枕慈童《まくらじどう》
略脇能 四五番目(太鼓あり)
季節 秋
作者 不明
典拠 太平記
作物 台(菊の花の籬で三方を囲み緞子の枕を置く)
シテ 慈童《じどう》(面・慈童または童子)
ワキ 臣下
ワキヅレ 従者二人
物語
舞台は唐土。魏の文帝の臣下が帝の命令で薬の水の沸きいでる山の源泉を探しに来ます。
人も通わぬ山奥に菊に囲まれた庵があり、ひとりの少年が忘れ去られた孤独な身の上を嘆いています。
臣下は虎や狼の徘徊する山中に似つかわしくない少年の様子を見て怪しみます。
少年は自分は周の穆王《ぼくおう》に仕えていた慈童のなれの果てであると名乗ります。
周の穆王といえば魏の文帝からさかのぼること七百年前のことでとても本当とは思われません。少年はそれを聞いて驚き、宮廷に仕えていたのはつい昨日の事であると思われるのにと不思議がります。
臣下は少年を化生《けしょう》のものであろうと怪しみます。
少年は穆王から賜った経文のかかれた枕を臣下に見せ、自分の話しは真実であると言います。
ありがたい経文のかかれた枕を見て臣下も納得します。
その昔、穆王は不注意から罪に問われて流刑になる少年を哀れんで枕と経文のなかの二句を授け、毎朝唱えるようにと教えました。少年が忘れないようにこの句を庵の側の菊の葉に書いたものが露となり、谷の流れにしたたって不老不死の薬酒となったのです。
月明かりの下、少年は泉の薬酒を汲んで臣下に勧め、自らも飲んで経文の功徳と帝を讃え、咲き乱れる菊をかき分けて庵へと帰ってゆきました。
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