平成16年3月20日更新

4、カマデン・デジタルアンプ・キットの改善方法の解説

昨年 5月連休からトライパスのデジタルアンプユニット「TA2020-020」を使ったカマデン・デジタルアンプ・キットの特性の改造がほぼ修了しましたので、特性曲線、矩形波の再現と音質の関連と調整のノウハウをまとめます。

4−1 周波数特性と音質の関連
周波数特性が高音域まで伸びていれば良い音であるとは言い切れません。フラットに伸びていればかなりいえるのですが
コイルの共振で強いピークを持っていると、高音域に歪みが発生して耳障りな音になります。

人間の可聴域は、一般に20〜20kHzとされていますが、音源が20KHzまでしかないCDであっても、再生装置は50KHzまでほぼフラットな特性を持たないと弦楽器(ヴァイオリン)、金管楽器(トランペット、ホルン)、金属打楽器(シンバル、トライアングル)の音が自然に再現されません。実例で示しますが音がでないが残念です。

黄色の線のトロイダルコイルは、20kHz以降だらだらと下がっています。東光と閉磁型のコイルは50kHzにピークを持っています。この3種類の中で高音の再現性が良い順番で並べると以下の順番になります。
良好 閉磁型コイル ≧ 東光コイル >トロイダルコイル(白コア16回)

東光コイルと閉磁型のコイルの差はわずかですが、東光コイルの方がやや明るめの音になります。トロイダルコイルは、音がでていますが、ヴァイオリンがビオラのように聞こえたり、トライアングルの音が耳を澄ませて集中しないと聞こえない事が有りました。
目標カーブとして、50kHzまでフラットでピークがでない特性を目指しました。

4−2 周波数特性の補正方法

デジタルアンプの場合デジタル搬送波を取り除くために、コイルとコンデンサーでハイカットのLC 回路を作ります。このコイルとコンデンサーの組み合わせで周波特性が変化します。コイルの巻き数が大きいほど、コンデンサー容量が大きいほどカットOFF周波数が下がります。カットOFF周波数を同じにするには、LとCをかけ値が同じで有れば計算上は同じになります。従って、高周波領域の特性を改善するには、以下の3つの方法があります。

4−2−1,コンデンサー容量を変更させる。
コイルはカマデンキットオリジナルに同梱されていた、東光の10μHのコイルを替えずにハイカットのコンデンサー容量を変化させました。コンデンサーの種類は積層セラミックです。
オリジナルは1.0μFです。コンデンサー容量が下がるとピークが下がり高周波側へ移動して100KHzのレベルがあがって来るのが判ります。
音質的には、ピークが下がり高音域に移動するにつれてヴァイオリンの音の硬さがとれ柔らかで滑らかになり、艶や輝きがでて来ます。

この結果から、コンデンサー容量はトライパスの推奨お通り8Ωで0.22μFに決定しました。
但し、高周波領域が伸びるとデジタル搬送波の漏れが発生しますので、漏れを取るためにBTLの両端にコンデンサーを追加する必要があります。追加するコンデンサーに関しては別の項で種類や容量を解説します。

4−2−2、同じコイルの巻き数を変更しても周波数特性を変化させる。

コンデンサー容量を固定してコイルの容量を変化させる。ここではトロイダルコイルの巻き数を変更しました。
トロイダルコイルの巻き数 16回が計算上の10μHです。コンデンサー容量は0.22μFの積層セラミックを使いました。デジタル搬送波の漏れを防止するために、BTL両端に0.1μFの積層セラミックコンデンサーを追加してあります。
コンデンサー容量を変化するときに比べると、周波数特性の変化が素直に起こっています。下降の始まる点が、40KHz〜50KHzに移動して100KHzのレベルがあがって来ています。
音質的に見ると、ヴァイオリンの音が16回巻きでは、ドイツの交響楽団のように渋く 14回ではフランスの交響楽団の様に明るく表現されます。好みの別れるところですが、本来CDに入っていないはずの50KHz〜100KHzのわずかなレベル差がヴァイオリンの音質に影響を与えます。

この結果から、やや明るめの音であるが、トロイダルコイル緑コアは14回巻きにする事に決定しました。

4−2−3 コイルとコンデンサーをともに変化させる。
トロイダルコイルを初めて使用した時の(水準D0)の特性を直そうとコンデンサーを0.22μFから更に小さくしたところ周波数特性的な変化がなくデジタル搬送波の漏ればかり多くなりました。

コンデンサー容量を1/2の0.1μFにしたが周波数特性的に劇的変化無し。

そこでコイルの巻き数を思い切って減らし(16回→12回)容量的に1/2の5μHにしてコンデサー容量を2倍の0.47μFへあげて見ました。結果は見ての通りコイルとコンデンサーの組み合わせを同時に行う事で特性がより理想に近づきました。また、特性曲線ではでてこないですが、低音が元気になりました。
音質の改善には、コイルの容量を変更する方が効果的で有ることが判明しました。

コイルの巻き数を16回から12回へ減らしコンデンサーを2倍の0.47μFにした。

4−3 デジタル搬送波の漏れ対策と周波数特性
コンデンサー容量とコイルの容量を下げるとデジタル搬送波の漏れが大きくなります。デジタル搬送波が漏れていると、スーパーツイターに悪影響が与える可能性が高く、出来るだけ漏れを少なくする必要があります。
ハイカットコンデンサーの容量を上げても対策できますが、周波数特性が悪くなるので、トライパスの推奨に従い、BTLの両端にコンデンサーを追加しました。
周波数特性的には漏れているBTLにコンデンサーを追加していない水準がもっともピークが少なく良好でありますが、音質的には、ヴァイオリンやトライアングルの音が濁り、透き通った音色で有りません。
マイラー0.22μFがもっとも高音まで伸びていますが、音が硬くて鋭く歪みがあります。ポリエステルの0.22μFでは、逆に高音が伸びず音も柔らかくなります。積層セラミックコンデンサーがデジタル搬送波を防ぎつつ高音の伸びがあります。
デジタル搬送波の漏れを防止するためにBTLに追加するコンデサーは、積層セラミックスの0.1μFに決定しました。


1KHzの矩形波の再現 10KHzの矩形波の再現
水準 C1
BTLコンデンサー無し
水準 C2
BTLにマイラーコンデンサー
0.22μF
水準 C3
BTLにポリエステルコンデンサー
0.22μF
水準 C4
BTLに積層セラミックコンデンサー
0.1μF

4−4 矩形波の再現と音質の関連

コンデンサーの種類によって音が大幅に変わることが判明しました。マイラーの音がもっとも硬く、耳障りです。下のある矩形波の再現と合わせてみると、マイラーが一番、立ち上がりのピークが鋭く、リンキング(オーバーシュート)している事が判ります。この傾向が周波数特性の50k付近にピークがあり、80kHzまで伸びている特性と関連されていると推定されます。ポリエステルや積層セラミックの特性は35kHz付近ににわずかにピークがあり、50kHzまで伸びています。矩形波の再現でも立ち上がりのピークが少なくなっています。
コイルの種類でも特性が替わり、トロイダルコイル 白コア16回巻きでの波形再現がもっとも元波形に近いが、周波数特性的にはもっとも高音が伸びていませんし、音質的にも高音の伸びを感じません。同じトロイダルでもコアの種類により特性がことなり、白コアは高音域の伸びがあまり有りませんが、緑は伸びがあります。また共振によるピークの出方は周波数特性的に東光コイルよりトロイダルの緑方が少なく50kHzまでほぼフラットであります。しかし矩形波の再現ではピークが取れません。

1KHzの矩形波の再現 10KHzの矩形波の再現
水準 C2
BTLにマイラーコンデンサー
0.22μF
水準 C4
BTLに積層セラミックコンデンサー
0.1μF
水準 D0
トロイダルコイル白コア
に16回巻き
水準 D5
トロイダルコイル緑コア
に14回巻き
横軸は対数表示です 3が1KHz 4が10kHz 5が100KHzです


4−5 周波数特性と音像の定位感

ステレオ再生の特長で有る音像の定位感について同じグラフを使いますが、以下の示す4種類の特性で音像の定位感の順番をつけると以下の順番になります。
良好 C2≧C4≒D5>D0 劣る。



それぞれの特長から推定すると、音像の定位感を左右しているのは、50kHzから100kHzにかけた領域の再現性の影響が大きく100Hzで6dB以上落ちている水準は定位が悪いようです。
音像の定位感を測定するには、ペアマイクで左右のスピーカーからの発信されている同相の音を取り込みリサージュ波形を見ることで判断できます。この課題はマルチアンプを作りに当たりさけて通れない課題であり今後の研究課題としたい。

最後に水準表と総合判定結果を乗せます。

判定 ハイカット回路
コイル
ハイカット回路
 コンデンサー
ダンピング用抵抗
及びコンデンサー
BTL両端のコンデンサー コメント
A 東光 10μH 積層セラミック
50v 1.0μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω*1
無し カマデンオリジナル、高音域に歪み残る。
B 東光 10μH 積層セラミック
50v 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω
積層セラミック
50V 0.1μF
高域の伸びがあり歪みも少ない
定位感は良好
C0 東光 10μH MFLコンデンサー
50V 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω
ポリエステル
50V 0.1μF
高域の伸びがあり歪みも少ないわずかにデジタル信号のもれ有り、定位感優秀
C1 × 東光 10μH ポリエステル
50V 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω
無し デジタル信号のもれが大きい
C2 × 東光 10μH ポリエステル
50V 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω
マイラー
50V 0.22μF
音が堅くて鋭く歪みっぽい
C3 ○〜△ 東光 10μH ポリエステル
50V 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω
ポリエステル
50V 0.22μF
高域の伸びが今一歩で定位感がやや劣る。
C4 東光 10μH ポリエステル
50V 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω
積層セラミック
50V 0.1μF
高域の伸びがあり歪みも少ない。定位感は良好
D0 トロイダル 10μH 3A白 16回巻き MFL 
50V 0.22μF
MFL
0.22μF+10Ω
無し 高域の伸びが今一歩で定位感が劣るが、波形の再現性は良好
D1 トロイダル 10μH 3A緑 16回巻き 積層セラミック
50V 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω
ポリエステル50V 0.1μF わずかに高音域の伸びが足りません、定位感がやや劣ります。矩形波の再現でわずかにピークが残ります。
D2 △〜× トロイダル 10μH 1A白 16回巻き 積層セラミック
50V 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω
積層セラミック
50V 0.1μF
高域の伸びが今一歩で定位感が劣るが、波形の再現性は良好
D3 トロイダル10μH 1A緑 15回巻き 積層セラミック
50V 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω
積層セラミック
50V 0.1μF
高音域が伸びているが歪み感が少なく、やや渋めの艶や輝きが感じられる。定位感が良好、デジタル搬送波の漏れがわずかに大きい。矩形波の再現でわずかにピークが残ります。
D4 △〜× トロイダル 10μH 3A白 16回巻き MFL 
50V 0.1μF
積層セラミック
0.1μF+10Ω
ポリエステル
50V 0.22μF
周波数特性の伸びもなく定位感が劣ります。デジタル搬送波の漏れが大きくBTLに0.22μFコンデンサーを追加してやっと性能がでました。
D5 トロイダル10μH 1A緑 14回巻き 積層セラミック
50V 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω
積層セラミック
50V 0.1μF
高音域が伸びているが歪み感が少なく、やや明るめ艶や輝きが感じられる。定位感が良好、デジタル搬送波の漏れがわずかに大きい。矩形波の再現でややピークが残ります。
D6 トロイダル5μH 4A白 12回巻き 積層セラミック
50V 0.47μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω
積層セラミック
50V 0.1μF
高音域が伸びているが歪み感が少なく、やや渋めの艶や輝きが感じられる。定位感が良好、デジタル搬送波の漏れがわずかに残る。矩形波の再現でわずかにピークが残ります。
低音がわずかに元気になりました。
D7 トロイダル 10μH 3A緑 14回巻き 積層セラミック
50V 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω
ポリエステル50V 0.1μF 高音域が伸びているが歪み感が少なく、やや明るめの艶や輝きが感じられる。定位感が良好。矩形波の再現でわずかにピークが残ります。
低音がわずかに元気になりました。
E0 閉磁型コイル
10μH
積層セラミック
50V 0.47μF
積層セラミック
0.1μF+10Ω 1/2W金皮
無し 高音の伸びがやや少なく歪み感が少し有ります。定位感は良好
E1 閉磁型コイル
10μH
積層セラミック
50V 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω 1/2W金皮
積層セラミック
50V 0.1μF
高音が素直に伸びトライアングルなどの金属打楽器がクリアで濁りが有りません。弦も管も素直で優秀です。定位感も優秀です。
F0 空芯コイル
10μH
積層セラミック
50V 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω
積層セラミック
50V 0.1μF
デジタル搬送信号の漏れがやや目立ち高音域にやや歪みが目立ちます。定位感は良好です。
F1 14μH 7A 積層セラミック
50V 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω2W
積層セラミック
50V 0.1μF
高音域が伸びているが歪み感が少なく、やや渋めの艶や輝きが感じられる。定位感が良好、デジタル搬送波の漏れは良好。矩形波の再現でややピークが残ります。
G0 トロイダル 10μH 3A緑 14回巻き MFL
コンデンサー
50V 0.22μF
積層セラミック
0.22μF+10Ω2W
積層セラミック
50V 0.1μF

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