宮澤賢治 みやざわ・けんじ(1896—1933)


 

本名=宮澤賢治(みやざわ・けんじ)
明治29年8月27日(戸籍上は八月1日)—昭和8年9月21日 
享年37歳(真金院三不日賢善男子)❖賢治忌 
岩手県花巻市石神町389 身照寺(日蓮宗)



詩人・童話作家。岩手県生。盛岡高等農林学校(現・岩手大学)卒。大正10年上京、日蓮宗伝導、童話の創作に励む。帰京後花巻農学校の教師になる。13年詩集『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』を自費出版。15年農学校を依願退職、〈羅須地人会〉を設立、農業指導に活躍。『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』などがある。






  

 ところが六月もはじめになって、まだ黄いろなオリザの苗や、芽をださない木をみますと、ブドリはもういても立ってもいられませんでした。このままですぎるなら、森にも野原にも、ちょうどあの年の家族のようになる人がたくさんできるのです。ブドリはまるでものもたべずにいく晩もいく晩も考えました。ある晩ブドリは、クーボー大博士のうちを訪ねました。(略)「カルボナード火山島が、いま爆発したら、この気候を変えるくらいの炭酸ガスをふくでしょうか。」(略)「先生、あれを今すぐふかせられないでしょうか。」「それはできるだろう。けれども、その仕事に行ったもののうち、最期のひとりはどうしても避けられないのでね。」「先生、わたしにそれをやらしてください。」(略)「わたしのようなものは、これからもたくさんできます。わたしよりもっともっと何でもできる人が、わたしよりもっとりっばにもっと美しく、仕事をしたり笑ったりしていくのですから。」(略)それから三日の後、火山局の船が、カルボナード島へいそいで行きました。そこへいくつものやぐらは建ち、電線は連結されました。すっかりしたくができると、ブドリはみんなを船で帰してしまって、じぶんはひとり島に残りました。そしてそのつぎの日、イーハトーブの人たちは、青ぞらが緑いろににごり、日や月が銅いろになったのを見ました。けれどもそれから三、四日たちますと、気候はぐんぐんあたたかくなってきて、その秋はほぼふつうの作柄になりました。そしてちょうど、このお話のはじまりのようになるはずの、たくさんのブドリのおとうさんやおかあさんは、たくさんのブドリやネリといっしょにその冬を、あたたかいたべものと、あかるいたきぎで楽しく暮らすことができたのでした。

(グスコーブドリの伝記)

           


 

 賢治が生まれた年、三陸海岸に大津波があった。賢治は押し寄せてきた津波の頭にのって、短く辛く苦しい期間を激しく生きてきたのだった。昭和6年9月21日、賢治は東京で倒れ、遺書を書いた。
 〈この一生の間どこのどんな子供も受けないやうな厚いご恩をいただきながら、いつも我慢でお心に背きたうたうこんなことになりました。今生で万分の一もつひにお返しできませんでしたご恩はきつと次の生でご報じいたしたいとそれのみを念願いたします。どうかご信仰といふのではなくてもお題目で私をお呼びだしください。そのお題目で絶えずおわび申しあげお答へいたします〉——。
 2年後の同じ日、急性肺炎のために賢治は死んだ。その年にも三陸沿岸に大津波があった。



 

 宮澤賢治が教鞭をとった花巻農学校跡地は、賢治の好きだった銀白楊から名付けられたぎんどろ公園となっている。若芽でみずみずしい公園の芝庭を通りぬけると、坂道の中途に宮澤家の菩提寺身照寺がある。見上げた石段の上に、華やかな花弁を散らし終わったしだれ桜の葉群が、陽光の中、澄みきった空に染まっている。賢治の父は真宗の信者であったが、日蓮宗の熱心な信者となった賢治の死後、改宗して宮澤家の墓も日蓮宗のこの寺に移された。
 本堂裏、杉木立を日傘に宮澤家の墓に並んである賢治供養の五輪塔は絶えることのない華やかな供花を両手に、淡い反射光をうつして明るく輝き、イーハトヴのフィールドの青い空には、二筋の飛行機雲がくっきりと放射状にのびていった。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

編集後記


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