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巻絹《まきぎぬ》

四番目 略脇能
季節  冬
作者  観阿弥清次とも不明とも言う
典拠  不明 「音なしに」の歌は沙石集
作物  
シテ  巫女《みこ》(面・女増髪《おんなますかみ》泣増《なきぞう》)
ツレ  男
ワキ  勅使

物語

紀伊の國熊野の地で時の帝の臣下が都からの使いを待っていました。
帝は夢の御告げによって千疋の巻絹を熊野の三つの社に納めるようにと勅命を出されたのです。
臣下の役目は国中から巻絹を集めて社に奉納することですが、都からだけはまだ届きません。
都からの巻絹の使いは、なれぬ旅で難渋しながらもようやく紀伊の山々を越えて熊野の音無《おとなし》の天神に辿り着きました。
境内にただよう冬梅の香りに詩想を得た使いは、心のうちで歌を詠み天神に手向け、心中の願いをかなえたまえと祈って先を急ぎます。
帝の臣下のもとへと巻絹を届けますが、臣下は遅参を咎めて男を縛り上げ責立てるのでした。
そこへ巫女が現れ、その男のいましめを解いてやるようにと呼び掛けます。
男は昨日音無の天神において一首の歌を詠み我に手向けたものであり、その歌は神の心にかなったものであるから解いてやらなければいけないと言い、縛られた手を見て、なんときつく縛ったことかと嘆きます。
巫女は何かにとりつかれているようです。
臣下はこんな卑しい男が歌など詠むものだろうかと怪しみます。
巫女は疑うのなら、昨日神に手向けた歌の上の句を男に聞いてみよ、自分が下の句を続けてみせようと言います。
男は問われるままに上の句を謡います。
「音無にかつ咲き初める梅の花」
「匂わざりせば誰か知るぺき」
と巫女は下の句をつづけ、心の中で手向けた歌も神には伝わるものであると言って縄を解かせます。
神は人に敬われて其の威を増し、人は神に守られて幸いを得るのです。
歌は日本の陀羅尼《だらに》であり、歌を作ることは衆生の仏性を照り輝かせることなのです。
こうし神憑かりの巫女は和歌の徳を頌し、聖地熊野を讃えて祝詞をあげ、飛ぶ鳥のように翔り、狂おしく数珠を揉み、袖を翻して神楽《かぐら》を舞います。
やがて舞い果てると、神は去り巫女は我に返るのでした。

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