小倉百人一首 勅撰集別分類


【もくじ】
◆古今集 24首 ◆後撰集 6首 ◆拾遺集 11首 ◆後拾遺集 14首 ◆金葉集 5首
◆詞花集 5首 ◆千載集 15首 ◆新古今集 14首 ◆新勅撰集 4首 ◆続後撰集 2首

【注記】
●20番元良親王の歌は後撰集・拾遺集に重出。定家は「八代集秀逸」ではこの歌を拾遺集の秀逸歌として撰出しているので、ここでも拾遺集に入れておいた。
●55番公任の歌は拾遺集と千載集に重出。拾遺集では初句が「滝の糸は」となっており、定家は千載集から採ったかと思われるので、千載集に入れておいた。
●天福二年(1234)成立の定家撰「八代集秀逸」(全80首)と共通する歌には、末尾にを付した。元良親王の歌は、上に書いたとおり、拾遺集の秀逸十首中に入っている。因みに、「八代集秀逸」と共通する百人一首歌は36首ある。

【メモ】
古今集収載歌が24首と全体の約四分の一を占め、古今集尊重が著しい。
参考に、「定家八代抄」(全1809首)における各勅撰集の全体に占めるパーセンテージを、百人一首におけるそれと較べてみよう(小数点以下は四捨五入)。

古今後撰拾遺後拾遺金葉詞花千載新古今
定家八代抄30%6%12%7%1%1%11%31%
百人一首24%6%11%14%5%5%15%14%

「八代抄」は、定家が五十代の頃、古今から新古今まで八代の勅撰集から秀歌を選んで二十巻にまとめたもので、百人一首から二十年ほど昔の撰ということになる。有名歌人一首に限定し、十代の勅撰集入集歌から成る百人一首とは、同じ秀歌撰と言ってもきわめて性格が異なるわけで、単純に比較できないことは勿論である。それは承知の上で、あえて比較してみると、少なくとも次のような点は指摘できると思う。
  1. 古今集重視は、ほぼ一貫している。
  2. 新古今集の占める割合が、八代抄に比べ百人一首で極めて低くなっている。
  3. 後拾遺集の占める割合が、八代抄に比べ百人一首で極めて高くなっている。
(2)について補足すると、定家・家隆・後鳥羽院という三人の代表的新古今歌人の歌でさえ、新古今集からは採られていない(この三人の歌は、新勅撰・続後撰入集歌である)。晩年、定家が新古今風(あるいは新古今集の選歌方針)に対する反発を強めていた傍証とみる説もある。
(3)については、後拾遺集への評価が晩年の定家の中で高まったということもあるかも知れないが、後拾遺集から採った歌を見ると、歌そのものより「人」で撰んでいる例が多いような印象が強い。後拾遺集は、一条天皇代前後の王朝文芸最盛期に活躍した名だたる才女・文人の作を多く含んだ勅撰集なのである。





●古今集 24首

猿丸大夫
005 おく山に紅葉ふみわけ鳴しかの 聲きくときそ秋はかなしき

安倍仲麿
007 天の原ふりさけみれは春日なる 三笠のやまに出し月かも

喜撰法師
008 我盧はみやこのたつみしかそ住 よを宇治山と人はいふなり

小野小町
009 花の色はうつりにけりないたつらに わか身よにふるなかめせしまに

参議篁
011 和田の原八十嶋かけてこき出ぬと 人にはつけよあまの釣舟

僧正遍昭
012 天つ風雲のかよひち吹とちよ をとめのすかたしはしとゝめん

河原左大臣
014 みちのくの忍ふ文字すり誰ゆへに 乱れ初にしわれならなくに

光孝天皇
015 君かためはるの野に出てわかなつむ わか衣手に雪はふりつゝ

中納言行平
016 立わかれいなはの山の嶺に生る まつとしきかはいまかへりこん

在原業平朝臣
017 千早振神代もきかす立田川 からくれなゐに水くゝるとは

藤原敏行朝臣
018 住の江のきしによる波よるさへや 夢のかよひち人めよくらん

素性法師
021 今こんといひしはかりに長月の 有明の月をまちいてつるかな

文屋康秀
022 吹からに秋の草木のしほるれは むへ山風をあらしといふらん

大江千里
023 月みれは千々にものこそかなしけれ 我身ひとつの秋にはあらねと

菅家
024 この度はぬさも取あへす手向山 もみちのにしき神のまにゝゝ

源宗于朝臣
028 山里は冬そさひしさ増りける 人めも草もかれぬとおもへは

凡河内躬恒
029 心あてに折はやおらむ初しもの をきまとはせるしら菊の花

壬生忠岑
030 有明のつれなく見えし別れより 暁計うきものはなし

坂上是則
031 朝ほらけ在明の月とみるまてに よし野ゝさとにふれるしら雪

春道列樹
032 山川に風の懸たるしからみは なかれもあへぬ紅葉なりけり

紀友則
033 久方の光のとけき春の日に しつ心なくはなの散らん

藤原興風
034 誰をかも知人にせん高砂の 松も昔の友ならなくに

紀貫之
035 人はいさ心もしらす古郷は 花そむかしの香ににほひける

清原深養父
036 夏のよはまたよひなから明ぬるを 雲のいつこに月やとるらん


●後撰集 6首

天智天皇
001秋の田のかりほの盧のとまをあらみ 我ころも手は露にぬれつゝ

蝉丸
010 是や此行もかへるも別ては しるもしらぬも相坂のせき

陽成院
013 つくはねのみねよりおつるみなの川 恋そつもりてふちとなりぬる

三条右大臣
025 なにしおははあふ坂山のさねかつら 人にしられて来るよしも哉

文屋朝康
037 しら露に風のふきしく秋のゝは つらぬきとめぬたまそ散ける

参議等
039 浅ちふのをのゝしの原忍ふれと あまりてなとか人のこひしき


●拾遺集 11首

柿本人丸
003 あし引の山鳥のおのしたり尾の なかゝゝし夜を独かもねん

元良親王
020 侘ぬれは今はたおなし難波なる 身をつくしてもあはんとそ思ふ

貞信公
026 をくら山嶺のもみち葉心あらは 今一度のみゆきまたなん

右近
038 わすらるゝ身をは思はす誓ひてし 人のいのちのおしくも有かな

平兼盛
040 忍ふれと色に出にけり我こひは ものやおもふとひとのとふまて

壬生忠見
041 恋すてふ我名はまたき立にけり 人しれすこそおもひそめしか

権中納言敦忠
043 あひみての後の心にくらふれは むかしはものをおもはさりけり

中納言朝忠
044 逢事のたえてしなくは中ゝゝに 人をも身をもうらみさらまし

謙徳公
045 哀ともいふへき人はおもほえて 身の徒になりぬへき哉

恵慶法師
047 八重葎しけれる宿のさひしきに 人社見えね秋は来にけり

右大将道綱母
053 なけきつゝ独ぬるよの明るまは いかに久しきものとかはしる


●後拾遺集 14首

清原元輔
042 契きなかたみにそてをしほりつゝ すゑのまつ山波こさしとは

藤原義孝
050 君かためおしからさりしいのちさへ 永くもかなとおもひけるかな

藤原実方朝臣
051 かくとたにえやはいふきのさしも草 さしもしらしな燃るおもひを

藤原道信朝臣
052 明ぬれはくるゝものとは知なから 猶うらめしき朝朗かな

和泉式部
056 あらさらん此よの外のおもひ出に いま一度のあふ事も哉

大弐三位
058 有馬山猪名のさゝ原風ふけは いてそよ人をわすれやはする

赤染衛門
059 やすらはてねなましものをさよ更て 片ふくまての月を見しかな

清少納言
062 よをこめて鳥のそらねははかるとも 世にあふさかの関はゆるさし

左京大夫道雅
063 今はたゝおもひたえなんとはかりを 人つてならていふよしも哉

権中納言匡房
073 高砂のおのへのさくら咲にけり とやまの霞みたゝすもあらなん

相模
065 うらみ侘ほさぬ袖たにある物を 恋に朽なむ名こそおしけれ

三条院
068 心にもあらてうきよになからへは こひしかるへき夜半の月哉

能因法師
069 あらしふく三室の山のもみちはゝ たつ田の川のにしき成けり

良暹法師
070 さひしさに宿をたち出てなかむれは いつくもおなし秋の夕暮


●金葉集 5首

小式部内侍
060 大江山生野ゝみちの遠けれは またふみも見すあまのはしたて

大僧正行尊
066 もろ共に哀とおもへ山さくら はなより外にしる人もなし

大納言経信
071 夕されは門田のいなは音つれて 芦のまろやにあき風そふく

祐子内親王家紀伊
072 音にきくたかしのはまの化波は かけしやそてのぬれもこそすれ

源兼昌
078 あはち嶋かよふ千鳥の鳴こゑに 幾夜ねさめぬすまのせきもり


●詞花集 5首

源重之
048 風を痛み岩うつ波のをのれのみ 碎て物をおもふころかな

大中臣能宣朝臣
049 みかき守ゑしのたく火の夜はもえて ひるは消つゝものをこそおもへ

伊勢大輔
061 いにしへの奈良のみやこの八重桜 けふこゝのへに匂ひぬるかな

法性寺入道前関白太政大臣
076 和田の原こき出てみれは久方の 雲井にまかふおきつしら波

崇徳院
077 瀬をはやみ岩にせかるゝたき川の われてもすゑにあはむとそおもふ


●千載集 15首

大納言公任
055 瀧の音はたえて久しく成ぬれと 名こそなかれて尚聞えけれ

権中納言定頼
064 朝朗うちの川霧たえゝゝに 顕はれ渡る瀬ゝのあしろ木

周防内侍
067 春の夜の夢はかりなる手枕に 甲斐なくたゝん名こそおしけれ

源俊頼朝臣
074 うかりける人を初瀬の山おろし はけしかれとはいのらぬものを

藤原基俊
075 契りをきしさせもかつゆをいのちにて 哀ことしの秋もいぬめり

待賢門院堀河
080 長からん心もしらすくろ髮の みたれて今朝はものをこそ思へ

道因法師
082 思ひわひさてもいのちは有ものを うきに堪ぬはなみた成けり

後徳大寺左大臣
081 ほとゝきす鳴つる方を眺むれは 唯有明の月そのこれる

皇太后宮大夫俊成
083 世中よ道こそなけれおもひ入 山のおくにも鹿そ鳴なる

俊恵法師
085 よもすから物思ふころは明やらて 閨の隙さへつれなかりけり

西行法師
086 歎けとて月やはものを思はする かこち顔なるわかなみたかな

皇嘉門院別当
088 難波江のあしのかりねの一夜ゆへ 身をつくしてやこひ渡るへき

殷富門院大輔
090 見せはやなをしまのあまの袖たにも ぬれにそぬれし色はかはらす

二条院讃岐
092 わか袖はしほひに見えぬおきの石の 人こそしらねかはくまもなし

前大僧正慈円
095 おほけなくうきよの民におほふ哉 我たつ杣にすみそめの袖


●新古今集 14首

持統天皇
002 春過て夏来にけらし白妙の 衣ほすてふあまの香来山

山辺赤人
004 田子のうらにうち出てみれはしろ妙の 不二の高根にゆきは降つゝ

中納言家持
006 鵲の渡せるはしにをく霜の しろきをみれはよそ更にける

伊勢
019 なには潟みちかきあしのふしのまも あはてこのよを過してよとや

中納言兼輔
027 みかの原わきてなかるゝ和泉川 いつみきとてか恋しかるらん

曽禰好忠
046 ゆらのとを渡る舟人かちを絶 行ゑもしらぬこひのみち哉

儀同三司母
054 わすれしの行すゑまては難けれは けふをかきりのいのちとも哉

紫式部
057 めくりあひてみしやそれとも分ぬまに 雲かくれにしよはの月哉

左京大夫顕輔
079 秋風に棚引雲のたえまより もれいつる月のかけのさやけさ

藤原清輔朝臣
084 なからへはまたこの比や忍はれん うしと見しよそいまはこひしき

寂蓮法師
087 村雨の露もまたひぬ槇のはに 霧たちのほるあきのゆふ暮

式子内親王
089 玉のをよ絶なはたえねなからへは しのふる事のよはりもそする

後京極摂政前太政大臣
091 きりゝゝす鳴やしもよのさむしろに ころもかたしきひとりかもねん

参議雅経
094 みよし野ゝ山の秋風さよ更て 故郷さむくころもうつ也


●新勅撰集 4首

鎌倉右大臣
093 世中は常にもかもな渚こく 海人のをふねの綱手かなしも

入道前太政大臣
096 花さそふあらしの庭の雪ならて ふり行ものはわか身成けり

権中納言定家
097 来ぬ人をまつほのうらの夕なきに やくや藻しほの身もこかれつゝ

従二位家隆
098 風そよくならの小川の夕暮は 御秡そなつのしるし成ける


●続後撰集 2首

後鳥羽院
099 人もおしひともうらめしあちきなく よをおもふゆへに物思ふ身は

順徳院
100 百敷やふるき軒端の忍ふにも なを餘りあるむかし成けり


百人一首目次


最終更新日:平成13年7月17日