stories④

アニばらワイド劇
(第13話~第16話)




第13話「アラスの風よ、応えて・・・」~地平線~



訪れた時にはいつも思う。

アラスにはパリとは異なる時間の流れがあるようだ。
時に速く、時に遅く・・・気忙しく追い立てるものがない田舎の風景の中では常に自分のリズムで時は刻まれてゆく。

何年ぶりかでここへ来て、私が出会った衝撃的な場面の数々・・・
このタイミングでこの地に居合わす事が出来た事を、私は神に感謝しなければならない。


アラスに着いて、最初の数日間は瞬く間に過ぎ去った。
疲れきった民衆は皆 笑顔をなくし、枯れた大地のうえに立ち尽くす。
知らぬ間に人々との間にできた僅かな隙間は、我々が目を伏せている間に取り返しのつかない大きな隔たりとなって、いつしかフランス全土を飲み込んでしまいそうな・・・そんな気さえする。

耳は澄まさなければ何も聴こえない。目は見開かなければ何も見えはしない。
手遅れにならないうちに・・・出来る限りの事をしなければ。まずは手の届くところから。


村に医者を置くことにした。その手配に丸二日を費やし、領主として出来る限り配慮する事を約束した。常駐してくれる医者を探しに奔走している間、私の目には民の生々しい貧困ぶりが絶えず映され、今までの価値観がどれだけ間違ったものであるのかを思い知らされた。

貴族とは搾取するだけの存在でよいのか?考えるまでもなく、答えは出るだろう。
人々から希望の光を奪う元凶として・・・まずは高すぎる税金がある。だから、可能な限り負担を軽減できるよう領主として、現段階で出来うるだけの対策を講じた。
第一に働く当人が納得し、満足できる幸せな人生を送ること。

・・・夢物語ではなく、それが当然の世の中でなくてはならない。


いま動ける事、すべてをやり終えて眺めたアラスは・・・あの時と少しも変わらない。
まるで時が止まったかのような懐かしい風景に、改めて胸が高鳴るのを感じ、隣を見た。



「アラスはちっとも変わらないなぁ・・・すべて、あの頃のままだ」


以心伝心と言うのだろうか・・・?
ずっと私たちは同じことを考えていたのか?
むしょうにおかしくなり、吹き出してしまった。


「なんだ?おまえだって、いま俺と同じことを考えていたんだろう?」



    

記憶に残る初めてのアラス。
あれは私が7歳でアンドレが8歳・・・彼が引き取られて来て2年程経った頃か。
父と母、姉上とばあや、それに数名の召使を連れて・・・視察というよりは賑やかな家族旅行の気分で出掛けた初めての領地、アラス。
隣にアンドレがいるのが嬉しくて、いつも厳しい父上が穏やかに笑っているのが嬉しくて・・・つい羽目を外してしまったっけ。


父上の用件が終わるまでと遊びに入った森で、私とアンドレは迷子になった。

森に来たことなどは誰も知らない。
「言えば止められるから内緒で探検に行こう!」そう私が言ったから、アンドレは黙って笑いながらついて来た。
・・・あの時、私たちは何を探していたんだっけ・・・そう・・・木の実だ。赤い色をした小さな木の実。深い森の外を飛び交う小鳥たちが、その時はなんだかとてもお腹を空かせているように思えて、何か食べられるものを取って来てやりたいと思った。
ばあやのバスケットを木の実でいっぱいにするまでは帰らない。そう言って、止めるアンドレの言葉をきかずに森に入り・・・案の定、私たちは出られなくなった。


日が暮れるまではあっと言う間だったのに・・・夜は長かった。
後先考えずに奥に入った自分が情けなくて、吹き抜ける夜風と静寂と暗闇が怖くて、初めて体がぶるぶると震えた。
全部私のせいなのに・・・私のせいで迷子になったのに・・・一言も責めずに顔を覗き込み「寒くないかい?」と繰り返し尋ねて来るアンドレだけが、彼だけが頼りだった。


どのくらいの時間を二人寄りそって過ごしただろう?
それまでの寒さが一段と増して、体がきゅうぅ・・と締め付けられるように感じた後、夜が明ける気配を感じた。


朝の匂いに嬉しくなって二人で走ったら、気配のする方へ無我夢中で走ったら・・・突然森を抜けて、どこまでも大地を見渡せる広い丘のうえに出た。

私たちは朝日を見渡せる、小高い丘に立っていた。



ゆるい楕円を描く見事な地平線が、瞬く間に朱色に輝く一筋の線になり、今まさに、アラスの町が柔らかい暖炉の色で包まれていく・・・
そんな瞬間が目の前にあった。


それまで、私たちは朝日というものを見たことがあっただろうか?
暗闇を抜けて、寒さに堪えて・・・私たちはあの時、生まれて初めての日の出を見た。
たまらない生命力を感じた瞬間だった。



朝日に頬をオレンジ色に染めたアンドレが、冷え切った私の体を背後から優しく包み込むようにして、「ね、オスカル・・・生きてるよ・・・」って呟いた。


・・・あれは私たちのことを言ったのか・・・?
それとも、太陽の生命力について言ったのか・・・?
結局、確認しないままだ。


ただただ、凍える大地を赤く染めて・・・
この世の事すべてを抱きかかえるようにして昇った太陽。

それと同じものが、いま目の前にあった。
パリへ戻る前にもう一度、どうしても見ておきたくて・・・ここへ来た。



彼は覚えているだろうか?いま尋ねたら、答えてくれるだろうか?
・・・以心伝心ならば、きっと同じことを考えているだろう・・・?



「アンドレ、あの時の・・・生きているとは・・・どっちの意味だ?」


再び頬をオレンジ色に染めて、あれから大きく成長したアンドレが、楽しそうに「あれはな・・・」と語り始める。





天上にはまだ数多の星が煌く中、アラスの地平線が天と地を穏やかに分けて、どこまでもどこまでも・・・眩しく輝き続けていた。






 

第14話「天使の秘密」 ~アラス~



あれの言動に危惧を抱くようになったのは・・・
皮肉にも近衛連隊長に就任してまもなく、王侯貴族と決闘騒ぎを起こし、謹慎処分を受けた・・・あの頃からであった。

快進撃と言っていい程の昇進の辞令に、手放しで喜び色めきたったのは私だけ。
今思うとオスカル自身は確立されてゆく自分の地位や権力と相反するように国の実情を憂え、民衆の貧しい生活ぶりに同情し、殆ど奇怪ともとれる行動すらとるようになったのである。

・・・そう、それは同情だと思っていた。
飢えた子供を見れば哀れだと思い、理不尽にも奪われる命に遭遇すれば当然憤りもするだろう。
貴族の令嬢として、当たり前の育て方をしていれば、あるいは一生気付きもしなかったような出来事が、あれの心を乱し、ついには完全にその軌道を変えてしまった。



ここは覚醒の地であろうか・・・?


アラスの小高い丘に立ったレニエ・ド・ジャルジェ将軍は伏せていた頭を上げ、吹き渡る涼やかな風に目を細めた。

これ程までに穏やかな気持ちでおまえと向き合う事が出来る今、残念でならないのは・・・おまえが既にこの世のひとではないことだ・・・・・


娘の名前が刻まれた真新しい墓標を前に、ジャルジェ将軍は身じろぎもせず、険しかった道のりに想いを馳せる。

ふと気付くと、墓にかかる木影がその姿形を変えていた。


もう何時間・・・私はここにいるのであろうか・・・?


日照時間の長いこの季節であったが、いつの間にか陽射しの勢いは失われ、迫る夕刻の予感に鳥たちがバタバタと気忙しい羽音を響かせている。


自然の中で耳を澄まし、これ程までに謙虚な気持ちで時を過ごした事が今まであっただろうか?


殺戮や喧騒とは無縁の長閑な田舎の空気の中、これまでの人生を振り返る将軍にはすべてが幻のように思えた。しかし、同時に決して元には戻らない厳しい現実は老いた身体を貫くような痛みと共に将軍の上に重くのしかかり、圧倒的な力で彼の身動きを封じているかのようだった。



時折、吹き抜ける風に生命を感じる・・・


真夏の夕刻に吹く穏やかな風に癒されたジャルジェ将軍は瞼を開き、娘の名前からほんの少し視線をずらした。すぐ隣に並んで立つ墓には馴染み深く、これもまた愛しい男の名前が刻まれている。

深い長い溜め息をついてから、将軍は声に出し静かに語りかける。


「オスカルは幸せだったのであろうな・・・」



不自然な人生を強いてきた。
あれが何を考え、何を望むかよりも、遂行せねばならない事柄が確かにあった。そして気が付けば・・・本当に大切なものが何であるかに思い至るきっかけを、私は何度も見過ごし生きて来てしまった。


「盲目だったのは私の方だ・・・」


今日何度目かの溜め息は、殊更大きく魂すら抜けていくかのようだったが・・・次の瞬間、意外にも老将軍の口元には微かな笑みが浮かんだ。


「だがアンドレ・・・おかしなもので、いま私の中にある感情は悔恨ではないのだよ。娘には苛酷な人生を強いてしまった。しかしその娘は私の知らないところで自我に目覚め、いつの間にか己の意志で歩き出していたのだ。今ならはっきりと解る。あれを突き動かしたものは・・・決して同情などではない」

・・・そして・・・不自然がちゃんと自然に還って逝ったという事実、そのことに私は救われる。



「アンドレ・・・オスカルと共に生きて幸せだったか?・・・二人は幸せだったか・・・?」



誰が供えてくれたものか深い眠りについた二人の足もとには美しい花束が飾られている。
可憐に結ばれたレースのリボンが風に揺れる度に、それは愛しい愛しい娘の姿と重なった。


「軍服姿しか知らんのに、妙なものだ・・・オスカル、現金な父だと笑うか?」




二人にとってアラスは・・・覚醒の地なのであろう。

そして私にとっては・・・生涯追想の場所である。



地平線を真っ赤に染めて沈む太陽。

アラスの見事な夕日に照らされて、二つ並んだ墓標はオレンジ色に輝く永遠の礎となった。




 

第15話「カジノの伯爵夫人」~秘密~



「今回の顛末に、ジャルジェ大佐も一枚噛んでいたと言うわけか?」


ベルサイユ宮の奥深く、ブルボン王朝の繁栄を取り仕切らんとする政治家、参謀の中でもとりわけ危機的状況に敏感な者たちが、重い扉の中で語り合っていた。

「いえ、そういうわけではないようで。このような結末になりましたのは・・・恐らく偶発的な事だったのでありましょう。調べましたところジャルジェ大佐本人は事の真相をまだ知らされてはいないようですし・・・第一、大佐はここ暫くの間、宮廷への伺候を禁じられていたのです。急ぎ謹慎中の動向を探りましたら領地へ視察へ出掛けていたようで、謹慎期間ほぼ丸々屋敷を留守にしていたようです。他に内情を知る者が居ないかについても追窮しましたが、ポリニャック一味と結託している様子はなく、内密に策を練った形跡もありません。大佐はタイミングよく利用されただけなのでしょう」

「謹慎中に領地の視察だと?・・・ジャルジェ家の人間の考える事は分からんな。まぁいずれにせよ大佐は何も知らんと言う事は分かった。一報を聞いた時にはこれも近衛の役割のつもりなのかと耳を疑ったが・・・何も知らぬまま、ただ濡れ衣を着せられたとなれば・・・・・ましてや大佐は女性なのだし、随分と気の毒な話だ・・・」



二人の男、国家運営の中枢にいるといっても過言ではないセヴィニエとマルセルの会話は、聞きようによっては不謹慎とも言える程の安堵感に満ちていたが、ここに至ってやや重苦しい空気が漂うようになっていた。
同情というよりは、実質何の対策も講じられなかった自分たちの無力さを恥じるかのような微妙な間を置き、マルセルが口を開く。


「・・・放置すれば、大佐の立場に関わる問題です」

「謹慎明けの不祥事、どう弁明しようと普通ならば・・・相当に重い処分が下るだろう」

「報告では一部の王族が近衛連隊長の解任を国王陛下に要求したそうです」


予想外の出来事がおき、予想通りの行動を取る者たちがいた。

こうして全てを把握してから顛末を振り返ると、誰が加害者で誰が被害者であるかなどは概ね無意味な事であり、重要なのは亀裂が入らず無事に歴史が作られていく事であるということがよく分かる。しかし、よく分かったところで実際には何もできずに傍観する立場に甘んじてしまった己を思うと、不運なクジを引いてしまった者に対して罪悪感が沸いてくるのは自然な事であった。


「いい機会とばかりにか?特にド・ゲメネ公爵などはな・・・個人的恨みを晴らす千載一遇のチャンスだと思ったのかもしれん。実際は流産と聞いて喜んでいるであろうに」

深い溜め息をついてからセヴィニエは言葉を続ける。

「国王陛下は事情をご存知だから、それについては心配ない。むしろ大佐自らが除隊を願い出て来るような事態になってはまずい。ことがことなだけに洗いざらい打ち明ける事は難しいまでも・・・少し負担を減らしてやらねばなるまいな」





王妃懐妊のニュースが一気にベルサイユを駆け巡ったと同時に、ここではそれが偽りであることが分かっていた。
アントワネットの身近で世話をする女官の中には色めき立った噂には流されず、ひたすら事実を凝視するタイプの人間もいるのだ。第一そんな大袈裟な事を言わずとも冷静な判断力さえあれば今回の一件は嘘八百だとすぐに見抜けただろう。

「月のさわりと妊娠の兆候が自覚できるまでになる時間の間隔にどうにも無理がある」との報告が内々に上がって来たのですぐさま詳細を調べると・・・お粗末な程に無計画な茶番劇である事が判明した。

まず、全国民待望のお世継ぎであるかもしれない妊娠の確認に、宮廷医師が一切関われない等という馬鹿げた話があるだろうか?
これについてはあえて調べるまでもなく不都合が露呈した。それどころか判定した者は医者ですらなかったのだから気が抜ける。
そこで思案の末、考えたことはただひとつ。栄光あるブルボン王朝の存続とアントワネット王妃の立場について、危惧を抱いた人間が大概大雑把ではあるが繋ぎにひとつ、大芝居を打つつもりなのだろうと・・・結論から言うとそういったものとは目的が異なるようだが、危機を乗り越えるという意味で、不本意ではあっても・・・私利私欲から出た芝居だと分かってはいても・・・その片棒を担ぐのも致し方ない状況だった事は否定できない。

無論どこかの時点で、今回のように終わりにする事を前提で、である。
ほんの一時の目くらましにしか過ぎないが、外交問題を考え、王妃を取り替えるよりは遥かに楽な処置であったから。
それに・・・悪いのはアントワネット様ではないのだ。

現状では誰を王妃に迎えたところで世継ぎは望めないであろう事はほぼ間違いない。
これからは国王ご自身にしっかりと自覚を持って戴かねばならない。



嘘は大きい方が人はよく騙される。とはよく言ったものだが・・・
それよりも今回の出来事は多くの人間の待ち望んだことだっただけに、多少の矛盾は全て無視され早々と盛り上がってしまったのが悪かった。

人々の願望が愚かな虚構を許してしまった・・・。

結果としては少々の時間稼ぎができたものの、現実から目を逸らした短絡的作戦に、やはり反省と後悔とを、我々はすべきであろう。
何よりアントワネット様ご自身が・・・泣いて真実を打ち明けたお姿が苦く心に刻まれる。



仕方のない事なのだ。月のさわりどうこう以前に・・・秘密にしている事がある。
女性にばかり矛先は向くが、御子が生まれない原因は陛下にあるのだから。



「至急、ジャルジェ大佐と話がしたい」


傍観しているだけで許されるはずがない。
軽減できる痛みなら・・・今からでも手を尽くさなければ。






第16話「母、その人の名は・・・?」~天使~



オスカル様の匂い・・・ああオスカル様のいい匂い・・・・・!!

ゆっくり深呼吸をして目を閉じると、あの夜のことを思い出します。

あの時戴いた金貨が、ふさぎ込んだみんなの顔を笑顔にしました。
母さんにはふわふわの白パンと絞りたてのミルクで作ったバターとチーズ、それに新しい毛布を買いました。あとお薬も・・・。
「信じられないねえ」と何度も呟きながらお薬を飲んだ母さんは、少しの間つらい咳が止まって・・・お陽様に当てて暖めた柔らかい毛布の中で、何日間かぐっすり眠ることが出来ました。

いつも優しくしてくれた隣のおばさんは、あたしの傷んだ靴よりももっとボロの靴をはいていました。二人で並んで歩くとパカパカと空気の抜ける音の合唱です。雨の日なんかもう本当に大変で、おばさんは「裸足の方がまだマシだよ!」と口を尖らせ、二人で溜め息混じりに笑いました。でも道には危ないものもたくさん落ちているんです・・・おばさんったら夜道でうっかり釘を踏んで、左足に怪我をしてしまいました。だから、一番安いものだったけど、靴を買ってあげました。あたしからって言うときっと遠慮してしまうだろうから・・・夜中にそっと戸口の前に置いておいたんです。翌朝のおばさんはとても喜んでいました!「誰だか知らないけど有り難いよ、本当に有り難いよ・・・ロザリー、今夜はあんたんとこにも親切な靴屋が来ますように!」って。

いつもお腹を空かせて指をくわえて泣いていたピエールぼうやには、ミルクと蜂蜜の匂いがする大きなパンをあげました。ひと口ほおばって目を丸くしたピエールぼうやは「甘いパンなんか僕初めて!お菓子みたいだよロザリー!!」って、大声で叫んで飛び跳ねました。「全部ひとりで食べていいのよ」って言ってもピエールぼうやはおばさんに似てとっても優しい子だから・・・半分ちぎってあたしにくれました。大きなパンは二人で分けて普通の大きさになったけど、「ね?お菓子みたいでしょ?お菓子って食べたことないけどさ。きっとこんな感じでしょ?」って嬉しそうに話すピエールぼうやの目は見たこともないくらいにクリクリと明るく元気よく輝いていました。
甘いパンなんて、あたしも初めてだったんです。あの時ピエールぼうやと一緒に食べたパンの味は生まれて初めて食べたお菓子の味。一生忘れません・・・。


魔法のようにみんなを幸せにした金貨。それと同じ色をした豊かな髪をなびかせたひと、コツコツと凛々しく踵の音を響かせながら馬車から降りて来たひと、優しく屈みこんで、あたしの手にしっかりと金貨を握らせてくれたひと。
振り向いて少し怒ったお顔で、あたしに話しかけて下さった言葉は・・・今でもハッキリと思い出せます。



オスカル様の匂い・・・なんていい匂い・・・。
ああ、ありがとう・・・ありがとう・・・・・あの時オスカル様のおかげで、みんなひと時の夢を見ることが出来ました。




「ロザリー・・・?どうかしたのか」


目を開けると、今は目の前に貴女がいます。
今あたしは貴女の匂いに包まれています。
あの時一緒だったみんなはもういないけど・・・あたしは、あたしは、今オスカル様のおそばでこの上なく幸せです。


ねえ、母さん?最後まで「信じられないねえ」って言ってたけど・・・
今あたしの目の前にはあの時の天使がいます。

青い瞳で金貨色の髪をした、天使がいます。