アリステア・マクラウド作品のページ


Alistair MacLeod  1936年カナダ・サスカチュアン州生。プリンス・エドワード島の東隣にあるノヴァ・スコシア州ケープ・ブレトン島で育つ。樵、坑夫、漁師などをして学資を稼ぎ、博士号を取得。2000年春までオンタリオ州ウインザー大学で教壇に立つ傍らで短編小説を発表。
1999年唯一の長編「No Great Mischief 」がカナダで大ベストセラーとなり、翌2000年、76年と86年刊の短編集2冊計14篇に新たな2篇を加えた全短編集「Island」が刊行される。31年間に僅か短編16篇という寡作な作家。


1.灰色の輝ける贈り物
Island

2.冬の犬 Island

3.彼方なる歌に耳を澄ませよ No Great Mischief

 


   

1.

●「灰色の輝ける贈り物」● ★★☆
 
原題:"The Golden Gift of Grey"     訳:中野恵津子




2000年発表

2002年11月
新潮社刊

(1900円+税)

 

2004/09/22

 

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作者の全短編集「Island」の前半8篇を収録した短編集。

作者の育ったケープ・ブレトン島を舞台に、そこで暮らす炭鉱夫や漁師ら、そしてその家族を主に描いた短編集。
貧しい暮らしにも拘わらず子供を多く抱えた炭鉱夫あるいは漁師の一家というと、つい恵まれない人々とみてしまいがちですが、ここに登場する人たちに自分たちの生活を卑下するような気持ちは微塵も窺えません。家族の絆を大切にし、自分たちの地道に守っていこうとする人々の姿がそこにはあります。
それはまるで、自分たちの人生、生活は神から授けられたものであり、それを全うすることこそ自分達の務め、と信じているかのようです。
その象徴とも言えるのが、表題作「灰色の輝ける贈り物」です。無学な両親ですけれど、子どもに対する深い愛情、敬虔な生き方を全うしようとする姿勢には、深い感銘を覚えざるを得ません。教養や富裕であることが人生や人間の価値ではないのだということを、切実に感じさせられる一篇です。
しかし、成長した子や孫たちから見れば、親たちの生活は決して望むものではないのも事実。世代間のそうした違いによる哀切感も本短編集には織り込まれています。

本書に収録されているいずれの作品にも、必ずしも恵まれているとはいえない人生に真っ正面から向かい合って地道に生きてきた人たちの姿が、オーソドックスに描かれています。
それらを遺憾なく、そして深い味わいをもって描き出す作者の筆さばきは素晴らしい。その点で、本書は珠玉の短篇集というべきでしょう。

船(1968)/広大な闇(1971)/灰色の輝ける贈り物(1971)/帰郷(1971)/秋に(1973)/失われた血の塩の贈り物(1974)/ランキンズ岬への道(1976)/夏の終わり(1976)

 

2.

●「冬の犬」● ★★★
 
原題:"Winter Dog"     訳:中野恵津子




2000年発表

2004年01月
新潮社刊

(1900円+税)

 

2004/12/07

 

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作者の全短編集「Island」の後半8篇を収録した短編集。

灰色の輝ける贈り物にまして、本書に描かれる素朴な人々の姿にしみじみとした感動を覚えます。
都会における人と人とのストーリィでなく、波乱の人生ドラマでもなく、厳しい自然と向かい合って動物と共に生きてきた人々の軌跡だからこそ、稀有な美しさ、尊厳があるのでしょう。
ストーリィを追ってつい読み急ぎがちになる性格の私ですが、本書の頁を繰り始めると、自然にじっくり読みたいという気持ちになります。短い篇もありますが、どれをとっても味わい深い作品ばかりです。
とくに本書では、スコットランドのハイランド出身という流れ、ゲール語を使う人々の存在が特徴的です。「完璧なる調和」「幻想」「クリアランス」がその代表的な3篇ですが、代々にわたって受け継がれてきた、人が生きるという営みの歴史に触れる思いがします。

8篇の中で忘れ難い作品のひとつは、表題作「冬の犬」。牧羊犬として買ったものの遂に仕事の役に立たなかったコリー犬。その犬と少年は、冬の流氷の上で生死の危機を共にします。それにもかかわらず、少年は犬の最期を守ってやることはできなかった。その厳しさ、切なさが印象的です。
もうひとつは、短篇集本来の表題作である「島」。島の灯台守りとして暮らしてきた一家の最後となった女性の生涯を描いた作品です。その孤高の姿には、長篇小説のような奥深さと、孤独を厭わず生きてきた人の尊厳が感じられ、深い感銘を覚えます。
なお、短篇集の最後を飾る「クレアランス」は、物語の終わりを告げるにふさわしい静けさをもった作品。時代が変われば本短篇集に描かれた人々の暮らし方も変わっていかざるを得ませんが、「俺たちは、こんなことになるために生まれてきたんじゃない」という主人公の言葉には、伝統を守って生きてきた人々の強いメッセージを感じます。
稀有な、珠玉といえる作品集。本書を読めたことを幸せに思います。

すべてのものに季節がある(1977)/二度目の春(1980)/冬の犬(1981)/完璧なる調和(1984)/鳥が太陽を運んでくるように(1985)/幻影(1986)/島(1988)/クリアランス(1999)

 

3.

●「彼方なる歌に耳を澄ませよ」● ★★★
 
原題:"No Great Mischief"     訳:中野恵津子




1999年発表

2005年02月
新潮社刊

(2200円+税)

 

2005/03/20

 

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18世紀末、スコットランドからカナダ東端の島、ケープ・ブレトンへ渡った一家がいた。
誇り高いハイランダー(スコットランド高地人)の気質を備えたキャラム・ルーア55歳と妻、12人の子供たち。
故郷を捨て、途中で妻を亡くして辿り着いた新しい土地で、キャラム・ルーアは根を張って生きていく。
本書は、そのキャラム・ルーアを筆頭に、“クロウン・キャラム・ルーア(赤毛のキャラムの子供たち)”と呼ばれる彼の子孫たち一族の歴史を描き出した長篇作品です。

本書の語り手は、オンタリオで歯科医を開業している「私」ことアレグザンダー・マクドナルド。彼がトロントの貧しいアパートに住む長兄キャラムの様子を見に行くストーリィが基軸になっていて、その過程でキャラム・ルーア一族の歴史が多層的に語られていくという、読み応えある構成です。
当初ストーリィの筋がつかみ辛い思いがしますが、決して読みにくいということはありません。むしろ、温かい懐に抱かれるような居心地良さ、親しみが感じられて、楽しく頁を追っていける作品と言えるでしょう。

キャラム・ルーア一家がスコットランドから船に乗って漕ぎ出したとき、置いていかれようとした一家の犬が海に飛び込んで彼等を目指して懸命に泳ぎ続けます。「情が深すぎて、がんばりすぎる」のは、その茶色い犬とその子孫だけでなく、ルーア一族に共通の資質です。
何か秀でた事を成し遂げたという一族ではありませんが、一族の繋がりを大事にし、ハイランダーの誇りを守り、ゲール語を絶やさないその生き方には、崇高なものを感じます。
両親を早く亡くした私と双子の妹を育ててくれた、父方の無骨なおじいちゃんとおばあちゃん、生真面目だが敬愛を集めていた母方のおじいさん、キャラムを初めとする野性的な兄たち。
本書にはいぶし銀のような人物が幾人も登場します。そんな彼らが、根っこのところでクロウン・キャラム・ルーアとして広く繋がっていることに感銘を覚えます。
人の一生とはその人ひとりのものでなく、幾世代にも繋がっていくものだと語るところに、本書の素晴らしさがあります。

本書は13年かかって書きあがられた作品とのことですが、崇高にして親しみ深く、作者マクラウドその人を象徴するような作品と感じられます。是非お薦めしたい名品です。

※なお、スコットランド、ハイランダーの歴史を知らないともうひとつ理解できないところがあるのですが、その点は訳者の中野さんが「あとがき」で説明してくれていますので、心配はいりません。その意味で、最初に「あとがき」を読んでおいた方が読みやすいと思います。
原題は「たいした損失ではない」という意味で、かつてハイランダーたちを指して言われた言葉とのこと。ハイランダーたちの孤高さが偲ばれる題名です。

 



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