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“新潮クレスト・ブックス”は、1988年から始まった新潮社による海外の小説、ノンフィクションを紹介するシリーズ。“Crest”とは「波頭、最高峰」などの意。 |
1.記憶に残っていること 2.美しい子ども |
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新潮クレスト・ブックス
短篇小説ベスト・コレクション 堀江敏幸編 |
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2008/10/10
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新潮社の“クレスト・ブックス”は、海外の新しい良質な文学作品を紹介しているシリーズとしてその評価は高く、私としても信頼しているシリーズです。 したがって、新たなクレスト・ブックス作品が刊行されるとできるだけ読むようにしているのですが、1回だけ読んでそれで終わっている、というのが現状。 それが今回ベスト・セレクションという形で刊行され、再度読み直すチャンスが得られたのは嬉しいことです。そしてまた、出版という点からしても、とても良い企画だと思います。 作家一人一人についてその作品を堪能するという点では、短篇の限界故に物足りなさがありますが、その反面10篇もの作品を読み比べることができる、という楽しさがあります。
編者は堀江敏幸さんなので、選ばれた作品はそれなりに堀江さんの作風、好みを反映しているものと思います。一見あっさりしているようで、実はかみ締めると深い味わいが染み出てくる、といった作品ばかり。
本書収録の10作品は全て読了しているものばかりなのですが、忘れている作品もあれば、忘れずにいる作品もあります。 デイヴィッド・ベズモーズギス「マッサージ療法士ロマン・バーマン」 *堀江敏幸「人はなにかを失わずになにかを得ることはできない」 |
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新潮クレスト・ブックス 短篇小説ベスト・コレクション 松家仁之編 |
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2013/09/21
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新潮クレスト・ブックス、短篇小説ベスト・コレクションの第2集。今回の編者は松家仁之さん。 敢えて言うなら今回は、家族にまつわる話が多いようです。 11人の作家による12篇。各作家の国籍は実にさまざまで、作家によって作風に違いがあることは勿論ですが、それを越えて幅広いものとなっています。 どれも短篇小説ではあるのですが、短篇小説を越えて長編小説のような感銘を残している作品も少なくありません。中でも圧巻なのがジュンパ・ラヒリ「地獄/天国」。米国生まれの少女から見たベンガル女性である母親の父親以外のベンガル男性に対する微妙で奥深い思いを描いていて、忘れ難い傑作です。 一方、コミカルであると同時に哀感も深いのがミランダ・ジュライ「水泳チーム」とウリツカヤ「自然現象」。 それがさらに表題作、フェルフルストの「美しい子ども」に至ると、抱腹絶倒を越えて絶句という他ありません。 イングランダー「若い寡婦たちには果物をただで」は、ホロコーストの悲しさを今も引きずる作品。 ドーア「非武装地帯」、シュリンク「リューゲン島のヨハン・セバスティアン・バッハ」には、さりげないながら親子の深い思いを見い出す気がします。 マンロー「女たち」はサスペンスの味わいを感じさせてくれる読み応えある一篇で、“短篇小説の女王”と呼ばれるだけあって流石に上手い! 今回唯一未読だったのは、タワー「ヒョウ」。義父と少年の含みある関係を描いた作品ですが、ストーリィが終った後どうなるか、むしろそれが気になる一篇。 私は一気に読み切ってしまいましたが、一篇一篇の素晴らしさを味わうためにはむしろ一日に1篇か2篇という予定で読み進んでいくことをお薦めします。(※一日で読み切るのは内容の濃さからして、無謀だったと反省することしきり。) アンソニー・ドーア「非武装地帯」 *松家仁之「ほんとうの話」 |