あしあとを記したホームページです
子供部屋は必要ないのではないか、テリトリー意識を育てるために必要だ、寝るだけの最小限の空間でいいと、子供部屋に関する議論は多いが、実際に建てる段になって無造作に扱われるのは子供部屋である。多くの場合二階に並んでいる。
私は住宅は家族の暮しの器であると思っている。住宅の設計に際して、どんな家族になりたいのか聞きたいと思う。子育てに対する夫婦の姿勢は、子供にどんなことを伝えたいのかと。しかしこのような家族の姿勢が言葉で語られることは残念ながら少ない。
浪人中の息子が、両親を金属バットで殴り殺してしまう事件があった。「社宅に住んでいたころ、家族には会話があった。あのままだったら僕はこのようなことはしなかった」という本人の述懐に「建築家は夫婦を離婚させることもできる」と言った世界的に著明な建築家の言葉を思いだし、心理的な距離と空間的な距離には深いかかわりがあると思いを新たにしたことがある。
日本のように子供時代にストレスの多い社会では、両親との心理的な距離は重要である。子供たちは思春期、度重なる受験期と精神的に揺れ動く。子供部屋の一つは台所や居間に接する位置にあり、大事な時期には、そこに移れるような配慮があると子供たちは幸せだ。
子育ては自立への支援だと私は思う。家庭は人間関係を学び、社会に巣立つ準備をする小さな社会だとも思う。
子供部屋は最小限の機能で抑え、家族で共有するものを増やすとする。はさみやのりが家族に一つしかなければ使った人は必ず元に戻さなければならない。年齢に応じて家族の暮しの管理に子供が参加して、家族はお互いに支えあって暮らしたいという希(ねが)いには、設計上、居間や廊下、玄関など、共有スペースに収納棚を設けることで対応していく。
住宅設計は家族のライフデザインである。システムキッチンや出窓のデザインを考える前に、暮しのデザインを豊かに表現できるようになりたいと思う。
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