行政との協働は、新たな制度を生んだ!

2003.12.25

「 行政との協働からその次の一歩へ」

■地域に根を張リ出した福祉ネットワーク

本号は、N-Pocketが蓄積してきた福祉に関わるネットワークの一端を紹介しているが、この中核に3年間にわたる行政との協働がある。創立当初から取り組んだ“ITによる障がい者の自立支援活動”が下敷きにはあるのだが、本格的には、県商工労働部の「障がい者就労支援ネットワーク体制づくり事業」と、健康福祉部の「傷がい者のためのマルチメディア情報センターの管理運営事業」を基本にして、そこから派生したもろもろの自主事業を、当事者を中心にした本格的なネットワークを築きながら地道に取り組んできた結果である。NPOと行政との協働が、どのような力を持ち、そして何を生み出しうるのか。ご紹介できることを大変嬉しく思う。

■自主財源を獲得して事業を総合化

行政との協働は安い金額で下請け化することを懸念する議論があるが、私達は逆に、事業目標を達成する上で、契約内容を超える機能については、自主財源や財団の助成金で補填しては、包括的なプロジェクトに育てて対応してきた。例えば、障害者にとって自立とは何かという問いに、“コミュニケーションは人間性の獲得”というセミナーを開催して思いを共有することに始まり、専門的技術を身に付けたボランティアの養成、利用者の声に応えた各種ミニ講座の開催など、総合的なサービスを提供できる体制を整えてきた。
当事者を中心にして、地域の資源を探し・繋いでいくと、包括的なサービス像が描き出されていく。理想を共有し、不足するサービスをネットワークにより創り出していく過程で、事業が具体的に動き出していく。このプロセスを創りだすのが中間支援組織の役割りであることを痛感した3年であった。

■議会との連携で制度的定着を

しかし、ここまできてプツンと行政の予算が切れてしまっても、蓄積されたノウハウや、人材のネットワークを、残せる方法は無いのだろうか。
優れた実践例として評価できるモデルは、行政の施策として、定着する仕組みを、日本の自治体レベルでどのように獲得していけるのだろうか。今、私たちはこの問題に逢着している。
市民の声を行政施策に生かす方法の一つに、議会がある。N-Pocketは、3年間携わったサービス事業が、市民全体におよぶ施策としてロビイング活動ができる質まで到達したと思っている。当事者と共に積み上げてきた自負を持って、今後、議員とのネットワークに力を注いでいきたい。

■浜松市・静岡県の英断

経営難に直面していた雇用・能力開発機構の宿泊研修施設が、浜松市に買い取られ、"障害者のライフサイクルに合わせた、居住空間から職業リハビリフロアーまで完備した包括的な就労・生活支援の複合施設"に生まれ変わることになった。
N-Pocket は、県との協働事業以外でも、ジョブコーチによる障害者の就労支援や現場実習を引き受けて、市の施策の一端を担い、労政課の要請に積極的に協力してきた。日本でも珍しい自治体による包括的な施設構想が実現したのは、地域に根づいた層の厚いNPOの存在と、その勇気と実行力、確かな専門性を信頼した行政職員の存在があったからだ。この施設の誕生で、N-Pocketの培った就労支援の専門的ノウハウや人的ネットワークは、将来にわたって地域社会に残ることになった。行政との協働により始まった事業がモデル化され、行政内部の職員との協働により、普遍的な施策に転換される経験は、私たちにとって何ごとにも変えがたいほど嬉しい。さらに静岡県商工労働部は、来年度から公共事業の指名順位に障害者雇用率をカウントすると公表した。私達が伝える現場の状況を真摯に受け止め、行政ならではの権限で新しい施策に導いた英断であった。協働の可能性は大きい。それを導き出すのがNPOの歴史的使命ではなかったのか。

(山口祐子)
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