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卒塔婆小町《そとばこまち》

四番目
季節  不定
作者  観阿弥清次 または世阿弥元清ともいう
典拠  不明
作物  
シテ  小野小町《おののこまち》(面・老女《ろうじょ》)
ワキ  高野山の僧
ワキヅレ  従僧二人

物語

杖をついた老婆が「身は浮草を誘う水無きこそ悲しかりけれ」と登場します。
「昔は美しさに奢り、翡翠の髪飾りもたおやかに柳が春風になびくようであった。鴬のさえづるような声は露を含んだ糸萩の散り初めたよりも愛らしいとほめられたものだ。
それが今は身分の賎しい女にさえ蔑まれ恥をさらしている。
月日はめぐり我が身は百歳の姥となってしまった。
都は人目が恥ずかしい。もしやあの人ではと気付かれないよう夕闇にまぎれ、月とともに出ていこう。」
零落れた姿を人に見られるのを恥じて都を出ようとする老女は、桂川のほとりで朽ちた木に腰掛けて休みます。

高野山から都を目指す位の高い僧がそこに差し掛かります。
「早くも日が暮れてきた。道を急がなくては」
そこでみすぼらしい老婆か朽ち木に腰掛けているのが目に入りました。
「乞食が腰掛けているのは卒塔婆ではないか。教えさとしてどけさせさなくてはならない。」と考えた高僧は「お前の腰掛けているのは仏の身体を表した卒塔婆であるからどくように」と老婆に言います。
老婆はこれは形も崩れ文字も見えない朽木にすぎないと言い返します。
僧が深山の朽木でもかつて花の咲いた木はそれと判るように朽ちていても卒塔婆には変わりないと言えば、「自分は賎しい埋れ木だが心の花はあるのだから手向けにならぬはずはない。なぜ卒塔婆が仏の身体なのか説明せよ。」とせまります。
老婆は我が身を朽ち果てた卒塔婆にかけて何かを言いたいようです。
高僧とその従者達は更に卒塔婆の形と功徳を説明します。
老婆は形と心、善と悪、煩悩と菩提、仏と衆生はそれぞれ相反するものでないことを巧みな言葉で語り逆に僧を説得してしまいます。
高僧は悟りの深い乞食であると感服して身分の高い人にするように頭を地につけて三度の礼をします。
名を尋ねる僧に 老女は「出羽の郡司小野吉實の娘 小野小町」と名乗ります。
小町と言えば輝くばかりの花のような美貌に月のような青い黛をひき、いつも美しく粧って 歌を詠み 詩を作り その優美さを知られた美女でした。
いつの間にか頭には霜を置き 老い朽ちて零落れたさまとなり 人目を恥じる身となったのでした。
首にかけた袋には飢えをしのぐ豆や粟を入れ、破れ蓑 破れ笠では顔を隠すどころか雨露をしのぐことも出来かねます。涙を払う袂もなく 道行く人に物乞いをして貰えない時は狂乱の体で声をあらげます。
話すうちにも小町は我を忘れて僧に物乞いし、「小町の許へ通う」と言い出します。老婆はものに取り憑かれた様子です。
小町は言い寄る相手に一度も答えることがありませんでした。中でも執心の深かった深草少将が小町に取り憑いて百夜通いの昔を再現します。
小町の心を得ようと 月を友とし、関守をも恐れず 袴の裾をからげ烏帽子を風折り《かざおり》にし 狩衣の袖を被いて人目を忍んで 月の夜 闇夜 雨の夜 風の夜にも通いつめました。九十九夜まで通ったところで病に倒れ百夜目を待たずに亡くなった少将の怨念が小町を狂わすのです。

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