遠近・複眼メガネ


  新しさからの逃避

第十七回 絵と文 長尾みのる
新しさからの逃避

六十年周期に人は飽きや疲れや節目を感じて……。

 「新しい! と思ったとき、それはもう古い。それ
がアヴァン・ギャルドなんだ」
O画伯の口調は激しく続いた。
 太平洋戦争も終わり、日本人は空腹も満たされ、平和になるや、いろいろな欲望もわいて芸術にも目覚めた。当時学生だった私もその一人だ。

 東京下町の焼け残りビルの一室を無料で借り、芸術を目指す若者数人で講演料をかき集めて、憧れの画家、岡本太郎を招いて話を聞いた。

 「既成の芸術をまず否定せよ! それが新しい芸術だ!」彼のアヴァン・ギャルド論は、戦前の平和な感覚ゼロの若者たちにはチンプンカンプンだが「パリ育ちの芸術家は違うなあ」と、刺激的な魅力を感じたものだ。

 焼け跡からゼロでの出発には、何でも新しい感覚が必要だった。

 新しさを追い続けて半世紀が過ぎた。

 半世紀超えれば還暦だ。暦がえりとも言うが、六十年周期に人は飽きや疲れや節目を感じて、ふと過去を眺めたりもするようだ。

そこで「昔はよかった!」という懐古趣味の「お宝拝見」的流行現象にもなる。新しさから古さへの逃避だ。

遠く十一、二世紀ごろのロマネスク様式建築や、十九世紀ナポレオン遠征疲れのころに流行した服飾も「古代ローマ・ギリシャ時代はよかっただろうなあ」と、遥かな古代を懐かしんでの、古代コピー・スタイルだった。二十一世紀に入っても無限追求は続く。

戦後からの続きで、もう新しさ追求に飽き、老若ともに疲れてきた。

古きよき時代を懐かしむ還暦派と、アヴァン・ギャルド的進撃派が同時進行しているようだ。較差の拡がりは、ま、仕方ないか?と、どちらにせよ疲れる現代だ。


遠近・複眼メガネ Nagao Minorumailto
[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][11][12]
[13][14][15][16][17][18][19][20][21][22]

 
[ハッピーエンドレス][NAGAOの絵][国際俳句ロシア語句会]