欧州の鉄道技術・日本の鉄道技術
【欧州指令】2-共通安全指令(CSM)


共通安全指令(2016/798/EC )について

安全審査の統一化

安全評価方法の共通化

鉄道技術基準を統一したものの鉄道の安全水準の向上は出来なかったことから、欧州鉄道庁では、鉄道の安全性を審査する方法についても共通化を進めることとして欧州指令「(旧)鉄道安全指令(2004/57/EC) 」が制定されました。2019年1月現在では、数次の改正があったため、(EU)2016/798が最新版となっています。

鉄道安全指令(CSM:Common Safety Method)は、EU加盟国に対して共通の鉄道の安全性審査手続きと監査を行うための法令を制定すること、鉄道運行事業者に対する安全性認証のルール、インフラ管理事業者に対する安全認可のルール、各国の運輸省(NSA:National Safety Authorityと呼ばれます)の役割と責任、安全製目標の制定や、事故発生率を分析して投資判断の優先順位付けに生かす仕組み等について規定された、広範な項目を共通化する内容を規定しています(下図参照)。

このページでは、第6条のリスクアセスメントと、第9条のSMSについて紹介します。

CSMについてもTSIと同様に「失敗した」と日本では評されることがありますが、うまくいかない点は改正されてパッチが当てられており、現在では、SMS(後述)によって利益優先を改め、ポジションを転換し、鉄道の安全性の底上げを達成している、と評されています。欧州鉄道庁のレポートをみると実際のところは、共通安全目標(Common Safety Target)を達成していない国は毎年いくつも出ていたりしていますが、事故件数又は負傷者数のグラフが年々右下がりになっている点から効果があるように見えます。

【注意】下図は古くなっているので法令番号は変わっています。しかし図の修正作業が追いついていませんので、No11(欧州法令の一覧)のページを参照ください。


【図】CSMによるさまざまな安全評価方法の共通化

SMS:Safety Management System

前項に述べたように共通安全指令は非常に広い範囲の事項を規定しています。SMSはその一つで、鉄道安全指令第9条により鉄道運行事業者、インフラ管理会社等に「SMS(安全管理システム)」という文書を作らせ、行政機関(2019年現在は各国運輸省(NSA)、今後欧州鉄道庁に移管予定)の認可を得ることが決められたことが大きな変化です。鉄道運行事業者も、従来からマネジメントを採り入れたいた会社も含めて、欧州域内で同じ法制度下で同じ水準のマネジメントシステムによって安全を管理していくということが法制化されたためです。そのため、利益優先、のような経営方針は是認されなくなりました。

中東の鉄道運行事業者でも鉄道安全指令に準じた形でSMSを整備するようになっていますので、この影響力も大きなものがあります。一方日本では、安全要綱、運輸マネジメントシステム、実施基準がありますが、SMSがさまざまな技術分野を原則から詳細までカバーしていることにことに比べれば狭く、大きな違いとなっています。

 詳しくは別のページに記載します。

安全評価手法:CSM-RA

第6条に基づく安全評価手法(CSM-RA)規則(2009/352/EC)は、CSM(2016/798/EC 。制定時は2004/49/EC)制定当初から入っているものではありますが、RAMS規格への対応を考える上で極めて重要な規則です。

上記リンク先にguide for application...というのがあると思いますが、このp26の図3(下図)は、重大な影響がある変更(設備変個や、ルール変更など)を行う際には、それに伴うリスクを挙げ、それを潰し、潰したかどうか評価する・・・というRAMSの手順を適用することを定めているからです。

正確にはRAMSを適用するとは書かれていないのですが、EN 50126-1(RAMS)が全セクションの参考資料とされている点や、CSM-RAに対する各国運輸省のガイドライン(例えばイギリス)では、RAMSを参照規格に挙げている点からRAMSの手順であることが分かります。

このCSM-RAに対してはさまざまなガイドラインが発行されているため、欧州域内でのRAMSの運用(どのような場合に良いのか、どのようなハザード解析を行えばよいか)や、CoP(実績に基づく評価)の運用条件比較することが可能で、RAMSの解釈を知ることができる教材となっています(この解釈に従う必要はありませんが、独自解釈と受け取られる可能性があります)。ここではとても言い尽くせませんので、ぜひリンク先のGuide for CSM-RAを参照して下さい。

RAMSとの相違

このページに紹介しておりますように、CSM-RAからみて、RAMS(EN 50126-1)は安全性評価の一手法です。

両者とも安全性評価を行うものではありますが、相違点もあります。CSM-RAは、さまざまな変更に対する安全性評価を行いますので設備変更にとどまらず例えば、「運転ルールの変更」や「SMSの文言の変更」、「管理組織の変更」のような変更についても、重大な変更でしたらCSM-RAによって安全性評価が必要になります。

一方、RAMSが一般的に想定している対象製品は信号設備、車両装置等のテクニカルシステムですので、「管理組織の変更」等についてはRAMSで扱うには異質なものですので、RAMSを適用することは通常できないと考えられています。

この議論は、CSM-RAに基づく第三者評価者(AsBo)と独立安全評価(ISA)の違いについての別のページで別途後述します。前述の欧州鉄道庁のガイドラインや、欧州で開かれるCSMに関するセミナーでも質疑されておることから重要な気がしています。