棒挿入後の原子炉冷却水装置が故障して2基の原子炉を1基の装置で2倍の時間をかけてようやく冷却できたという事例もあ る。

浜岡原発の運転差し止め訴訟のように高度に技術的な問題に関しては設計情報が公開されていないという情報非対称性のため に原告側は危険であるという理由を立証することができない。便宜的に被告側に先に自己弁護させて、その論点をつくことしかできない。これでは被告側が 巧妙に自らの弱点に触れなければ、原告側は気がつかないという落とし穴に落ちる。今回、被告側は上下動に言及することなく、水平動だけで制御棒の挿入性が 損なわれることはないという説明しかしていない。そうすると原告側は燃料集合体が上下動で外れる可能性を指摘して被告側に反論させることに気がつかなかっ た。やむをえず原告側は被告がM8.5しか考えていない。M9もあるのではないかと、マグニチュード論争しかできなかった。この点は学会の大権威の一言で つぶされてしまった。残念なことに震源距離の妥当性の論争もしていない。 もし想定震源距離が甘ければ基準地震動が800ガルを越えるだろう。

原発は出来るだけ安定に運転したいためS1値の50%を越えてはじめてスクラム信号を出すように設計されている。旧耐震指針で設計され た既設の原発はいまさら大改造は不能だろう。だが制御棒の先にダミーのガイド棒をつけて制御棒出口に常時突き出しておいて地震時に燃料集合体に邪魔されな いようにすることは可能かもしれない。

地震すぎ 地震速報 聞きました

ということになるかもしれないが、P波を分析して逃げる数秒から数十秒の時間を与えるという緊急地震速報システムの考えを取り入れ、燃料集合体に邪魔され る前にP波で制御棒を部分挿入するということなら制御系の変更で簡単に対応できる。

一旦首都圏の広域汚染が発生した場合、一電力会社の保証能力を超えるどころか国家ですら保証はできまい。

原子力保安院と御用学者達がこの首都圏放射能汚染問題を社会保険庁のように放置するのか注目してゆきたい。

原子力へ

August 4, 2007

Rev. July 13, 2009

 


2007/10/18東電は7号機の燃料集合体をプールに移動させた後、制御棒の引き抜き試験をしたところ、1本が抜けなかったと発表。落下防止の歯止め が引っかかった可能性もある 。駆動装置のコレットピストンがかじりついてしまえばこのようなこ とが発生する。圧力容器の水を抜いてからでなくては駆動装置を圧力容器からとりはずすことはできず、原因の特定はできない。面倒で時間のかかる作業だ。

安価な原発の電力に依存してきた東電は石油の価格が90ドルを越え、柏崎の点検が長期化して運転再開も出来ず、赤字転落だという。早急に地震に弱く、リス クの巨大な原発を脱して、風力やLNG発電装置に投資をせねばならないと思うものである。

September 22, 2008

 


トッ プページへ