読書について

 

<作品寸評>
日本の文芸作品
 芥川賞作品

海外の文芸作品

エッセイ・雑文

<注目する作家>

大江健三郎

カズオ・イシグロ
北杜夫
鷺沢萠
高橋和巳
多和田葉子
野間宏
村上春樹

トルーマン・カポーティ

<1968-1972>
1968に関する本
1972に関する本

 

<文学史・文壇史>
文学史、文壇史について
文学史
文壇史

出版史

 

 

<批評>
作家論
 金石範論
作品論

 

<最近読んだ作品>

五木寛之

怨歌の誕生

 

大下英治

悲しき歌姫

 

沢木耕太郎

流星ひとつ

 

新海均

カッパ・ブックスの時代

 

岡崎武志

蔵書の苦しみ


石原千秋

漱石と日本の近代


梯久美子 著
島尾ミホ伝『死の棘』の謎


ノルベルト・フライ 著1968年 反乱のグローバリズム

 

<トピックス>

高橋たか子死去

第7回大江健三郎賞
公開対談


英語で読む村上春樹

 藤野可織は、「爪と目」で今年(2013年上半期・第149回)の芥川賞を受賞し、一躍有名になった。私は今まで彼女の小説を1作も読んでいないので、正直どのような作品を書くのかは分からなかった。どこかで、彼女は短篇小説がうまい、という事を読んだので、この作を読む事にした。
 掲載雑誌(群像2013年8月号)の目次には作品名の前に「迸る新しい才能!不思議で奇妙でじわりと怖い、8つのダークなファンタジー」と書かれている。読んで見てまさにその通りと思った。立て板に水のように文章が出てくるのか、その筆致は軽快である。しかし、8つの作品にまとまりがあるとは思えない。彼女は何を訴えたかったのか?単なる手慰みか?多少、遊びの要素もあるだろう。

 楽しく読ませてもらったが、結果として私はこの作品を評価しない。

ピエタとトランジ

 ピエタの女子高にトランジという転校生がやってくる。彼女には特殊な予知、認識能力があり、彼女が行くところ行くところ事件が頻発する、というホラーのような話。後段では、事件が羅列されており手抜きじゃあないかと思う。

アイデンティティ
 猿の乾物を頭に、鮭の乾物を胴体にしてつなぎ、人魚に見立てたヨーロッパ向け輸出用民芸品(工芸品)の話。航海中、殆どの品が流され、その後、長い間時間が経ち、結局、残ったものの内、下手な助六の作った品が人魚のミイラ(19世紀日本の工芸品) として博物館に展示される、という話。助六と人魚の作り物との心理的なやりとりが面白い。

今日の心霊

 micapon17という名で知られるようになる女性が、写真を撮ると怖い人間の姿が必ず写る、という話。

エイプリルフール

 医者から1日に1回だけ嘘をつかないと死んでしまう、と言われ放浪するエイプリル・フールと呼ばれる少女(女性)の話。

逃げろ!

 頭のおかしい人間は、ものすごく速く走る。彼らは、姿の見えない暗殺者に命を狙われていて、逃げるためにものすごく速く走り、人を殺す。つまり、通り魔のことである。話者自体が通り魔であり、最後に自分の彼女に殺される、という話。彼女も姿の見えない頭のおかしい人間に追われていたのだ。

ホームパーティーはこれから

 夫が会社の人たちと一緒にフットサルの試合をし、終わったら新築の自宅に彼らを招待することになる。つまり、この日はホームパーティーを開かなければならない。彼女は褒められようと一生懸命、準備をするのだが予想もしない時間に客が次から次へとやってくる。客は彼女の事を見向きもしない。最初は困るのだが、その内に客が多すぎるのに気がつく。そしていつの間にか、マンションの筈の自宅が庭のある広い邸宅に変わっていて、来る人来る人に丁寧な挨拶をされるという、どこかで夢の中にいるようになってしまった話。

ハイパーリアリズム点描画の挑戦

 時はいつのことだかは分からないが、2037年以降だ。その頃は、美術館で展示品を見るために格闘に勝たなければならないような状況になっている。主人公はハイパーリアリズム点描派の作品展を見に行った時に、そういった状況にさらされる。今までは途中で緊急避難経路からリタイアしてしまっていたのだが、この日は頑張って残りの何人かの一人となる。しかし、閉館の5時が来て、中年の女性監視員たちに包囲されて、出口から追い出される、という話。

ある遅読症患者の手記

 主人公は遅読症患者なのに、手記を書いている。本は書店に並んでいる間は休眠状態にあり、表紙を開くと目を覚ます。そして束ねられたページと背の間から芽が出てくる。しかし、その成長は読者の読むスピードに合わせているわけではなく、勝手気ままに伸びる。健常な人間の場合には、花が咲ききって傷みだすまでに読了する。花は読了した時点の状態で永遠に生きる。主人公のような患者の場合には、読了する前に花は悲惨な状態になり、彼らの指先は真っ黒な本の血で染まる。こんな話である。