欧州の鉄道技術・日本の鉄道技術
【鉄道旅行等】2-車両の型式の判別

車両の型式

列車の型式の判別

※車両コード以外の車体の標示については、こちら(車両外側の標示)のページと分割しました。

たまたま乗った列車が、何という列車タイプだか気になることがあると思います。が、車体にはたくさんの表示がありますのでこの紹介をしつつ、車両型式の判別についてまとめます。

【図1】側面のたくさんの表示

NVR Decision 2007/756 / EC

最も車両型式を表していそうに見えるのは下のような、12桁の番号ではないでしょうか。この12桁の表記は、欧州法令である「運行TSI」(TSI OPE)4.2.2.3、Appendix Hにより、主な幹線(コア路線)を走る鉄道車両に振らなければならないとされている車体の識別番号で、UIC(世界鉄道連合)が定めた書式(UICコード)によることが決められています。
 ですが、実際に走る車両を比較してみると、一部に下線が引かれていたり、スペースの入り方が違っていたり、記号の配置が異なっていたり、と、統一感があるようなないような形で書かれています。以下に写真で示します。

【図2】12桁の車両番号

上の写真は、「2桁+2桁+4桁+3桁−1桁+アルファベット」となっていますが、これが幹線系鉄道路線でよく見る12桁の、スタンダードな標示です。

12桁で構成されているこの数字によって、2004年の「インターオペラビリティ指令」により、欧州各国の運輸規制当局が「VRM(車両登録簿)」を整備し、国境を越えて運行される場合もある車両について、誰が所有者、誰がその保守責任者かを明確にすることに利用されています。車両番号自体はそれ以前から鉄道運行事業者が使っていた訳ですが、多少の変更をしつつ以下のように車両の属性(従来はアルファベットシンボルでした)や国番号が加えられており、従来から使っている車両番号の部分に下線を入れることでわかりやすくしているようです。

 

TSIによる12桁の番号(NVR)については、原則として以下のようにフォーマットが決められております。

 
  • 1・2桁:車両の属性(50〜73が客車、92はディーゼル機関車、93が高速車両、96が特別車両  など)
  • 3・4桁:国番号
  • 5・6桁:車両の種類(等級、客席数等)
  • 7・8桁:運転速度や架線電圧(90〜が 200km/h以上)
  • 9〜11桁:シリアルナンバー
  • 12桁:パリティ(Luhnアルゴリズムによる錯誤の検出)
  • 次のアルファベットは国コード−鉄道会社

この中では、1・2桁目の車両属性と、3・4桁目の国番号は、従来の各国の車両番号表記法には無かったもので、TSI(OPE)が出来たことによって表示が必要になった部分です。

私が知っている限りで、この最初の4桁(車両属性、国番号)は、空白によって2桁−2桁で書かれており、下線は引かれないようです。

5〜11桁目は、基本的には車両種類や車両の性能を表す部分なのですが、国によって実際の運用は様々です。

改めて先ほどの写真を例に見てみると、書かれている12桁の番号は「92 80 1246 008 -7 D-ME」です。1〜2桁目の「92」は車両の属性であってディーゼル機関車を表しています。3〜4桁目の「80」は国番号で、ドイツです。
続く5桁目以降はドイツに任されていましたので、ドイツの場合には5桁目の「1」は自走式車両であることを表しており、6〜11桁目の「246-008」が車両の型式(「246」)と車両番号(008)を意味します。

「7」はTSIに基づくパリティです。下図のようにLuhnアルゴリズムで求められています。

【図2(補足)】パリティ算出方法(図2の車両の場合)

続く「D-ME」は、ドイツのメトロノーム社(Metronom Eisenbahngesellschaft)に所属する車両だという意味を表しています。

一方、車両の前面には、6桁で車両の型式番号と、車両番号だけが書かれています(下の写真)。この車両はClass 246型だということがここからも(というか、初めから先頭車両を見るべきか)分かります。

【図3】貨物機関車(先頭部)


【図4】高速鉄道

この写真は、ドイツの高速鉄道の中では古い部類に入る、ICE1の車両の標示です。うっすら見えているように、かつては12桁だったものの、上位の5桁や末尾のアルファベットが消されています。

消されずに残っている「401-557-4」はドイツの高速鉄道ICE1の表記規則に従っているもので、401が型式(BR 401=ICE1)で、557が車両番号です。

国際的な運行を行わない編成では、このように消去されている場合がみられます。

余談ですが、フランスの高速鉄道TGV(INOUI)の場合には、5桁目は使わず、6〜11桁の6桁が編成番号を表しています。この部分は各国でアレンジが異なっていますが、昔の番号をそのまま使う使い方以外は見たことがありません。

【図5】長距離客車列車

 

上の写真は、先ほどの例とは異なりアルファベットが先に書かれていますし、桁の区切り方も他と異なっており「4桁+2桁−2桁+3桁+1桁」のように見えます。

上の写真の車両には「D-EURO 56 80 11-80 190-6」と書かれています。
 先に書かれている「D-EURO」は、先に書かれていることに意味はなく、ドイツ(D)のEurop Express Sonderzüge社(会社名)を表しています。 続く「56」が車両の属性(客車(動力が無い))、「80」がドイツですが、一見すると「5680」と4桁に見えるのはデザイン上の問題のようです。
 このうちの「11-80」が型式となっています。ちなみに、音質のよい音楽がウリになっている車両です

英国

【図6】5桁の車両番号
 
 

英国においてもTSIの適用される路線(TEN-T)では、上記の12桁(NVR)の標示が行われていますが、その他の路線について述べます。
 英国でいうところの車両型式(Class)は、英国の運行システム「TOPS」に登録された型のため、英国の国内の型式は「Class ???」、のように基本的に3桁又は2桁の数字で表されます。
 全車両が廃車されたClassの番号は再利用されます。この点は、日本と同じです。

   

Class番号は、300番台及び700番台が交流/交直流電車の編成(EMU、ディーゼル式電車も含む)、400番台及び500番台が直流電車、800番台が高速鉄道、と割り当てられています。

幹線鉄道も地下鉄も同じルールです(ライトレールDLRは異なります)。

 ホームから列車をみると、上の写真のように5桁の番号が目に入りますが、5桁の番号はformation (編成)の中の車両の識別番号であり、下の写真のように連結面(妻部)や列車の先頭に書かれている6桁の番号の上位3桁が型式(class)を表しています。この写真の場合「376 036」とあり 妻部の表示では「Class 376/0」だと判明します。

「Formation番号」と、「車両番号」の2つの表示
【図7】Formation番号
【図8】車両番号

上の写真の列車は5両で1つの編成(ユニット)となっています。「376036」のように6桁の番号が振られているのですが、この上位3桁がClassを表しており、上の写真の場合には376ですから、Class376の036編成だ、とわかるわけです。

市販の列車編成表から調べると、上の写真の編成では、車両番号「61136」が1両目(上の写真の車両)で、順に63336, 64336,63536,61636の5両で組成されている、036編成だと分かり、メーカーでのタイプ愛称はBombardier Electrostarであることがわかります。また、別の車両の例を図9に示します。

【図9】Hitachi Rail Europe Class 800

上の写真はTSIが適用される路線ではありません。そのためインターオペラビリティ指令による12桁表示の場合はありませんが幹線鉄道の場合は、同じように12桁のVRNも振られています。
 この場合、イギリスの国番号が70なので「xx 70 0??? NNN x」というようになります。
 ただし国際列車ユーロスターは例外で4桁で大きく「?NNN」(?は3か4)と表示されているほうが目立ちます。ユーロスターは「Class37?」になります。

【図10】ユーロスターの車両番号
ユーロスター

フランス

フランスでは列車の型式を「Class xxx」のように3桁で称していません。まったく異なります。

最近の車両は5〜6桁の番号については大まかには、次のようになっています。

  • (1)車両のタイプを大別する記号
  • (2)付随車(トレーラー、Remorque)の場合には「R」、※動力車の場合は無し
  • (3)3〜6桁の車両番号(Numéro technique)
  •   
    • 1桁目:運行会社(1:フランス国鉄SNCF、5:TER(SNCFの地域交通))
    • 2・3桁目:車種(00〜09 直流、10番台 交流、20番台 交直流、60番台 気動車)。
    • 4・5・(6)桁目:編成を示すシリアル番号

・・・という構成になります。 

例えば、「ZR 522354」のようにあるものは、「Z」というタイプ(電車EMU、後述します)の、TERの22354番だということになります。Rがついていますので、付随車です。この車両番号は、下の編成番号と違い、同じ編成内でも車両ごとに違う番号となっています。

フランスでは、動力集中式の列車編成が非常に多いため付随車と動力車は「R」の有無で判別されるわけです。
 付随車は英語では「T:Trailer」ですが、フランス語ではRemorque(ルモルク)の「R」です。

例えば、高速鉄道TGVは、「TGV xxxxx」(動力車)、又は「TGV R xxxxx」というように「TGV」+(R)+5〜6桁の編成番号、となります。
 例えばTGV アトランティックは24000系ですので「TGV (R)24001」のようになります。
これに加えて、TSIによる11桁の「93 87 0 024 001-4」という番号も振られているはずです。

車両のタイプについては、次のようになっています(※これですべてではありません)。

  • TGV
  • Z:自走できるように編成された列車編成(EMU)
  • B:電車・ディーゼル車のバイモーダル列車編成(DEMU)
  • U:トラム
  • X:Autorail(動力つきの単車列車)
  • BB:ディーゼル機関車又は電気機関車
  • Y:電気式ロコトラクター

編成番号(Numéro d'exploitation)

上記にて紹介しました車両番号のほかに、TGVの場合には3〜4桁の、編成番号がより大きく書かれています。

これは編成の識別のものです。TGV Atrantiqueは301〜499、といったように割り当てられています。

例えば、「TGV 24001」は、TGVの動力車で、24なのでAtrantiqueだとわかり、さらに、編成番号の「301」とTSIによるVRM番号も書かれているはずです。

メーカーのシリーズ名

フランスの場合には、Z21500型、Z21700型、というように、「きり」があまりよくない数字で型式が決まっています。ちょうど近畿日本鉄道さんの車種のような感じです。

車型ではZ55500型や、Z56300型の車両であっても、メーカーのシリーズ名である「Regio 2N」と呼ばれたり、Z31500型やZ51500型であっても「Régiolis」と、メーカーさんの車両タイプへの愛称でひとまとめになって呼ばれる(※2Nは、2階層という意味)ことも多いです。

最高速度及び許可国

次に、以下のような、数字とアルファベットの標示についての見方を述べます。

【図11】欧州横断列車

上の写真は、列車の最高速度が200km/hであって、TSIに基づきこの車両に走行許可を与えた国が標示されています。この写真では、D:ドイツ、A:オーストリア、CH:チェコの3カ国であることが表されています。

※鉄道以外の産業では、欧州のどこか1国から認可を得ればEU域内で通用するようになる運用が見られますが、鉄道車両については、走行するすべての国でそれぞれ認可を得る必要があります。国によって多かれ少なかれNNTRという各国独自規則を制定しているための措置と考えられます。

図12は、走行する国が多い車両の例です。D,A,B・・等、非常に多くの国で登録している(=適合許可を得ている)ことを示しています。TSIにて紹介しているように、各国独自規則(NNTR)に適合させる必要もあって大変な手間ですが、この列車の場合は12カ国!

ちなみにですが、図11、図12の中に書かれている「RIC」とは、1922年の協定規則「Regulations governing the reciprocal use of carriages and brake vans in international traffic」(国際交通に用いる車両及び緩急車の相互乗入を管理する規則)を指しています。現状では新しい国際列車の仕様はTSIに移行しているため、RIC適合車は減っていきます。

もしこの欄にTSI(フランスでは語順の違いでSTI)と書かれているならば、TSIへの適合車という意味です。

 

【図12】Europ Express Sonderzüge社の客車車両

ブレーキ種類

次に、ブレーキの種類に関する標示です。

【図13】電気機関車のブレーキ
【図14】電車のブレーキ

上の写真の中で、「◇R KE-GPR-E−mZ ○D □ep」とあったり(上側の写真)、「◇R R-KE-P ○D □ep」とあるのは(下側の写真)とあるのはブレーキのメーカーやブレーキの種類を表しています。

   ※上記の◇や□は、その記号の中にアルファベットが書かれていることを表しています。

上側の写真を例にとると、左から順番に、 @「◇R」:160km/h対応の強化ブレーキ A「KE」ブレーキメーカー名 B「GPR-E-mZ」:ブレーキの種類(後述する、G、P、R、E、mZを搭載) C「○D]ブレーキ材の材料 D「□ep」:ブレーキ指令信号の種類  ・・・といったところです。

Aのメーカーについては、以下のように定義されています。

  • SWはwabco
  • WA、WE、WUはWestinghouse
  • KEはKnorr
  • BdはBreda
  • KはDako
・・・というように記号でメーカーが表されています。

BについてはRが空気ブレ−キ、Eが電力回生ブレーキ、Mgが渦電流ブレーキ 等です

 

【図15】留置ブレーキ

上の標示は、パーキング(留置)ブレーキの強さを示すものです。2023年に規定が追加されました。

前面の耐荷重

前面の耐圧縮荷重

車両の堅牢さに関する比較のところで記載しますが、前面に「1500kN」という表示されているバンパーが目立つ車両です。EN12663により静荷重試験という圧縮したり、繰り返し荷重をかけて疲労させる試験を行います。一方日本ではJIS E7106により荷重試験を行いますが、試験内容は全然異なっています(日本が少ない)。

【図15】EN 12663 静荷重試験

まとめ

話が車両型式の判別からずれたままですが、とりあえずまとめます。

列車種類や、国によって異なるため一概には言えないのですが、幹線系路線の固定編成列車(EMU)の場合以下の傾向があります。

  • 12桁+アルファベットの場合
  • 【車両種類(2桁)+登録国(2桁)+車両諸元(4桁)+シリアル値(3桁)+パリティ(1桁)】という法定の番号と考えられます。6〜8桁目がClass番号の場合もあります。
    この番号と別に車端に6桁の番号が車体に書かれているケースがあります。

  • 6桁の場合
  • 旅客列車編成の場合で、3桁+3桁に配列されている場合は、Class番号(3桁)+シリアル値(3桁)可能性が高いです。

  • 5桁の場合
  • 日本と同じようにClassの手がかりになる場合もありますが、単に車両番号の場合もあります。車両番号の場合には、車端に別の6桁番号が振られている可能性があります。

  • その他
  • アルファベット+数字(3〜5桁)のような、車両メーカーが振った製品シリーズ番号の場合もあります。

また、ブレーキタイプ(渦電流ブレーキなど、路面電車では実質義務づけられているものも多い)など、さまざまな表示が行われています。

Class 350