第5章 老スピリチュアリストとの対話
英国のみならず広く海外でも活躍している古くからのスピリチュアリスト(*)が招待され、シルバーバーチは「霊的知識に早くから馴染まれ、その道を一途に歩まれ、今や多くの啓示を授かる段階まで到達された人」として丁重にお迎えした。
(名前は紹介されていない。推測する手掛かりも見当たらない。霊言集にはこの様に名前を明かしてもよさそうなのに、と思えるケースが良くあるが、多分、公表は控えてほしいとの本人の要望があるのであろう。これもシルバーバーチの影響かもしれない)
シルバーバーチ「思えば長い道のりでした。人生の節目が画期的な出来事によって織りなされております。しかし、それも全て、一つの大きな計画のもとに愛によって導かれていることをあなたはご存じです。暗い影のように思えた出来事も、今から思えば計画の推進に不可欠の要素であったことが分ります。あなたがご自分の責務を果たすことが出来たのは、あなた自身の霊の感じる衝動に暗黙のうちに従っておられたからです。
これより先、その肉体を大地にお返しになられるまでにあなたの課せられた仕事は、とても意義深いものです。これまで一つ一つの階段を追って多くの啓示に接してこられましたが、これから先さらに多くの啓示をお受けになられます。
これまではその幾つかをおぼろ気に垣間見てこられたのであり、光明の全て、啓示の全てが授けられたわけではありません。それを手にされるには、ゆっくりとした発達と霊的進化が必要です。私の言わんとするところがお分かりでしょうか」
「よく分ります」
シルバーバーチ「これは一体どういう目的があってのことなのか、あなたはよくそう自問してこられましたね」
「目的があることは感じ取れるのです。目的があること自体を疑ったことはありません。ただ、自分の歩んでいる道のほんの先だけでいいから、それを照らしてくれる光が欲しいのです」
シルバーバーチ「あなたは大人の霊です。地上へ来られたのはこの度が最初ではありません。それは分っておられますか」
「そのことについてはある種の自覚を持っております。ただ、今ここで触れるつもりはありませんが、それとは別の考えがあって、何時もそれと葛藤が生じます」
シルバーバーチ「私にはその葛藤が良く理解できます。別にむずかしい問題ではありません。その肉体を通して働いている意識と、あなたの本来の自我である、より大きな側面との間の葛藤です。有象無象のこの世的雑念から離れて霊の力に満たされると、魂が本来の意識を取り戻して、日常の生活において五感の水際に打ち寄せてしきりに存在を認めてほしがっていた、より大きな自我との接触が得られます。
先ほどおっしゃった目的のことですが、実は霊の世界から地上へ引き返し地上人類の為に献身している霊の大軍を鼓舞し動かしている壮大な目的があるのです。未知の海の知識を投入すること、それが目的です。暗闇に迷う魂の為に灯火を掲げ、道を見失える人々、悩める人々、安らぎを求める人々に安息の港、聖なる避難所の存在を教えてあげることです。私達を一つに団結させている大いなる目的です。
宗教、民族、国家、その他ありとあらゆる相違を超越した大目的なのです。その目的の中にあってあなたもあなたなりの役目を担っておられます。そしてこれまで多くの魂の力になってこられました」
「ご説明いただいて得心が行きました。お礼申し上げます」
シルバーバーチ「私達が何時も直面させられている問題が二つあります。一つは惰眠をむさぼっている魂に目を覚まさせ、地上で為すべき仕事は地上で済ませるように指導すること。もう一つは目覚めてくれたのは良いとして、まずは自分自身の修養を始めなければならないのに、それを忘れて心霊的な活動に夢中になる人間を迎えることです。神は決してお急ぎにはなりません。
宇宙は決して消滅してしまうことはありません。法則も決して変わることはありません。じっくりと構え、これまでに啓示されたことは、これからも啓示されて行く事がある事の証明として受け止め、自分を導いてくれている愛の力は自分が精いっぱいの努力を怠りさえしなければ、決して自分を見捨てることは無いとの信念に燃えなくてはいけません」
実はこの老スピリチュアリストは今回の交霊会に備えて三つの質問を用意していた。その解答を紹介しておく。
「私の信じるところによれば人間は宇宙の創造主である全知全能の神の最高傑作であり、形態ならびに器官の組織において大宇宙のミクロ的表現であり、各個が完全な組織を具え、特殊な変異は生まれません。しかし、その各個の明確な個性、顔つきの違い、表情の違い、性向の違い、その他、知性、身振り、声、態度、才能の差異も含めた一人一人の一見して区別出来る個性を決定づける要因は何なのでしょうか」
シルバーバーチ「これは大変な問題ですね。まず物質と霊、物質と精神とを混同なさらないでください。人間は宇宙の自然法則に従って生きている三位一体の存在です。
肉体は物的法則に従い、精神は精神的法則に従い、霊は霊的法則に従っており、この三者が互いに協調しあっております。かくして法則の内側に法則があることになり、時には見た目に矛盾しているかに思えても、その謎を解くカギさえ手にすれば本質的には何の矛盾も無いことが分ります。
法則の裏側に法則があると同時に、一個の人間の様々な側面が交錯し融合しあって、常に精神的、霊的、物的の三種のエネルギーの相互作用が営まれております。
そこには三者の明確な区別は無くなっております。肉体は遺伝的な生理的法則に従っておりますし、精神は霊の表現ですが、肉体の脳と五官によって規制されております。つまり霊の物質界での表現は、それを表現する物質によって制約を受けると言う事です。
かくしてそこに無数の変化と組み合わせが生じます。霊は肉体に影響を及ぼし、肉体も又霊に影響を及ぼすからです。これでお分かり頂けるでしょうか」
「大分分かってきました。これからの勉強に大いに役立つと思います。では次の質問に移らさせて頂きます。人間はその始源、全生命の根元から生まれてくるのですが、その根元からどう言う段階を経てこの最低次元の物質界へ下降し、物的身体から分離した後(死後)、今度はどう言う段階を経て向上し、最後に無限なる存在と再融合するのか、その辺のところをお教えいただけませんか」
シルバーバーチ「これもまた大きな問題ですね。でも、これは説明が困難です。霊的生命の究極の問題を物的問題の理解の為の言語で説明する事はとても出来ません。霊的生命の無辺性を完全に解き明かせる言語は存在しません。ただ単的に、人間は霊である、但し大霊は人間ではない、と言う表現しか出来ません。
大霊とは全存在の究極の始源です。万物の大原因であり、大建築家であり、王の中の王です。霊とは生命であり、生命とは霊です。霊として人間は始めも終りも無く存在しています。それが個体としての存在を得るには、地上に限って言えば、母体に宿った時です。物的身体は霊に個体としての存在を与える為の道具であり、地上生活の目的はその個性を発揮させることにあります。
霊の世界への誕生である死は、その個性を持つ霊が、巡礼の旅の第二段階を迎える門出です。つまり霊の内部に宿る全資質を発達、促進、開発させ、完成させ、全存在の始源により一層近づくと言うことです。
人間は霊である以上、潜在的には神と同じく完全です。しかし人間は神の生命の中に吸収されてしまうと言う意味での再融合の時期が到来するとは考えません。神が無限である如く(生命の旅も)発達と完全へ向けての無限の成長過程であると主張するものです」
「よく分ります。お礼申し上げます。次に三つ目の質問ですが。今おっしゃられたことがある程度まで説明して下さっておりますが、人間は個霊として機械的に無限に再生を繰り返す宿命にあると輪廻転生論者がいますが、これは事実でしょうか。
もしそうでないとすれば、最低界である地上へ降りてくるまでに体験した地上以外の複数の前世で蓄積した個性や特質が、今度は死後、向上進化していく過程を促進もし、渋滞もさせると言うことになるのでしょうか。私の言わんとしていることがお分かり頂けますでしょうか」
シルバーバーチ「こうした存在の深奥に触れた問題を僅かな言葉でお答えするのは容易なことではありませんが、まず、正直に申して、輪廻転生論者がどう言うことを主張しているかは私は知りません。が、私個人として言わせて頂けば・・・絶対性を主張する資格も無いからこう言う言い方をするのですが、・・・再生と言うものが事実であることは私も認めます。それに反論する人達と議論するつもりはありません。
理屈でなく、私は現実に再生してきた人物を大勢知っているのです。どうしてもそうしなければならない目的があって生まれ変わるのです。預けた質を取り戻すに行くのです。
ただし再生するのは同じ個体の別の側面です。同じ人物とは申しておりません。一個の人間は氷山のようだと思って下さい。海面上に顔を出しているのは全体のほんの一部です。大部分は海中にあります。地上で意識的生活を送っているのはその海面上の部分だけです。死後再び生れて来た時は別の部分が海面上に顔を出します。
潜在的自我の別の側面です。二人の人物となりますが、実際は一つの個体の二つの側面と言うことです。霊界で向上進化を続けると、潜在的自我が常時発揮されるようになって行きます。再生問題を物質の目で理解しようとしたり判断なさってはいけません。霊的知識の理解から生れる叡知の目で洞察してください。そうすれば得心が行きます」