あしあとを記したホームページです
芳ばしいタイ米チャーハンを日常食として食べながら、私はタイの女性のことを思わずにいられない。
この二年間に四十人近いタイの女性たちが、遠い異境で人知れず命を落している。彼女たちの多くは、東北タイの貧しい農村から、日本に来れば高い賃金で働けると騙(だま)されて、三ー四人のブローカーの手を経て買われてきたのだが、いつの間にか、三百万ー四百万円の借金を背負わされている。パスポートを取り上げられ、言葉も分からず、逃げ出すこともできないでいる。自由の身を切望し、ママさんを殺して逃走を図ったタイ人女性の裁判が今、公判中である。そのうちの一人は、日本に行けば、進学できると立派な成績表をその日のために持参していたという。
先日、東京で「女性の人権アジア法廷」が開催された。事件に至るまでの彼女たちの窮状を語る弁護士の説明に、嗚咽(おえつ)をこらえる従軍慰安婦の韓国代表の背を、たまたま隣に座った私は、そっと撫(な)でるしかなかった。
この大会でもまた、性産業の需要が日本にこれほどあるのは何故かと問題にされた。この需要を支える性の文化を許容する日本社会の背景に、公娼制度(国家が認めたという世界でも例外的な制度)の歴史の存在を指摘する人は多い。従軍慰安婦の問題もそうであったが、経済大国という顔に変えて、現代社会は意識の上でまた公娼制度をアジアに広げていると。
今、円高のあおりでアジア地域に急速な勢いで進出する日本の工場群は、都市と農村の格差を広げ、アジアの農村の疲弊を加速する。ここから多くのうら若い女性たちが日本に誘い出されてくるだろう。私たちがタイ米を買い占めるようなことあれば、お米を生産できない奥地の農村はさらに疲弊するだろう。
だれがこの複雑な循環を断つことができるのだろうか。アジアの女性の人権侵害に共に涙することができる私たち女性が、夫に息子に恋人に「ノン」とはっきり口にすることから始まるのではないか。
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