稲穂地区の被害
稲穂地区では17名の方が亡くなった(行方不明者も含む)。
水野さんちの近所では、家の中で津波に巻き込まれ、部屋の中で洗濯機の中の衣類のようにかき回された人もいたという。
その夫婦は、窓をぶち破って入ってきた波に耐えた。波が引く時、窓の外に引きずり出されそうになり、旦那さんは踏ん張りながら、何とか奥さんの手を掴んだ。「やった!」と思ったのも束の間、引き波の力は強く、奥さんは波に飲み込まれていってしまった。
後日、彼は水野さんに言ったという。「あの、つかんだ手が放れていく感触は、一生忘れられない」と。
奥尻に押し寄せた津波で壊れた人家や船などは、すべて海流に乗って宗谷海峡を渡り、樺太に流れ着いたそうだ。
先述の流された奥さんも、そこで発見されたという。
日本全国からの義援金と、国からの補助金で復興した奥尻。
さぞかし、各家庭にも国から補助金が出たように思われているが、実はそうではない。国からの補助金は港やその他公共施設の再建に充てられ、各家庭には1銭も支払われていない。
各家庭の再建は、全国からの義援金を損壊割合に応じて公平に分け、足りない分はローンを組んで行われた。
「苦しいのはこれからだ。」…水野さんは言う。
火災保険は地震には適用されず、家が焼失したにもかかわらず誰一人にも保険金は下りなかった(それを争った裁判は有名な話しである)。震災前に組んだローンはちゃらにならず、新たに掛けたローンに上乗せされた(利子が普通よりちょっとゆるい)。
震災で壊滅状態になったウニも戻ってきつつある。
アワビの養殖も始めて、そちらもようやく軌道に乗ってきたそうだ。…食べたけど、やわらかくて、噛みしめるとじわぁ〜んと旨みが広がって美味しかったよ。
豊かな自然と平穏な生活を取り戻したように見える、奥尻島。彼らのますますの発展を祈ってやまない。
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