石原慎太郎 いしはら・しんたろう(1932—2022)


 

本名=石原慎太郎(いしはら・しんたろう)
昭和7年9月30日—令和4年2月1日 
享年89歳(海陽院文政慎栄居士)
神奈川県逗子市沼間2丁目12―15 海宝院 (曹洞宗)



 

小説家・政治家。兵庫県生。一橋大学卒。父の転勤で小樽、逗子と転居。大学在学中に発表した『太陽の季節』が芥川賞受賞。「太陽族」は流行語になった。ほかに『化石の森』『弟』などがある。昭和43年国会議員に、平成11年東京都知事になり四期勤める。








 七十の半ばを過ぎて折節に自分の老いを感じ認めるようになると、誰しもがその先にあるもの、つまり死について、それも誰ものならぬ自分自身のこととして予感し意識するようになるようだ。ジャンケレビッチが死に関する人間の意識の緻密な分析をした労作『死』の中で言っていたように、死は私たちにとって最後の未知であり、最後の未来なのだから。
 しかし誰もそうは知っていても、最後の未来について自分自身のものとしては信じようとしない。しかし予感するようにはなる。予感することが出来るようにはなる。その瞬間から、過去の思い出も含めて、この世での楽しみは今まで以上に甘美なものとなってくる。性愛も食事も、音楽にせよ何にせよ心地よいものはすべて一層今まで以上に甘美になり得る。それは自分の人生をようやく踏まえ直した、存在と時間に対する本気な身構えと言えるのかもしれない。
 私は間もなく八十一になり、許されるなら八十五となり八十八となり、そして挙げ句に死んでいくのだ。死の瞬間にも意識だけははっきりとしていたいものだ。出来れ ばその床の中で、有無言わされぬたった一度の体験として迎える自分の死なるものを意識を強め、目を凝らして見つめてみたいものだ。それがかなったならば、多分、この俺はつい昨日生まれたばかりのような気がするのに、もう死ぬのかと思うに違いない。その想起の中で私は一体何と何を思い出し、誰と誰を思い出すのだろうか。我がこと故に興味がある。
自分を忘却してしまって死ぬのだけは嫌だ。そんな風に終わる人生なんぞ、結局虚無そのものではないか。忘却は嫌だ。何もかも覚えたまま、それを高駅って死にたい。

(「私」という男の生涯)

 


 

 畏友江藤淳は「好色性をも含めて肉体主義の発露としての作品のどれにも死の影が差している」と指摘した石原慎太郎は「五~八歳くらいの子供の天真爛漫さのまま大人となった」と精神科医の友人に分析されたように、一橋大学在学中に史上最年少で芥川賞を受賞した『太陽の季節』のあの若々しい青春の奔放なきらめきを迸らせた時代にさえ最後の未知なる「死」という主題に強く惹かれていたのだった。父も弟裕次郎も五十を過ぎたばかりで早世したが、すべからく人生の中でやってきたことの多くが肉体に裏打ちされたことどもであったせいに違いないと慎太郎は述懐する。晩年はすい臓がんの発見治療、骨折、脳梗塞の手術、すい臓がんの再発と闘病に追われ、令和4年2月1日午前10時20分、田園調布の自宅で死去した。



 

 遺言状に「葬式不要、戒名不要。我が骨は海に散らせ」と記す一方で「墓石には『青嵐報国』と入れてほしい」とも発言していたという石原慎太郎の墓は、父の転勤に伴って転居した逗子市桜山や27歳で建てた逗子市新宿の旧邸からも近い東逗子の寺にある。本堂裏の緩やかに勾配を上げた参道の左、間口三間ほどもある聖域に、昭和58年に慎太郎が建てた「石原家先祖各霊菩提」と刻された五輪塔が正面の木立越しに強く差し込む朝日に向かって屹立し、台石側面には『青嵐報国』と彫られている。墓誌には慎太郎の通夜に車いすで参列し、約一ケ月後の3月8日に84歳でなくなった典子夫人の戒名が並んでいる。遺言に従い遺骨の一部はこよなく愛した葉山の海に散骨された。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

編集後記


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