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●「残念な日々」● ★★☆ |
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2012/03/26
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ベルギー北部のフランドル地方、下品で飲んだくれの一族と共に過ごした作者の少年時代を回想する、自伝的連作短篇集。 トイレのドアを開けっ放しで用を足して紙をもってこさせたり、生のミンチを平気で手づかみで食べ、腹に虫が湧いても何ら気にしない。酔っては淫猥な歌をがなり立てるのが常。 母親に置き捨てられ、そんな下品で飲んだくれの父や叔父2人との共同生活。 愚かで恥ずべきという言葉がまず最初に浮かびますが、どこか彼らには愛嬌があり、愛すべき一族とも思えるのです。 第一、他人に迷惑をかけているかと言えばそれは無いようなのです。酔っ払い運転で対向車線を突っ走った揚げ句に正面衝突事故を起こしても、相手が盗難車だったとして警察で表彰を受けるという始末。 大酒飲みの放埓な人間ばかりだけれど、家族としての絆は強く、それなりに一族について誇りすら抱いている。 要は一般常識に当てはまらないというだけ。当てはまらない一族の姿、物語なのです。 もって愛すべき。下劣で愚かしいと感じることがないのは、内容がどうであれ本作品が、一大叙事詩のような風格ある文章を備えているからです。 最後の章、故郷を出て今は常識的な暮らしをしている主人公が、もはや叔父たちの一員ではないと感じる辺り、主人公がつまらない人間になったと感じられるのも不思議ないというものです。 本書の中でも傑作なのが「ツール・ド・フランス」。 自転車競技に見立てて数日間にわたる飲み比べを繰り広げるという顛末は呆れる程可笑しいのですが、その渦中、2度も息子2人の生命危機を告げに来た警官と祖母のやり取りが噴飯もの。 美しい子ども/赤ん坊の沈む池/ツール・ド・フランス/オンリー・ザ・ロンリー/父の新しい恋人/母について/巡礼者/収集家/回復者/後継者の誕生/民俗学者の研究対象/あの子の叔父 |