欧州の鉄道技術・日本の鉄道技術
【欧州指令】4-車両保守認証(ECM)


車両保守認証

ECM (EU)445/2011

 

欧州からアジアに広がる広大な大陸の国境をまたぐ運行が行われるためOTIFという貨車運行事業者のグループがあり、貨車への共通番号付与等の取り組みが行われています。また安全に関しては国境をまたぐ故に、車両の所有者、保守の責任者を明確にして、車両の保守を確実に行わせる必要性があります。

そのため、保守責任者を明確にすること、車両保守履歴の管理の目的から、保守責任事業者(ECM)の登録認証と、車両保守ファイルの整備が義務づけられています(現状では貨物に限定です)。

ECM認証の拡がり

欧州のみではなく、中央アジア、中近東、東アジアの中国、北朝鮮、韓国も参加しており、広域的な広がりを持っている点が特徴です。

 

車両保守の機能の分類

車両の保守は、以下の4つに大別されると考えられております。これらの4つの機能は、同じ事業者が行う場合もあれば、まったく別の会社が行う場合もあります。日本の場合、他社に委託をする場合もありますけれど、基本的にはその車両を所有する鉄道事業者が行うことから、4つの機能に分ける必要性がつかみづらいのですが、別だと考えると。

 
  • (1) 管理機能
  •   他の3つの機能をマネジメントすることで車両を安全に保つ機能です。この機能を行う事業者の業務は、CSM-RAにより規則を管理しています。
  • (2) 保守開発機能
  •   車両設計や運行記録、要求された性能、運行実績に基づき、形態管理/構成管理を含む「保守ファイル(maintenance file)」の維持更新を実施する機能です。本機能は、車両のTSI の遵守及び保守ファイルの発行、継続的な更新も含んでいます。 保守ファイルとは、各車両に付与された、保守実行に必要な情報を指します(図面、保守手順等)。
  • (3) 車両保守管理機能
  •   車両の検査計画を立て、入出場管理を行う機能です。
  • (4) 保守実施機能
  •   車両及び車両部品に対して必要となる技術的な作業を実施する機能です。

以上の(1)〜(4)の機能は、ECM 規則((EU)445/2011)で定められており、第三者機関(適合性評価機関=ECMと呼ばれる)の評価を受ける必要があります。

必要な知識

欧州の鉄道に関する法的な枠組みに関して基本的な知識を有していなければならないとされています。


・鉄道安全指令、インターオペラビリティー指令
・鉄道安全指令第6 条に準拠したCSM
・ECM 規則
・TSI
・危険物輸送に関する欧州法(Dangerous Goods Regulations:RID)
・上記法令に関するガイドラインに記載された事項

貨車の保守を取り扱う知識と能力

評価チームの各メンバーは、基礎教育及び職業的経験に関する以下の4 要件のどれかに準拠していなければならないことが規定されています。 以下のいずれかの経験が必要です。


・最低9年間の職業的経験
・中等教育で機械の単位取得、最低7年の職業的経験
・工学の学士号を持ち、最低5年の職業的経験
・工学、科学または経営管理の修士号を持ち、最低3年の職業的経験

保守に関する知識

 評価チームの各メンバーは、保守に関する基礎的な知識も必要であり、ECM規則やガイドライン、溶接規則、ブレーキ、輪軸の検査や規格について定められています。

評価に関する知見、実務、規格に関する知識

評価チームのメンバーは、鉄道に関する国際規格、業界規格で定めた管理システムのアセスメントと認証や国際規格が定める検査の知識とスキルを持っていなければならない、とされています。RAMSも含まれており、また、IRIS(ISO TS 22163)についても要求されていることが興味深いことから、後述します。


・ EN ISO/IEC 9001:2008 又はEN ISO/IEC 14001:2004 等  ※執筆時点(2018.12)では2015版に更新されていない
UNIFE が作成したIRIS(品質マネジメントシステム)
EN 50126:1999(RAMS)EN 50128:2001EN 50129:2003
EN ISO/IEC 17020:1998 等

保守のガイドライン

ECMガイドラインでは、保守作業を下表のようにレベル分けしています。

【表】ECMによる保守

レベル1

出発前又は運行中の確認・状態モニタリングによるもの。乗務員が実施。

レベル2

車両を運用から外さずに行う検査・試験、装置・部品の交換・予防保全作業(事後に保守するものも含む)

レベル3

車両を運用から外して行う、保守基地の保守設備で行われる作業。

レベル2より大規模な予防保全や事後に保守する作業、計画的な装置交換作業も含まれる。

レベル4

一般にオーバーホールと呼ばれる、モジュール式サブシステム又は車両全体を対象とした大規模な作業

レベル5

改修、改造、大規模な修理、アップデートまたはアップグレード

日本における鉄道車両の保守

 日本での保守は、鉄道事業者の責任で行うこととが決められております(委託も可能)。保守の周期を、各鉄道事業者が「実施基準」に定め、運輸局又は本省に届けており、国土交通省の保安監査の際に、計画どおり行われていることを確認しています。 会社によって呼び名も、頻度もまちまちなのですが、在来線の車両については代表的なものとして以下のような検査が行われています。
【表】日本における保守

全般検査

Complete overhaul

8年を超えない期間ごとに実施。

重要部検査

Principal parts overhaul

4年又は60kmを超えない期間(短い方)ごとに実施。

台車検査

Bogie inspection

18月又は60kmを超えない期間(短い方)ごとに実施。

交番検査月検査、列車検査

Principal part  inspection

3月を超えない期間ごとに実施。

仕業検査

Daily inspection

2日〜1週間程度で実施。

外部から機器の状態確認、動作確認、


長い鉄道の歴史を背景に「予防保全」の考え方によって高いメンテナンス技術を構築しておりますので、検査頻度は伸びる傾向にあります。 JRさんでは、車両の高性能化に伴い機器の常時モニタリングが可能となっていることから、「新保全体系」とよばれる、車両等の設備の製造時から、いかに省メンテを達成するかを考えた、合理的な検査体系に移行しています。

日欧の比較

日本で検査周期の変更が可能となるのは、日本の鉄道事業者が高い技術力を自ら持っているから判断が可能となっています。欧州の場合、鉄道運行事業者と、保守事業者は別の事業会社であることから、鉄道運行での故障発生が減った場合には、保守事業者へ委託している検査の頻度を減らして軽減することで、よい保守を行えるようにインセンティブを発生させています。

予防保全の考え方

現在は日本、欧州とも予防保全(故障する前に交換する。corrective maintenance:CM)に力を入れていますが、かつて70年前には、故障すれば交換する、という考え方だったため、「保守」といえば「修理」「交換」と同義語だった時代がありました。故障していない製品を交換してしまうのはもったいない気がしてしまいますが、稼働率を下げまいとするところが、日欧とも共通する鉄道文化だと思います。

この予防保全については、IEC60300-3-11:2019 Reliability centered maintenanceと合わせて、【日欧比較】35.メンテナンスにて紹介しております。