欧州の鉄道技術・日本の鉄道技術
【欧州指令】12-TSIを適用しない路線



TSI(インターオペラビリティ指令)を適用しない路線

都市鉄道以外にもあります

私のサイトの各ページでは、「TSIを適用している路線」又は「旧国鉄系の幹線」・・・という表現を使ってきました。

ここで、TSIが適用されていない路線についてまとめたいと思います。

インターオペラビリティ指令における規定

根拠規定であるインターオペラビリティ指令(Technical Specification for Interoperabirity)((EU) 2016/797)第1条第3項では、以下のように規定されています。なお、ここでは路線に関する適用/非適用規定を抜粋してご紹介しております(つまり、車両や通信設備に対する適用関係は除外しています)。

  • 3.この指令は以下のものには適用しないこととする。
    • (a)地下鉄線
    • (b)路面電車線及びライトレール線並びにこれらの車両のみが使用するインフラ
    • (c)欧州鉄道路線網(Union Rail System※)から機能的に分離されており、かつ、地域交通又は都市内の旅客サービスのみを目的とした鉄道路線
    • ※「Union Rail System」は上記指令のAnnexTで定義されていますが、高速鉄道路線及び旅客・貨物線全般なことしか分からないため、「地域交通」等の具体的な特定は困難です。

  • 4.EU加盟国は、以下の路線については本指令の適用を除外することができる
    • (a)専用貨物鉄道線又は旅客鉄道線であっても非営利で輸送を行う路線
    • (b)純然たるローカル線、保存鉄道線又は観光鉄道線
    • (c)ライトレール線であるが、時折普通鉄道車両が乗り入れる路線
    • (d)(略)

具体的な適用除外路線

上述の3.のように、都市部の地下鉄や、ライトレール線、モノレール線や新交通線のような都市部の軌道系交通は除外されております。

日本では地下鉄路線には相互直通運転が広く行われていますが、欧州の場合には地下鉄路線は基本的には幹線とは切り離され異なる仕様で建設されています。当然「インターオペラブル」ではない(相互運用可能性がない)ため除外されたそうです。

ですが、パリやロンドンにあるような国際空港から首都までを結ぶ鉄道路線や、日本ほどではないですがかなりの郊外までいく地下鉄路線のように、都市鉄道なのか幹線なのか地域交通なのか微妙な路線もあります。また、普通鉄道と同じなのに時折路面電車状態の路線も見受けられます。

このような路線について、各国では解釈や具体的な路線を示していますのでいくつか紹介したいと思います。

英国

現在では英国自体がBrexitでインターオペラビリティ指令の適用国ではなくなりましたが、参考にここで最初にご紹介します。

現在(2022年3月)でも閲覧できますので元資料(Source)もご紹介します。元資料は、英国運輸省のサイトです。ここに具体的な路線名が掲出されています。

Brexit前は、英国でインターオペラビリティ指令第1条3(c)にあたる路線としては、以下の3路線だけを挙げていました。英国での実態上、3路線しかないというのは、適用対象路線からの除外が相当限定的に運用されているといえます。保存鉄道等については後述します。

  • ワイト島(Isle of Wight)の鉄道路線
  • オールドダービー鉄道試験線(Old Dalby Test Track, Melton Mowbray, Leicestershire)
  • ストールブリッジタウン支線(Stourbridge Town Branch Line)

上記の3つは、上から順に「島しょに所在」「鉄道試験線」「元々運河用の1.3kmの支線」ですから、いかにも「機能的に切り離されている」という概念に当てはまりそうなものばかりです。なお、著名な観光地であるマン島(Isle of Man)の保存鉄道は、法的にはマン島はEUに加盟していない地域(Special member state territories and the European Union)扱いのため、このリストには掲載されていない、と思います。


保存鉄道、観光鉄道等に該当する鉄道路線としては253路線を挙げています。
 この中には、世界最古の保存鉄道であるタリスリン鉄道(Talyllyn Railway Co)さん等の観光路線と、各地の動物園内の鉄道線、ヨーク鉄道博物館さん等の文化施設が多数挙げられています。

ドイツ

ドイツでは一般鉄道法(AEG)第2条に、上述のTSIと同様の規定があります。

TSIが適用される路線について、ドイツ連邦鉄道庁(EBA)のサイトに掲載されており、このリストに入っていない鉄道路線が適用対象外だということになります。

ドイツのTSIの適用対象路線は、このリンク先の一番下の「Liste übergeordnetes Netz」からたどり着くMS-Excelファイルです。

この適用対象路線リストの中では、スイス(Etzwilen駅)からドイツ(Rielasingen)までの13.2kmをつなぐ保存鉄道「Stiftung Museumbahn SEHR&RS(博物館鉄道)」も含まれています。ここを走行している車両は蒸気機関車ですから、さすがにTSIには適合するはずがありません(※TSIには動力が蒸気の機関車のカテゴリーはありませんから)。


 

ドイツでは、連邦政府が出資の過半数を占めていない鉄道会社が多数あります。ここ(No.13)でそのリストを紹介しておりますが、連邦政府が過半数を出資している最大手のドイツ鉄道(DB)に対してこれらの鉄道会社を「NE-Bahnen」(”連邦鉄道でない鉄道”)と呼びます。日本の感覚では「民鉄」にあたるこれらの会社ですが、大小様々な民鉄があり、小規模な民鉄はドイツの政策として、オープンアクセスの対象外としています

31.オープンアクセスでも紹介しておりますが、オープンアクセス会社と、ドイツ鉄道の地方鉄道線を引きついで数百kmを運行している「民鉄」と、長い歴史を持つ数十キロ程度の小規模な民鉄です。このうち、ドイツ鉄道の上下分離後のインフラ会社がインフラ管理をしている線路以外の路線については、オープンアクセスによる線路開放は現状(2022年)では求められていません。

フランス

フランスでは、輸送法典(Codes des transports)の第2編Article L2201-1の第1項に、インターオペラビリティ指令(2016/797(EU))と同様の規定があります。

この法律に対して、どのような路線が郊外の旅客輸送にあたるのか等の解釈を示すガイドラインが発行されており、具体的な解釈基準や、TSIの適用されるべき路線と都市鉄道の両側面を持つような線路に対する適用判断が整理されており、フランス的で、読み応えがあります。

例えば前述の「(c)欧州鉄道路線網(Union Rail System)から機能的に分離され」ということについては、この概念は、ほかの適用除外規定に当てはまっていない場合に用いることを決めています。

そのように適用順序を決めた上で、(1)軌間(※メートルゲージの除外)や、(2)連続した輸送サービスの可否 を挙げています。(c)には前述のように後段があり「かつ、地域交通又は都市内の旅客サービスのみを目的とした鉄道路線」となっていますが、これについては(1)運行頻度(ピーク時に1時間当たり20本以上の列車が運行されると都市鉄道)や、(2)信号方式にCBTCが使われていること を挙げています。

さらにRER(※地下鉄と幹線鉄道が合わさったような路線)や、路面電車線やライトレール線と幹線の特徴が混合しているような、混合的な路線について、その定義をした上で、(1)他の交通との間の空隙の有無 (2)連続した輸送サービスの可否(※上記と同じ) (3)運行頻度(20本/1時間) を挙げ、インターオペラブルかどうかの判断のよりどころを示しています。

このように判断基準に運行頻度が挙がる理由なのですが、線路容量が飽和状態であるならば機能的に分離されているケースの1つだ、ということだそうです。しかし、上述のように、ほかの適用除外規定に当てはまらい路線の最後に用いる判断の一つになっています。

・・・と縷々述べてきました判断基準について、該当不適合を示した上で、該当する路線を例示しています。

  • 地下鉄  :鉄輪又はゴムタイヤの、地下鉄線。自動運転かどうかは無関係。
  • 路面電車線:鉄輪又はゴムタイヤの、路面電車線。
  • ライトレール線:首都圏地域のT11線など
  • 保存鉄道、観光鉄道: baie de somme及び、メートルゲージだということでTrain jaune、Blanc argent等の路線を例示。

ここまでは分かりやすい話です。

次に、2つの側面をもつ混合的な路線については、パリのRER線の場合には「インターオペラブルな部分と、機能的に分離されている部分の混合(mixte)システム」という定義・特徴を説明した上で、RER C線とE線はインターオペラブル側(TSIを適用)に例示しています。残りのRER A線、B線、D線については、路線構造運行頻度(機能的な分類)次第だと分かるようにまとめられています

A、B、D線にはTSIが適用されているのかどうなのか、現状については何かで読んだことがあるのですが、分かりません。残念です。

ベルギー

鉄道法の第7条において、2016/797/EUを引用し、独立しているローカル線、都市とその周辺のインターオペラビリティ指令(2016/797(EU))と同様の規定により、地下鉄、路面電車及び郊外の旅客輸送ネットワークが除外されることを記述していますがベルギーは適用関係についてあまり迷うところがないです。

スイス

スイスはEU加盟国ではありませんが、EUとの協定によりTSIや鉄道安全指令等EU法令が適用されています。

スイス国鉄は上下分離されていませんが、オープンアクセスのための施策に従い、列車運行枠を設定する公正な割当機関を設置しているためです。

スイスでは、鉄道建設及び運営に関する行政命令(OCF、RS 742.141.1)(du 23 novembre 1983)によりTSIをスイス国内に適用しているのですが、適用対象は標準軌(1435mm)の鉄道会社に限定しています。そのため、狭軌やラックレール式の鉄道事業さんや、保存鉄道には適用されていません。