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1.イラクサ 2.林檎の木の下で 3.小説のように 4.ディア・ライフ 5.善き女の愛 6.ジュリエット 7.ピアノ・レッスン |
「イラクサ」 ★★ |
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2006年03月
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“短篇小説の女王”と呼ばれる短篇の名手、アリス・マンローの短篇集。 マンローはカナダの田舎町に生まれ育ち、早くから小説家を志していたとのこと。女性は結婚して家庭を守るのが当然と思われていた時代に、病気の母親を残して奨学金で大学に進学したこと、結婚後も小説家の道を諦めず結婚が破綻に至ったこと、自立するのと引き換えに孤高を味わったことが再三あったように思われます。 なお、登場人物各々の思惑と予想外の顛末を描いて皮肉な可笑しさのある「恋占い」と、人生とは思いがけないことが起きるものだと述懐させてくれる「クマが山を越えてきた」の2篇は、皮肉な面白味があって判りやすい作品です。 恋占い/浮橋/家に伝わる家具/なぐさめ/イラクサ/ポスト・アンド・ビーム/記憶に残っていること/クィーニー/クマが山を越えてきた |
「林檎の木の下で」 ★★ |
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2007年03月
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スコットランドから一家でカナダに移住し、この地に居着いた一族の足跡を、短篇集の形式で綴った一冊。 その一族とは実在の人物たち、それも著者マンローの先祖達というのですから恐れ入る。 こんな風に短篇集として書き綴られると、その時代その時代に、各々の生活、各々人生があったことが事の外強く感じられます。つまり、現在に生きている我々の為に彼らが生命を繋いできたという訳では決してない、ということを。 なお、本書の題名からまず連想したのは、ゴールズワージーの名作「林檎の木」。 【第一部
良いことは何もない】良いことは何もない/キャッスル・ロックからの眺め/イリノイ/モリス郡区の原野/生活のために働く |
「小説のように」 ★★☆ |
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2010年11月
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短篇小説の名手という定評の、マンローによる10篇。 人生とは、長い時間の流れである。 その時は悲嘆にくれることであっても、後から振り返れば人生好転のきっかけになったことなのかもしれない。 まず、冒頭の「次元」。精神障害の夫に幼い子供3人を殺されてしまった女性を主人公にしたストーリィ。何とも言い難い思いを抱かされます。 次元/小説のように/ウェンロック・エッジ/深い穴/遊離基/顔/女たち/子供の遊び/木/あまりに幸せ |
4. | |
「ディア・ライフ」 ★★★ トリリウム図書賞(カナダ・オンタリオ州) |
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2013年12月
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ノーベル文学賞受賞前の本年06月にマンローは引退宣言をしているとのこと。その意味で、本書は著者最後の短篇集となる可能性大、という14篇を収録した一冊。 短篇集であるからには収録されているのはいずれも短篇小説なのですが、短篇ではあってもまるで長編小説並みの膨らみを備えているところに圧倒されます。 まさに“短編小説の女王”と言われるマンローの、面目躍如というべき傑作短篇集。 マンロー作品をこれまで読んできて、読む度に私の中で評価は上がる一方。マンロー作品の質がその通り上がっているのか、私自身がマンローのそうした特質を読み取れるようになったのか、そのどちらであるかを見定めることなど今の時点で出来るものではありませんが、4冊の中で本書、是非お薦めです。 日本に届く/アムンゼン/メイヴァリーを去る/砂利/安息の場所/プライド/コリー/列車/湖の見えるところで/ドリー/目/夜/声/ディア・ライフ |
5. | |
「善き女の愛」 ★★☆ 全米批評家協会賞 原題:"The Love of a Good Woman" 訳:小竹由美子 |
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2014年12月
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1998年度全米批評家協会賞を受賞した短篇集。また、表題作「善き女の愛」はO・ヘンリー賞を受賞。 |
「ジュリエット」 ★★☆ ギラー賞、ロジャーズ・ライターズ・トラスト賞 |
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2016年10月
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マンロー73歳の時に刊行された11冊目の短篇集とのこと。 2004年刊行ですから「ディア・ライフ」以降、遡って以前の作品集を読むというパターンが2冊続きです。 一冊ごとに趣向を変えているマンローですが、本書はさしづめ、人生の岐路とその結果の人生を主題にした作品集と言えます。 人生の岐路において何を、どう選択したのか。 その選択の是非を明らかにすることはできません。そもそも比較しようがないのですから。 とは言ってもその選択によってその後の人生があり、それは自らが選択した延長線上にあるものと、人は覚悟してそれを受け入れざるを得ないのでしょう。たとえどんな人生でも。 マンローの、時に辛辣な語りは、そのことを主人公たちならびに読み手へ突き付けてくるようです。 しかし、それは結果が分ってから言えること。岐路に立った主人公たちがどう選択し行動するのか、その結果どんな人生が待ち受けているのか。その場に立ち会うのはとてもサスペンスフルで、どの篇でもハラハラドキドキが読み手を待っています。 本書8篇の内に<ジュリエット三部作>という3篇あり。 ジュリエットという女性の一生を3つの時期に分けて描いた連作短篇。短篇という形式をもって一人の女性の一生を描き出したところは“短編小説の女王”と言われるマンローらしいもの。またそれは、本作品集を象徴するような趣きです。 個人的な関心という点では「情熱」に触れておきたい。 芝居に魅せられていつも一人でストラトフォード(カナダ)まで観劇に通う若い看護師が出会った奇跡的な恋と、1年後の再会を約すというロマンス劇。しかし、その結末は・・・。 結末にシェイクスピアらしい仕掛けが施されているところが、ファンとしては切ないやら嬉しいやら。 ※なお、本篇中に登場する“ナイアガラ・オン・ザ・レイク”、20年程前に家族でカナダ旅行した時に訪れた町。懐かしかったです。 家出/チャンス/すぐに/沈黙/情熱/罪/トリック/パワー ※("ジュリエット三部作"・・・チャンス、すぐに、沈黙) |
「ピアノ・レッスン」 ★★☆ 原題:"Dance of the Happy Shades" 訳:小竹由美子 |
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“短篇小説の女王”と呼ばれる短篇の名手、アリス・マンローの初期作品集とのこと。 マンローの短篇集、私の個人的な欠陥だと思うのですが、冒頭部分でストーリィにうまく入り込めず、苦労してしまうのが常。 そうであっても、やはりマンローは上手い、初期作品において既に、と感じるのがこの作品集。 日常的な、さりげない出来事を描いた15篇。 ほんのちょっとした出来事であったかもしれませんが、それぞれの主人公にとっては忘れ難い出来事、場合によってはその後の人生を変えるような出来事だったかもしれないと思う次第です。 また、短篇ではあっても、まるで長編小説のように各主人公の人生を描き出している、浮かび上がらせている、と感じます。 どの篇においても、各登場人物それぞれが、今、確かに生きている、という印象あり。 上手い、とにかくその一言です。 15篇の中でも特に印象に残ったのは、「乗せてくれてありがとう」「仕事場」「ユトレヒト講和条約」、そして表題作の「ピアノ・レッスン」。 中でも「乗せてくれてありがとう」での最後、ロイスの叫び声は圧巻、陶然とさせられる気分でした。 この一篇だけでも、是非お薦め、です。 ウォーカーブラザーズ・カウボーイ/輝く家々/イメージ/乗せてくれてありがとう/仕事場/一服の薬/死んだとき/蝶の日/男の子と女の子/絵葉書/赤いワンピース−一九四六年/日曜の午後/海岸への旅/ユトレヒト講和条約/ピアノ・レッスン |