秋にうたう
こころもよう
歳重ね色づく葉の様澄む秋の深まる憂いに染め抜かれている
秋の陽に透ける葉っぱのざわめきよ不安感謝は残る時間に
金木犀香り虚ろに漂える秋は事無く今年も移ろう
刈り入れの終った景色見もせずにさらばこの地を我後にする
秋の夜黄ばむアルバムこし方の亡き母あやす幼子の僕
秋にありバッハの音を響かせる子供の去った部屋しんとして
コスモスが無造作に咲く僕もまた無造作なれど美しくありたい
晩秋の河原に立てる蚊柱は世迷い人の群れるがごとし
切花のコスモス一つに癒されて今日も眠るか一人の食卓
秋霖に木犀口惜し水溜り匂い残さずただ落ちるのみ
海の底歩む心地の秋の午後澄みゆく憂い影を無くして
柿の実の落ちる今年も秋にあり迷い深まる夕べに凍える
アケビ食み皮の苦さにうなずけり年経て沁みる深き滋味かな
秋の蚊の力の無さの羽ばたきに生き続けることの寂しさを見て
電車から去り行く小さな家々の夢見守っていて秋の夕日
ささやかな願い夕日にくべてみた ありふれ 秋の家路 うつむく
あること
澄んだ目に銀杏の黄金葉宝物君のいる世は宝珠の連なり
子供の手摘むこともなきあかまんま食べてくれろと赤き穂垂らす
子を抱いて坂上りきる その褒美 励ましくれる大きな朝顔
知恵に澄む声なき風に磨かれて秋に瞳よ深まっていけ
秋初めお別れ会に顔を出す子供は別れを知る由もなく
団栗の伸びゆく力ポケットに育ちゆくかな堂々 水楢
色づいたクヌギの葉を狩る秋の風火種をくれて河原の芋煮
紅葉の燃ゆる写真を病室へ君気にいるかな秋の便りを
それぞれの秋に染まりぬ木々見ればお前の色はと問う声ぞする
虫の声聞く耳もたぬ群集は寂しき群れなり我飲まれるなり
食卓に笑い溢れる秋の夕寂しさは去り芋煮は温し
秋の空飛べるトンボは寄る辺無く天差す僕の指に止まれよ
猫じゃらし夢中な子猫と戯れる一心に透け秋の今だけ
物思い銀杏の並木歩みたり秋の音色に思い忘れて
ふうけい
誰のため木々紅葉す一葉ごと移ろう宴酔わせるばかり
秋寒し日曜の朝起きもせず布団被ってひそひそ話
子は遊ぶ白粉花の落下傘ちぎれど尽きぬ命なるかな
雨降りや金木犀の香水は散りゆく花と水面へ失せぬ
秋彼岸墓に行くには日長雨買い物に出る彼岸花いた
葉を染めて錦と織りあげ金の陽にさらす全ては秋の手仕事
10月も終わる空の陽金の波鰯雲燃す今日でさよなら
定め知り虫は一夜を鳴きにけり明日は冷たい土に帰らん
虫の羽濡らした雨の余韻あり草の香満ちて落ち着くを知る
いつの間にお喋り止めた青い空沈黙守り静けさの秋
コスモスは色無き風の通る道空へと踏まれ花びら散らす
噴水は秋空色の一色で水は素直だ自分を持たず
虫籠や鍬形虫は姿消し子供覗かぬ秋風ぞ住み
枝先の争い忙し赤とんぼ身にしむ寒さ苛立ち隠せず
虹の立つトンビ羽ばたくその方へ頭傾げる曼珠沙華
電線に一直線に赤とんぼ夕べの祈りに羽を垂れおり
澄んだ空編隊を組み赤とんぼ寂寞落とす爆撃機のよう
空き店舗 君は気丈だ朝顔よ 捨てられて朝 咲かす大輪
晩秋の花壇に残る花の色夕映えの他さわる者なし
一人いる秋の夜長の寂しさよ赤きストーブ見つめ続ける
なすがまま雨に散る花 金木犀 甘い香りも ちぎられている
雑音やこの街人の声だらけ かけらもなくて胸すく秋空
つい前に芽吹いたばかりの銀杏の葉ポトリと落ちてもう秋の風
朝顔が蔓を伸ばして柵を越え秋空の花器咲き誇ろうとす