中谷宇吉郎 なかや・うきちろう(1900—1962)


 

本名=中谷宇吉郎(なかや・うきちろう)
明治33年7月4日—昭和37年4月11日 
享年61歳(文藻院精研浄雪居士)
石川県加賀市中島町 中島町共同墓地 


 
物理学者・随筆家。石川県生。東京帝国大学卒。理化学研究所寺田寅彦研究室員をへて、昭和7年北海道帝国大学教授。11年世界で初めて人工雪の制作に成功。また雪の様々な結晶形ができる条件を明らかにした中谷ダイヤグラムを発表し、16年学士院賞受賞。随筆家としても知られる。著作に『冬の華』『雪』 などがある。




 


 これは本当に天然に見られるあの美麗繊細極まる雪の結晶を実験室の中で人工で作る話である。零下三十度の低温室の中で、六花の雪の結晶を作って顕微鏡で覗き暮す生活は、残暑の苦熱に悩まされる人々には羨ましく思われるかもしれない。
 雪の結晶の研究を始めたのはもう五年も前の話であるが、有り合わせの顕微鏡を廊下の吹き晒しの所へ持ち出して、初めて完全な結晶を覗いて見た時の印象はなかなか忘れ難いものである。水晶の針を集めたような実物の結晶の巧緻さは、普通の教科書などに出ている顕微鏡写真とはまるで違った感じであった。冷徹無比の結晶母体、鋭い輪廓、その中に鏤められた変化無限の花模様、それらが全くの透明で何らの濁りの色を含んでいないだけに、一寸その特殊の美しさは比喩を見出すことが困難である。
 その後毎日のように顕微鏡を覗いているうちに、これ程美しいものが文字通り無数にあって、しかも殆んど誰の目にも止まらずに消えて行くのが勿体ないような気がし出した。そして実験室の中でいつでもこのような結晶が出来たら、雪の成因の研究などという問題 を離れても、随分楽しいことであろうと考えてみた。

(雪を作る話)


 

 墓碑銘に盟友茅誠司が記している。「昭和5年冬、北海道帝国大学理学部に赴任し、〈雪は天から送られた手紙である〉と言ってこの暗号の手紙を解読して上空の気象を知ろうとした中谷宇吉郎、恩師寺田寅彦先生譲りの独自の手腕を駆使して、天然雪の全部を作ることに成功し、遂にこの手紙を解読してしまいました」と。昭和35年10月、研究地グリーンランドから戻って東大病院で診断を受けて前立腺がんと診断され、手術を受けた。36年の年末には風邪をひき、床に臥せたままになってしまう。がんが骨髄に転移し、造血機能が冒されていた。翌年3月28日、東大病院に緊急入院。4月11日午前9時48分、家族と茅誠司、第四高等学校以来の友人高野輿作に看取られながら帰らぬ人となった。



 

 中谷宇吉郎の生家は片山津の呉服雑貨店であったが、家の後方に広がる柴山潟の岸からは雪を頂いた白山が見えた。宇吉郎は晩年、中谷家の菩提寺興宗寺の先代住職に「雪を研究したのは子供の頃、白山の美しい雪景色を見ていたからです」と語っていたそうだが、その柴山潟に流れ込む動橋川に架かる樋ノ橋を渡った先、田植えが終わったばかりの水田があたり一面に広がっている中に浮島のような集落の共同墓地があり、手前左奥に茅誠司の墓碑銘と安倍能成筆「中谷宇吉郎之墓」がある。雪になぞらえた六角形の台座は二女芙二子がデザインしたもので、側面には六種類の雪の結晶が刻まれている。台座の周囲にはモノトーンの玉石が敷かれ、北極の海に浮かぶ単結晶の氷をイメージしたものだという。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

編集後記


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