読書録

シリアル番号 851

書名

チェルノブイリの森 事故後20年の自然誌

著者

メアリー・マイシオ

出版社

NHK出版

ジャンル

ノンフィクション

発行日

2007/2/25第1刷

購入日

2007/4/24

評価

最近「グローバル・ヒーティング の黙示録」という論文を書いた。当然チェルノブイリ原発についても書いた。事故後20年の現地をつぶさにリポートした本書は必読の書と思って購 入。

ヨハネ黙示録」8章にア ブサンの原料に使われた有毒のニガヨモ ギという草がでてくる。原発からの大規模放出現象が発生したウクライナのチョルノブイリ周辺には防虫剤に使われる同じキク科ヨモギ属のオオ シュウヨモギ(ウクライナ語でチョルノブイリ、直訳すれば 『黒いディル』、ロシア語でチェルノブイリニク)が自生してしていたため、オオシュウヨモギが村の名前になったとメアリー・マイシオ は指摘する。ニガヨモギは厳密にはロシア語でポリンといい、「ヨハネ黙示録」のニガヨモギはアブサンの原料に使われるニガヨモギではないが、その近縁種で はある。

320kmという広範囲に撒き散らされたストロンチウム-90やセシウム-137の半減期は29-30年である。そしてこれらはカルシウムやカリウムにな りすまして生物に摂取され内部被爆の原因となる。ストロンチウムは骨に蓄積されるがセシウムは新陳代謝で除染されやすい。土壌汚染が40キューリー/km2を 越えた地帯は強制退去、15キューリー/km2を越えた地帯は退去が奨励された。大部分の人は自発的に退去した。その数は数十万人 に達した。こうして空白となった汚染地区に入り込んだ植物も動物も放射能のことは知らずに旺盛に繁殖している。

松などは正常な樹形に育たず、矮小化しているが、奇妙にも奇形の動物は見当たらない。遺伝子が損傷していても奇形になるような変異であれば自然状態では奇 形児は育たないからのようである。動物の出生率は下がっているようでもあり、個体の寿命も短いようだが、最も恐ろしい天敵である人間が居ないことの方がイ ンパクトは大きく、個体数は人間のいるところよりも多い。 事故により「意図せぬ自然」が出現したということになる。

そして渡り鳥などが食物連鎖を通じてストロンチウム-90やセシウム-137をヨーロッパ各地に拡散させている。

汚染地域は干拓したピート炭地帯であるのでこれが自然発火すると放射性核種が再度舞い上がる。これを防止するために再灌漑して火災を防止している。このた め植物が入り込み安い。草原が燃えても困るので再灌漑は有効のようである。

発電所の冷却池も含め、湿地帯の水は雪どけ時に発生する氷のダムの決壊で洪水が発生すると水底に沈んだ放射性物質が流れ出る。そこでオランダのポルダーに 習い、湿地帯を土手で囲み、汚染されていない上澄みの水をポンプでくみ出して河川に放流している。

汚染地帯の住民は汚染されていない地下水を飲料水にしていたが、18年経過した時点で帯水層の上部の地下水に汚染が見られるようになった。

事故を起した原子炉の残骸を覆う石棺は雨漏りがしていて放射性物質を溶かし出し、地下室に溜まっている。水は中性子を減速させ、連鎖反応を引き起こすので 臨界質量に達しないように手を加える必要がある。

半減期が24,110年のプルトニウム239は生物に摂取されないので、吸入されないかぎり外部被爆の原因になるだけである。幸いなことにこの汚染は事故 原発を中心に30km以内に主として集中している。

Rev. January 21, 2012


2015/5/5久しぶりに孫達をつれて帰省した息子が書棚からこの本を抜き取って夢中になって読んでいるのをみて、また高校同期の日本原燃サービスの役員になったSの不愉快な思い出がよみがえった。

May 6, 2015


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