【地球9】
蝶が地球を駆け抜ける
この地球上に約14万種の昆虫がいるという。その中に2万種の蝶が含まれる。
私達に親しまれている、あの愛らしい小さな生き物・・チョウ。その生態について少し調べてみた。
全世界にわたって分布している蝶類だが、熱帯地域に最も多く生息している。極東、インド、南アメリカには特に多くいる。
蝶類は移動力の強い動物の一群でありながら、多くの種は一つの山群や森林の一部分しか見いだされないものもある。
個々の蝶の種は、それぞれの種が生息する環境に対して明確な、その種独自の選択性を持っているためだ。
生息地を決定づける要素は種々あるようだが、此処ではこの美しい可憐な小さな動物、蝶の「移動」についてみてみたい。
森林のような永続性の強い生息地にすむものは、農耕地のような一時的な生息地にすむ種にくらべて、当然ながらあまり移動しない。
ただ、永続的な生息地の場合でも、種によっては気候や、食草の供給がなされる季節等の環境によって移動する。
いかなる昆虫でも自然条件のもとで生きながらえるには、生活環境への抵抗力のある休眠期を発達させるか、条件が悪くなる前に
移動することが出来なければならない。
進化の過程で強い移動性を獲得した種は、一時的な生息地の優れものとなり、その結果人間の活動によって
もたらされたような地域をも含めた,様々な一時的な生息地に分布を拡大できるようになった。
集団飛翔の形をとって、ある場所から他の場所へ蝶の集団が移動していくのは、
昆虫の渡りの中でも最も壮観な光景といわれている。このような渡りは、多数の蝶が長い距離にわたって、一定の方向へ向かって
跳び続ける形をとっていて、摂食や交尾、産卵など生息地周辺の狭域的な飛翔とは明らかに異なっている。
メキシコとカリフォルニアの境から、北のサンフランシスコ湾に向かう集団の渡りを見た人は、
”あたかもコンパスに導かれているよう”に北西に向かって移動して行くようすに”感嘆”するようだ。(ヒメアカタテハという蝶)
しかし、この蝶は渡りをした後そこに永続的に定着するもこともなく、帰りの飛翔もないという。
哺乳類や鳥類等の他の動物の”渡り”は、集団になって繁殖地から他の場所へ、そして再び同じ個体がもとの場所にもどる。
蝶(昆虫)の場合はこの渡りの概念とは少し趣を異にする。
蝶(昆虫)は比較的短命なため、同一個体の帰りの飛翔はないとみるのが妥当だ。
帰路の飛翔があるとすれば、次の世代かまたはもっと後の世代と考えられる。
ではなぜ蝶はそのような集団移動をするのかという疑問がわいてくる。
さまざまな説があるようだが、
食物の欠乏、(好適な食物の欠乏も含めて)過度の混み合い、冬の到来等の不適当な条件に対する反応という説に落ち着くようだ。
蝶の長距離の飛翔は、不適当な条件が訪れる前にそれらを予測するような環境要因が蝶に作用する。
生育中の幼虫の内分泌機構に作用するこれらの引き金は、次の時期に生理的変化をおこさせて、
特殊な渡りをする成虫が生み出されると考えられている。
個体に標識を付けたり、マーカー等が非常に困難な蝶(昆虫)は、移動の生態等は多くの観察結果を集めて知り得るが、
蝶の中距離、長距離移動の観察報告は数多くある。
長距離移動のきわだった例として、北アメリカのオオカバマダラの渡り。カナダやアメリカ北部の発生地からアメリカ南部、
カリフォルニアやメキシコの越冬地まで、3,200kmにわたる距離を渡っていくという。
これらの成虫は7月に発生地から南に向かって移動を開始し、9月までに膨大な数の移動が観察されている。
途中で摂食しながら日中だけ移動し、あまり高くは飛ばない。
ある報告は、ほんの幾日かで1,900km以上移動し、1日の平均速度は130kmにも達した。
(通常の1日の飛翔距離は25〜35km)
一匹の蝶による最長の飛翔距離記録としては、130日間で3,000kmに達したとされる。
総体としての渡りが実質的には別の個体の短距離の移動から成り立っているとの意見もあるが、
この蝶に関しては標識を付けて再捕獲した実験もあり、長距離の渡りは実際のもののようだ。
夜間や悪天候の時は樹上で大群をなして休み、1,000m以上の山岳を横切っていく渡りも観察されている。
時速15kmの向かい風に逆らって南方に飛ぶことが可能とも言われ、一方強い北風にのって南に移動していくのも観察されている。
旅は、風しだい風向きしだいということかも知れない。(この蝶は越冬して、翌春再び同じ個体が帰りの渡りをするようだ)
渡りの驚異的な長距離は想像を超えるが、飛翔速度にも興味が出てくる。
前記のオオカバマダラは時速30〜40kmで走ってる自動車に遅れをとらずに飛んでいたという観察がある。
蝶全般で言えば、決して高速で飛ぶ昆虫とは思えない。
ただ、ある種の蝶はかなり強い風に逆らって時速8kmで飛んでいたとか、
また別の蝶は、追い風の時に20kmで・・・や、別の種で8〜15kmの速度での飛翔観察もある。
因みに、他の昆虫の早さの観察結果をみてみると、アブやミツバチは時速50〜65km、
大型のトンボの1種は時速140kmで航行中の飛行機に遅れず飛んでいたという観察記録がある。
それらの観察によれば、飛翔速度の遅い部類の蝶でも、追い風等のいい条件下で渡りをおこなうときはかなりの距離を移動できる。
時速8kmで飛ぶことが出来る蝶が、同じような速度の風にのった場合1日で130〜160kmくらい
飛ぶことが出来るであろうという。
地上で休息したり摂食したりしながらも、長時間滞空するであろう彼らは、長期に渡って移動するには膨大なエネルギーを
消費するであろう。
このエネルギーは体内、特に腹部の脂肪体と呼ばれる大きな組織に貯えられた脂肪から供給される。
蝶類は羽化したときにすでに脂肪体が十分発達していて、全体重の30%にもなっている。
渡りの途中で摂食によるエネルギーの補給にも関わらず、長距離の渡りの後には(前記のオオカバマダラ)脂肪体の割合は、
1〜2%にまで減少してしまうという。
あの舞うように飛ぶ蝶、その飛翔速度、飛ぶ距離、否私のような昆虫に関して無知に近い者にとっては
蝶が”渡り”をすること自体が驚異としかいいようがないのです。
しかも地球を駆け抜けるような距離を・・・
地球上の小さな営み、蝶の渡りのようすを少し知りましたが、此処にもこんな”地球の驚異”がありました。
ヒラヒラ舞う美しい蝶を見ながら、その先にいま地球が抱えているたくさんの課題に思いがいきます。
自然保護であり、環境問題であり、いまの地球、あすの地球・・
それは私達人類がたくさんの責任を負っているのではないでしょうか。
何時までも青く輝く「水の惑星」であり続けたい。
h.
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