山口ゆうこが取り組んできた社会活動(Social Inclusion/Communication Design)の記録。
総人口82万人のうち、外国人登録者は3万人で日系ブラジル人が最多の2万人。
1997年から「浜松NPOネットワークセンター」は民設民営の中間支援組織として、地域の課題を発掘し、問題の渦中にいる当事者とともに歩んできた。ソーシャルインクルージョンを実現するために「障害のある人の社会参加」、「子ども・若者の社会参加」、「在住外国人の社会参加」、「ITによる社会参加」、「環境、地域の自立」、「アートによる社会参加」を柱とし、多様な人々の社会参加を勧めるためのプロジェクトを展開している。プロジェクトごとに地域の中に企画運営委員会があり、ボランティアや専門家が一緒に活動する中で地域の課題を掘り起こし事業化するというスタイルをとっている。そうした中で、当事者を中心として、そこに一般市民が寄り添いながら、社会の変革を遂げる仕組みをつくることが、N-Pocket(センターの愛称)のねらい。
MAF(浜松外国人医療援助会)という団体とともに無料検診会(年1回)に12年間、取り組んでおり、2000年度からは、ボランティアコーディネーションの事務局も担当している。医師、看護士、検査技師といった専門家集団と共同体を組織化して、通訳等の一般市民ボランティアを公募しながら継続性をもって取り組むことができている。在住外国人を対象とした様々なプロジェクトで必要な通訳ボランティアを、このプロジェクトで得たネットワークを活かすことにもつながっている。
また、アートを通した在住外国人の若者の社会参加として「ミューラル」(市民の意識にといかけるメッセージを持った、公共的空間に展示される巨大な壁画)の制作を通して、外国席児童の問題を社会へ提言することができた。外国にルーツを持つ高校生を公募し、壁画制作というイベント的な手法で問題を地域に根付かせ、同時に活動の中から若いリーダーを育てることも達成できた事例である。ミューラル作成には、美術教員や多くの学生もボランティアとして関わり、そのことによりボランティア自身の変化、「自分は一人ぼっちではない。社会の力になれる」という気づきを得ることができた。
「高校進学ガイダンス」は、当初進学に関する情報提供が中心であったが、現在は外国にルーツを持つ現役の高校生からのメッセージ発信にも力を注いでいる。こうしたプロジェクトで、当事者が市民との関わりをもつ中で、自分のルーツや自分の思いを探ることに興味を持ち、そこで得たものを社会に発信することにもつながっている。地道に専門性の高い「進路ガイダンス」を実施してきたことから、教育委員会との共催も可能となった。事業の成果、経過をできるだけビジュアルに見せて情報を分かりやすく共有することが大事である。
課題解決のための多様な組織・団体の連携を進めるためには、自治会、学校、企業等地域内であらゆるパートナーを選び、一緒にプロジェクトに関わるというプロセスを経験する中で、市民自身が中心となって課題解決にあたることへの理解が深まっていく。こうしたプロセスを地域内にたくさん創出し、課題の解決に多様な人々が関わるしかけづくりが大切。そのためにも、「現場にこそ真実があり、現場から離れた支援はありえない」という思いは大切。事業を企画する最初の段階から、どんな団体、どんな人が必要かということを明確にすれば、一緒に動いてもらえる団体や市民への呼びかけが可能となり、必要なパートナーを集めることができる。N-pocketでは、「公益性・地域のニーズ・担い手・資金」の有無が事業評価の重要なものさしである。多様な課題を解決する団体・人がたくさんいる社会は豊かな社会であり、そういった社会を担う市民を事業のパートナーとして考えることが大切だと考えている。
行政は「計画を作ること」が最終目的になっていることが多いが、NPOやボランティアはそれを実現する人。問題の渦中にいる人たちに寄り添い課題を共に担うことことによって市民社会の質を高め、最終的には行政施策につなげる事を目標にしている。
日本的な価値観だけで社会に向き合のではなく、それぞれの持つ固有の文化が豊かであることを、どのように地域に伝えていくことができるかが重要。
ボランティアコーディネーションについては、「どんな場面で、どのようなサポートをするどのような人」が必要かを明確にし、そうした人がいる所にメッセージが届かなければ人は集まらない。N-pocketのボランティアは、企画・運営から関わる人が多く、ボランティアは団体の手足ではなく、あくまでも対等なパートナーであり、ボランティアと団体の双方にとってメリットがあることを前提に、ボランティアに接している。ボランティア活動に参加したいという人に対し、「あなたの○○の力を○○で発揮して欲しい、あなたの力が必要」というメッセージを的確に届けることができた場合、人は簡単には団体を去らない。「お互いの人生を豊かにしましょう」という立場でともに動き、活動の中に「楽しい、美しい」という要素があることも大切で、苦しいだけの市民活動には魅力がないと思う。テーマごと、プロジェクトごとにボランティアを募ることが、「自分の専門性を活かして社会に貢献したい」という思いをもった人が集まることにもつながる。市民活動において、最も大切なのはまず「共感すること」だろう。小さな成功体験を積み重ねていくと、善意の循環が始まり、社会は変っていけるのだと思っている。
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