遠近・複眼メガネ


 オジイチャマは絵描きやさん

第二十回 絵と文 長尾みのる
オジイチャマは絵描きやさん

 小学生のとき、その小学校で選ばれ、みんなの憧れヒットラーに図画を贈った。

 校長が朝礼で、選ばれた数人の絵を掲げ、全生徒に見せたが、ボクは青ざめ俯いていた。

 自分に最も苦手なのは、飛行機とか機関車とか自動車という機械的なものなのに、ヒットラーを意識し、無理して描いた偽りの作品なので、とてもうしろめたかったのだ。

 末っ子のボクを産んで間もなく、母は当時の肺病、つまり結核で三十七歳にして逝ったせいか、ボクの絵は、いつも家族団欒の平和な場面が多かった。

 ボクは、戦争下の殺風景な銀座通りで見た立派なポスターにつられて「腹一杯食えそう!」と、陸軍特別幹部候補生になった。が、そこでは絵なんぞ描く時間も紙も暇もなかった。

 終戦の夜、うろたえる上官殿を漫画に描いて皆を喜ばせ「貴様は絵が描けていいなあ」と羨ましがられた。

 と、子どもの時からずっと絵を描いて、今も平和にイラストレーターをやっているのだ。

 「ねえ、オジイチャマ、イラストレーターってなあに?」
小学生の孫たちが面倒な質問をしてきた。「何かを伝えるための絵ってことかな、自分勝手の無意味な絵じゃパスしないんだよ」

 「うちのオジイチャマは絵描きやさんだよ」
その後、孫たちは外でそう自慢しているようだ。ま、いいかそれで、と納得している。

 でも、未だに飛行機や自動車とか機関車などの絵は苦手で、絵描きやさんにもなりきれていない。といって、上に親分のいる画壇や団体も苦手。それに、世の中「属さず」の時代にもなってきたようだし、ま、在宅の独り勝手な絵描きやさんでいい。


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