ウィリアム・トレヴァー作品のページ


William Trevor  1928年アイルランド・コーク州生。トリニティ・カレッジ・ダブリン卒業後、教師、彫刻家、コピーライター等を経て、60年代より本格的な作家活動を開始。65年第2作「同窓」にてホーソンデン賞を受賞。以降数多くの文学賞を受賞している(ホイットブレッド賞は3回受賞)。現在は英国デヴォン州在住。

 


   

●「密 会」● ★★
 
原題:"A BIT ON THE SIDE"          訳:中野恵津子

  

 
2004年発表

2008年03月
新潮社刊

(1900円+税)

 

2008/04/16

 

amazon.co.jp

「英語圏最高の短篇作家W・トレヴァー。人生の苦さ、深みをすくいとった12篇」とのこと。

現在の生活は、決して幸せとか、満足とか言えるものではない。しかし、それに至る経緯、理由が過去にあったからこそ現在の生活がある。そうと知れば冷静に今の生活を受け入れ、その中で生きていくしかない。
淡々と宿命を受け入れる諦念、冷たい潔さのようなものが本短編集には充ちている、と感じます。

人生には如何ともし難いものがあります。
自己本位で横暴なだけだった夫の死去を静かに受け止めている老妻を描いた「死者とともに」、ある事情から両親と共に流離うように転々とホテル暮らしを続けた少女を描く「孤独」はその象徴と言える作品でしょう。
その一方、結婚相談所の紹介で出会う男女の話。男はただ夕食をたかろうとしただけ、女はそうと知っても結局満足して別れるというストーリィの「夜の外出」、別れた夫にストーカーのように付きまとわれる中年女性を描いた「路上で」には、苦さの中にも滑稽味が一抹感じられて面白い。
また、何気ない一文の中に、さらりと人生の重みが差し込まれていてハッとすることも幾度かあります。ふとそのことに気づいた時に感じる衝撃はなかなかの味わいです。
寝取られ男となった初老の教師とその妻を描いた「ローズは泣いた」。その後の2人だけの生活と、18歳のローズが知ってしまった人生の現実。そこにある深い哀しみの余韻はとても深いものがあります。

どの篇にも登場人物の激しい感情は見られませんし、これといった作者のメッセージも感じられません。ただそこに人生の現実が横たわっているのみ。
そこから滲み出てくる味わいにこそ、トレヴァー作品の魅力があると思います。

死者とともに/伝統/ジャスティーナの神父/夜の外出/グレイリスの遺産/孤独/聖像/ローズは泣いた/大金の夢/路上で/ダンス教師の音楽/密会

   



新潮クレスト・ブックス

    

to Top Page     to 海外作家 Index