後記 2003-05-24


 

 人には様々な人生があります。
  そしてそれらの人生は古今東西、文学という目を通して多くの作品に写し取られてきましたが、作品を通してなぞる様々な人生にも増して、私の興味をそそるのは文学者自身の人生、生き様であります。より研ぎ澄まされた文学者の人生観、死生観、身近に繋がった人々、愛する人、家族、友人、知人、師弟等々を含め、それら全てが文学者の生き様であったろうと考えます。やがては来し方の終着駅ともなった「墓」の存在、遺された者達の思い、またその周辺についての考察にこそ私にとっての「文学者掃苔録」の意味があります。

 今回アップした「藤枝静男」と「永井龍男」の墓を訪ね当てるについては数年の紆余曲折がありました。
 「藤枝静男」の墓は静岡県藤枝市、作家小川国夫の住居にほど近い岳叟寺にありますが、最初の訪問では住職も不在で探しきれず、「藤枝静男をめぐって」サイトの名和様の助けを借り、数年を経て二度目の訪問でやっと思いを果たしました。「永井龍男」の墓を探し出すに当たっては5年のブランクがありました。98年、芝愛宕下の和合院を訪ねたところ不動産関係のトラブルから寺は閉鎖されており、以後、氏の墓の移転先はつゆとも知れず、最近になってようやく「文学者掃苔録」を読んでいただいている同好の大先輩、森様から情報をいただき、慶応大学近くの済海寺に訪ね当てることが出来ました。もっとも、こちらの方も同じように二度の訪問が必要でしたが。

 「永井龍男」の墓の例は特異な場合でしょうが、それでもときどきは思わぬ憂き目にあう墓があるようです。数年前、仙台に「土井晩翠」の墓を訪ねた時は遺族と仙台市のトラブルか何かで棹石が東京に持ち去られ、台石のみが侘びしく据え置かれておりました。広島の「太田洋子」の墓も市内の墓地から何処へやら。埼玉県所沢市・実蔵院の墓地に埋葬されている「三ヶ島葭子」は、かっては前夫倉片寛一の墓に埋葬されていたようですが寛一の後妻冨野の死後、新しい「倉片氏墓」が建てられ、彼女の遺骨は同じ敷地内の別の墓におさめられました。染井霊園の「高安月郊」の墓は血族も死に絶えたのか、荒れるに任せ、息を呑む無惨さでありました。対照的にいつ訪れても清純な花々で彩られ、碑石や庭木の手入れが行き届いている墓も多々あります。墓そのものを不要と言い残しても遺された者のしがらみから厳然と存在する墓。死後、20数年をも経て建てられた墓。大仰な肩書き、戒名が刻まれた墓。基督教の洗礼を受けたはずなのにしっかりと戒名が彫られている墓。「太宰治」のように望んだとおり??森鴎外墓のそばに建てられた墓。人知れず、ひっそりと建てられた「大杉栄」の墓。在処さえも公表されない「北条民雄」の墓。ことほど左様に、死後の墓の成り行きも、生前と同じく時の運命に揺れ動かされているようです。

 永井荷風には「余死するの時、後人もし余が墓など建てむと思はば、この浄閑寺の塋域娼妓の墓乱れ倒れたる間を選びて一片の石を建てよ。石の高さ五尺を越ゆるべからず、名は荷風散人墓の五字を以て足れりとすべし。...」という文章があり、正岡子規には「僕が死んだら道端か原の真中に葬って土饅頭を築いて野茨を植えてもらいたい。石を建てるのはいやだがやむ無くば沢庵石のようなごろごろした白い石を三つか四つかころがして置くばかりにしてもらおう。もしそれも出来なければ円形か四角か六角かにきっぱり切った石を建ててもらいたい。彼自然石という薄ッぺらな石に字の沢山彫ってあるのは大々嫌いだ。石を建てても碑文だの碑銘だのいうは全く御免蒙りたい。句や歌を彫る事は七里ケッパイいやだ。もし名前でも彫るならなるべく字数を少なくしてことごとく篆字にしてもらいたい。楷書はいや。仮名はなおさら。」という文章があります。しかして、今日、荷風の墓は雑司ヶ谷の鬱々とした樹影の下、5尺足らず(敬愛する森鴎外の墓よりも低くという意味合いがあったようです)の「永井荷風墓」として在し、一方、子規の墓は田端大龍寺、煉瓦塀と笹竹を背にして「子規居士之墓」として在ります。死の4年前に河東 銓に託した碑文と共に。さてさて、当の本人達にとって、望み通り?の安眠するに足る碑石であるや否や!!
将に、興味のあるところです。

 かくいう私自身はといえば、人知れず泡と消え去り、墓、戒名は勿論、葬式さえも不要と考え、ことある毎に家族や縁者にもそのように申し伝えておりますが、死後、どのような結果になるのかは全く予知せぬ事ではあります。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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