あしあとを記したホームページです
昨年十月、ウェールズの”マーサ・ティドフィル”グラウンドワークトラストを訪問した時のことである。美しい牧草に覆われた丘綾にゆったりと羊の群れる田園風景をイギリスの田舎と思っていた私は、ヒースしか生えないというボタ山が果てしなく続く光景に、見てはいけないものを見てしまった思いにとらわれた。二十世紀初頭、イギリス最大の炭坑として繁栄した地域であったが、鉄工所も炭坑も役割を終えていた。労働者住宅はマッチ箱のようで“うさぎ小屋”は日本の住宅のための比喩(ひゆ)だと思っていた私は目を疑った。
グラウンドワークトラストは、行政と住民、企業がそれぞれの立場で役割を分かち合い、トラストを中心に環境改善のためのプロジェクトを通じて、地域の再生を図ることを目的にする非営利団体だ。
工場周辺を緑化し公園化する、ゴミ捨て場と化した道端に木を植え、石畳を設けてミニ公園を造る、住宅地に小さな池や花壇を設けて憩いの場を造るささやかな例から、六十キロに及ぶ自然道を再生する大きな プロジェクトまで多彩である。市民が参加して労力を提供したり企業が資金を出したりするのだが、完成したばかりの公園のシンボルツリーが翌日抜き取られる、林に植えた木の多くが数カ月のうちに失われるといったことを、繰り返しながら使命感に燃えてトラスト活動を支える青年たちの原動力は何なのだろう。
プロジェクトマネージャーのパトリックさんは「イギリスは日本とは産業の発展のプロセスが違い、他人のことには全く関心を示さない多くの人たちを生み出した」と言った。「十六?十七歳で子供を生んでしまう人たちの多いあの住宅地で、池を造り花を育てる共同作業の中から確実に人々が変わっていく。環境改善にはコインの裏表の効果がある。このことは最初は分からなかった」と心理学を専攻したという彼は、キラキラと輝く目で私に静かに語った。
グラウンドワークを支えているのは“情熱”ですと言った事業団の説明をパトリックさんに見て、私は深くうなずいた。イギリスの地域社会を支える人々を訪ねる独り旅の途上で私はイギリスの素顔に出合った。
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