豊富温泉

 稚内のほど近く、豊富町というところに、一大湯治場『豊富温泉』がある。数年前まで、最北端の温泉だった。…しかし、利尻島に温泉が出来てからというもの、北海道本島で一番北の温泉に地位を一つ下げた。

 ここの温泉は、泉質的にはナトリウム−塩化物泉(食塩泉)・弱アルカリ性高張性低温泉。…成分だけ見ると、なんて事のない普通のしょっぱいだけのお湯のように見えるが、実はそうではない。
 元々、石油を掘り出そうとしていたのに、水分が多く混じっていたから油田としての活用は諦めて温泉にしたというところで、ここのお湯は石油の混じった食塩水なのだ。

 脱衣所に入った瞬間から、石油のにおいが鼻をつく。お湯の色は、やや黄色味がかった白濁色。一応、飲用可。…置いてあるコップに一口分源泉を注いで口に含む。臭い!苦い!しょっぱい!ゔぇぇ。まずっ。口の中に気持ちの悪い膜が1枚張った状態になっている。…チャレンジしてはみたものの、やめときゃよかったと大後悔。

 写真を撮るのに協力してもらいながら(アングルに人が入らないようにどいてもらった)、地元の人に話しを聞いた。
 昔は、湯船に原油の固まりが浮くほど石油由来成分が多く含まれており、それを患部(筋肉痛・神経痛・切傷・火傷・皮膚病などに効く)にこすりつけたりしていたそうだ。

 「それだけじゃないのよ。」…ご婦人の話はまだ続く。湯船の横にある「持ち帰り お断り」と書かれた桶。中には焦げ茶色の液体。…豊富温泉から採れた原油である。
 これを患部に塗り、よくさすると、さらに効果があるらしい。肘・膝・かかとのガサガサにも効果絶大!
 …昔はこの原油がたくさん採れたので、180mlくらいの瓶に詰めて200〜300円で売っていたらしい。これを家の湯船に入れて、家庭でも温泉効果を楽しんでいたそう。近年では「持ち帰り お断り」になるくらいの量しか採れなくなってしまったそうだ。

 しかし、朗報!今年の5月に新しい鉱脈を発掘したようだ。原油の販売は再開の見通しだと、耳に挟んだ。
 とにかく、湯治場としてかなり栄えている。お客さんが後を絶たない、という印象を受けた。

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